スポーツ庁に聴覚障害者のスポーツの施策について要望書を提出

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 啓発については、6月にデフリンピックの知名度を上げる閣議決定を行い、政府全体として認知度の向上に取り組むという回答がありました。また、東京2020大会で新設する視覚的な情報保障のある競技場を各自治体に情報提供したいという話がありました。そして、大会だけでなく合宿や練習にも聞こえる指導者と選手の間でスポーツに精通した手話通訳者が必要であるとの認識は共通しており、研修方法や予算などを今後連盟と話し合う機会を設けたいとの回答がありました。

要望書を提出
交渉風景

連本第190226号
2019年7月16日

スポーツ庁 長官
 鈴木 大地 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

聴覚障害者のスポーツ施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 国連の障害者権利条約において、障害のある人が平等にあらゆるスポーツ活動に参加できるよう定めております。また、2020年に開催される東京オリンピック・パラリンピックを機に、国内における障害者へのあらゆるバリアフリーを推進させる施策について具体的な審議がされていることと思います。これら障害者のスポーツ施策への取り組みがより一層、国民の皆さまから後押しして頂けることを期待しております。
 つきましては、さらなる聴覚障害者スポーツ(以下、デフスポーツ)の施策推進をお願いしたく、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1.デフリンピックやデフスポーツの認知度について調査を行い、認知度の目標値を設定してください。

<説明>
 我が国における障がい者スポーツ認知度(日本財団パラリンピック研究会調べ:平成26年)は、パラリンピックが98.2%、スペシャルオリンピックスが19.8%、デフリンピックが11.2%となっており、依然としてデフリンピックの認知度は低い状態が続いています。
 そのため、デフアスリートやスタッフは世界大会への出場や練習などの資金繰りに苦労し、練習やデフリンピックに参加する際に職場の理解が得られず休暇を取得しにくく、世界大会で優秀な成績を得ても自治体の表彰対象とならず、メディアにも取り上げられない、といった苦しい立場に置かれています。
 また、地域の小中高等学校等に在籍する聞こえない競技者やその指導者がデフリンピックやデフスポーツがあることを知らないまま聞こえる競技者と一緒に練習をし、目標が見つけられないという課題もあります。
 これらを打破するため、まずは国として責任を持ってデフリンピックやデフスポーツに対してどのくらい知られているか調査を行い、そのうえでデフリンピック・デフスポーツに対する認知度の目標値を設け、具体的な施策を講じてさらなる啓発普及に取り組んでください。

2.障害者スポーツ競技団体の運営基盤を強化できる支援体制を確立してください。

<説明>
 デフスポーツ競技団体は他の障害者スポーツと比べ団体の規模が小さく、コミュニケーションの壁により、資金面や人材面等で団体の運営が円滑に進んでいるとは言えない面があります。また、障害者スポーツ団体全体においても、運営の面でも事務所や職員を置くことも難しく、スタッフたちが本業の傍ら、ほぼボランティアで何とか団体運営を行っているところも多くあります。
 日本財団ではパラリンピックサポートセンターを設立し、パラスポーツ全体を支援する体制をとっていますが、2020年東京オリンピック・パラリンピック終了後を見据え、国として障害者スポーツが衰退することが無いよう、コンプライアンス・会計・法務・税務等の知識を持った専門家の支援や助言、運営業務の支援が行われる体制を確立してください。
 その中でもデフスポーツの特性を踏まえた部門を作るなど、デフスポーツの団体を支援できる体制を進めてください。

3.聞こえない人が見てわかる、参加できる、スポーツ観戦できる環境作りを整備してください。

<説明>
 2020年東京オリンピック・パラリンピックに向けて建設中の新国立競技場では、今後の競技施設のモデルとして、数多くのバリアフリー施設が設置され、聞こえない人に配慮した設備も整えられています。
 しかし、国内の多くの競技場では、聞こえない人がスポーツをする際の設備(例:陸上競技のスタートランプ、競技場内の電光掲示板)が整備されていません。また、観戦をする際にも場内放送等音声情報を目で見て分かる視覚的情報に変えるシステムはほとんどの施設で整備されていないのが実状です。今後新設される競技場はもちろん、既存の競技場にも設置を進めていくよう、施設整備や競技における視覚的情報保障機器の開発への補助制度を設けるよう検討してください。
 また、近年ではスポーツ中継に字幕が付くことも増えてきましたが、テレビ放送に限らず、スポーツコンテンツをインターネットやスマートフォンで見る際にも字幕等の情報保障が進むよう、事業者に指導をしてください。

