戻る

※全日本聾唖連盟による仮訳

「障害者の権利及び尊厳の促進及び保護に関する包括的かつ総合的な国際条約」の
起草に関するバンコク提案


「障害者の権利及び尊厳の促進及び保護に関する国際条約」に関するアジア太平洋地域専門家グループ会議の参加者は、2003年6月2〜4日にバンコクで会合を行った。

「条約案を検討する際に考慮すべき提案と構成要素を特別委員会(訳注:Ad Hoc Committee)に提供する」ことを奨励する国連総会決議57/229を受けて、政府、非政府組織、国内障害及び人権組織、及び個々の専門家として、下記提案を作成した。

我々は、全ての障害者が全ての人権を享有することを保障するには、新しい国際人権条約が必要であると確信する。
A. 背景と総合アプローチ
1. 国際人権規範は、障害者も他の人と等しく基本的人権を享有することを謳っているが、世界各地において障害者の人権が侵害されているケースが広く見受けられる。これらの人権侵害には栄養失調、強制不妊手術、性的搾取、教育・職業訓練機会の欠如、公共サービスへのアクセスの欠如、強制的な施設収容、参政権・コミュニケーションの権利・政策決定に参加する権利の侵害などが含まれている。

2. 障害者の人権に関する新しい国際条約の制定は緊急に必要とされている。現在の条約システムでは、国際法における障害への整合的・総合的・集中的な取り組みを構築することはできない。従って、障害問題に「地位・権威・可視性」を与えるにはこの分野に限定した条約が必要であり、既存の国際条約やモニタリング機構の修正では実現できない。

3. 単独の包括的な条約が実現すれば、締約国は障害を取り込んだ基盤整備や政務手順の開発に関する目標を設ける義務を理解することが可能となる。新しい条約の追加は、不利な者の権利に関する既存の国際規範を補完するものとなる。

4. 新しい条約は、人権と基本的自由は障害者を含む全ての人間が有することを再確認する人権条約であるべきである。従って、社会福祉の取り組みから、「障害者に関する世界行動計画」や「障害者の機会均等化に関する基準規則」などで具体化されてきた、権利に基づくモデルへの移行を反映するべきである。新しい人権条約は、開発の全側面における障害者の前進を促す上で、重要な役割を果たすことになる。

5. 新しい条約は、既存の国連人権条約(国際労働機関などの専門機関が採択した条約を含む)や他の規範(基準規則など)で述べられる人権規範を再確認し、これらを土台として築かれるべきである。新しい条約は、これらの条約に明記される権利の現在の保障体制を減退することなく、既存の保障体制を必要に応じて補完し、障害者にとって特に重要な問題に取り組むものであるべきである。

6. 新しい条約は、市民的・政治的権利、及び経済的・社会的・文化的権利の両方の保障を含むべきであり、保障される全ての権利の侵害について、国際レベルと国内レベルにおいて適切な対処方法を提供するべきである。

7. 新しい条約の採択は、障害者の人権の実現と、人間開発と社会開発における目標の達成を含む多路線的(訳注:マルチトラック)な取り組みの一つとなるべきである。とりわけ以下が重要である:
  1. 既存の人権団体と人権機構は、それぞれの活動の範囲内において起きる障害問題を解消するため、取り組みを拡大するべきである。
  2. 「障害者の機会均等化に関する基準規則」のモニタリングを行う、社会開発委員会の障害に関する特別報告者(及び専門家パネル)の活動に、引き続き強い支援が提供されるべきである。
  3. 政府、国際組織、市民団体(障害者組織や非政府組織を含む)は基準規則に関わる活動を引き続き実施するべきである。また、「世界行動計画」や「びわこミレニアム・フレームワーク」など、障害問題を扱う文書やプログラムなどの実施も進めるべきである。
当会議は、障害者の人権の実現における国内機関の役割の重要性を確認した。また、これらの権利を国内レベルで有効にするために、政府が国内人権機関や他の適切な組織を設立する必要性も確認された。

8. 締約国と国連機構は、条約の起草プロセスにおいて、障害者を代表する団体や障害者、とりわけ開発途上国の団体や障害者の完全な参加を保証するための適切な措置を講じるべきである。また、「障害に関する国連任意基金」に寄付をできる政府には、この目的のために寄付を行うよう奨励する。アジア太平洋地域の全ての政府は、条約に関する障害者組織の見解を聞き、総会決議56/168で設置された特別委員会(訳注:Ad Hoc Committee)の協議における障害者組織の参加を促進し、特別委員会へ派遣する公式代表団へ障害者組織の障害者を含めるべきである。
B. 条約の要素
条約の本質

