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障害者の機会均等化に関する基準規則
実施状況のモニタリング

第2期(3年間)に関する最終報告,1997〜2000
ベンクト・リンドクビスト
国連社会開発委員会 特別報告者


目次

序文
I.  背景と任務の枠組み

A.  背景  1〜7
B.  モニタリングの条件  8〜13
C.  国連社会開発委員会によるガイドライン  14〜15
D.  専門家パネル会議  16〜19

II.  特別報告者の活動  20

A.  基準規則実施の促進  21〜29
B.  WHOとの協力による第3回世界調査  30〜62
C.  人権における進展  63〜70
D.  国連事務局および他の国連組織との協力  71〜83
    a.  非公式の諮問会議 84〜85
E.  国際非政府組織との協力  86〜91
F.  特殊問題への取り組み
    a.  障害児  92〜97
    b.  社会的性別(ジェンダー)面  98〜106
    c.  発達障害・精神障害を持つ人々  107〜116


III.  見解と結論

A.  基準規則  117〜121
B.  特別報告者の役割  122〜127
C.  非政府組織の貢献  128〜130
D.  加盟国の反応  131〜133
E.  第3回調査の結果  134〜141
F.  法律  142
G.  人権の発展  143
H.  障害児  144〜146
I.  社会的性別(ジェンダー)面  147〜149
J.  発達障害・精神障害を持つ人々  150〜153
K.  国連の今後の関わり  154〜156
    a.  障害に関する国連文書の強化  157〜160
    b.  後のモニタリングの選択肢  161〜164
    c.  国連機構内の調整改善  165
    d.  意識向上とキャンペーン  166〜167

「平等の基本原則に反する如何なる行為,および障害者の機会均等化に関する国連基準規則に違背するあらゆる差別や他の異なる扱いは,障害者にたいする人権侵害である。」


国連人権委員会
決議1998/31

序文

「障害者の機会均等化に関する基準規則」のモニタリングにおける特別報告者として,モニタリングの第2期(1997〜2000)に関する最終報告を本委員会において発表できることを光栄に思います。特別報告者として活動できることは名誉であり,刺激的な仕事となりました。私を信頼し,第2期まで任期を更新してくださった国連経済社会理事会(UN Economic and Social Council)に感謝いたします。また,活動の全期間を通して事務所を提供してくださったスウェーデン政府を始め,本プロジェクトに経済的な援助を行ってくださった各政府に感謝いたします。

モニタリング活動の全期間を通して,事務次長のニティン・デサイ氏の全面的な支援を受け,A.クラソウスキー氏と国連経済社会局(Department of Economic and Social Affairs)の社会政策開発室(Division for Social Policy Development)グループから素晴らしい専門的アドバイスを頂きました。また,いくつかの国連機関,とりわけ世界保健機関には貴重な協力をして頂けました。スウェーデン事務所において素晴らしい仕事をしてくださったエヴァ・サグストロム氏にも感謝します。

モニタリング活動における重要な要素の1つは,障害分野の6つの国際非政府組織により1994年に設立された専門家パネルであります。パネルに所属する男女各5人は,世界のあらゆる地域を代表するさまざまな障害分野の経験者であり,私に貴重なガイダンスを提供してくださいました。人的資源や資金の不足より全てのアイデアや活動案の実施が可能でない場合も,パネルは理解を示してくださいました。

最後に,私の活動のために情報を提供してくださった全ての政府と非政府組織に感謝を申し上げます。


I.背景と任務の枠組み

A.背景

1. 人類において,身体的,精神的,感覚的機能の違いは,常に存在してきました。しかしながら,機能制限,つまり障害を持つ人々は,常に排斥や置き去りの危機にさらされてきました。何世紀にもわたって,私達はあたかも障害者が存在しないような姿勢で社会を設計し,作り上げてきたのです。全ての人間が,見て,聞いて,歩いて,周囲の信号に素早くかつ適切に理解・反応できることを前提にしていました。人間にたいするこの錯覚や誤解,そして社会開発において全ての市民を考慮に入れないことが,障害者の隔離や排斥の主な原因であります。この状況は世界中に,さまざまな形と程度で見ることができます。障害とのつきあいに対する奥深い偏見,恐怖,羞恥心,そして不理解に根付くこの姿勢は,すぐに覆すことはできません。ただし,障害者の生活改善に向けた国際的な活動は既に始められており,状況は前進しています。

