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(※1)以下は全日本聾唖連盟が会議資料として仮訳したものです。

(※2)本補足文の改訂版はこちらにあります。

国連社会開発委員会特別報告者による第3期最終報告 2000〜2002

添付資料 I

もっとも弱い立場の人々を含めるために:
国連障害者の機会均等化に関する基準規則の補足文の提案


目次

I.  序文

II. 基準規則の補足提案

A.  基本理念
B.  満足な生活水準と貧困の軽減
C.  住居・入所型施設の問題
D.  保健と医療
E.  緊急・災害時対策
F.  社会環境へのアクセス
G.  コミュニケーションの問題
H.  人材育成
I.  ジェンダー
J.  障害を持つ子どもと家族
K.  暴力と虐待
L.  年齢の高い人々
M.  発達障害と精神障害
N.  外見ではわからない障害
O.  国家政策と立法に向けてさらなる行動の提案

I.  序文

1.1990年代には過去に例を見ないほど多くの障害関連の政策と法律が進展した。こ の進展は国際障害者年(1981年)の制定、障害者に関する世界行動計画(A/37/351/Add.1/corr.1, annex sect. VII,1982年)の採択、国連障害者の10年(1983―1992年)の間の様々な活動等を契機に始まった取り組みの成果である。

2.基準規則が採択され(総会決議48/96, annex 1993年12月20日)、1994年に その監視機構が設置されて以来、基準規則は世界各国に於いて障害分野の政策や立法に重要な役割を果たしてきた。これら基準規則の能動的、実践的な活用は、今後の規則の活用方法を検討する際に大いに役立つ経験となる。また、基準規則の実践的活用を通して、現規則の弱点や欠陥が明らかになってきた。

3.基準規則の全文を通して「障害を持つ人々」と言う表現は全ての年齢の障害者を意味す る。補足文の場合も、他に定義されない場合は、「障害を持つ女児、男児、女性、男性」を意味する。

4.国連基準規則の補足文を作成する目的は、いくつかの分野において現規則を補完し、 発展させるためである。この作業は、社会開発委員会の第36会期(E/C.5/2000/3 annex)において障害問題特別報告者によって報告された欠陥や不十分な面の分析に基づくものである。この分析報告に含まれる分野は:ジェンダー、児童、加齢、発達・精神障害をもつ人々のニーズ、住居、貧困に苦しむ障害者のニーズ、コミュニケーションの問題。

5.この補足文の作成にはいくつかの国際組織や専門家、特に発達・精神障害を持つ人々や 子供を代表する人々が貢献した。基準規則の監視制度のなかに置かれている専門家パネルのメンバーも規則を研究し、沢山の貴重な提案をしてくれた。さらに、世界保健機関がノルウエー政府との協力で開催した「ケアの再考」(オスロ、2001年4月22-25日)世界会議の結果も考慮に入れた。

6.この補足文は基準規則とは違った体裁になっている。無駄な重複を省くためにいくつ かのセクションに分けてある。文章そのものは意見と解説を組み合わせたようなもので、規則と同じような提案も含まれている。

7.この補足文の意見、提案の最も顕著な特徴は、最も弱い立場にある障害をもつ子ども や大人に焦点を当てていることである。

II. 基準規則の補足提案

A.基本理念

8.基準規則には、1980年に世界保健総会が承認した国際障害分類(ICIDH)に沿った記 述があるが、この国際障害分類はその後改訂されている。2001年に世界保健総会はICF(機能、障害、保健の国際分類)を承認した。この改訂版ICFでは、機能と障害が個人要因と(物理的、社会的、意識的)環境要因の背景の中で起きると説明している。ICFは機能と障害を身体、個人、社会の各レベルで分類している。個人が簡単な動作から複雑な行動までさまざまな動作を行なう能力を分類し、それを基準に適切な保健・医療行為、その他の介入を可能にしている。又、ICFは各個人が現在生活している環境の中でその成果を分類することにより、その成果を容易にしたり、妨げたりしている環境要因の特定を可能にしている。この分析結果を基準に適切な環境の修正や保健関連の介入を行い、成果を向上させることができる。しかし混乱を防ぐため、この補足文では、あえて基準規則本文と同じ用語を使用している。

9.「ハンディーキャップ」という言葉・用語の使用についてかなりの混乱があったことは特 記しておこう。多くの国の言語では、既定の用語になっているが、しかしいくつかの言語では軽蔑的、否定的、あるいは侮辱的な意味が含まれることがあり、細心の注意を払って使用すべきである。

