厚生労働省に聴覚障害者の福祉施策や労働及び雇用施策について要望書を提出

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 全日本ろうあ連盟は厚生労働省へ要望省を提出、手話言語法、障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法早期制定と意思疎通支援事業、ろう者等の労働施策の充実を要望しました。

要望書を提出
要望書を提出

連本第180225号
2018年7月17日

厚生労働大臣
 加藤 勝信  様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

聴覚障害者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月10日大阪府大阪市において開催された第66回全国ろうあ者大会にて、聴覚障害者の福祉施策に関する大会決議を行ないました。
 つきましては下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。
 なお我が国は「障害者権利条約」批准に向けての国内法整備の一環として「障害者差別解消法」を制定し、2年が経過しました。障害者を取り巻く環境は一歩前進しましたが、聴覚障害者にとっては手話通訳・要約筆記等を含めた情報アクセス・コミュニケーション支援が不可欠です。今後、合理的配慮の事例を積み重ねていき、障害者の社会参加のためにも、より一層の基礎的環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.「手話言語法」を早急に制定するよう、また「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」を早期に制定するよう進めてくださいますようお願いします。
 特に、「手話言語法」ではろう乳幼児の手話言語の獲得の保障と、そのための保護者への必要な情報提供の規定が重要な条項の一つとなっております。ろう児の療育の面から「手話言語の獲得」を含めた情報提供や関連の支援体制の構築のためにも「手話言語法」の一日も早い制定を強く求めます。

<説明>
 全日本ろうあ連盟では2010年より「手話言語法」、「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」の早期制定を求めて取り組みを進めております。改正障害者基本法で「手話」が言語のひとつとして認知され、貴省においても障害者総合支援法・意思疎通支援事業において手話通訳制度等が実施されているところですが、ろう者等への手話言語獲得・手話を使える環境整備を保障する「手話言語法」、ろう者、盲ろう者、視覚障害者等の情報・アクセス・コミュニケーションを保障する「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」の双方を制定させ、福祉・医療・雇用・教育・司法等の様々な場面で具体的な施策行うことで、ろう者等の真の社会参加を推進できるものと考えます。
 特にろう児への手話言語獲得の保障は急務であります。大阪府において手話言語条例を基にしたろう乳幼児の手話言語獲得支援の取り組みを参考に、日本において手話言語法を早急に制定するよう進めてください。また、併せてろう者等をはじめ広く障害者を対象とした「障害者情報アクセシビリティ・コミュニケーション保障法」の制定を進めてください。

2.障害者総合支援法地域生活支援事業「意思疎通支援事業」の手話通訳派遣について、適正に運用されるよう周知・指導をお願いします。

(1)「意思疎通支援事業」手話通訳派遣について平成25年厚労省発出「意思疎通支援事業実施要綱」(モデル要綱)に基づいて、各地域で適正な運用がなされるよう周知をお願いします。

<説明>
 「意思疎通支援事業」手話通訳派遣については平成25年貴省発出「意思疎通支援事業実施要綱」(モデル要綱)に基づいての運用を周知していただいておりますが、同要綱の未導入の自治体が多くみられ、また地域で手話通訳派遣を断る、聴覚障害者が意思疎通支援を十分に受けられない事例が報告されています。
 再度「意思疎通支援事業実施要綱」に基づいた適正な運用を指導いただけますようお願いします。

(2)障害者差別解消法施行後の手話通訳派遣について、各自治体の担当部局や団体等で手話通訳者に要する経費の予算化を福祉部局からも働きかけるように周知してください。また予算化されるまでは、引き続き意思疎通支援事業による手話通訳派遣制度を利用できるように周知してください。

<説明>
 2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、手話通訳派遣についても改善がみられる地域も出てきています。一方で、学校や病院等で、今まで利用できた意思疎通支援事業による手話通訳派遣制度が学校や病院の合理的配慮事項とされ、利用できなくなった事例が発生しています。
 聴覚障害者への情報保障が後退しないように、各自治体の担当部局や団体等で手話通訳者に要する経費を予算化されるよう、福祉部局からも働きかけるように周知してください。また予算化されるまでは、引き続き意思疎通支援事業による手話通訳派遣制度を利用できるように説明・配慮をお願いします。