9. 条約は包括的である必要があり、「世界人権宣言」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」、「経済的、社会的および文化的権利に関する国際規約」、及び他の関連文書などの既存の人権文書に含まれる権利が、(訳注:障害という観点から)明確に再表示されていなければならない。従って条約は、人権と基本的自由の享有における平等と非差別の権利を単に述べるのではなく、さらに踏み込んだものでなければならない。

構造

10. 当会議では、条約に含まれるべき要素として以下が考案された:
前文

11. 当会議では、前文の効果的な内容として、以下が考案された:
目的や全般的な原則の記述

12. 条約の目的と、条約の解釈と適用方法の基礎となる基本原則を明記することは重要である。条約の原則と目的の記述には、全ての条約の柱となる中心的な価値基準として、尊厳、自律、平等、団結、代表参加などに関する確約を含めることもできる。

13. 条約は:
  1. 社会的公正、市民権、福利における国際的な人権規範や基準を土台とした、「人権に基づいた」文書であるべきである。既存の人権基準より低い基準は受け入れてはならない。
  2. 全ての障害者が例外および差別なく、平等、尊厳、自律を原則とする全ての基本的人権および自由を完全に享有し、この恩恵を受けられることを保障しなければならない。
  3. 全ての障害者グループの状況、及びジェンダー、人種、肌色、年齢、民族性、及び他の点に関する多様性も考慮する必要があることを強調し、障害を持つ女性、子ども、先住民などが直面する重複的な差別や二重の不利の影響を認識しなければならない。
  4. 障害者とその組織の問題において、非差別と均等な機会の原則が適用されることを保障しなければならない。
  5. 完全参加への障壁を取り除く適切な配慮(訳注:reasonable accommodation)及び(あるいは)積極的な措置(訳注:positive action:差別撤廃措置)の欠如は、一種の差別であることを認識しなければならない。
  6. 主に法的に強制可能な権利を含め、障害者がその人権と基本的自由を行使できるようにするための方策を取り入れなければならない。
  7. 条約のモニタリングと実施に障害者組織が参加するための機構を提供しなければならない。
  8. 国内の活動を支援するための国際協力を促進しなければならない。
  9. 国内レベルでの政府と障害者組織の間の協力を促進し、障害者組織による成功したイニシアチブの認識を保証しなければならない。
  10. インクルーシブでバリアフリーの社会を促進しなければならない。
  11. 政策および意志決定における障害者の参加と適切な代表を促進しなければならない。
定義

14. 条約には、障害、差別、アクセシビリティの定義が含まれるべきである。

障害

15. 国際レベルで採用されている障害の定義は多様な範囲に及ぶ。これは目的の違いや、障害に対する理解の変遷に起因する。当会議は、WHO-ICFの定義を出発点として用いることができると考えたが、現在使用されている一部の定義、とりわけ精神疾患の生還者(訳注:survivor)及び精神医療の利用者(訳注:user)や生還者に関する定義において、いくつか懸念される点が存在することも合わせて確認された。

16. 条約に書かれる障害の定義は、障害が社会的・環境的な要因により生じるものであるとの考え方を反映すべきである。身体障害・感覚障害・知的障害・精神障害、重複障害など全ての機能障害の分類を含めた、包括的なアプローチが採用されなければならない。

17. 障害の定義を考えるにあたって、個人は障害を持つが、障害は個人的な病変でないことを認識する必要がある。障害とは、社会的なアイデンティティと行動に関係する一連の影響があり、状況により大きく変化するものである。障害はまた、差別、偏見、排斥などから生じる可能性もある。

18. 障害の定義は制限的であってはならない。例えば、身体的・感覚的・知的・精神的・重複的な障害が含まれるべきである。また、障害には恒久的・一時的・間欠的な場合、及び障害があると理解される場合(訳注:perceived disability)があることを認知するべきである。

差別と平等

19. 条約は「差別」の定義について、直接的・間接的・意図的・意図的でない・目に見えない・体系的な差別を含む、全ての形の差別を取り上げるべきである。条約は既存の国際的な定義に基づきながらも、平等と差別に関する障害者固有の性質を反映するための修正を加えた差別の定義を導入するべきである。