2. 障害者の生活状況を改善するための組織的な活動は,かなり前から,台頭してきた工業国において始められてきました。過去50年間,これらのいわゆる福祉国家は,障害者のニーズを満たすための広範な事業やサービスを展開して行きます。しかし長い間,これらの事業のほとんどは,個人に対するさまざまな形の支援と,一般社会とは隔てられた障害に特化したサービスに限られていました。

3. 障害者のニーズを満たす形で環境並びに全般的なサービスや活動が設計された場合にのみ,社会活動への参加が可能となることが,1960年代と1970年代に,とりわけ一部の国の障害者の間で意識され始めました。この結果,障害政策にたいする新しい考え方が生まれ,これが周辺社会のアクセス性の欠如を浮き彫りにし,参加する権利を表立てたのです。

4. 国連が1981年を「国際障害者年」として宣言したことは,歴史的に重要なイベントであります。障害者年の活動テーマとして「完全参加と平等」が採用されたことは,人権の視点から障害分野を見た画期的な政治的前進と言えます。

5. 1982年に国連総会が採択した「障害者に関する世界行動計画」は,この思想を構築し,行動におけるいくつかの重要分野を確認しました。世界行動計画は,障害関連問題に意識を向けることを全ての人権団体に求めました。このような要求は,障害への国際的な取り組みの中で初めての例でした。この他,世界行動計画は新しい活動課題として機会の均等化をあげ,障害者に関係する意思決定において,障害者と障害者組織が自ら関わる権利を確認しました。

6. 国際障害者年と世界行動計画は,「国際障害者の10年(1983〜1992)」から始まった変化と発展のプロセスを作り上げました。20年間が過ぎた現在も,このプロセスは続いています。10年初頭の数年間は,多くの国で障害問題に意識が向けられました。しかしその後,この意識は徐々に薄れてしまったようです。この事実は,1987年に開催された専門家会議による10年の中間評価で指摘されました。この会議の報告書で,新しい障害政策の実施において国連の指導的な役割を強化するための提案がいくつか示されました。この要請に対する最終的な回答として,「国連障害者の機会均等化に関する基準規則」の起案と採択が行われたのです。

7. 基準規則は,世界行動計画と同様の障害思想を示します。ただし,障害者の10年の経験から学んだいくつかの重要な追加事項も含まれました。基準規則では,実施過程における政府の責任がより明確に示されています。また,基準規則に新しく組み込まれた最も重要な項目は,活動的で独立したモニタリング機構の確立です。

B.モニタリングの条件

8. 基準規則の中の最も重要な機能の一つは,規則の実施状況のモニタリングです。規則の第4章では,モニタリング機構について細かく述べられています。モニタリングの目標は,基準規則の効果的な実施を促進することです。各国の実施レベルと進展の度合いを測ることを支援します。モニタリングは,基準規則の効果的な実施に必要な対策を示し,対処しなければならない障壁を明らかにします。

9. モニタリング作業には3者が関わります。モニタリングは,国連社会開発委員会の会期の枠組みの中で行われます。モニタリングの実務と社会開発委員会への報告は特別報告者が行います。最後に,障害分野の非政府組織は専門家パネルを組織し,特別報告者からの諮問に応えます。

10. 1994年3月,ブトロス・ブトロス・ガリ事務総長は私を特別報告者に任命しました。1994年9月,10人の専門家からなるパネルが,以下の6つの国際組織により設立されました:障害者インターナショナル,インクルージョン・インターナショナル,リハビリテーション・インターナショナル,世界盲人連合,世界ろう連盟,世界精神医療ユーザー・サバイバー連盟。

11. モニタリングの第1期に行われた活動は,本委員会の第35回会議(A/52/56)にて報告されました。

12. 経済社会理事会は1997年の会議において,国連社会開発委員会の勧告に従い,特別報告者の任期を3年間(1997〜2000)延長することを決定しました。総会も特別報告者の活動を支持しました(1997年12月12日の決議52/82)。

13. モニタリング活動全般の必須条件は,主要な活動を実施するための特別予算でした。モニタリングの第1期では,11ヶ国の政府が財政的支援を行いました。第2期では,合計6ヶ国の政府が支援を行いました。これらの支援の総計は約50万ドルです。国連事務局と特別報告者の間で1994年8月に署名された特別サービス契約(special service agreement)は,モニタリングの第2期(1997〜2000)まで継続されました。契約には,特別報告者はスウェーデンの事務所で活動を行い,国連事務局はアドバイスや管理サービスなどの援助を提供することが含まれていました。

