文化庁に「きこえない・きこえにくい者の文化芸術の推進等」の要望書を提出

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 きこえない・きこえにくい人の文化芸術活動に関する4つの要望に対し、文化庁からは「障害者による文化芸術活動の推進に関する法律」は施行5年目となり、見直し検討に入るとのことで、二次計画の検討等にあたっては当事者参画を盛り込むこと、発表する側と鑑賞する側の合理的配慮ガイドラインを策定すること等を要望しました。
 また、北海道にあるアイヌをテーマとした施設「ウポポイ」など全国の博物館・美術館等における情報保障についても、博物館法制度の今後の在り方についての部会・ワーキングで検討いただけるよう要望しました。

要望書を提出

連本第220181号
2022年7月11日

文化庁長官
 都倉 俊一 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい者の文化芸術の推進等にかかる要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」等により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。今般、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定されました。これを機に、すべての国民が安心、安全に生活ができるように、一層の環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.きこえない・きこえにくい人たちが演劇等を鑑賞するのに必要な支援者の育成のために、必要な経費を予算化し、支援者の強化をするとともにきこえない・きこえにくい人が観劇しやすい環境を図ってください。
<説明>
 きこえない・きこえにくい人への観劇サポートとして、字幕付与、手話言語通訳、ヒアリングループなどの設営、情報発信などがあります。しかし、それぞれの人材育成には課題があり、さらなる強化が求められています。
 また、特定非営利活動法人シアター・アクセシビリティ・ネットワークをはじめとした支援団体における15件以上の観劇サポートの実践の結果、人材育成の経費が主催者の大きな負担となっている課題があります。照明、音響などのスタッフと同様に、質の高い字幕制作、手話翻訳などの提供には相当の時間およびスキルが必要であることが、明らかになっています。これらの観劇サポートの支援者育成のための経費を予算化し、きこえない・きこえにくい人が観劇しやすい環境の整備を図ってください。

2.主催者に対して、きこえない・きこえにくい人たちが演劇等を鑑賞するサポートに特化した助成金制度を設けてください。
<説明>
 現状、芸術文化振興基金などでは、主催者が公演事業申請する際に、観劇サポート費用を加算することが可能となっています。しかし、助成金を申請しない場合、観劇サポートを実施するための観劇サポート経費が壁となって実施が困難になり、観劇サポートを断念することがあります。結果的にきこえない・きこえにくい人が情報保障をつけて観劇する機会が失われることになります。主催者に対して、観劇サポートに特化した支援基金を制度化してください。この制度化によって、商業演劇における観劇サポートがより進み、きこえない・きこえにくい人の文化芸術を触れる機会が増えることが考えられます。

3.きこえない・きこえにくい人たちが演劇等を鑑賞するために、歌詞を含む情報アクセシビリティにおける著作権の例外措置を規定するよう、著作権法の改正を求めます。
<説明>
 2021年より、商業演劇で台本をスキャンしたデータをタブレットに取り込み、観客自身がタブレットで台本を見ながら観劇する方法が広まっています。
 しかし、著作権を理由として台本から歌詞が削除されるという事例が宝塚歌劇を始め、いくつか報告されています。歌詞もきこえない・きこえにくい人が鑑賞する上で重要な情報となるため、観劇サポートの本質が失われることを危惧しています。配信動画でも歌詞の字幕を出せないという事例があり、聴覚障害者の情報アクセスの観点からも、著作権の早急な改正が求められています。「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定されたことに伴い、情報アクセシビリティにおける著作権の例外措置を規定するよう著作権法の改正を求めます。

4.きこえない・きこえにくい人が文化芸術を学ぶための手話言語通訳を制度化し、文化芸術を学ぶ機会の保障を図ってください。
<説明>
 きこえない・きこえにくい人が、芸術文化を専門的に学びたいと考えた時、現状としては一般向けに開講されている講座や演劇学校に手話通訳をつけて参加する方法となります。しかし、高等教育機関における情報保障の制度とは異なり、手話言語通訳の費用をどこが負担するかが課題になっています。
 実際に、渋谷にある映美学校では、3名のろう者が受講していますが、3人で手話言語通訳の費用を負担し、依頼していると聞いています。また経費負担ができず、受講を断念したという事例もあります。
 意思疎通支援事業の手話通訳派遣制度を使って受講する方法では、自治体の判断に大きく左右されることや、同じ手話言語通訳者を継続して確保することが困難であり、受講を断念せざるを得ない人も多くいます。そのため、高等教育機関と同様に、文化芸術の学びの場における手話言語通訳等派遣を公費で制度化し、きこえない・きこえにくい人の文化芸術を学ぶ機会の保障を図ってください。

<<各省庁共通事項>>
5.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算化を貴省からも働きかけをお願いします。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。また、昨年5月に成立した改正障害者差別解消法では民間企業にも合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人にとっての社会参加がしやすくなります。
 聴覚障害者が手話通訳を利用する場合、聴覚障害者自身が居住する自治体の福祉事務所等の派遣窓口に依頼をし、手話通訳者を派遣する方法ですが、この際の手話通訳者にかかる費用は、障害者総合支援法の中の「意思疎通支援事業」としていわゆる福祉の経費で、これは厚労省管轄の予算となっています。障害者差別解消法は、こうした福祉的な側面からのアプローチのみならず、あらゆる公的機関で、その機関の責任において合理的配慮を提供することを求めています。
 行政を含む公的機関が、合理的配慮が提供できない状況にならないよう、利用者から手話通訳等の希望があった場合に対応するため、各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算を障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の地方自治体部局へ周知を図るようお願いいたします。

6.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律(障害者情報アクセシビリティコミュニケーション施策推進法)」の成立を踏まえ、貴省が所管する分野において必要な計画の策定や予算措置が行われるようにしてください。
<説明>
 2022年5月19日に「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」が成立し、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し、並びに実施することとされました。
 同法は、障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野(医療、保健、介護、福祉、教育、労働、スポーツ、レクリエーション、司法手続その他)において、障害者がその必要とする情報を十分に取得及び利用し、円滑に意思疎通を図ることができるようにするため、意思疎通支援従事者の確保・養成および資質の向上を講ずるものと規定しています。
 貴省の所管する分野においいて、この法律の趣旨に沿った施策が推進されるよう、必要な計画の策定や予算措置が行われるように取り組みを進めてください。

以  上

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