スポーツ庁に「きこえない・きこえにくい者のスポーツ施策」への要望書を提出

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 2025年のデフリンピック招致活動を盛り上げるため、連盟とスポーツ庁で力を合わせ成功につなげたいことを説明し、招致が決定後には障害者スポーツの1つとして、デフリンピックの啓発や専門課の設置などを検討したいとの前向きな回答がありました。
 コロナ対策への補助の拡充については、すでに国庫補助事業や選手強化費に含まれており、令和5年度も実施し、その時のニーズに合わせたコロナ対策費を確保したいと回答がありました。
 スポーツイベントの視覚的情報保障についてはイベント事業運営に特化した助成事業があると回答がありましたが、情報保障単独での申請は認められないため、単独申請ができるよう引き続き働きかけを行います。

要望書を提出

連本第220180号
2022年7月11日

スポーツ庁長官
 室伏 広治 様

〒162-0801
東京都新宿区山吹町130SKビル8階
Tel03-3268-8847・Fax03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい者のスポーツ施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 国連の障害者権利条約では、障害をもつ者があらゆるスポーツ活動に平等に参加できるよう求められており、国内においては新しく成立した障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法はスポーツ分野においても計画や整備するうえで重要な法となります。
 つきましては、きこえない・きこえにくい者のスポーツ(以下、デフスポーツ)施策の更なる推進を下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1.きこえない・きこえにくいことに理解があり、手話言語ができる指導者、コーチの育成を行ってください。
<説明>
 競技における「音」の「視覚化」等はもとより、現在国内の数多くのきこえない・きこえにくい選手が指導を受ける時、特にチームスポーツにおける情報保障で苦慮している選手が数多くいます。きこえないことにより、きこえる指導者との意思疎通が上手く図れない、きこえるチームメートとの意思疎通が取りにくい等により、多くのきこえない人はスポーツという文化を十分に享受することが出来ず、興味のあるスポーツにも関わらず途中で諦めてしまう事例が少なからずあります。
 上記の現状を踏まえ、必要に応じてパブリックコメント等により、当事者の意見・要望を可能な限り反映した計画・整備を進めてください。

2.デフリンピック等の国際大会に出場する選手たちの命を守るため、大会派遣費用とは別にコロナ対策への補助を拡充してください。
<説明>
 新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより自粛されていた各種イベントが徐々に再開となってきていますが、国際大会に参加をする際に選手たちはコロナウイルスに感染しない・させないよう、かなり神経をとがらせる状況であることには変わりありません。さらに日本政府の考えに沿った感染防止対策を維持するために予定外の経費が発生しないか、負担額も気にしながら大会参加する状況は、選手たちの競技に対するモチベーションにも多大な影響を及ぼします。選手たちが安心して競技に集中し好成績を上げるためにも確固たる経費保障をしてください。

3.デフリンピックの啓発とデフアスリートの競技力向上強化活動の拡充をしてください。
<説明>
 2022年5月にブラジルで開催された第24回夏季デフリンピックでは陸上100m金メダルをはじめ、日本選手団史上最高の30個のメダルを獲得しました。オリンピック・パラリンピック選手にも引けを取らない活躍をしております。しかしながら、国内での認知度は11.2%(日本財団パラリンピック研究会調べ:平成26年)と依然低いままです。目覚ましい活躍をしても残念ながらメディアに取り上げられず、国民の皆様がデフアスリートやデフスポーツ、デフリンピックを知る機会が少ない状況となっています。そのため強化合宿や大会へ参加する際に勤務先の理解を得られず休暇を取りにくかったり、スポンサー獲得までつなげることができません。次大会となる2025年には日本開催を目指していますが、是非この機運を高めるためにも国内での積極的な啓発をしていただけますようお願いします。また、選手の競技力向上のために、パラリンピック競技団体同様に、聴覚障害者競技団体も味の素ナショナルトレーニングセンターを利用できるよう日本スポーツ振興センターへ働きかけてください。