C.国連社会開発委員会によるガイドライン

14. 国連社会開発委員会はその第35回会議において,基準規則のモニタリングを継続するため,特別報告者の任期をさらに3年間更新することを決定しました。委員会は決議(CSD 35/2)に以下を含めました:

「基準規則のさらなる効果的な実施を促進し,発達障害や精神障害を持つ人々を含めた人権の側面を重視するよう,事務総長と政府に強く促し,」

「委員会の報告プロセスに,障害児の権利への取り組みが十分に含まれるよう,特別報告者および子どもの権利委員会の協力関係の発展と強化を促し,」

「基準規則実施のモニタリングにあたって障害児の状況に特別な配慮をおくよう特別報告者に要請する。」

15. 委員会によるこれらのガイドラインは,モニタリングの第2期中における特別報告者の活動において重要な役割を果たしました。これらの分野に関連する活動の解説は,本報告のそれぞれの章に含まれています。

D.専門家パネル会議

16. 1997年〜2000年の間,専門家パネル会議が3回予定されました。1回目の会議は1997年5月に開催されました。ここでパネルは2つの主要な課題であるモニタリング第1期の結果の分析と,第2期に実施する活動について話し合いました。いくつかの国連機関はこの会議に参加し,実施中の活動についてパネルに報告しました。パネルの委員はそれぞれの意見が求められ,このような形で諮問関係が確立されました。

17. 1998年10月に開催された第2回会議では,いくつかの進展が議題となりました。国連人権委員会が1998年4月に採択した決議1998/31には,非政府組織に更なる活動を求めるいくつかの重要な勧告が含まれていました。世界銀行は障害政策を開発するためのプロセスを発動し,パネルはこれについて話し合いました。

18. いくつかの国連機関との諮問関係は継続され,モニタリングの第2期終了後に,国連障害政策の促進に関する第1回の話し合いが行われました。

19. パネルの第3回会議は,2000年2月の国連社会開発委員会第38回会議と合わせて開催されます。

II.特別報告者の活動

20. 私の任期が国連経済社会委員会より1997年7月に更新されたとき(決議1997/19),活動内容に関して大きな変更はありませんでした。基準規則の第4章で述べられるガイドラインに従い,私は今までと同様に,政府からの要請があればアドバイスを提供し,基準規則の実施に関するセミナーや会議に参加し,調査を通して世界的な実施状況を調べてきました。これらの活動が限られた予算の中で実施されたことに留意する必要があります。また,各国政府から新規の援助を受けるまでに,第2期に入ってから1年近くかかったことも付け加えさせていただきます。

A.基準規則実施の促進

21. モニタリングの第2期に,モンゴル,アルメニア,ブルガリア,ルーマニア,ロシアを訪問しました。また,ヨーロッパ評議会の後援を受けて,ロシアの政府,障害者組織,さらにロシア連邦全域の代表者による,障害政策に関する全国会議の企画に携わりました。残念ながら,この会議は2回延期されました。

22. 過渡期にある国の重大な問題の1つは,近代的な障害政策をいまだに開発していないことです。過渡期にある国のほぼ全てにおいて,大規模施設の扱いに重大な問題があります。重度障害者,主に知的,精神的,重複障害を持つ人々は,このような施設で一生を過ごします。このような問題にたいする認識は,関心を持つ国および国際的な開発協力機関の間で高まりつつあります。

23. 過渡期の国が持つもう1つの問題は,既存の非政府組織との関係にあります。盲人とろう者に関しては,雇用機会を拡大するパートナーとして従来型のシステムに受け入れられたため,古くから組織が存在してきました。しかし,新しく設立された他の障害者グループの組織は,既存の組織やシステムとの良い活動関係を確立するのが困難となる場合があります。

24. 1997年以来,タイ,ヨルダン,チリ,ウルグアイ,メキシコ,コスタリカなど,いくつかの発展途上国も訪れました。それぞれの訪問先での活動内容は多様です。一部の国では,話し合いの中心は障害政策の基本的な問題であり,他では,既に制定された新しい法律の実施に関する問題でした。また,フォローアップとして大統領もしくは首相に勧告を記した書状を送ることもあります。これらの書状は新しい対策の立案にたびたび貢献しました。