20. 差別の定義について、「女性差別撤廃条約」、「人種差別撤廃条約」、「雇用・職業上の差別待遇に関するILOの第111号条約」、「人権委員会」、「経済的・社会的・文化的権利に関する委員会」が採用する共通な認識がある。これらによると、「制約的特徴(訳注:prohibited characteristic)(例:障害)を理由に、人権の認識、享有、又は行使を阻害もしくは無効にする効果または目的を持つ、区別、排除及び制限がある」場合に差別が存在すると言う。

21. 差別の定義は:
  1. 権利と自由の剥奪につながる全ての取り決め、慣行、社会構造を含む、直接的差別(差別的取り扱い)、間接的差別(差別的効果)、目に見ない差別、体系的差別を網羅すべきである。
  2. (経済的・社会的・文化的権利に関する委員会による一般的意見第5号と同じ形で)適切な配慮(訳注:reasonable accommodation)の欠如を差別の一つとして扱い、適切な配慮の定義も含めるべきである。
  3. 平等を保障するために必要とされる様々な「差別撤廃措置」(訳注:"positive measures")の種類を明確にしなければならない(一部は継続的、一部は一時的で十分な場合がある)。また、これらの「差別撤廃措置」と差別の定義の関連性を明確化しなければならない。
  4. 完全参加へのバリアを減少もしくは撤廃する積極的な行動(訳注:affirmative action)もしくは「特別措置」(訳注:"special measures")、さらに均等な機会と平等な取り扱いを実現するための支援環境(訳注:enabling environments)の提供は、差別としてみなされないことを定めなければならない。
  5. 均等な機会を実現するため、障害により生じた直接的・間接的制限や制約を適切な修正、調整、支援などにより改善しなければならない。
  6. 障害を含む複数の要因(多分野の要因(訳注:intersectionality))により異なった取り扱いが生じ(障害を持つ女性や先住民など)、結果として差別に至る場合があることを認識し、さらに、障害の種類により異なる取り扱いが存在する場合差別となり得ること、また異なる取り扱いが、個人や集団に差別的な影響を与える場合があることも、認識しなければならない。
  7. 障害者に関わる人々が、障害者との関わりを理由に差別的な扱いを受けないような保護も含める必要がある。
  8. 障害があると予想、仮定、または理解される場合、または過去の障害に基づいた差別が存在する場合において、差別からの保護を提供する。
22. 平等の定義は、直接的または間接的に障害に起因する全ての制限や制約を適切な修正、調整、支援により改善することで均等な機会を実現し、積極的な行動(訳注:affirmative action)、適切な配慮(訳注:reasonable accommodation)、または「特別措置」(訳注:"special measures")により全ての分野におけるバリアのないアクセスを提供し、必要に応じて支援環境(訳注:enabling environments)を提供することが、機会と扱いにおける平等の実現に必要であることを認識するべきである。このような行動や措置は差別とみなしてはならない。当会議は、平等の概念が、機会の平等、あるいは結末・結果の平等のいずれであるかという課題も検討した。

アクセシビリティ

23. アクセシビリティの概念はあらゆる条約において非常に重要な要素であり、慎重に定義する必要がある。以下の定義が提案された※1
「アクセシビリティ」とは、障害者を含めた人々が、障害の種類に関わらず、デザイン及び(あるいは)適応により達成可能な、(身体的、視覚的、聴覚的および(あるいは)認知的なレベルにおいて)容易に入手または利用できる物やサービスの尺度や状態を意味する。障害関連分野で使われる「アクセシビリティ」という言葉は、以下の意味を含む場合がある(ただしこれらに限られない):
  1. 物理的環境・建築環境および公共交通機関へのアクセス
  2. 情報・コミュニケーション・補助の技術を含む、情報やコミュニケーションへのアクセス
当会議では、国連の「アクセス可能なICTと障害者に関する地域間セミナー及びデモンストレーション・ワークショップ(2003年3月3〜7日、マニラ)」で採択された「アクセス可能な情報とコミュニケーション技術に関するマニラ宣言」に含まれる、適切な配慮を取り入れたアクセシビリティの構築についても検討された。この会議は、国連施設や資料における、適切は配慮を取り入れたアクセシビリティなどを求める総会決議57/229を受けて開催された。

