厚生労働省にろう者等の雇用促進および職場定着を図るための
方策等について要望書を提出

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 障害者雇用ゼロ企業に対しては、引き続き働きかけを行っていくとのこと、また、企業に雇用されている障害者の障害種別については、他からの要望もあり検討中ではあるが、調査票の記入欄がないため集計ができないという回答がありました。
 手話言語法、障害者情報アクセスコミュニケーション保障法の制定については、議員立法として提出されており、皆さんの意見を聞きながら進めていきたいとの回答がありました。

要望書を提出

連本第190215号
2019年7月16日

厚生労働大臣
 根本 匠 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月16日宮城県仙台市において開催された第67回全国ろうあ者大会にて、聴覚障害者の福祉施策に関する大会決議を行ないました。つきましては、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。
 現在、「障害者差別解消法」および「バリアフリー法」等により、障害者に対する合理的配慮や支援についての取り組みが広まってきつつあります。しかしながら、対応については地域差があるなどまだまだ改善すべき課題は残っています。すべての国民が安心、安全に生活ができ、そして円滑な移動ができるよう、より一層の環境整備を講じていただきますよう、お願い申し上げます。

1.国の行政機関、地方自治体、民間企業すべての法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行ってください。

(1)国の行政機関、地方自治体、民間企業すべてが法定雇用率を達成するよう、また未達成の団体に対しては法定雇用率を遵守するよう、雇用率のアップを図ってください。
 また採用後の職場定着支援についても国の行政機関、地方自治体、民間企業の隔てなく採用された障害者が長く働けるよう支援体制を構築してください。

<説明>
 2018(平成31)年4月発表の障害者の実雇用率は昨年度と比べ、雇用率が上がっていますが、民間企業における実雇用率は2.05%(昨年1.97%)となっており、依然として法定雇用率に達していない状況が続いています。
 すべての民間企業が法定雇用率を遵守するよう、対策を講じてください。
 また昨年官公庁や地方自治体でも、障害者雇用率の未達成が明らかになりました。再発防止と雇用率アップを図ってください。
 国が率先し、採用されている聴覚障害者の職場での情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障や職場環境作りの範を示していただき、貴省をはじめとする各省庁、地方自治体、民間企業において聴覚障害者への理解を促進するとともに、民間企業に派遣されているジョブコーチのような支援体制も公務部門に構築し長く働ける職場環境を作ってください。
 国の行政機関における障害者別(身体障害種別も明記)の採用状況とそれら定着率もご教示ください。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、障害種別の雇用の状況を表示し、雇用納付金制度のあり方を再検討してください。

<説明>
 法定雇用率が2018(平成30)年4月1日より一般民間企業は2.2%、国、地方公共団体は2.5%、都道府県等の教育委員会は2.4%となっていますが、身体障害者は一括りされています。聴覚障害者をはじめとする障害種別の障害者雇用率の表示をしてください。
 また、聴覚障害者の雇用数と離職数が公表されていないため、聴覚障害者の雇用の実情が分かりません。聴覚障害者に対する情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障が必要なことを理解されていない事業所が多い中で、聴覚障害者の雇用改善のための分析を行い、聴覚障害者の実雇用率増加を図るためにも、障害種別の実雇用率、雇用数、離職数が分かるようにしてください。

(3)ろう重複障害者(盲ろう者含む)の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。

<説明>
 厚生労働省の施策として、「医療・福祉」から「一般就労」へ転換する方向を進めています。しかし、ろう重複障害者の就労状況は厳しい現況です。ろう重複障害者の就労をスムーズに進めるために、まず、全国的なろう重複障害者の就労状況に関する実態調査を実施し、その結果を踏まえて、適切な施策を実施するよう求めます。こうした調査の実施に向けた取り組みに関して2017年度の進捗状況をご教示ください。