10.さらに基準規則でも説明しているとおり、「予防」(prevention)と言う概念障害を持 つ人の生きる権利や平等な社会参加の権利を剥奪することを正当化するためには決して使用されないよう強調するべきである。

B.満足な生活水準と貧困の軽減

11.発展途上国では、先進国と同様に、障害を持つ人々とその家族は他の人々と比べる と、より貧しい生活を強いられる可能性が高いことは明らかである。いわば双方向の関係で:障害があれば貧困の可能性が高くなり、貧しければ障害を負う可能性を高める。偏見と社会的烙印を押されてしまうことで、障害をもつ子どもも大人も孤立して地域生活から排斥されて暮らすことが多い。

12.障害を持つ人々にも満足な生活水準の達成を可能にすることは平等の権利の原則に も、障害者の機会均等化を達成する過程にも暗に含まれる。

13.政府は障害を持つ人々が、教育、保健、就労、社会サービスなど社会の通常の仕組み の中で必要な支援を受けられることを保障すべきである。

14.貧困を軽減する対策を講じる際、政府は障害を持つ人々のエンパワメントと社会へ の積極的な参加を支援する計画を含むべきである。

15.政府は、その開発計画の一部として障害を持つ人々に対して十分で安全な住居、食 糧と栄養、水と衣料へのアクセスを保障すべきである。

16.政府は地域に根ざしたサービスの枠組みのなかで障害を持つ人々に教育、リハビリ、 福祉機器、雇用サービスなどを提供すべきである。

17.政府は障害を持つ人々の生活状況に関する情報を収集し、広く知らせることを奨励し 障害を持つ人々の生活に影響があるあらゆる状況に関する包括的な研究を促進すべきである。

18.政府は地域、地方行政、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの関係機関と連 携し、障害をもつホームレスや流民、障害を持つ難民などに必要とされる支援を提供し、これらの人の自立と問題の持続的な解決を促すべきである。

19.障害をもつ人々の生活水準に影響を及ぼすすべてのプログラムのすべてのレベルに おいて障害を持つ人々の組織に諮問するべきである。

C. 住居・入所型施設の問題

20.障害を持つ人々にも完全参加と平等を実現するならば、その前提条件として、障害を 持つ人々がそれぞれの地域社会の中で育ち、暮らし、能力を伸ばしていけるようにしなければならない。その意味で適切な住居の確保はきわめて重要である。                 21.政府は障害を持つ人々に、これらの人の保健と福利に適した、安全で、すむのに適し た、利用可能な、手ごろな価格の住居や保護施設を保障すべきである。これらの住居の条件として、その社会的、物理的インフラストラクチャーを含めて、障害を持つ子どもが家庭の中で育ち、障害を持つ大人が地域社会の一員としてかかわりつづけられる物でなければならない。

22.政府の政策には、近隣の住民や地域社会の否定的態度を変えるための啓発キャンペー ンが含まれるべきである。

23.これまで多くの障害者グループを隔離された大型入所施設に収容する政策をとって きた国の政府は、地域に根ざしたサービスと家族への支援を提供する方向に政策の意図を転換させるべきである。このことにより、このような施設への入所を廃止する政策を導入し、やがてこれら施設の閉鎖に向けた計画を可能にできる。

24.障害を持つ孤児やその他の児童で家族や個人からの保護が得られない場合、代替家族 を探すべきである。同じ状況に置かれた成人に関しては、大規模施設に替わって、地域内にある小規模の家庭的な施設(グループ・ホーム等)に入所できるようにする。

25.入所施設に暮らしていた障害者が施設を出て再び地域社会で暮らす場合、政府はこ れらの障害者に適切な支援を必要な限り、継続的に提供し続けるべきである。

26.政府は、入所施設で暮らし続ける障害者に対し、基本的ニーズが満たされることを保 障し、居住空間、個人所有物、面会、文通・通信、(訳注:個人データの)ファイルなどに関するプライバシーの権利を擁護すべきである。またあらゆる介入はその人の自立を支援し、促進するという目的をもって行うべきである。さらに政府は地域社会生活における有意義な参加とかかわりの機会が設けられることを保障すべきである。

