文部科学省にろう教育等に関する要望書を提出

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 文部科学省に対し、ろう教育を中心とした10の要望を提出しました。
 文部科学省からは、2020 (令和2)年度を目処に、すべての特別支援学校の教員が、特別支援学校教諭の免許状を保有した状態になるよう通知を行ったという報告がありました。
 また、ろう教育現場の諸課題については、任命権者である自治体の教育委員会から対応することになるなどのご回答をいただきました。
 連盟からは、聞こえない子どもが自分たちの言語で学べない環境を早急に改善する必要があること、手話言語は「さまざまなコミュニケーション手段の中のひとつ」であるだけでなく、「独自の体系を有する言語」としての側面があるため、教員が習得すべき手話言語の技術レベルを明確に規定する必要があることなどを強く求めました。

要望書を提出
交渉風景

連本第190224号
2019年7月16日

文部科学大臣
 林 芳正 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長  石野 富志三郎

ろう教育等に関する要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より私ども聞こえない人の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて、当連盟は、2019年6月14日宮城県仙台市において開催された第67回全国ろうあ者大会にて、ろう教育に関する大会決議を行ないました。
 ついては、聞こえない・聞こえにくい(以下、「聞こえない」)子どもたち及び聞こえない学生が手話言語による教育を受ける権利の保障に関して、下記の通り要望いたします。
 なお、我が国は2014年にようやく「障害者権利条約」を批准し、2016年4月より障害者差別解消法が施行され、障害者を取り巻く環境は一歩前進しましたが、現状の教育現場では課題の改善に取り組む姿勢はまだ見られません。
 当連盟は「手話言語法」の制定を視野に入れ、子どもたちが教科としての「手話言語を学び」学問を「手話言語で学ぶ」環境整備を強く求めます。
 今後、聞こえない子どもたちや聞こえない教職員ひいては国民全体のために、より一層の課題改善に取り組んでいただきますよう、お願い申し上げます。

1.聞こえない子どもたちのアイデンティティ確立のため、聞こえない子どもの言語権の保障、聞こえない子どもの家族が手話言語を学ぶための支援に関する具体的な取り組みを行ってください。

<説明>
 聞こえない子どもが生きていくうえで、アイデンティティを確立することはとても大切なことです。このアイデンティティ確立のために、手話言語を獲得することは不可欠です。
 「障害者権利条約」24条(教育)は、聞こえない子どもに対する教育において、手話言語の奨励と促進に肯定的かつ積極的に取り組むことが重要であると謳っています。聞こえない子どもたちの言語発達には、手話言語の獲得に向けた周囲からの働きかけが不可欠です。手話言語の獲得によって、聞こえない子どもは聞こえる子どもと同等の言語発達が見込まれるのです。
 そのためには、手話言語によるコミュニケーションに、家族をはじめとする周囲の大人が積極的に参加することが重要です。日本で1994年に発効した「子どもの権利条約」では、育児の責任を果たす親に対し、国は、家族内での聞こえない子どもとのコミュニケーションのために手話言語を学ぶ機会の提供を含む援助を十分に行わなければならない、と解釈(「一般的意見9」41)されています。聞こえない子どものアイデンティティ確立のために、手話言語の早期獲得ができるよう、家族への支援を含めた具体的な取り組みを図ってください。

2.聞こえない子どもたちが求めるあらゆる教育ニーズに対応できるよう、聞こえない子どもたちが在籍する学校に専門性の高い教職員を配置してください。

<説明>
①「障害者権利条約」24条(教育)では、一人ひとりの聞こえない子どもたちにとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段の確保、及び手話言語の習得等が謳われています。
 聞こえない子どもたちは、ろう学校(特別支援学校も含む。以下同様)においても、地域の学校においても、聞こえる子どもたちと平等に教育を受ける権利があります。
 聞こえない子どもたちの教育における環境整備を推進し、聞こえない子どもたちのもっとも自然な言語である「手話」で教科を教えることができる専門性の高い教職員の配置を促進する(例:教職員の採用時、教員養成課程で手話言語の学習をした者を積極的にろう学校へ配置する)など、ろう教育の専門性を高めるための施策を積極的に行ってください。
②ろう教育の専門性、特に手話言語を取得した教職員は重要な存在です。聞こえない子どもたちが自身の成長や将来像を描くためにも、ロールモデルの役割を担う聞こえない教職員が必要です。
 各地域でろう学校における聞こえない教職員の採用を積極的に推進できるよう、具体的な取り組みを行って下さい。
 聞こえる教職員が教科を手話言語で教えるためには、手話言語の習得が必須となります。学校教育において教職員と聞こえない子どものコミュニケーションが成立しないということはあってはならないことです。
 聞こえない子どものニーズに応じた教職員や難聴学級の指導員の増員とともに、聞こえる教職員等の手話言語技術の向上などを図る研修については、特別支援学校だけでなく、聞こえない子どもが通う地域の学校の教職員も含めた、手話言語習得のための研修制度の拡充を積極的に図ってください。

