厚生労働省に「きこえない・きこえにくい者の福祉施策」への要望書を提出

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 きこえない人の雇用の促進、また職場定着のための支援について要望しました。
 これまで、障害者雇用状況調査については、障害種別毎のデータがわからない状態でしたが、2022年度の調査報告からは職種や障害種別がわかるようになるとの回答がありました。
 また、意思疎通支援事業に関しては、2020年度補正予算で導入された遠隔手話通訳の導入状況について、普及状況の調査を行う予定との回答がありました。

要望書を提出

連本第220182号
2022年7月11日

厚生労働大臣
 後藤 茂之 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

きこえない・きこえにくい者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私どもきこえない・きこえにくい者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」等により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。しかしながら、その対応については地域差がある等、まだまだ改善すべき課題は残っております。今般、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション施策推進法」が制定されました。これを機に、すべての国民が安心、安全に生活ができるように、一層の環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

<<労働>>
1.国の行政機関、地方自治体、民間企業すべての法定雇用率制度の徹底を図り、きこえない・きこえにくい者の積極的な採用を行ってください。

(1)国の行政機関、地方自治体、民間企業すべてが法定雇用率を達成するよう、また未達成の団体に対しては法定雇用率を遵守するよう、雇用率のアップを図ってください。
 また採用後の職場定着支援についても国の行政機関、地方自治体、民間企業の隔てなく採用された障害者が長く働けるよう支援体制を構築してください。

<説明>
 2021(令和3年)年12月発表の障害者の実雇用率は過去最高を更新しています、民間企業における実雇用率は2.20%(昨年比0.05ポイント上昇)で法定雇用率達成の企業割合は47.0%と半分以下の状況が続いています。https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_23014.html
すべての民間企業が法定雇用率を遵守するよう、対策を講じてください。
 また、官公庁や地方自治体でも、障害者雇用率の未達成の再発防止と雇用率アップを図ってください。
 国が率先し、採用されているきこえない・きこえにくい者の職場での情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障や職場環境作りの範を示していただき、貴省をはじめとする各省庁、地方自治体、民間企業においてきこえない・きこえにくい者への理解を促進するとともに、民間企業に派遣されているジョブコーチのような支援体制も公務部門に構築し長く働ける職場環境を作ってください。
 国の行政機関における障害者別(身体障害種別も明記)の採用状況とそれら定着率もご教示ください。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、障害種別の雇用の状況を表示し、雇用納付金制度のあり方を再検討してください。

<説明>
 昨年も要望していますが、雇用率を算出する際に「身体障害者」は一括りにされています。聴覚障害者をはじめとする障害種別の雇用率の表示をしてください。
 また、聴覚障害者の雇用数と離職数が公表されていないため、聴覚障害者の雇用の実情が分かりません。きこえない・きこえにくい者に対する情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障が必要なことを理解されていない事業所が多い中で、きこえない・きこえにくい者の雇用改善のための分析を行い、きこえない・きこえにくい者の実雇用率増加を図るためにも、障害種別の実雇用率、雇用数、離職数が分かるようにしてください。

(3)ろう重複障害者(盲ろう者含む)の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。

<説明>
 厚生労働省の施策として、「福祉的就労」から「一般就労」へ促すようになっていると思います。しかし、ろう重複障害者の就労状況は依然として厳しい現況です。ろう重複障害者の就労をスムーズに進めるために、まず、全国的なろう重複障害者の就労状況に関する実態調査を実施し、その結果を踏まえて、適切な就労支援施策を講じるよう求めます。

(4)令和2年に実施された「地方公共団体における障害者差別禁止及び合理的配慮の提供義務に関する実態調査」の結果を踏まえ、その後の実態把握および改善について、地方公共団体への支援体制の構築をお願いします。

<説明>
 令和元年の障害者雇用促進法改正の付帯決議にある、地方公共団体における障害者差別禁止・合理的配慮の提供の実態把握と公表に基づき、令和2年に実態調査が行われました。この調査結果では、職場における合理的配慮の提供に問題があると感じているとの回答があり、コミュニケーションの工夫や障害理解、それによる改善が求められるところです。公的インフラとして整備された電話リレーサービスの導入なども含め、調査後の改善状況の把握、また、合理的配慮の提供の推進のための支援体制の構築をお願いします。