D.保健と医療

27.政府は保健(health)を人権として認め、質の高い、安心な医療サービスと医療施設への アクセスを、障害の性質・重さ、年齢、性別、人種、民族的または性的志向などに関わらず、すべての人に保障すべきである。政府は、障害を持つ人も他の市民と同様に自主的決定の権利を有することを認めるべきである。これには医療・治療を承諾あるいは拒否する権利も含まれる。政府は、医療・保健サービスが提供される際、生きる権利が最重要視されることを保障すべきである。

28.政府は障害を持つ人が社会の他の構成員と同じ体系の中で、同じ程度の医療が提供さ れるよう保障し、これらの人たちの生活の質や潜在能力が推測だけで判断され、その結果差別される事のないよう保障すべきである。

29.政府はすべての医療職員、準医療職員、及び関連職員が障害を持つ人に医療を提供す るために十分な訓練と知識を身に付けていることと、これらの職員が障害者を持つ人への医療に必要な治療方法と治療技術を利用できることを保障すべきである。また、障害を持って生活することに対する理解を深めるため、将来の医療専門職に就く人は障害を持つ人に会い、これらの人々から学ぶべきである。

30.政府は、医療職員、準医療職員、関連職員は障害を持つ人に対する診断と治療に関す る完全で公平な情報と助言を提供すべきである。このことは特に出産前の診断において重要である。子どもの場合は、この情報が両親、または適切な場合その他の家族に提供されるべきである。

31.政府は、障害を持つ人々が生殖及び性的保健ニーズに対処できるようにするための 適切且つ完全にアクセス可能な教育、情報、サービスを提供する計画を、障害を持つ女性、男性の参加を得ながら、計画、実施すべきである。

32.政府はHIV/AIDSを含む性行為感染症に関する意識を高め、予防し、治療を行うべ きである。

33.政府は、医療機関、医療従事者が障害を持つ人に自主的決定の権利、インフォームド・ コンセントを要求する権利、治療を拒否する権利、医療施設への強制収容に応じない権利などについて知らせることを保障すべきである。政府は更に障害を持つ人が望まない医療的または関連介入、矯正手術などが強制的に行われることを防ぐべきである。

34.政府はすべての障害を持つ人の種別グループのために、国家的リハビリテーション計 画を策定すべきである。この計画は障害を持つ人各個人の現実のニーズと完全参加と平等の原則に基づくべきであり、これらの人たちが地域社会のメインストリームへ参加することを可能にするため、障壁を除くことを目指すべきである。

E.緊急・災害時対策

35.これまでの(訳注:緊急・災害時の)総合救援対策の場合、障害を持つ人々のニーズが 忘れられたり無視されたりするケースが多かった。

36.国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)や国連開発計画(UNDP)などの国連機関と 連携し、政府は緊急・災害時に障害を持つ人々の支援策を含む政策やガイドラインを開発すべきである。政府の緊急時サービスは障害を持つ人やその家族に医療・治療、その他支援を提供できるよう十分に装備し、準備すべきである。

37.緊急災害時には障害を持つ人々が最も虐待を受けやすい立場にあることを特に認識 する必要がある。

F.社会環境へのアクセス

38.基準規則の規則5ではアクセシビリティーを、物理的環境へのアクセスと情報・コ ミュニケーションへのアクセスと言う二つの次元でとりあげている。経験から考えると、国の障害計画には更に三つ目の次元でアクセシビリティーを取り上げる必要があることがわかる―すなわち社会環境へのアクセスである。

39.政府は障害を持つ人に対する無知や否定的態度の結果として生じるすべての障壁を 取り除く方策を推進すべきである。

40.偏見と戦う方策として、公的な教育や情報提供のキャンペーンを行い、メディアが障 害を持つ人々を肯定的に描くことを奨励し、意識の向上を図るべきである。ジェンダーの問題が重なる場合、あるいは発達障害・知的障害を持つ人々、障害を持つ子ども、重複障害または外見ではわからない障害を持つ人々などには特に重点を置くべきである。

41.社会的偏見と戦う方策を計画する際に政府は障害を持つ人々の組織の関わりを保障 することが特に重要である。

G.コミュニケーションの問題

1.情報・通信技術

42.情報通信技術(ICT)と関連インフラは市民に情報やサービスを提供する上で、非常 に重要になってきている。したがって、この分野もアクセシブルでなければならない。ICTは障害を持つ人の支援・サポート手段として大きな可能性を持つので、十分に活用されるべきである。