3.聞こえない教職員が職務遂行するうえで、その能力を最大限に発揮するための職場環境の改善、研修機会の充実について、具体的な取り組みを行ってください。

<説明>
 「障害者権利条約」21条では、障害者が自ら望む意思疎通支援手段の行使を謳っています。聞こえない教職員がその能力を最大限に発揮するための職場環境の改善や情報保障などを促進させる取り組みを行ってください。
 職員会議等では会議内容を視覚化する等の工夫をしている学校もありますが、同僚の教職員からのインフォーマルな形での情報保障支援を受ける例も多く、これについては双方に負担が生じます。
 加えて、聞こえない教職員が管理職になったときの校外の会議や電話応対時の情報保障や、ろう学校以外の特別支援学校等へ異動した際の情報保障は皆無に等しい状況です。
 法定研修や免許更新講習などの公的な情報保障体制を整備し、聞こえない教職員の研修の機会を充実させてください。

4.貴省がその配置を拡充しようとしている「スクールカウンセラー」及び「スクールソーシャルワーカー」を、全てのろう学校に設置・派遣し、早期教育段階での相談支援も含めてその機能を十分発揮できるようにしてください。

<説明>
 聞こえない子どもや家族の抱える悩みを受け止めるため、貴省ではスクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの配置拡充を推進していますが、現状では、地域や学校ごとに大きな格差があります。地域の学校へ通う聞こえない子どものこともふまえた、聴覚障害関連機関等との連携ができる支援体制も含め、全公立小中学校への通常配置と同等に全国のろう学校へのスクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーの配置が行われるよう、具体的な働きかけを行ってください。
 上記支援を行うスクールカウンセラー及びスクールソーシャルワーカーに対しては、聴覚障害に関する十分な研修はもとより、聴覚障害支援の専門家から柔軟にアドバイスを受けられる体制を整備してください。

5.国語と同様に「手話言語」を体系的に学ぶことで、聞こえない子どもたちが自分の力で考え、判断し、意見を表出でき、総合的な言語力と生きる力を身につけられるよう、「手話言語」を教科として早急に学習指導要領に導入してください。  他の国民と同様、聞こえない子どもたち等が国歌を斉唱できるようになるために、全国統一の「『国歌』の手話言語」を定めてください。

<説明>
 「障害者権利条約」24条3(b)では「手話言語の習得」を容易にすることが謳われていますが、ろう学校には「手話言語」を教科として学ぶ授業がありません。
 先般改訂された学習指導要領では、子どもたちが手話で活発に話し合うことでコミュニケーション能力を伸ばすことがねらいとされ、「手話での話し合い」が明記されたことは喜ばしいことですが、その「手話言語」は、子どもたちに自然に身につくものに加え、論理的思考をはぐくむためのものとして、子どもたちに意識的に学習させることが必要です。
 聞こえない子どもたちのもっとも自然な言語である「手話」の文法力、表現力などが生まれ、育まれてきた歴史や文化を体系的に学ぶことによって、聞こえない子どもたちは自らのアイデンティティを確立し、コミュニケーション手段としてだけでなく主体的に生きるための総合的な言語活動が充実します。同時に手話言語で国語を学ぶことによって、手話と日本語という二つの言語を繋げる思考力や判断力、表現力が発達し、「生きる力」を身に付けることが期待できます。
 聞こえない子どもたちが、手話と日本語という二つの言語を通して学びを深めるにあたり、学習指導要領第4節「教育課程の実施と学習評価」に記載されている「必要な言語環境」については、手話言語も含めて考えていただく必要があります。
 また、手話言語の指導内容・指導者・教科書等の体制は、貴省や専門家、当連盟が一体となって作成していくことが望ましいと考えます。
 聞こえない子どもたちがコミュニケーション能力を伸ばし、「生きる力」を育むためにも、早急に「手話言語」の教科を導入することを推進してください。
 また、我が国の『国歌』について、手話言語でどのように表現するかということが定められていない状況です。オリンピック等の国を挙げての行事や、その他日常生活の中で国民が国歌に触れるのと同じように、聞こえない子ども等が国歌に親しみ、国歌を斉唱できるようになるためには、全国統一の「『国歌』の手話言語」の策定が必要です。これについて、専門家や当事者団体を組み入れた協議チームを組織し、「『国歌』の手話言語」を定めてください。