25. モニタリングの第2期中は国際会議に参加する機会もありました。これらの会議は新しい課題に取り組むものや,特定の視点から基準規則を扱うものです。1997年は,国連アジア・太平洋経済社会委員会とリハビリテーション・インターナショナルが共催した会議に参加しました。アジア太平洋障害者の10年中間期の政府高官レベル会議(1997年9月26〜29日,ソウル)にも発表者として招かれました。私は発表の中で,「ESCAP障害者の10年」の活動基盤を構成する行動課題(Agenda for Action)と,基準規則が同時に起草されたことを説明しました。この2つの文書は同じ精神に基づいていますが,目的は若干違っています。基準規則がガイドラインの集合であるのに対し,行動課題は開発における重要分野を明確にしています。障害者の生活を改善するため,2つの文書が各国の努力で組み合わせられることが望ましいと感じます。全ての活動が重複しないように配慮し,双方のモニタリング機構はより組織的に情報交換を行うべきです。

26. 1998年は,ウルグアイで開催された「盲人と人権に関する世界フォーラム」に参加しました(モンテビデオ,1998年11月16〜18日)。私は講演の中で,近年の人権分野の発展を通した,障害者の権利強化に関する新しい重要な機会について説明しました。この中で,開発の先導者としての障害者組織の重要な役割を強調しました。また,この機会に,障害者の権利に関する地域条約の起草で前進したことについて,アメリカ大陸各国の代表者に祝辞を述べました。

27. 1999年1月,南アフリカ障害者協会(Disabled People South Africa)とSHIA(スウェーデン国際障害者支援協会 - The Swedish Organization of Disabled International Aid Association)により,開発協力・障害・人権に関するセミナーがアフリカで開催されました。この会議でアフリカの障害者の10年(2000〜2009)を提案する決議が採択されました。

28. 私は講演の中で人権分野の最近の出来事について説明しました。また,アフリカ障害者の10年に関して以下の提案を行いました:

29. ヨルダン政府とヨルダン・スウェーデン医学協会(Jordanian Swedish Medical Association)の共催で,国連基準規則に関する全アラブ・シンポジウムがヨルダンの首都アンマンで行われました(1997年9月18〜20日)。アラブの12ヶ国から,政府代表,専門家,非政府組織が参加しました。各国での開発を指導するための宣言文がこのとき採択されました。以下は重要な勧告を一部抜粋したものです:

B.WHOとの協力による第3回世界調査

30. 基準規則の最初の4規則は,「平等な参加への前提条件」の節に含まれています。ここの主旨は,これらの規則が,社会の中で個人が積極的に参加することを可能にする上で不可欠な手立てである,ということです。この中の3つの規則である医療,リハビリテーション,支援サービス(補助具を含む)は,世界保健機関(WHO)の責任分野です。

31. 1998年に行われた私と専門家パネルとWHO代表者の間の話し合いで,これらの規則の実施に関する調査が行われるべきことに同意がありました。WHOはこの調査の実施を申し出ました。

32. 情報収集は,1999年に,WHO加盟の全191ヶ国と600以上の障害分野の全国的な非政府組織にアンケートを送付することにより実施されました。集められた情報は以下の4つの規則に関連します:規則2「医療」,規則3「リハビリテーション」,規則4「支援サービス」,規則19「職員研修」。35個の設問で構成されたアンケートは1999年4月に配布されました。

33. 調査の主な目的は2つです。1つは,医療,リハビリテーション,支援サービス,職員研修に関する政府方針の把握です。もう1つは,採用されたさまざまな対策と,障害者の医療とリハビリテーション分野での活動で経験された問題点の把握です。

34. 国の公式な政策や方針を確認するため,このアンケートへの回答が求められました。合計で104の政府が回答しました。この回答率は満足できる結果とするべきです。

35. 回答は,世界各地を代表する国々からよせられました:アメリカから17ヶ国,ヨーロッパから25ヶ国,西太平洋地域から20ヶ国,東南アジア地域から4ヶ国,東地中海地域から11ヶ国,アフリカから27ヶ国でした。

36. 回答した政府の社会経済的分類によると,先進の市場経済を持つのは18ヶ国,経済の過渡期にあるのは9ヶ国,発展途上国は77ヶ国(うち最も発展が進んでいないのは24ヶ国)でした。