43.政府は、情報通信技術(ICT)と一般市民のためのさまざまな関連サービス・システ ムが初期の段階から障害を持つ人々にもアクセシブルに作られているか、またはアクセシブルに作り変えられることを保障すべきである。また、障害を持つ人々のための特別なトレーニング・コースを受けられる機会を増やし、手頃な価格の機器類やソフトウエア、及びICTによる通信教育へのアクセスを拡大することも重要である。

44.政府はアクセシビリティーや利便性(usability)に関する基準やガイドラインを設 けて、それを公的資金投入の判断基準に使用することを検討すべきであると同時に、アクセシビリティーを達成するための手段として公共調達を認めるべきである。

45.政府は情報・通信技術を障害を持つ人々にもアクセス可能にするための特別な技術 的、法的措置の開発と実施を開始すべきである。

2.手話

46.1990年代には多くの国の政府が手話をろう者の主要なコミュニケーション手段 として認めた。ろう者の個人的発達に手話が必要不可欠であることを鑑みて、このような政府の動きは続けられるべきである。

47.政府は手話を自然言語として、またろう者のコミュニケーション手段として認めるべ きである。手話はろうの子どもの教育現場、家庭、地域で使用されるべきである。

48.ろう者と他の人々との間のコミュニケーションを容易にするため、手話通訳サービス が提供されるべきである。

3.その他のコミュニケーション・ニーズ

49.この他にもコミュニケーション障害を持つ人、例えば言語障害、難聴、盲ろう者、発達 障害や知的障害者のうち特定の援助を必要とする人等への配慮も必要である。

50.情報通信技術、特種福祉機器、通訳サービスなどが必要となる場合がある。

H.人材育成

51.障害を持つ人の為のすべての計画やサービスを実施するにあたり非常に重要なのは 十分な研修と知識を身に付けた人材を配備することである。意思、教師、ソーシャル・ワーカ―など一般市民に各種サービスを提供する専門職は、その基礎研修の中で障害と障害を持つ人の生活状況に関する知識を得るべきである。

52.政府は障害分野でサービスを提供している全ての機関が、その職員に十分な研修を 与えること、更に国連基準規則の趣旨の理解がこの研修に含まれることを保障すべきである。

53.政府は、障害を持つ子どもや大人がジェンダー、民族、人種、年齢、性的性向などを 理由に差別を受けた場合、職員がそれを差別的行為として認識できるよう十分な職員教育を保障すべきである。

54.政府は、多様な障害を持つ人々が専門的研修を受け易い環境を作り、このような人々 が障害分野で働き、他の障害者の模範となることを支援すべきである。

55.定期的な教育を継続的に受け続けられる制度を障害に関係する全ての個人、グルー プ、組織に保障し、奨励すべきである。

I.ジェンダー

56.障害を持つ女性はしばしば二重、あるいは三重の差別を受けることがある。女性であ るために差別を受け、障害を持つことで差別を受け、また更に経済的立場のために差別されることがある。

57.多くの文化の場合、障害を持つ女性は結婚して子どもを産む確立が低いことから、そ の立場が更に不利になることがある。これらの女性は医療ケア、リハビリテーション、教育、職業リハビリテーション、雇用などあらゆる面で差別を受けている。

58.基準規則のどの規則も最初の文章には「障害を持つ人」という言葉がある。これはす なわち「障害を持つ女児、男児、女性、男性」を指すこととして理解されるべきである。いかなる場合も、男女の平等と子どもや青年も含まれることを強調することは重要である。

59.ジェンダー・センシティブ(訳注:ジェンダー問題に配慮した)開発計画の場合、そ の計画の対象者が女性と少女であることを確認すべきである。

60.各障害者組織は、障害を持つ女性や少女に関する問題がそれぞれの組織の課題とし て、また女性組織や子どもを代表する組織の課題として取り上げられるよう運動すべきである。

J.障害を持つ子どもと家族

61.いくつかの文化の場合、障害は罰や祟りとして考えられ、したがって恐れや恥辱と言 って感情と結びついている。そのため、障害を持つ子どもは隠され、地域から放置されていくケースがある。このような子どもはまともな生活をおくる可能性は無く、時には生存する権利さえも奪われることがある。

62.障害をもつ子どもはしばしば学校制度からも放置されることがある。又、物理的環 境の障壁が自由に動き回ること、遊ぶこと、他の子どもと交わることを妨げている場合がある。