6.大学での教員養成課程及び教職員の現任研修に手話言語を学ぶ授業を組み入れてください。その際の指導者については、各地域の聴覚障害者団体や聴覚障害者情報提供施設等の派遣を利用して下さい。

<説明>
 聞こえない教職員の採用を積極的に行うこととあわせ、手話言語のできる教員養成はとても重要です。
 先般の学習指導要領の改訂では、手話等を積極的に使用しコミュニケーション能力を伸ばすことを目標に掲げられていますが、教員養成課程と学校現場を見てみると、必ずしも手話言語を学べる環境が確保されている状況ではないため、各教職員によって手話言語の技術に差が出ている現状があることは、貴省でも認識しておられることです。
 先述の2.②でも触れているとおり、教職員と生徒のコミュニケーションが成立しなければ、授業に差し支えることは明白であり、早急な改善が必要と考えます。
 教職員が手話言語を習得できていないその根本的な原因として、手話言語の習得が特別支援教育教員養成課程に含まれていないことが挙げられます。そのために、教職員の大半は手話言語を習得しないまま、聞こえない子どもが在学する学校に赴任するのが現状です。
 また、生活の中での手話コミュニケーションの能力を「全国手話検定試験」で認定する仕組みはありますが、手話言語で教育指導できる能力について認定する仕組みがありませんので、早急に手話言語で教育できる能力を認定する仕組みを組み入れてください。
 将来の聴覚障害児教育を担う学生たちが、手話言語によって聞こえない子どもたちを指導する力を身に着けるため、大学等の教員養成課程の聴覚障害教育コースなどに、手話言語が習得できる授業、また、手話言語を習得するためのカリキュラムを組み入れてください。

7.学習指導要領に記載している「手話」については、その習得レベルを明確に提示してください。

<説明>
 先述しているとおり、手話で授業を行う、手話でコミュニケーションができる教職員が少なく、手話を必要とする子どもたちは、手話ができない教職員に合わせて、日本語で授業を受ける、コミュニケーションを行うことを強いられています。
 学習指導要領にも、指導等で使用する手段として「手話」が記載されたことを鑑みると、一定のレベルの手話言語を習得することが必須となります。聞こえない子どもと教職員とのコミュニケーションを円滑にできるよう、このレベルを明記するとともに、習得に関する具体的な取り組みを図ってください。

8.上記の手話言語の重要性を踏まえ、「手話言語法」制定に向け、早期の取り組みを行ってください。

<説明>
 聞こえない子どもたちや、聞こえない子どもを育てる親、聞こえない子どもの教育に携わる教職員を支えるため、教育上の手話言語の必要性を明らかにするためには、「手話言語法」の制定、ないし法律の中で「手話は言語である」と明文化することが必要です。貴省の定める学習指導要領には、「様々な手段でのコミュニケーション」を推奨するということは記載されているものの、言語としての手話については未だ明文化されておりません。
 聞こえない子どもたちの生活・学びの根幹となる手話を、言語として周知し、国民の生活の中に根付かせていくためにも、「手話言語法」の早期制定に向けた取り組みを行ってください。

9.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や公共団体等で通訳者に要する経費の予算化を貴省からも働きかけをお願いします。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。聴覚障害者が公的機関を利用する場合、これまで利用してきた障害者総合支援法の中の「意思疎通支援事業」による手話通訳派遣制度は引き続き利用が可能ですが、合理的配慮としての手話通訳者の派遣については各公的機関がその費用を予算化していくよう、貴省から関係の地方自治体各部局へ周知を図るようお願いします。

10.貴省における障害者雇用率の達成と聴覚障害者の採用時及び雇用後の職場における情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障の整備を図ってください。
 また貴省の障害者別の採用状況及び雇用の定着率もご教示ください。

<説明>
 非常に残念なことに昨年、官公庁や地方自治体でも、障害者雇用率の未達成が明らかになりました。今年度、来年度には大量の障害者採用をされますが、採用試験や説明会等における要約筆記や手話通訳配置などの情報保障、採用後、機器も含めた職場環境の整備等必要な情報保障を講じ、長期定着しキャリアアップできるようにしてください。
 情報保障や聴覚障害者用設備についてご不明な点があれば、当連盟までご相談ください。
 また貴省における障害者別(身体障害種別も明記)の採用状況とそれら定着率もご教示ください。

以 上

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