3.IT技術を活用した手話通訳サービス(例:遠隔手話通訳サービス等)は手話通訳を補完的に補う役割を担うものであり、導入によって従来の手話通訳設置・派遣制度が後退することのないように、行政等へ周知してください。

(1)自治体において遠隔手話サービスの導入を検討するにあたり、意思疎通支援事業を含む自治体での聴覚障害者への対応・支援には手話通訳者の設置・派遣等の拡充が基本であることについて、改めて周知またはご説明をお願いします。

<説明> 遠隔手話通訳サービスについては、2017(平成29)年度地域生活支援事業の予算で、手話通訳者を設置できない自治体における導入が認められています。
 聴覚障害者の中には聞こえないことにより社会生活の中で、必要不可欠な情報を充分に獲得することができず、自己選択、自己決定のための補足説明や相談、生活支援などの様々な支援を必要とする者も少なくありません。また手続きや生活相談等でより深い内容になると遠隔手話通訳サービスのような単なるタブレット等を介しての「翻訳技術の提供」では不十分です。このような聴覚障害の特性やニーズ、また場面に合わせた対人支援のためには 手話通訳者やろうあ者相談員、手話協力員等といった人材が必要であることを理解していただくことが大切です。 遠隔手話通訳サービスは、手話通訳設置事業の補完的な役割を担うものであり、手話通訳設置の代替手段ではないことを各自治体に周知もしくは説明していただきたくお願いします。

(2)遠隔手話サービスの導入にあたっては、地域の聴覚障害協会や聴覚障害者情報提供施設と連携することが必須であり、当事者のニーズを把握したうえで、導入への体制を構築すべきであることを周知または説明をお願いします。

<説明> 遠隔手話サービスの導入に当たっては、必ず聴覚障害当事者団体の意見を聴収したうえで検討する必要があります。また導入に至った場合でも、聴覚障害者の福祉向上のための事業を行う聴覚障害者協会や聴覚障害者情報提供施設と連携のうえ、体制を構築する必要があります。これは、複数の業者による入札を行った結果、民間業者が担当する場合でも同様です。 これらの団体や施設は、聴覚障害の特性やニーズを把握しており、また手話通訳士資格もしくは地域の登録手話通訳者といった一定の専門知識と技術レベルを有する手話通訳者を用意し、適切な運営・支援が可能になりますので、 その旨を各自治体に周知もしくは説明をお願いします。

以 上

連本第180226号
2018年7月17日

厚生労働大臣
 加藤 勝信  様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月10日大阪府大阪市において開催された第66回全国ろうあ者大会にて、聴覚障害者の福祉施策に関する大会決議を行いました。つきましては、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。
 障害者権利条約の前文において「障害者が、政策及び計画(障害者に直接関連する政策及び計画を含む。)に係る意思決定の過程に積極的に関与する機会を有すべきであることを考慮し」と明文化されていることに加え、「働き方改革実行計画」で示された「障害者等の希望や能力を活かした就労支援の推進」を実現するためにも、より一層の基礎的環境整備を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

1.法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行ってください。

(1)各企業が法定雇用率を達成するよう、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう、雇用率のアップを図ってください。

<説明>
 2017(平成29)年12月発表の障害者の実雇用率は昨年度と比べ、雇用率が上がっていますが、民間企業における実雇用率は1.97%となっており、依然として法定雇用率に達していない状況が続いています。
 すべての民間企業が法定雇用率を遵守するよう、対策を講じてください。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、障害種別の雇用の状況を表示し、雇用納付金制度のあり方を再検討してください。