37. 非政府組織からは115の回答がよせられました。組織の所属による分類から見ますと,非政府組織からの回答は以下のように分けられます:障害者インターナショナル(DPI)加盟は18組織,インクルージョン・インターナショナル加盟は28組織,リハビリテーション・インターナショナル加盟は28組織,世界盲連合(WBU)加盟は23組織,世界ろう連盟(WFD)加盟は14組織,世界精神医療ユーザー連盟(WFPU)加盟は8組織。政府と非政府組織を組み合わせた回答国の数は130でした。

38. 政府からの情報は,障害者の医療,リハビリテーション,および支援サービスの責任を負う担当省庁から提供されました(多くの場合は厚生省や社会事務の省)。この方式の情報収集には制約がありますが,調査結果からは世界中の政策に関する特有な情報をみることができます(ここでいう制約とは,このアンケートが,対象分野に最も精通した職員が回答すること,及び情報不足の場合は他の相応しい回答者が探し出されることを前提にしていることです)。調査結果が政策責任者,管理者,リハビリテーションの専門家,そして障害者組織の代表者の役に立つことを期待しています。私の事務所との緊密な協力関係のもとで実施されこの調査は,世界中の状況に関する知識と理解に大きく貢献します。調査の最終結果報告は,2000年にWHOより発表されます。

39. 調査結果が分析されている最中に書かれた本報告の内容は,各規則に関するより広範な設問で構成されています。主な焦点は,それぞれの分野で実施されるサービスの範囲,政府と他の機関の関わりの範囲,そしてこれらのサービスにおける障害者と障害者組織の影響力です。残念ながら,国を代表する非政府組織からの回答を考慮することはできませんでした。

医療

40. 医療に関する規則の冒頭には,「政府は障害を持つ人に効果的医療の提供を保障すべき」とあります。最初の設問は,政府がこの勧告に従った範囲に関係します。加盟国の大多数(104ヶ国のうち99ヶ国)は障害者向けのサービスを提供しています。また,90ヶ国では,一般医療システムに障害児向けの医療ケアが含まれています。

41. 医療に関する規則の第1段落では,「政府は損傷の早期発見,早期評価,早期治療を行うために,複数の分野の専門職者からなるチームが運営する活動を提供できるよう努力するべきである。」と書かれています。

42. 回答国の大多数は医療システムと他のプログラムに障害の予防・治療とリハビリテーション手法を取り入れています。これに対して少ないのは,両親のためのカウンセリングや早期発見・診断のプログラムでした。15ヶ国には,早期発見と診断のプログラムがありませんでした。

43. 別の質問は,医療システムに含まれるこれらのプログラムの計画と評価において,障害者組織が関わる範囲に関するものでした。過半数の国(103ヶ国のうち59ヶ国)では,時折,障害者組織が関わります。必ず障害者組織が関わるのは3ヶ国だけであり,12ヶ国では,障害者組織は医療プログラムの計画と評価に一切関わりません。多くの場合障害者組織が関わるのは29ヶ国でした。

44. 障害者がその機能レベルを持続・改善するための,定期的な治療の提供に関する質問がありました。定期的に提供されない場合は,提供に必要な条件が問われました。(103ヶ国のうち)85ヶ国では,障害者は定期的な治療を受けます。治療が提供されないと回答した18ヶ国は,以下のような理由を示しました:特定のプログラムの不足(16ヶ国),スタッフの不足(12ヶ国),研修の不足(8ヶ国),否定的な社会思想(9ヶ国),家庭の経済事情(12ヶ国)。

45. 医療資金の問題に関する質問がありました。回答によると,(回答した104ヶ国のうち)31ヶ国では,患者が全額負担します。他の国では,無償で,もしくは患者,政府援助,社会保障の組み合わせで負担されます。医療費の社会保障に関する質問に回答した62ヶ国には以下の特徴があげられます:22ヶ国では全人口の20%以下が社会保障制度の恩恵を受け,27ヶ国では全人口の81〜100%が社会保障制度の恩恵を受ける。ここで認められるパターンは,医療費が社会保障制度で提供されるとき,これが人口のごく一部(主に公務員)に提供される場合と,ほぼ全ての人々に提供される場合に分かれることです。

46. 農村や都市の貧困地区での医療提供に関する質問がありました。回答した102ヶ国のうち,97ヶ国はこれらの地域で医療サービスが提供されると答えました。97ヶ国のうち,88ヶ国はプライマリー・ヘルス・ケア(一次的保健医療)が提供されると答え,44ヶ国は地域中心のサービス・プログラムが提供されると答えました。

