2001年10月19日

厚生労働大臣
坂 口   力 様

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財 団 法 人 全 日 本 聾 唖 連 盟 
理 事 長 安 藤 豊 喜 

聴覚障害者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、当連盟は、本年6月10日に新潟県新潟市において第49回全国ろうあ者大会を開催しましたが、この全国大会決議の趣旨に基づき、聴覚障害者の福祉に関し下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1. 法定雇用率制度の改善を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行なってください。

〔説明〕
・法定雇用率が、平成10年7月1日より、一般民間企業は1.8%、国・地方公共団体および特殊法人は2.1%に改正されましたが、平成12年6月時点の実雇用率統計では、障害者の雇用率は1.49%とほぼ横ばいであります。
現在、経済不況下で完全失業率が5%を越え、失業やリストラで苦しんでいる聴覚障害者が続出し、雇用未達成企業は50%をこえるという残念な状況が報告されております。このような時こそ、早急に対策を考慮し、実施する必要があります。当面次の要望を致しますので、善処をお願いします。
(1)実雇用率を法定雇用率に近づけるために、厚生労働省や職業安定所は官公庁や大企業が率先して障害者を雇用するよう指導し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化してください。
(2)除外率制度を廃止し、聴覚障害者の教職員採用等の雇用を拡大してください。
・なお、秋田県では平成14年度教員採用試験で、聴覚障害者を聾学校の教員として採用するための「特別選考枠」を設置しました。これは全国的に例がなく、障害者雇用の模範となるものです。これをモデルケースとして周知し障害者雇用の拡大に努めてください。

2. 重度障害者介助等助成金による手話通訳の積極的活用が広がるよう、モデルケースを紹介するなどして、この制度を企業や職業安定所職員に周知徹底させてください。また次の改善を行なってください。

(1)障害等級制限および回数制限をなくし、すべての聴覚障害者の手話通訳要求に応じてください。
(2)手話通訳者の健康を守るために、配置基準を一人から二人にするとともに、助成金の増額をはかってください。
(3)手続きの簡素化に努力されておられるようですが、さらに簡素化できるようにしてください。

3. 手話協力員制度を拡充してください。

〔説明〕
・手話協力員制度は、昭和49年に労働省(当時)が、職業安定所に聴覚障害者が来た時に、求職相談や職場定着指導など、情報やコミュニケーションをサポートする者として、全国 202ヵ所に設置されております。しかし、全国すべての職業安定所に設置している訳ではなく、勤務時間も月8時間(週2時間)という弱い制度です。時間が短いために十分な活用ができず、手話協力員の質もまちまちで、また手話が通じない等、色々な問題が出ています。当連盟では、毎年手話協力員制度の発展のために運動してきておりますが、昭和49年以来、何一つ改善が見られません。聴覚障害者の職業選択や職業定着のために重要な手話協力員制度を次のように改善してください。
(1)手話協力員を、労働部門における聴覚障害者のコミュニケーション・情報サポートの専門職として位置付け、「手話通訳者養成研修会(全カリキュラム)」を修了し、手話通訳者登録試験をクリアした人を配置できるよう、要綱を見直してください。
(2)多様化する聴覚障害者の求職や職業相談に対応して頂くためには、現在の勤務日数では足りません。地域の実態に応えられるよう勤務体制を改善し、また現在、全国202人の手話協力員をさらに増員できるよう予算化してください。
(3)全国の職業安定所担当職員、身体障害者職業相談員、手話協力員の資質を高め、あらゆるサービスが図られるようにするために、厚生労働省主催で研修会を開催してください。
(4)現在、当連盟が独自で開催している「全国職業安定所手話協力員研修会」に対して助成してください。また、参加する職員に対しては職員研修と位置付けて出張予算を組んでください。
(5)手話協力員の業務契約を個人契約だけでなく、団体委託契約とできるようにしてください。
(6)「手話協力員実態調査」を実施してください。

4. 職場定着を推進するために、「聴覚障害者職場定着指導員」を新設してください。

〔説明〕
・聴覚障害者が職場定着を図るためには技術や知識を身につけることが重要であり、またそれを専門的にサポートする指導員が必要です。
・就職した聴覚障害者が、仕事を続けていくためには技術革新等の企業の流れに乗り遅れないようにしなければなりません。これまで、それができずに働いてきたために、聞こえる人に比べて情報が入りにくく、技術面で差ができ、会社に居づらくなり退職するケースが増えています。現在のような不況時では再就職もままなりません。厳しい時代だけに、国としてそれを救える制度の新設が強く要望されております。
・現在、大阪府では平成10年に聴覚障害者職場定着指導員を1名設置して、聴覚障害者の職場定着に多大な成果をおさめています。厚生労働省としてもこの制度を作ってください。

5. 人的支援パイロット事業である職場適応援助者(ジョブコーチ)事業を他の障害を合わせもった重複聴覚障害者も利用できるように配慮してください。

〔説明〕
・パイロット事業ではありますが、ジョブコーチ制度は精神障害者や知的障害者の支援就労として効果をあげております。この制度を、知的障害を合わせ持った聴覚障害者にも適用できるよう、手話のできるジョブコーチの養成に努めてください。

6. 手話通訳者の健康対策を図る労働安全プロジェクトチーム設立を図ってください。

〔説明〕
・手話通訳者の職業病でもある頚肩腕障害の予防・健康管理のための施策を検討する機関として、労働安全プロジェクトチームを厚生労働省において設立してください。
・手話通訳者の健康及び労働実態把握等の研究調査を行なう場合は、当連盟に委託してください。

7.今後の技術革新やIT時代に即した、聴覚障害者が職場にかかわる新しい技術を身につけるための研修会を予算化し、聴覚障害者の技術取得保障を図ってください。

〔説明〕
・企業も技術革新やIT時代に入り、新技術を身につけるための予算が出ているようですが、聴覚障害者の場合、情報やコミュニケーションに障害があるために、健常者と同等の講習は受けられません。聴覚障害者が講習を受けられるようにするために、講師を聴覚障害者としたり手話通訳者を配置するなど予算の措置を図ってください。

以  上