63.政府は早期発見、早期介入プログラムを設けて、重度障害、重複障害を含む全ての 障害を持つ子どもが医療ケアとリハビリテーション・サービスを利用できるようにすべきである。このサービスはジェンダー、年齢、その他の条件によって偏見を受けることなく提供されるべきである。

64.訓練やリハビリテーション・プログラムは障害を持つ子どもの家庭生活及び同年齢の 障害を持たない子どもとの社会的交流を持つ権利を妨げてはならない。

65.重度障害を含む、全ての障害を持つ子どもに教育を受ける機会が与えられるべきで ある。障害を持つ幼い子ども、少女、若い女性にも教育アクセスが保障されるよう特に注意すべきである。

66.政府は障害を持つ子どもが地域の他の子どもと共に過ごし、共に遊ぶことを可能に する方策を推進すべきである。

67.政府は、障害を持つ子どもや青年が自分達に関係する事柄に対して意見を述べ、そ の意見がそれぞれの年齢と成熟度に応じて、真剣に受け止められることを保障すべきである。

68.政府は、障害を持つ子どもがいる家族が、特定の障害に適した支援と情報、一般(主流)の親に対するする支援へのアクセス、親同士の情報交換と交流の機会などを含む、十分な支援制度を開発すべきである。

69.政府は障害を持つ子どもや成人の介助を担っている家族を受け入れるために、妥当な配慮を行なうよう雇用者に奨励すべきである。

70.政府は、虐待や暴力を理由に別居、又は離婚を望む障害を持つ女性、男性を支援すべきである。

K.暴力と虐待

71.最近の研究の結果、障害者は性的虐待やその他の暴力、虐待を受けやすいことがわかった。障害者に対する暴力、虐待は閉鎖的な環境で起きたり、被害を受けた子どもや大人が起きたことを説明できないといった特殊な状況のため、発見するのは難しいことが多い。

72.政府は、障害を持つ女児、男児、女性、男性に対する虐待や暴力を確認し、なくすための計画を開発すべきである。暴力・虐待は家庭内、地域内、施設内、緊急状況下名とで起きることがある。

73.障害を持つ人は虐待を避ける方法、起きた時にはそれを虐待として認識する方法、そのような行為について報告する方法について教育を受ける必要がある。

74.政府は障害を持つ人とその家族に対して、性的虐待、その他の虐待の予防措置に関する情報を提供すべきである。

75.専門家は、虐待などの被害を生み出す可能性のある条件、そのような状況を避ける方法、虐待があることを認識する方法、障害をもつ人が虐待を受けた場合、その人を支援する方法、そのような行為について報告する方法などについて教育を受けるべきである。

76.警察や司法関係者は障害を持つ人からの証言を聞く必要があり、このような虐待のケースを真剣に受け止めるべきである。虐待の犯罪を犯した人は特定され、法に基づいて処罰されるべきである。

77.障害を持つ子どもや成人が営利のために利用されたり悪用されたりしないために、その人格権とプライバシーの権利を擁護する特別の法的措置が必要となる場合がある。

L.年齢の高い人々

78.障害を持つ人のうち年齢の高い人々は二つのカテゴリーに大別できます。一つ目は人生の早い段階で障害を経験した人であり、これらの人のニーズは加齢と共に変化する場合がある。もう一方のグループは加齢により、身体的、感覚的、又は知的機能を失った人である。全般的な生活水準が向上し、平均寿命が延びるにつれて、この二番目のグループが増えています。

79.基準規則は年齢で区別をしていない。「障害を持つ人」という言い方には全ての年齢層が含まれる。しかし、これまでの経験から年齢の高い障害者のニーズが国家障害政策や計画に含まれていないことが多いので、何らかの説明を加えることが適切であるかもしれない。

80.政府は障害を持つ人のニーズに応えるために企画された政策、計画、サービスに年齢の高い障害者のニーズも含まれることを保障すべきである。

81.保健・医療サービス、リハビリテーション、福祉機器の提供、その他支援サービスを提供する際、年齢の高い障害者にニーズには特に注意を払うべきである。

82.年齢の高い障害者に関する情報は各種研究、データ収集、障害者の生活状況のモニ タリングなどの際に含まれるべきである。

83.公的な情報提供と意識向上キャンペーンを行なう際に高齢の障害者の状況にも十分配慮すべきである。

M.発達障害と精神障害

84.発達障害の人と精神障害の人は、それぞれが直面する問題の原因も性質も違っている。しかし、両者とも社会の市民のうち最も傷つきやすいグループである点では共通している。これらの障害は、他の障害よりもさらに強い否定的態度と偏見に見舞われる可能性がある。特に低開発国や経済的発展途上国の場合、発達障害や精神障害を持つ人の声はめったに聞かれない。したがって、障害を持つ人の生活状況を改善する計画を立てる際、これらの人のニーズはしばしば忘れられたり無視されたりすることがある。

