2002年10月15日

新障害者基本計画骨子(案)分野別施策の基本的方向に対する意見

財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 安藤豊喜

「新障害者基本計画」を策定する上での基本的な方針、特に「障害の特性を踏まえた施策の展開」に、下記3点を特に位置付けてください。

  1. 「手話」の言語的な認知が国民的に広がってきた現在、政府としての統一的な手話の法的位置付けに取り組み、ろう者の言語的権利を尊重しての「手話通訳制度」確立による各省庁の施策充実を推進してください。
  2. 知的障害を持つ聴覚障害者など、「身体」・「知的」・「精神」の種別を越えて重複する障害をあわせ持つ国民の実態とニーズを掘り起こし、それに対応できる福祉制度と社会資源の整備を推進してください。
  3. 国際生活機能分類(ICF)に示されるように、「障害」は「障害者」本人においてではなく、社会との関連において捉える視点が国際的に求められてきています。この視点に立脚しての「障害」・「障害者」の定義と基準の見直しと浸透を図ってください。

以下、分野別施策の基本的方向に対する個別的な意見です。

【生活支援】
「身近な相談支援体制の構築」についての現状を見ると、「障害者のケアマネジメント」は言葉としてはあっても、実効的かつ具体的には機能していません。聴覚障害の特性を理解している「ろうあ者相談員」の必要性を認め、相談支援体制構築におけるピアカウンセラーの導入と位置付けへの取組みを強化してください。
「専門職種の養成・確保」では、社会福祉士、精神保健福祉士、介護福祉士、保育士に加えて、手話通訳士の養成と確保にも数値目標を設定して強力に取り組んでください。
【生活環境】
「防災・防犯対策の推進」は「障害者が利用する施設等及びこれらが立地する地域」に限定されてはなりません。全国どこでも緊急時に対応できるよう、広域的かつ計画的な観点からの緊急時情報保障体制の構築を図ってください。「メール110番」などインターネットの活用及び、CS放送受信機など自宅での個別発受信の可能な通信・放送体制の確立など具体的施策に取り組んでください。
【教育・育成】
聴覚障害者の「社会参加に向けた教育・育成施策の充実を図る」ためには、情報機器の整備などの「施設のバリアフリー化」だけでなく、特に早期教育支援に際しての専門家による相談体制の確立、手話通訳・要約筆記者の養成・派遣体制などの整備、という人的環境も含めたバリアフリー化が求められます。医師・薬剤師・看護士の欠格条項を撤廃した最近の法改正の「付帯決議」に基づいて、教育・職場環境を整備し施策に含めてください。
【雇用・就労】
上に述べたとおり、欠格条項改正に伴う職場環境の整備に取り組んでください。「雇用率制度を柱とした施策の推進」について、「除外率の縮小」と記載されていますが、「除外率の撤廃」を強く求めます。
【保健・医療】「保健・医療サービスの適切な提供」は医療現場従事者の「障害者観」によって大きく左右されます。医学的な障害観に偏ることのないよう、当事者団体の推薦する専門家を加えた早期支援体制確立などの施策を徹底してください。それとともに、「専門職種の養成・確保」においては「障害」の捉え方の多様性を視野に入れてのカリキュラム開発に取り組んでください。
【情報・コミュニケーション】
聴覚障害者情報提供施設は全国で26自治体でしか設けられていない現在、数値目標を設定しての取組み推進を図ってください。
「コミュニケーション支援体制の充実」は「手話通訳者等の養成・派遣を推進する」のでなく「手話通訳者の養成・派遣制度を確立する」としてください。冒頭に述べたとおり、手話の言語的な認知は国民に広がりつつありますが、政府による法的な位置付けが未だにされていません。医療・司法・教育・職場などあらゆる場面での手話通訳のニーズに対応する各省庁の施策を推進するためには、ろう者の言語的権利を尊重しての「手話通訳制度」確立が絶対不可欠です。

以  上