47. 最後に,医療における障害者の情報とコミュニケーションを促進するサービスの種類に関する質問がありました。回答によると,最も多いサービスは容易に読解可能な文章による情報提供でした(回答した104ヶ国中62ヶ国)。50ヶ国は手話通訳を提供し,3分の1の国は点字やテープで情報を提供します。

リハビリテーション

48. リハビリテーションの全般的な状況に関する最初の設問では,各国で提供される全国的なリハビリテーション・プログラムの範囲が問われました。回答した102ヶ国のうち73ヶ国では,全国的なリハビリテーション・プログラムが存在します。

49. (回答した104ヶ国のうち)51ヶ国は,地方レベル(local level)でCBR(地域社会に根付いたリハビリテーション)プログラムを提供します。同程度の数が,地区レベル(district level - 地方レベルより広い)で提供します。13ヶ国はCBRプログラムを持たないと答えました。リハビリテーション施設に関する質問では,以下の結果が得られました:国レベルでは74ヶ国,州レベルでは56ヶ国,地区レベルでは46ヶ国,地方レベルでは22ヶ国がリハビリテーション施設を持つ。8ヶ国では,施設でのリハビリテーション・プログラムは存在しません。

50. リハビリテーション・サービスの対象グループに関する質問がありました。回答は全般的に,多くの国でさまざまな集団にリハビリテーション・プログラムが提供されることを示しました。サービスの提供が最も多い対象グループは移動障害を持つ人々であり(回答した104ヶ国のうち99ヶ国),これに続いて聴覚障害者(90ヶ国),視覚障害者(89ヶ国),知的障害者(86ヶ国),ろう者(84ヶ国)があります。学習障害(読書障害など)に対しても,多くの国(69ヶ国)でリハビリテーション・サービスが提供されることは注目に値します。精神病を持つ人々のためのリハビリテーション・サービスは74ヶ国に存在します。

51. これらの高い割合は歓迎されるべきですが,リハビリテーションを必要とするさまざまな集団の人々が実際に利用できる範囲については明らかになっていません。リハビリテーションの提供範囲は,サービスを必要とする人々全員に及ぶ場合と、ごく一部にだけ摘要されることがあります。また,データによると,かなりの数の国でサービスが一切提供されないことにも注目する必要があります。例として,聴覚障害者に対しては14ヶ国,視覚障害者に対しては15ヶ国が,サービスを一切提供しません。

52. 別の質問は,リハビリテーション・サービスに対する障害者とその家族と組織の関わり方に関するものでした。集められた情報によりますと,障害者が最も多く関わるのはCBR(地域社会に根付いたリハビリテーション),および研修を受けた教員,指導員,カウンセラーとしての役割でした。最も関わりが少ないのは,リハビリテーション・プログラムの計画や評価でした。障害者の家族でも,同様のパターンが現れます。ただし,障害者の家族が,障害者自身よりも多く設計・評価の作業に関わっているケースが見られます。障害者組織に関しては,逆のパターンが現れます。組織が最も関わりを持つのが,リハビリテーション・サービスの計画と調整,そしてリハビリテーション・プログラムの設計と評価です。また,障害者組織の代表者は,研修を受けた教員として最も広い範囲で関わります。ただし,かなりの国で,障害者組織が一切関わりを持たない事実にも注目する必要があります。この状況は,より深刻な程度で障害者とその家族にも見られます。CBRに関しては,障害者組織は障害者と同様の範囲で関わります(44ヶ国で関わりを持つ)。

支援サービス

53. この報告では,補助具の提供に関する設問のみを取り上げます。

54. 補助具の提供における政府の関わりについて情報が集められました。この設問に回答した96ヶ国のうち87ヶ国では,政府は補助具の提供に関わります。この高い割合は好ましいことですが,この数値は必ずしも補助具を必要とする障害者が実際にサービスを受けられる範囲を示さないことを,心にとめておく必要があります。

55. 補助具の資金に関する設問から,次のような結果が得られました。回答した数は104ヶ国です。補助具の提供に関わる資金を集める最も多い方法は,政府省庁と障害者の間で費用を分担することです。28ヶ国では,政府省庁もしくは地方自治体が全額負担します。9ヶ国では,社会保障制度が全額負担します。18ヶ国では,障害者自身が全額を負担し,13ヶ国では非政府組織が全額を負担します。32ヶ国では,政府省庁と地方自治体は補助具の提供を一切負担しません。