2.厚生労働省の所管である、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金による「手話通訳担当者の委嘱助成金の制度」の一層の拡充および事業所や職業安定所に利用の周知徹底を図ってください。

(1)1回の助成額を1人3/4(6千円)ではなく、手話通訳料1回の3/4にしてください。

<説明>
 現行制度では実費の3/4(上限6千円)を超える分は事業所の負担となり、事業所によっては制度を活用しにくい状況です。聴覚障害者が聞こえる人と対等に研修が受けられるように、1回当たりの助成額の上限を撤廃し、手話通訳に対する総費用の3/4を助成額としてください。

(2)年間の助成額の上限28万8千円を取り払い、必要に応じて手話通訳を利用できるようにしてください。

<説明>
 聴覚障害者にとって、職場における情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障は、就労継続上、必要不可欠です。この制度は年間助成額に上限があるため、情報保障の範囲も限られたものになり、複数の聴覚障害者が複数の部署に配属されている場合は、更に情報保障される内容が限定されてしまいます。こうした現行制度における不合理を解消するため、年間助成額の上限撤廃を求めます。

(3)申請提出期間は、事業所が必要と認めた場合いつでも申請できることとし、利用可能期間も雇用後10年間と限定することなく聴覚障害者が就労している限りにおいていつでも利用できるようにしてください。

<説明>
 この制度は、聴覚障害者を採用した事業所に対しての最初の10年間適用となっています。つまり最初に入社した聴覚障害者が申請して10年間は助成されますが、2人目の聴覚障害者がその5年後に入社しても助成されません。「聴覚障害者を初めて採用してから10年間」のみ有効な制度になっています。10年を超えると、努力義務である「合理的配慮の提供」がなされない場合、聴覚障害者は再び情報アクセスの機会が閉ざされてしまいます。

3.聴覚障害者等ワークライフ支援事業を国の制度として新設してください。

<説明>
 現在、大阪府の独自事業として実施されている聴覚障害者等ワークライフ支援事業は、就職前後の聴覚障害者(重複聴覚障害者を含む)に対して、個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、聴覚障害者の職場定着に成果を上げています。聴覚障害者の就労面での相談支援機能の充実を図るため、聴覚障害者等ワークライフ支援事業を国の制度として実施してください。

4.聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションや意思疎通に不安を感じることなく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話言語」を取り入れてください。

<説明>
 現行では、手話を必要とする聴覚障害者に対し、手話ができるジョブコーチが非常に少なく、聴覚障害者に対する支援が十分にできていません。

5.聴覚障害者が安心して利用するために、全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターに手話通訳者を配置してください。

<説明>
 聴覚障害者にとって、公的な就労相談の場である障害者就業・生活支援センターでは、筆談対応を中心とした支援が多く、手話を第一言語とする聴覚障害者にとっては利用しにくく、相談支援機能が十分に果たされているとは言えません。聴覚障害の特性を理解した手話通訳者の配置を働きかけてください。

6.貴省の労働政策審議会 (障害者雇用分科会)の委員に聴覚障害者を加えてください。

<説明>
 労働政策審議会障害者雇用分科会には身体障害のうち視覚障害者、肢体不自由の委員はいらっしゃいますが、聴覚障害者の委員がおらず、聴覚障害者の意見や状況が反映されにくい状況です。是非、聴覚障害者の委員を加えていただきたくお願いいたします。

7.「手話言語法」及び「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」の早期制定をお願いします。
 私たちの考える「手話言語法」では、ろう乳幼児の手話言語の獲得の保障と、そのための保護者への必要な情報提供を重要な条項の一つとしています。ろう児の療育の面から「手話言語の獲得」を含めた情報提供や関連の支援体制の構築のためにも「手話言語法」の一日も早い制定を強く求めます。