2.貴省の所管である、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金による「手話通訳担当者の委嘱助成金の制度」の一層の拡充および事業所や職業安定所に利用の周知徹底を図ってください。

(1)1回の助成額を1人3/4(6千円)ではなく、手話通訳料1回の3/4にしてください。

(2)年間の助成額の上限28万8千円を取り払い、必要に応じて手話通訳を利用できるようにしてください。

(3)申請提出期間は、事業所が必要と認めた場合いつでも申請できることとし、利用可能期間も雇用後10年間と限定することなくきこえない・きこえにくい者が就労している限りにおいていつでも利用できるようにしてください。

(4)「委嘱助成金の制度」について、障害をもつ雇用主(自営業者)も利用しやすくなるよう条件を緩和してください。

<説明>
 雇用福祉連携に関する省内プロジェクトチームで関係団体からヒアリングを行いとりまとめ、その後、専門家や関係者を交えて検討を進めていく予定と以前に伺いました。どのような検討がすすんでいるのか、進捗をご説明ください。
 特に、委嘱助成金制度の条件の撤廃についてどのような議論が進んでいるのか教えてください。

3.個人事業主もしくは被用者である障害者が就労上の業務遂行において必要となるサポートを提供するための経済的あるいは人的な支援制度(障害者業務遂行支援制度)を新設してください。

<説明>
 2(4)でも要望しましたが、現行の制度では障害者が就労上必要なサポートを確実に利用できるシステムがありません。障害者総合支援法に基づく自治体による福祉サービスとしての各種事業は提供主体である自治体の判断により利用範囲が制限される結果として障害者のニーズにそぐわない結果となることが多いこと、また、障害者雇用納付金制度は利用主体が企業であり、障害者はその客体であって利用するかどうかは結局企業の判断次第となること等の課題があり、必ずしも障害者の就労促進に繋がっていないという実態があります。事業所における合理的配慮を促進するという観点から、障害者の意思で業務遂行上のニーズに応じて必要な支援を提供する、就労に特化した制度の創設をしてください。

4.ろう者等ワークライフ支援事業を国の制度として新設してください。

<説明>
 現在、大阪府の独自事業として実施されている「聴覚障害者等ワークライフ支援事業」は、就職前後のろう者等(重複聴覚障害者を含む)に対して、個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、ろう者等の職場定着に成果を上げています。他の障害者と比較として、ろう者等への支援体制が少なく、就労面での相談支援機能の充実を図るため、ろう者等等ワークライフ支援事業を国の制度として実施してください。また地方の好事例を積極的に周知するようにしてください。

5.きこえない・きこえにくい者の職場定着を確実なものとしていくために、コミュニケーションや意思疎通に不安を感じることなく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話言語ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話言語」を取り入れてください。

<説明>
 現在、手話言語ができるジョブコーチが非常に少なく、きこえない・きこえにくい者に対する支援が十分にできていません、手話通訳を介すのではなく手話言語のできるジョブコーチの育成が必要です。今般開催された「職場適応援助者の育成・確保に関する作業部会」等において、手話言語ができるジョブコーチの養成について議論し、資格化に向けた検討をお願いします。

6.きこえない・きこえにくい者が安心して利用するために、全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターに手話通訳者を配置してください。

<説明>
 きこえない・きこえにくい者にとって、公的な就労相談の場である障害者就業・生活支援センターでは、筆談対応を中心とした支援が多く、手話言語を第一言語とする者にとっては利用しにくく、相談支援機能が十分に果たされているとは言えません。貴省から、障害者就業・生活支援センターに対し、手話言語通訳者の配置についてどのような形で通知をしているかお聞かせください。委託費から手話言語通訳の雇用は可能であることを周知いただくとともに、きこえない・きこえにくい者の特性を理解した手話言語通訳者の配置を働きかけてください。