85.基準規則の最も重大な欠陥の一つは発達障害、精神障害を持つ人のニーズが十分に取り上げられていない点である。保健と医療ケア、リハビリテーション、支援サービス、住宅状況、家庭生活、人格尊重などの分野はどちらのグループにとっても重要な課題である。この補足文の作成に際しても、これらの分野を検討する上でこのような障害を持つ人のニーズが重要な側面となった。

86.政府は、保健・医療ケア、リハビリテーションと支援サービスなどを提供する際、発達障害、精神障害を持つ人の特殊ニーズを尊重し、自己決定の権利には特に注意を払うべきである。

87.政府は発達障害又は精神障害を持つ子ども、又は大人がいる家族への支援を開発すべきである。障害を持つ人が家族と暮らすためにはこのような支援が必要となる場合がある。

88.発達障害又は精神障害を持つ多くの成人はその状況に対処するために特殊な住居条件を必要とする場合がある。十分な支援サービスに支えられた小規模の家庭的な施設(グループ・ホーム)等が有効な代替方法である場合がある。このような方法は自立生活計画の一部に含まれることがある。

89.政府は、各種研究、データ収集、障害者に関する一般的なモニタリング活動に発達障害及び精神障害を持つ人の情報が含まれることを保障すべきである。

90.政府は、セルフ・アドボカシー・グループ(当事者による権利擁護団体)や親の会を含む、発達障害及び精神障害を持つ人を代表する組織、の発展を奨励し、支援すべきである。

N.外見ではわからない障害

91.障害を持つ人の中でも特記すべきグループとして、他の人からは分かりにくい障害を持つ人々がある。このような障害はしばしば誤解され、間違った結果に終わることが多い。外見ではわからない障害を持つ人には、次のような人が含まれる:精神障害又は発達障害を持つ人、慢性疾患による障害、難聴者。

92.一般市民対象の意識向上プログラムには外見ではわからない障害を持つ人が、外見ではわからない故遭遇する問題に関する情報が含まれることが重要である。

93.障害者の完全参加と機会均等化に向けての政策には外見ではわからない障害を持つ人々特有の問題も取り上げるべきである。

O.  国家政策と立法に向けてさらなる行動の提案

94.基準規則との何年間かの取り組みの経験と、人権分野での進展の結果、国の政策を作る際いくつかの全般的な提案ができる。

95.障害者の一般的な(訳注:メインストリームの)地域社会生活におけるバリアの除去を保障する為、政府は拘束力を持つ広範な反差別法を導入すべきである。この家庭において、政府は原住民や他のマイノリティーに属する障害を持つ人々を含めるよう、保障すべきである。 

96.政府は拘束力のある法律を施行し、障害を持つ人々や介護を提供している家族のニーズに応える支援技術(訳注:福祉機器等や介助・通訳サービス等の提供を保障することを機会均等化を実現する上で重要な方策としてことを検討すべきである。

97.政府はアクセシビリティーを達成する手段として公共調達を検討すべきである。物理的環境の設計と建設に際しては、設計段階当初からあらゆるアクセシビリティー要件が含まれるべきである。 

98.交通システム、住宅、及び情報・通信サービスなどをアクセス可能にする開発を支援し、推進するための法的措置を検討すべきである。

99.政府は研究の成果や経験の国際情報交換を支援し促進すると同時に、模範的な取り組みの例を社会の全ての構成グループに広めるべきである。

100.政府は加盟する様々な人権条約の委員会への定期的な報告に、障害を持つ人の状況を含めるよう、行動をとるべきである。条約の各条項が障害者を特定するか否かに関係なく、情報を収集・提示すべきである。政府はこの評価過程において、障害を持つ人の組織が意見を述べることを奨励し、支援すべきである。

101.一般市民全般に影響を及ぼす政策、計画、法律を決定する前に、それらが障害を持つ人々に与える影響の結果分析を行うべきである。


添付資料 I:国連障害者の機会均等化に関する基準規則の補足文の提案

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