56. 政府により提供される補助具の種類に関して,以下のような結果が得られました。最も多く提供される補助具は松葉杖(回答した104ヶ国のうち87ヶ国)。義肢や機能回復訓練のための補助具は83ヶ国,車椅子は77ヶ国,補聴器は64ヶ国,視覚補助具は62ヶ国,日常生活用具は48ヶ国,コンピューターは23ヶ国。最も多く提供される補助具は移動障害者用のものであり,これに聴覚障害者用と視覚障害者用の器具が続きます。当然,さまざまな種類の補助具の提供範囲は金額的な要素に左右されます。情報を提供した国のうち,過半数が日常生活用具を提供しないのは驚きです。

57. 聴覚障害者用の通訳サービスの提供に関する質問もありました。通訳サービスが提供されるのは,回答した100ヶ国のうち67ヶ国でした。

58. 支援サービスの立案において障害者と障害者組織の関わる範囲についても,情報は集められました。回答した国の3分の1では,障害者や障害組織はこの立案の過程に含まれていません。情報を提供した99ヶ国のうち68ヶ国では,障害者は支援サービスの立案に関わります。

職員研修

59. 最初の質問は,障害分野でサービスを提供する全ての団体・機関が,職員研修を保障しているか,に関するものでした。回答した96政府のうち,64は保証はないと答えました。

60. 76〜47の政府は,医療とリハビリテーション分野のさまざまな職員(物理療法士,看護士,ソーシャル・ワーカーなど)の専門的研修の一要素として,障害が含まれていることを示しました。

61. (回答した92政府のうち)43政府は,職員研修プログラムを設計するときに,障害者組織の助言を求めることを示しました。

62. 調査結果のこの項目で最も注目されるべきことは,3分の1の政府が,障害分野でサービスを提供する団体・機関の職員研修を保障していないことです。

C.人権における進展

63. 近年進歩した重要分野の1つは,障害者の人権です。障害に関する国連特別報告者として,私はこのプロセスに加わるよう国連人権委員会に招かれました。最近の出来事を説明する前に,国際障害者年と共に始まったこのプロセスについて説明したいと思います。

64. 障害者に関する世界行動計画には,人権と障害に関する節が含まれています。ここでは,以下の勧告に注目します:

「障害者に直接もしくは間接の影響をもつと思われる国際協力,規約その他文書の準備と実施の任にあたる国連機構内の組織および団体はとくに,文書等が障害者の状況を十分考慮に入れているものとしなくてはならない。」(164節)
「全人類に普遍的に認められている人権や自由について障害者の行使能力を阻害するような異常な状況が存在しうる。国連の人権委員会はそのような状況に検討を加えるべきである。」(166節)
「拷問を含めた極端な人権侵害の行為は,精神的および身体的障害の一因となりうる。人権委員会は,とくにそのような暴力に対し改善のための適切な行動をとるべく検討を加えなければならない。」(168節)

65. 1984年8月,マイノリティの差別防止と保護に関する小委員会(Subcommission on Prevention of Discrimination and Protection of Minorities)は,人権と障害の関係に関する総合的な調査を実施するため,リアンドロ・デスポイ氏を特別報告者に任命しました。デスポイ氏の報告は1993年に発表されています。彼はこの中で,障害は国連のモニタリング機関が関わるべき人権問題の1つであることを明確に示しました。彼の勧告の中で,以下に注目します:

66. 経済・社会・文化権利委員会は1994年,一般的意見(ジェネラル・コメント)No.5を発行してこの責任を引き受けました。この意見の中で,委員会は障害を人権問題としてとらえる興味深い分析を行っています。

67. 以下は一般的意見からの抜粋です:

「規約は,障害者について直接言及することはありません。しかしながら,世界人権宣言は全ての人間が生まれながらにして自由であること,尊厳と権利において平等であることをうたい,また,規約は社会の全ての人々を対象とするため,障害者には明らかに,規約に列挙される全権利を保有する資格があります。さらに,特別な配慮の必要性に関して,政府は,資源が許す限り,規約でうたわれる権利の享有に関して,障害者がその不利を克服できるよう適切な対策をとらなければなりません。また,規約の第2条で,いかなる根拠や状況による差別なく,権利が行使されると謳われるのには,明らかに障害を理由とする差別も含まれます。」

68. 1998年3〜4月に開催された国連人権委員会第54回会議において,委員会は障害者の人権に関連する問題について議論することを決定しました。この時,私はこの論題について発表する機会を得ました。私は複数の勧告を行い,この大部分は委員会により受け入れられました。いくつかの加盟国と非政府組織もこの議論に参加しました。