4.デフリンピック等の国際大会に出場するデフアスリートの経済的な負担を軽減すべく、強化支援や大会派遣への補助を拡充してください。

<説明>
 今年開催される冬季デフリンピック(イタリア)、アジア太平洋ろう者競技大会(香港)に向け、各競技団体ではトップアスリートの育成や強化に取り組んでいます。
 しかし、選手やスタッフたちは経済的な負担が重く、それが競技力の向上を妨げる一因となっています。また障害者スポーツ活動への助成や報奨制度を設ける自治体もありますが、ほとんどのものがパラリンピック関係のみ対象となっています。
 選手やスタッフたちが継続的・日常的に競技を続けられるために、また障害の有無に関係なく挑戦する姿を見せることで、地域社会や企業へのデフスポーツに対する理解につながるよう、自治体へ障害者スポーツ活動への助成や報奨制度の対象を、デフスポーツをはじめ障害者スポーツ全般へ広げるよう、通達をしてください。

5.聴覚障害者の競技大会開催における支援施策の実施と拡充を行ってください。

<説明>
 当連盟が主催する全国ろうあ者体育大会(夏季大会は毎年1回、冬季大会は4年に1回、全国各地輪番制)は、国内最大の聴覚障害者の総合スポーツ大会であり、デフリンピックや世界選手権等への競技力向上の場となっています。
 このような意義のある大会に対しては、スポーツ基本法においても国がその経費について補助することができると謳っています。
 聞こえない人が参加する大会では、競技補助員や手話通訳者の配置、補助設備(スタートランプ等)の設置等の視覚的な情報保障が必要になります。しかし、地域自治体の補助金縮小などにより十分な環境が整えられない状況にあります。特に、聞こえる人と同じくウィンタースポーツである全国ろうあ者冬季体育大会では、アスリートの競技環境を整えるだけでも大変苦労しているのが実情です。
 聴覚障害者の競技環境の保障のため、全国ろうあ者体育大会への財政的支援を要望します。

6.聞こえないことについて理解があり、手話言語ができる指導者・コーチの育成、またスポーツに精通した手話通訳者の養成を行ってください。

<説明>
 近年では、地域の学校や聞こえるスポーツ団体の中で競技活動をしているデフアスリートが増えていますが、専門的な知識を持ち、選手に対して手話言語で対応できる指導者・コーチはわずかです。多くの場合は指導者から手話通訳者を通し、また筆談や身振りを駆使して指導を受けています。聞こえないことについて理解を広め、指導者・コーチに対して手話言語で指導できるよう、養成に助成を行う等競技団体への支援を行ってください。
 また、引退したデフアスリートが後進育成のために指導者資格を取得しようとしても、受講にあたり、手話通訳費用の負担が大きな壁となります。指導者資格をとるための手話通訳費用を補助する制度を設けてください。
 また、手話通訳者の養成については厚生労働省の管轄ではありますが、スポーツという専門分野に精通した手話通訳者の確保も早急な課題です。スポーツ用語は専門的なものが多く、当該スポーツについての知識がないと通訳を行うことは難しく、デフスポーツの発展にはスポーツに精通した手話通訳者の存在は欠かせません。全国の手話通訳者に対し、スポーツの知識や用語等の手話を習得する機会を作ってください。

7.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や公共団体等で通訳者に要する経費の予算化を貴省からも働きかけをお願いします。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。聴覚障害者が公的機関を利用する場合、これまで利用してきた障害者総合支援法の中の「意思疎通支援事業」による手話通訳派遣制度は引き続き利用が可能ですが、合理的配慮としての手話通訳者の派遣については各公的機関がその費用を予算化していくよう、貴庁から関係の地方自治体各部局へ周知を図るようお願いします。

8.貴庁における障害者雇用率の達成と聴覚障害者の採用時及び雇用後の職場における情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障の整備を図ってください。
 また貴庁の障害者別の採用状況及び雇用の定着率もご教示ください。

<説明>
 非常に残念なことに昨年、官公庁や地方自治体でも、障害者雇用率の未達成が明らかになりました。今年度、来年度には大量の障害者採用をされますが、採用試験や説明会等における要約筆記や手話通訳配置などの情報保障、採用後、機器も含めた職場環境の整備等必要な情報保障を講じ、長期定着しキャリアアップできるようにしてください。
 情報保障や聴覚障害者用設備についてご不明な点があれば、当連盟までご相談ください。
 また貴庁における障害者別(身体障害種別も明記)の採用状況とそれら定着率もご教示ください。

以  上

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