全般的な義務

24. 条約には、その内容の実施に関する締約国政府の義務、とりわけ条約に謳われる権利を尊重し、保障し、それらに対する違反を是正する義務が明記されるべきである。締約国は、条約の実施のために法的、計画的、政策的な行動を実行し、条約に謳われる権利の違反を取り締まる制度を提供しなければならない。これらの方策には、障害者が差別なく、その基本的人権と自由を享有できることを憲法上、法律上はっきりと保障することが含まれる。締約国政府は、支援環境(訳注:enabling environment)とバリアフリーな社会を保障しなければならない。

25. 条約は、政府関係者以外の人々の行動が障害者の人権を侵す場合の締約国政府の義務も明記すべきである。

26. 締約国は全般的に、そして条約が保障する全ての権利について、均等な機会と非差別を保障しなければならない。

平等と非差別の保障

27. 条約は、そこに謳われる全ての権利の享有に関して、全体として平等と非差別を保障する必要があるが、同時に、「市民的及び政治的権利に関する国際規約(B規約)」(ICCPR)の第26条のように、平等と非差別を保障する独立した条項も必要である。

28. 条約は、人権と基本的自由の享有の平等と非差別の保障に関して、女性と男性の平等の権利を明記するべきである。

特定の権利の保障

29. 条約は、障害者も全ての人権と基本的自由を享有できることを再確認するべきである。したがって、「世界人権宣言」、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(ICCPR)、「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約(A規約)」(ICESCR)、ならびにその他の文書に謳われる権利を用いて、その権利の保障を具体的に明記するべきである。また、これらの権利を障害者が平等に享有するために必要なことを詳しく明記し、障害者の状況を反映する新たな条項が必要な場合は補足する。「子どもの権利条約」や「すべての移住労働者とその家族の権利保護に関する条約」などは、このようなアプローチを開発する際の便利な出発点となり得る。

30. 当会議では、全ての権利をさらに詳しく説明し、障害者も平等に享有できることを保障すべきであることが確認された。いくつかの具体的な例が挙げられた:
  1. 障害者の言語権は表現の自由などいくつかの権利から派生する(障害者に当てはめた例として、ろう者がコミュニケーションのために手話を使用する権利、手話通訳サービスを受ける権利、教育を手話で受ける権利、あらゆるコミュニケーション・システムに効果的にアクセスできる権利を有することや、視覚障害者は点字を使用する権利を有する事などが挙げられる。)
  2. プライベートな生活や家族生活が尊重される権利及び表現の自由を用いて、障害者のセクシャリティ(訳注:性的生活)への権利を裏付けることができる。
  3. 強制的な干渉や強制的な施設収容に関しては、人間の自由と安全確保の権利、残虐、非人間的、侮蔑的な扱いを受けない権利などを用いることができる。
  4. 国籍や移住に関して差別を受けない自由を用いて、障害者が移住し、家族とともに暮らす権利を保障することができる。(国によっては、この分野において差別が存在する。)
  5. 集会・結社の自由、表現の自由、政治参加の自由を用いて、全ての決定に障害者組織が完全に代表されることを保障することができる。
31. 当会議は、障害者の権利が含む意味合いは、論議を起こす可能性があることを確認した。生命の権利に関連して遺伝カウンセリングの利用の問題や妊娠中絶の権利などの論理が起きる可能性が例として挙げられた。条約は、必ずしもこのような論争を解決するものではないことが確認された。

32. 当会議参加者は、既存の人権保障制度に特定の解釈を加えるほか、さらに既存の権利の見方、または側面として条約に明記すべき点として下記を確認した:
  1. 参加/インクルージョンの権利
  2. 物理的環境にアクセスする権利(場所、サービス、家族へのアクセスを含む)、バリアフリー社会へのアクセス
  3. 情報とコミュニケーションにアクセスする権利(効果的なアクセスのために必要な特定の変更や修正を反映するべきである)
  4. 資源を享有する権利
  5. 自己決定の権利と、地域社会※2(訳注:community)において自立して生活する権利
  6. 暴力と暴行を受けない自由
  7. 安全な食糧と水を含む、基本的経済資源にアクセスする権利
  8. 農村部に暮らす障害者の状況は、重要な点で都市部に暮らす人と異なる場合があることを認める条項。
33. 適切な配慮(訳注:reasonable accommodation)の概念は別な権利を意味するか、あるいは、差別の概念の一部として理解した方がわかりやすいかについて議論された。また、開発への権利(訳注:right to development)等、第三世代の権利も条約に含むべきかどうかについて議論された。このような集合的な権利(訳注:collective rights)を条約に盛り込んだ場合、大変複雑になるため、個々の権利の保障に焦点を当てることで、開発のプロセスへの障害者の参加を促進し、開発からの利益を得られることを保障する方が、開発への権利として条約に書き込むより望ましいことが合意された。