<説明>
 法定雇用率が2018(平成30)年4月1日より一般民間企業は2.2%、国、地方公共団体は2.5%、都道府県等の教育委員会は2.4%となっていますが、身体障害者は一括りされています。聴覚障害者をはじめとする障害種別の障害者雇用率の表示をしてください。
 また、聴覚障害者の雇用数と離職数が公表されていないため、聴覚障害者の雇用の実情が分かりません。聴覚障害者に対する情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障が必要なことを理解されていない事業所が多い中で、聴覚障害者の雇用改善のための分析を行い、聴覚障害者の実雇用率増加を図るためにも、障害種別の実雇用率、雇用数、離職数が分かるようにしてください。

(3)ろう重複障害者(盲ろう者含む)の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。

<説明>
 厚生労働省の施策として、「医療・福祉」から「一般就労」へ転換する方向を進めています。しかし、ろう重複障害者の就労状況は厳しい現況です。ろう重複障害者の就労をスムーズに進めるために、まず、全国的なろう重複障害者の就労状況に関する実態調査を実施し、その結果を踏まえて、適切な施策を実施するよう求めます。こうした調査の実施に向けた取り組みに関して2017年度の進捗状況をご教示ください。

2.厚生労働省の所管である、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の障害者介助等助成金による「手話通訳担当者の委嘱助成金の制度」の一層の拡充および事業所や職業安定所に利用の周知徹底を図ってください。

(1)1回の助成額を1人3/4(6千円)ではなく、手話通訳料1回の3/4にしてください。

<説明>
 現行制度では実費の3/4(上限6千円)を超える分は事業所の負担となり、事業所によっては制度を活用しにくい状況です。聴覚障害者が聞こえる人と対等に研修が受けられるように、1回当たりの助成額の上限を撤廃し、手話通訳に対する総費用の3/4を助成額としてください。

(2)年間の助成額の上限28万8千円を取り払い、必要に応じて手話通訳を利用できるようにしてください。

<説明>
 聴覚障害者にとって、職場における情報アクセスの保障やコミュニケーション・意思疎通の保障は、就労継続上、必要不可欠です。この制度は年間助成額に上限があるため、情報保障の範囲も限られたものになり、複数の聴覚障害者が複数の部署に配属されている場合は、更に情報保障される内容が限定されてしまいます。こうした現行制度における不合理を解消するため、年間助成額の上限撤廃を求めます。

(3)申請提出期間は、事業所が必要と認めた場合いつでも申請できることとし、利用可能期間も雇用後10年間と限定することなく聴覚障害者が就労している限りにおいていつでも利用できるようにしてください。

<説明>
 この制度は、聴覚障害者を採用した事業所に対しての最初の10年間適用となっています。つまり最初に入社した聴覚障害者が申請して10年間は助成されるが、2人目の聴覚障害者がその5年後に入社してきても助成されません。「聴覚障害者を初めて採用してから10年間」のみ有効な制度になっています。10年を過ぎたら、努力義務である「合理的配慮の提供」がなされない場合、聴覚障害者は再び情報アクセスの機会が閉ざされてしまいます。

3.聴覚障害者等ワークライフ支援事業を国の制度として新設してください。

<説明>
 現在、大阪府の独自事業として実施されている聴覚障害者等ワークライフ支援事業は、就職前後の聴覚障害者(重複聴覚障害者を含む)に対して、個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、聴覚障害者の職場定着に成果を上げています。聴覚障害者の就労面での相談支援機能の充実を図るため、聴覚障害者等ワークライフ支援事業を国の制度として実施してください。

4.聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションや意思疎通に不安を感じることなく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話言語」を取り入れてください。

<説明>
 現行では、手話を必要とする聴覚障害者にジョブコーチが手話での会話が可能の場合、対応できますが、手話ができるジョブコーチが非常に少なく、聴覚障害者に対する支援が十分にできません。

5.聴覚障害者が安心して利用するために、全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターに手話通訳者を配置してください。

<説明>
 聴覚障害者にとって、公的な就労相談の場である障害者就業・生活支援センターでは、筆談対応を中心とした支援が多く、手話を第一言語とする聴覚障害者にとっては利用しにくく、相談支援機能が十分に果たされているとは言えません。聴覚障害の特性を理解した手話通訳者の配置を働きかけてください。

以 上

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