警察庁に「きこえない・きこえにくい者の福祉施策」への要望書を提出

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 緊急自動車の警光灯について、緊急走行かそれ以外の走行かが、きこえない者にもわかるよう、試作品を作成・改良中であり、年内にも試作品について意見交換を行いながら完成させたいという説明がありました。

連本第220176号
2022年7月11日

警察庁 長官
 中村 格 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」等により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。今般、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定されました。これを機に、すべての国民が安心、安全に生活ができるように、一層の環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.都道府県の警察本部にきこえない者等への理解を深めるための研修を行うように働きかけてください。
<説明>
 事件や事故など緊急時の対応では、福祉行政や警察、消防、医療など、垣根を超えた協働作業が求められます。きこえない者の特性やその障害の理解不足により、手話言語通訳の要請があったにも関わらず、(読み書きの苦手な者に)筆談で対応を強要するケースがあります。障害者差別解消法の観点からも、全国の現場で働く警察官のみならず、県警通信指令室等の警察本部も含め全職員が「聴覚障害」の特性や障害の理解、手話言語の実技などを研修ができる場(手話言語学習・手話言語講座)の確保、及びその予算化を都道府県警察本部へ講じるよう指導してください。
 また、こうした研修の際には、地域の聴覚障害者協会などの当事者に協力を仰ぎ、実際に研修を受ける職員が当事者と接し、理解を深められるようご配慮ください。
 警察職員を対象にした研修を行っている事例がありましたらご教示ください。

2.自動車免許試験場や交番に連絡する手段を電話だけでなくFAXやメールでの対応ができる環境の整備をしてください。
<説明>
 自動車免許更新手続き(特に、高齢者講習)の予約方法が電話だけになっているところがあります。きこえない者が予約できるようFAX番号やメールアドレスも設置してください。
 また、交番に警察官が不在の時に「電話をください」と表示があります。きこえない者は電話ができません。きこえない・きこえにくい者が連絡できるようなメールやチャットツール(LINE等)で連絡ができるように環境を整備してください。

3.緊急自動車の警光灯に緊急走行かそれ以外の走行かが、きこえない者にもわかるような表示を義務付けてください。
<説明>
 パトカーや消防自動車、救急車等の緊急自動車の警光灯の点灯・回転が、緊急時と緊急時以外でも同じである場合があり、きこえない者の場合はサイレンの音が聞こえず、緊急走行か、そうでないかをサイレンの音で判断することができません。
 きこえない者が、緊急自動車が緊急走行をしているかどうかを判断できるような警光灯の表示、もしくはそれに代わる視覚的な表示(信号機などの点滅の工夫等)を義務付けてください。昨年も同様の要望しましたが、検討の進捗をお聞かせください。
海外の事例も参考に、どのような検討がすすんでいるのか進捗をお聞かせください。

4.運転免許更新での高齢者の認知機能検査において、検査の事前説明から検査中の説明まで、手話通訳が行えるような体制を整えてください。また、認知機能検査進行時、警察庁が作成したDVDに手話言語通訳が導入されていますが、地域で使っている手話言語表現が異なるためDVDの手話言語表現が分からなかったという声が出ています。そのような状況があることを踏まえて、地元の手話言語通訳を配置するなど配慮をお願いします。また、運転免許更新での高齢者の認知機能検査に関して、別途意見交換を行ってください。
<説明>
 75歳以上の運転者は免許更新の際に、高齢者講習の前に「認知機能検査」を受けることになっていますが、検査中の手話通訳は、その設置が試験場によって統一されていません。検査中の手話通訳がないために、検査員からの説明が分からず、回答できない事例があります。事前説明から検査終了まで、手話通訳が行えるような体制を整えてください。

<<各省庁共通事項>>
5.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算化を貴省からも働きかけをお願いします。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。また、昨年5月に成立した改正障害者差別解消法では民間企業にも合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人にとっての社会参加がしやすくなります。
 聴覚障害者が手話通訳を利用する場合、聴覚障害者自身が居住する自治体の福祉事務所等の派遣窓口に依頼をし、手話通訳者を派遣する方法ですが、この際の手話通訳者にかかる費用は、障害者総合支援法の中の「意思疎通支援事業」としていわゆる福祉の経費で、これは厚労省管轄の予算となっています。障害者差別解消法は、こうした福祉的な側面からのアプローチのみならず、あらゆる公的機関で、その機関の責任において合理的配慮を提供することを求めています。
 行政を含む公的機関が、合理的配慮が提供できない状況にならないよう、利用者から手話通訳等の希望があった場合に対応するため、各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算を障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の地方自治体部局へ周知を図るようお願いいたします。

6.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)」の成立を踏まえ、貴省が所管する分野において必要な計画の策定や予算措置が行われるようにしてください。
<説明>
 2022年5月19日に「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」が成立し、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し、並びに実施することとされました。
 同法は、障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野(医療、保健、介護、福祉、教育、労働、スポーツ、レクリエーション、司法手続その他)において、障害者がその必要とする情報を十分に取得及び利用し、円滑に意思疎通を図ることができるようにするため、意思疎通支援従事者の確保・養成および資質の向上を講ずるものと規定しています。
 貴省の所管する分野において、この法律の趣旨に沿った施策が推進されるよう、必要な計画の策定や予算措置が行われるように取り組みを進めてください。

以  上

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