その他の政府の義務

34. 条約には締約国が行うべきその他の方策も明記すべきである。これには次のようなことが含まれる:
  1. 条約の遵守を監視(訳注:モニタリング)し、促進する国内制度に関する条項。これには、国内の人権組織が一翼を担うことができる。
  2. 障害者の権利擁護に関する責任を、実施の権限を持つ政府内の専門部署(訳注:focal point)に置くことを政府に義務付ける条項
  3. 障害に配慮した基盤整備やプロセスの開発に関する明確な目標を設定することに関する条項
  4. 障害を持つ人及び障害者に関係する人に対してアクセシビリティを提供し、促進することを政府に義務付ける条項
  5. 報告の作成や監視(訳注:モニタリング)のために、統計及びその他の情報を収集することに関する条項
  6. 条約に関する啓蒙・広報を行うことを政府に義務付ける条項
  7. 条約の実施のために特定の財源を確保し、障害者組織の活動を支援することを政府に義務付ける条項。
監視機構(モニタリング・メカニズム)

国際及び地域レベル

35. 当会議は、条約の実施の監視には、国際、地域、小地域、国内の各レベルでそれそれモニタリング制度が必要であると考えた。他の国連人権条約のために設置されているような、独立した専門家委員会の設置が条約の重要な要素であることが確認された。この他さらに、地域レベル、国内レベルでもモニタリングの必要性が確認された。

36. 当会議は、障害分野に関する独立した専門家で構成される新しい人権条約機関を設立し、締約国の条約実施状況を監督することを検討した。この新しい委員会は、全般的なモニタリング機能を有するだけではなく、国内機関では解決のつかない権利違反に関する主張を検討する権限も持つべきである。全てのモニタリング制度は、締約国の実施状況の評価を独立して行うべきである。

37. 委員会は、締約国から提出された報告の評価を担い、条約によって保障される権利の侵害に関する個々の訴えを受け付けることもできる。特に深刻な、あるいは制度的な条約違反が認められた締約国において、調査を実施する権限を有する。また、一つの締約国が別な締約国による条約違反を訴えた場合、その苦情を検討する権限も委員会に与えることが考えられる。

38. この委員会の構成メンバーには障害者が含まれるべきであり、委員会のメンバーの選出に障害者組織が関わる方法も検討すべきである。政府及び国連によって作られた条約に関する情報は、全ての人が入手でき、アクセスできる形態で提供されるべきである。

39. 新しい条約委員会を設立するのほかに、地域内の政府間組織にも障害者の権利の実施を監視するよう促し、既存のまたは今後作成される地域人権憲章や機構には障害者の人権がはっきりと取り込まれるべきである。びわこミレニアム・フレームワークのモニタリング・システムが特に取り上げられ、この制度が新しい条約の実施を監視(訳注:モニター)し、新しい条約委員会の作業に対して助言する権限があることが確認された。

国内機構

40. 条約には国内制度に関する特定の義務を明記することができる。特に締約国が国内制度を利用し、条約を監視し、その遵守を促進することができることを挙げられるが、その際、国内人権組織が一翼を担うことができる。また、苦情処理、促進、告訴、監視(モニタリング)、報告などの機能に関する記述が必要である。さらに執行制度も必要であり、公共及び(あるいは)司法制度の中に対処方法も示されなければならない。また会議参加者は、このような国内制度には十分な予算配分が必要であると考えた。会議参加者は国内レベルで、障害者や障害者組織を含む諮問機関を設置することの重要性も確認した。

※1:アジア太平洋地域における障害者のICTアクセシビリティに関するセミナー(2002年6月20〜22日)より 戻る
※2:地域社会(訳注:community)という言葉を条約で使用する際には、定義が必要であることが確認された 戻る

作成日 2003年6月11日
財団法人 全日本聾唖連盟

戻る