2003年 9月 19日

厚生労働大臣
坂 口   力 様                 

                            財団法人 全日本聾唖連盟
理事長 安 藤 豊 喜

聴覚障害者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上については、深いご理解とご配慮をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月8日山梨県甲府市において第51回全国ろうあ者大会を開催しました。この大会決議に基づき、聴覚障害者の福祉に関し下記の通り要望いたします。
 特に障害者の雇用については、法定雇用率が1998年(平成10年)7月1日より、一般民間企業は1.8%、国、地方公共団体および特殊法人は2.1%に改正されましたが、2002年(平成14年)6月時点の実雇用率統計では、1.47%と、前年比0.02ポイント低下しました。
 国はこうした背景を受けて、昨年12月に障害者雇用対策の強化を強く打ち出しましたが、効果が見えておりません。その中で雇用率未達成企業が50%を越えているという残念な状況が報告されております。このような時こそ、対策を強化していただく必要があります。当面の要望を致しますので、  善処を施してください。

1. 聴覚障害者の積極的な採用を行なうよう、働きかけてください。特に企業においてはコミュニケーションや情報取得にハンディを有することを理由に、聴覚障害者の採用に消極的なところが増えております。聴覚障害を理由に採用が不利になることがないよう、併せて企業へのご指導をお願い致します。 

(1)実雇用率に近づけるために、厚生労働省や職業安定所は、公官庁や大企業が率先して障害者を雇用するよう指導し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化してください。
〔説明〕
・現在の法定雇用率どおり、すべての官公庁や企業が障害者の雇用を遵守すれば、かなり障害者の雇用問題は改善されます。「障害者の雇用の促進等に関する法律」は、官公庁や企業が社会的に障害者の雇用を義務的に守るためのものです。その雇用率に達しない企業に対しては企業納付金徴収や企業名を全面公表いただくとともに、国からの厳しい指導をお願いします。指導しても改善されない企業に対しては、納付金の増額や企業名の公表にあたっては、一定基準(1.2%)という実雇用率基準の引き上げを行なってください。
(2)緊急雇用対策として、緊急障害者就職支援プロジェクト、職業能力開発の推進等の充実を図ってください。
〔説明〕
・昨年12月に打ち出したこの対策が、聴覚障害者にも効果的に運用されていくためにも相談窓口や研修等においてもコミュニケーション保障や情報提供など指導の強化を図って下さい。

2. 手話協力員制度を改善・拡充してください。

〔説明〕・手話協力員制度は昭和49年に労働省(当時)が、職業安定所に聴覚障害者が来た時に、求職相談や職場定着指導など、情報やコミュニケーションをサポートする者として設置しました。少ない稼働時間や少ない手話協力員という中での制度でしたが、私たちの運動の継続や関係者の理解もあり、制度内容に少しずつ変化の兆しが見えてきています。
しかし、現在不況が長引き、企業の倒産やリストラに歯止めがかからない中で、聴覚障害者の求職活動や職場定着のための職場環境等が厳しい状況にあります。これらを解決するために手話協力員制度の改善を図って下さい。

(1)手話協力員の位置づけを手話通訳・労働専門職として明確にしてください。
〔説明〕
・現要綱では「手話協力員は手話ができる者」としておりますが、毎年開催されている当連盟主催の「全国職業安定所手話協力員等研修会」においても全国の手話協力員から「手話協力員は手話ができる者ではなく、手話通訳ができる者であるべきだ」という声が多数を占めております。
厚生労働省の福祉部門でも手話奉仕員と手話通訳者を区別して制度を実施しております。手話協力員についても、聴覚障害者労働専門職として機能していくためにも手話通訳者として位置付けられるように見直して下さい。
(2)多様化する聴覚障害者の求職や職業相談に対応して頂くためには、まだまだ現在の勤務日数では足りません。地域の実態に応えられる協力員にしていくためにも業務の位置付けや身分保障を明確にし、稼働時間を更に増やしてください。
(3)聴覚障害者労働行政にかかわる全国の手話協力員をはじめ、職業安定所担当職員、障害者職業相談員の資質を高め、あらゆるサービスが図られるようにするためにも、厚生労働省の責任において研修会を開催してください。
〔説明〕
・聴覚障害者の労働環境や労働条件等は毎年変化してきております。手話協力員をはじめ職業安定所担当職員等、聴覚障害者をとりまく関係者が一堂に集まり研修を積み、様々な問題解決や関係者のネットワーク化など時代に対応できるようにしていくことは、本来厚生労働省において行うべきと考えます。
(4)当連盟で毎年開催している全国手話協力員等研修会に参加する手話協力員や職安担当職員、障害者職業相談員等が参加しやすくなるよう公費派遣など便宜を図ってください。
(5)手話協力員の活動を円滑にするためにコーディネーターを置いて団体として派遣している所(例;東京都、大阪府、埼玉県)に対しては、手話協力員の契約を個人契約から団体契約ができるよう便宜を図ってください。

3. 職場定着を推進するために「聴覚障害者職場定着指導員」制度を新設してください。

〔説明〕
・大阪府では、平成10年に聴覚障害者職場定着指導員を1名設置して、聴覚障害者の職場定着に多大な実績をあげております。昨年度はさらに「聴覚障害者ワークライフ支援事業」とし制度を拡大しました。厚生労働省としてもこの制度を全国に設置できるようにしてください。

4. 職場適応援助者(ジョブコーチ)事業を重複聴覚障害者にも適応できるように配慮して下さい。また運営能力を有する聴覚障害者団体に委託できるように便宜を図ってください。

〔説明〕
・この制度が本格的に始まるにあたり、知的障害等を合わせ持った聴覚障害者にも適用できるよう、手話のできるジョブコーチの養成が課題です。ジョブコーチの機能に、人間関係やコミュニケーションを改善するための支援がありますので、今後は手話のできる人をジョブコーチの採用条件とし、またジョブコーチの研修カリキュラムに手話を加えてください。
・社会福祉法人山口県聴覚障害者福祉協会や社会福祉法人大分県聴覚障害者協会では、この事業の委託を受けて事業を展開しております。障害者の実情にあった効果的な事業にするためにも   運営能力ある障害者団体に運営を委託できるようにして下さい。

5. 手話通訳者の健康対策を図る労働安全プロジェクトチーム設置を図ってください。

〔説明〕
・平成7年に出された「職場における頚肩腕症候群予防対策に関する報告書」がありますが、すでに古いものになってきておりますので、国として2〜3年の周期で定期的に調査していく必要があると思われます。
・手話通訳者の職業病でもある頚肩腕障害の予防・健康管理のための施策を検討する機関として、厚生労働省において設立してください。なお研究調査を行なう場合は、当連盟に委託してください。

6. この度、助成金制度が改正されるにあたって重度障害者介助等助成金での手話通訳の委嘱制度  を聴覚障害者の就労現状にあった制度に改善してください。

(1)企業が手話通訳者を採用・設置する助成金として活用できるよう、制度の弾力化を図ってください。

           以上