2004年12月24日

文部科学大臣
中山成彬様

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財団法人全日本聾唖連盟
理事長 安藤豊喜


中央教育審議会「特別支援教育を推進するための制度の在り方について」(中間報告)への意見


 日頃より聴覚障害者への教育施策に関し、ご理解とご高配を賜り厚くお礼申しあげます。
 標記の中間報告書は、その基本的な理念と方向について、「これまでの特殊教育においては…(中略)…きめ細かな教育が行なわれてきた」が(第1章)、特別支援教育では「これを継承・発展させていこうとするもの」で、これまでに培われてきた「教育水準や教員の専門性が維持・向上できるような方向で推進されることが必要である」(第2章)とされ、障害の重度・重複化への対応を喫緊の課題として、その対応のために「障害種別を超えた学校制度『特別支援学校(仮称)』とすることが適当」とされるが、同時に、障害種別ごとの専門性を確保する観点から「『視覚障害部門』、『知的障害部門』等の『教育部門』を設けることが有効であると考えられる」とされています(第3章)。
 障害種にとらわれない学校制度としての「特別支援学校」構想は障害の重度・重複化に対応する新しい教育制度のあり方として評価できるものではありますが、単一障害の子どもに対する教育保障の問題がこの特別支援学校における「教育部門」と言う形で位置付けられることに関して、私たちは強い懸念を表明します。
 ろう児は、手話を中心とした視覚によるコミュニケーションを基本とする学校生活をおくることにより、自らのアイデンティティを確立させることが出来ます。しかしながら、ろう教育の現状においては、手話が軽視されてきたこと及びろう教員の採用が限られてきたことの結果として、ろう児同士の間においても、ろう児と教師との間においても、会話の自由が保障されていないのが実情です。ろう教育においては、「きめ細かな教育」も「継承・発展させ」るべき「教育水準や教員の専門性」も存在しなかった、とするのが事実ではないでしょうか。
 ろう教育が「きめ細かな教育」をめざすためには、ろう者が手話を生活言語として使用する権利を尊重した上で、ろう児への教育に手話によるコミュニケーションと指導の導入を図る施策と、ろう児の教育に携わる教職員に手話研修を必須とする施策が求められています。ろう教員の積極的な採用・配備を図る施策も必要です。
 換言するならば、ろう児への手話を主とする教育システムは、教員等に求められる言語的な専門性及び、言語的コミュニティ成立に望ましいとされる生徒数の確保などの観点から、「特別支援学校(仮称)における教育部門」という単位で構築するには困難な制度的課題ではないかということです。
 障害児教育施策は個人差と個別の状況に十分配慮することを説くサラマンカ声明(ユネスコ)においても、ろう児の教育はそのコミュニケーション及び言語の特性から慎重に考慮されなければならないとされていることを想起ください。
 よって、「聴覚障害」という単一障害に対応する学校単位としての特別支援学校(仮称)(=ろう学校)の設置を制度的選択肢のひとつとして位置付けるとともに「きめ細かな教育」のための具体的な検討を図ることなしには、少なくともろう教育の分野での特別支援教育の推進を容認することは出来ません。

以 上