<説明>
 全日本ろうあ連盟では2010年より「手話言語法」「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」の早期制定を求めた取り組みをしています。改正障害者基本法で「手話」が言語のひとつとして認知され、貴省においても障害者総合支援法・意思疎通支援事業において手話通訳制度が実施されているところですが、ろう者等への手話言語獲得・手話を使える環境整備を保障する「手話言語法」、ろう者、盲ろう者、視覚障害者等の情報アクセス・コミュニケーションを保障する「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」の双方を制定させ、福祉・医療・雇用・教育・司法等の様々な場面で具体的な施策行うことで、ろう者等の真の社会参加を推進できるものと考えます。
 関係省庁との連携状況をお聞かせいただくと共に、「手話言語法」および、ろう者等をはじめ広く障害者を対象とした「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」の制定をお願いします。

8.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で通訳者に要する経費の予算化を福祉部局からも働きかけるように周知してください。また予算化されるまでは、引き続き意思疎通支援事業による手話通訳派遣制度を利用できるように周知してください。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。一方で、聴覚障害者が公的機関を利用する場合、今まで利用できた意思疎通支援事業による手話通訳派遣が、公的機関の合理的配慮事項とされ、利用できないという誤解が生じています。
 聴覚障害者への情報保障が後退しないように、各自治体の担当部局や団体等で手話通訳者に要する経費を予算化されるよう、福祉部局からも働きかけるように周知してください。また予算化されるまでは、引き続き意思疎通支援事業による手話通訳派遣制度を利用できるように説明・配慮をお願いします。

9.自治体において遠隔手話サービスの導入を検討するにあたり、意思疎通支援事業を含む自治体での聴覚障害者への対応・支援には手話通訳者の設置・派遣等の拡充が基本であることを、改めて周知またはご説明していただけますようお願いします。

<説明>
 遠隔手話サービスについては、2017(平成29)年度地域生活支援事業の予算で、手話通訳者を設置できない自治体における導入が認められ、2019年度からは「派遣が困難な場合」の利用について、派遣にカウントできるよう導入が始まりました。
 聴覚障害者の中にはその成育歴により、必要不可欠な情報を充分に獲得することができず、自己選択、自己決定のための補足説明や相談、生活支援などの様々な支援を必要とする者も少なくありません。また、より深い内容になると遠隔手話サービスのようなタブレット等を介しての「翻訳技術の提供」では、周りの状況までを伝えることができず不十分です。このような聴覚障害の特性やニーズ、また場面に合わせた対人支援のためには遠隔手話サービスは、手話通訳設置事業および派遣事業の補完的な役割を担うものであり、代替手段ではないことを各自治体に周知もしくは説明していただきたくお願いします。

10.障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や公共団体等で通訳者に要する経費の予算化を貴省からも働きかけをお願いします。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。聴覚障害者が公的機関を利用する場合、これまで利用してきた障害者総合支援法の中の「意思疎通支援事業」による手話通訳派遣制度は引き続き利用は可能ですが、合理的配慮としての手話通訳者の派遣については各公的機関がその費用を予算化していくよう、貴省から関係の地方自治体各部局へ周知を図るようお願いします。

11.貴省における障害者雇用率の達成維持と聴覚障害者の採用時及び雇用後の職場における情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障の整備を図ってください。また貴省の障害者別の採用状況及び雇用の定着率もご教示ください。

<説明>
 非常に残念なことに昨年、官公庁や地方自治体でも、障害者雇用率の未達成が明らかになりました。貴省では障害者雇用率が達成されていますが引き続き他の省庁の見本となるよう積極的な障害者雇用をお願いいたします。
 昨年度、今年度には大量の障害者採用をされますが、採用試験や説明会等における要約筆記や手話通訳配置などの情報保障、採用後、機器も含めた職場環境の整備等必要な情報保障を講じ、長期定着しキャリアアップできるようにしてください。
 情報保障や聴覚障害者用設備についてご不明な点があれば、当連盟までご相談ください。
 また貴省における障害者別(身体障害種別も明記)の採用状況とそれら定着率もご教示ください。

以 上

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