4.国内で開催する国際総合大会等、大規模スポーツイベントの開催時のアナウンス・ハーフタイムイベント、選手へのインタビュー等の手話言語通訳や字幕付与など視覚的情報保障を支援してください。
<説明>
 東京オリンピック・パラリンピック競技大会の際には、開閉会式に手話言語通訳が付き、我々は内容を把握することができとても喜ばしく感じました。近年、地上波で放送されるスポーツ中継に字幕放送が付与されるようになってきましたが、タイムラグがあるなど十分なものではありません。国民全てがスポーツ娯楽を情報格差がなく楽しみ、興味が持てるよう、日本で開催される多くのスポーツイベントの競技開催会場をはじめ、それを中継するコンテンツの多くに手話言語通訳や字幕が付与できるよう、主催団体を補助する仕組みを構築してください。
 きこえない・きこえにくい者が、きこえる人と一緒にスポーツ観戦を楽しめるようにするため、現地の会場やテレビ中継等のコンテンツでも、スポーツイベント開催時のアナウンス・ハーフタイムイベント・選手へのインタビュー等、音声がある場面では手話言語通訳やリアルタイム字幕の費用を主催者に補助してください。

5.スポーツ庁の中に「デフリンピック課」を設置してください。
<説明>
 2021年3月に(公財)日本障がい者スポーツ協会が日本パラスポーツ協会に名称変更をしました。国として「パラスポーツ」という言葉に障害者スポーツ全てが含まれているという認識であるとしていますが、国民の多くは「パラスポーツ=パラリンピック」を連想しています。そのため、きこえない選手はパラリンピックに出場できると誤解をされたままで、せっかくデフリンピックの啓発活動を行っても、認知度が上がらない状況となっています。デフリンピックは主催団体、競技種目、競技ルール、運営方法もパラリンピックとは全く異なるため、貴省内に専門的な支援窓口が必要だと考えます。「オリンピック・パラリンピック課」のように、「デフリンピック課」の設置をしてください。

6.きこえない・きこえにくい者が国歌を手話言語で表現できるよう全国統一の「『国歌』の手話言語訳」を制定してください。
<説明>
 きこえない者が国民の一人として国歌に親しめるように、2年前から全国統一の「『国歌』の手話言語を定めてほしいと各省庁に要望を続けておりますが、いまだ叶っておりません。我々は現状の問題提起の意味も込めて令和2年度貴庁委託事業「障害者スポーツ推進プロジェクト(障害者のスポーツ参加促進に関する調査研究)」(スポーツに精通した手話通訳者の育成)の一環で国歌の手話言語試行版テキストを作成いたしました。
 国民体育大会、全国障害者スポーツ大会等の多くの場面でこの試行版テキストの活用や普及に取り組んでいただき、国歌の手話言語訳制定に向けて一歩をスタートさせてください。

<<各省庁共通事項>>
7.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算化を貴省からも働きかけをお願いします。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。また、昨年5月に成立した改正障害者差別解消法では民間企業にも合理的配慮の提供が義務となるなど、障害のある人にとっての社会参加がしやすくなります。
 聴覚障害者が手話通訳を利用する場合、聴覚障害者自身が居住する自治体の福祉事務所等の派遣窓口に依頼をし、手話通訳者を派遣する方法ですが、この際の手話通訳者にかかる費用は、障害者総合支援法の中の「意思疎通支援事業」としていわゆる福祉の経費で、これは厚労省管轄の予算となっています。障害者差別解消法は、こうした福祉的な側面からのアプローチのみならず、あらゆる公的機関で、その機関の責任において合理的配慮を提供することを求めています。
 行政を含む公的機関が、合理的配慮が提供できない状況にならないよう、利用者から手話通訳等の希望があった場合に対応するため、各公的機関で手話通訳等の情報保障の予算を障害福祉とは別建てで予算化するよう、貴省から関係の地方自治体部局へ周知を図るようお願いいたします。

8.「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」(障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法)の成立を踏まえ、貴省が所管する分野において必要な計画の策定や予算措置が行われるようにしてください。
<説明>
 2022年5月19日に「障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律」が成立し、国及び地方公共団体は、障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策を総合的に策定し、並びに実施することとされました。
 同法は、障害者が自立した日常生活及び社会生活を営むために必要な分野(医療、保健、介護、福祉、教育、労働、スポーツ、レクリエーション、司法手続その他)において、障害者がその必要とする情報を十分に取得及び利用し、円滑に意思疎通を図ることができるようにするため、意思疎通支援従事者の確保・養成および資質の向上を講ずるものと規定しています。
 貴省の所管する分野においいて、この法律の趣旨に沿った施策が推進されるよう、必要な計画の策定や予算措置が行われるように取り組みを進めてください。

以 上

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