7.貴省の労働政策審議会 (障害者雇用分科会)の委員にろう者を加えてください。

<説明>
 労働政策審議会障害者雇用分科会には身体障害のうち視覚障害、肢体不自由の委員はいらっしゃいますが、きこえない委員がおらず、その意見や状況が障害者の労働施策に反映されにくい状況です。貴省の社会保障審議会 (障害者部会)ではきこえない委員がいますので、同様の対応をお願いいたします。

<<意思疎通支援>>
8.意思疎通支援事業の手話通訳者設置事業の拡充が重要であることについて、自治体へ改めて周知してください。

<説明>
 手話通訳者設置事業は市町村の必須事業となっていますが、平均実施率はまだ約40%(令和2年度実績)低いままになっています。手話通訳を介して、自己選択、自己決定をするために、相談、生活支援などの様々な支援を必要とするろう者等も少なくありません。そのため、設置手話通訳者には単に音声言語と手話言語の置き換えだけの通訳にとどまらず、必要に応じて様々な関係機関とつなぐという重要な役割もあります。しかしながら、現状では前述の通り実施率が低いこと、また、実施市町村の中でも手話通訳の資格を有しない人がその職に就いている事例もあります。
 手話通訳者設置事業を実施していない自治体に対しては、事業実施を促進してください。
 なお、2017年(平成29)年度から、遠隔手話通訳も手話通訳設置としてカウントできるようになりました。また、令和2年度の新型コロナウイルス対策の補正予算でも導入が進められるようになりましたが、手話通訳設置事業および派遣事業の補完的な役割を担うものであり、代替手段ではないことを各自治体に改めて周知をお願いいたします。

9.遠隔手話通訳の安定的運用を進めるため、運用経費について継続的な予算措置をしてください。また、現在対象外となっている人件費やランニングコストについても、意思疎通支援事業の対象とするようにしてください。

<説明>
 令和2年度に新型コロナウイルス感染症対策として、遠隔手話通訳の環境整備のための補正予算を組んでいただきましたが、初期費用の他に、システム保守などのランニングコストがかかるため導入を見送るというケースがあり、地域格差を生む要因となってしまいます。また、遠隔手話通訳を担う手話通訳者の報酬や、コーディネートを行う職員の人件費が対象外となっていることが課題です。
 今後も様々な場面において遠隔手話通訳の必要性が見込まれることから、遠隔手話通訳のランニングコストについて、継続的な予算措置を講じてください。
 また、感染症対策や災害時の対応としての遠隔手話通訳を考えた時、地域の状況を把握している設置手話通訳者または登録手話通訳者が通訳を担うことが望ましいと考えます。そのため、民間企業への遠隔手話通訳の委託ではなく、地域の手話通訳者が担う仕組みの周知を図ってください。

10.入院時、コロナ対策で手話通訳の派遣の制限を受けることのないよう、各医療機関に周知してください。

<説明>
 ろう者が医療機関に入院する際、コロナ対策のため手話通訳の派遣を拒否され、医療従事者との意思疎通がうまくいかず、治療拒否とみなされ精神科病院を紹介された事例がありました。手話通訳者はろう者の患者にとって面会相手ではなく、ろう者が自身の受ける治療や入院生活上の見通しを持つためには必要不可欠なものです。家族等、通常の面会制限と同様に扱うのではなく、感染症対策を講じたうえで受け入れを認めるなどの対応を図るよう、各医療機関に周知してください。

11. ウクライナ難民支援など、地域のきこえない外国人に対する情報保障を実現するために、国際手話通訳者の養成に必要な体制整備と予算化を図ってください。

<説明>
 ウクライナからの難民に対する支援など、地域のきこえない外国人支援のために国際手話通訳者が必要となっています。現在、貴省管轄の意思疎通支援事業(通訳者養成)において、国際手話通訳者養成も対象となっていますが、自治体で国際手話通訳者の養成を図るための講師が皆無のため、まずは国際手話通訳者の講師養成に必要な体制整備と予算化を図ってください。

以 上

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