69. 議論の結果,委員会は,この分野の発展に非常に重要な声明や勧告が含まれる,決議1998/31を採択しました。

70. 本文の第1段落は,障害者に関して人権基準が遵守されているか評価する手段として,基準規則の有用性を認めています。また,経済・社会・文化権利委員会と人権高等弁務官事務所に関連情報を提供するよう,障害分野の非政府組織に奨励します。同様に,非政府組織が人権分野で効果的に機能できるよう,高等弁務官事務所の専門的援助を得ることも奨励されています。決議に含まれるもう1つの重要なメッセージは,障害者の完全な権利の享受を保障するために,全ての盟約団体に加盟国の監視を奨励することです。政府は,国連の人権協定をもとに報告を行う場合,障害者の人権問題を十分に考慮するべきです。人権委員会は,2000年に開催される第56回会議に国連社会開発委員会の特別報告者を招いています。委員会は最後に,障害者の人権の完全な認知と享受の保障に向けた進展について,総会で2年ごとに報告するよう,事務総長へ要請しています。

D.国連事務局および他の国連組織との協力

71. 国連事務局経済社会局(DESA)社会政策開発室の特別ユニットには,国際障害者年に関連して与えられた,障害に関する国連機構の中心部としての特別な任務があります(WPA,156節)。現在このユニットは,インターネット上のデータベースの構築や,国際的基準に関する情報を収集し情報ライブラリーを実施することによりこの役割を強化しています。また,5年ごとに世界行動計画の評価を行い,私のモニタリング作業を支援するのも,このユニットの役割です。さらに,発展途上や過渡期にある国での事業に資金を提供する国連障害基金を管理します。

72. 最近5年間で,DESAの統計部門(Statistics division)の障害問題への関わりは拡大しました。現在の作業は,2つの重要分野である,障害に関する統計概念・手法・情報収集事業の改善と,統計情報の蓄積と配布に向けられています。

73. 第54回国連総会の事務総長報告に見られる通り,国連の多くの基金,プログラム,専門機関は障害分野との関わりを持ちます。

74. UNDP,UNICEF,ILO,UNESCO,WHOの全ては,それぞれの担当分野で政策開発に関わっています。基準規則はこの開発において基礎的な政策文書として役立っている思います。WHOが現在起草中の新しい政策文書は,基準規則に基づいて作られています。基準規則とサラマンカ宣言やILO第159条約の内容を比べてみた結果,言葉使いこそ違うものの,目標や考え方は同じであることがわかりました。

75. これらの組織は,主に政府や政府間の財源により出資される,数多くの全国的事業を実施しています。全国的事業で協力することもあるようですが,私の知る限り,このような例は少ないです。

76. 私は活動の中で,さまざまな形でこれらの国連機関と協力しました。多くの場合,各機関の在国代表者は,私の訪問中に話し合いに参加しました。また,特定の問題を話し合うために各機関の本部を訪れることもありました。以前に述べた通り,これらの機関は1997年と1998年に開催された2つのパネル会議で発表を行いました。人権高等弁務官事務所もこれらの会議に参加しました。

77. 障害者の10年の期間中とその後の数年間,国連機構内の調整と情報交換を目的とする,特別な機関間機構が備えられていました。調整管理委員会傘下組織の改正により,毎年の正式な会議はより非公式で特例的な機構に入れ替わりました。ILO,UNESCO,UNICEF,WHOで構成される中核グループは非公式に会合を開いています。近年このグループは拡大しています。私もこれらの会合に招かれ,可能であれば参加しました。

78. 私は委員会へ提出した以前の報告で,主要な国際開発協力機関がその主流活動へ障害対策を統合させようと真剣に取り組んでいないことを指摘しました。これは,障害が再び開発事業から排斥される危険を意味します。しかしながら,過去3年間の間,勇気付けられるような前進がありました。

79. 1998年3月,私は世界銀行の人間開発局(Human Development Department)主催の障害政策に関するセミナーに参加しました。約30人の銀行職員(人間開発局の局長を含む)が討論に参加しました。このセミナーで,世界銀行が内部の障害政策を開発するプロセスを始動することが発表されました。これ以来,数多くの新しい事業が生まれ,世界銀行の職員はより積極的に国際的な障害関連事業に関わるようになりました。

80. 最近の報告によると,基本的な国連文書は,障害問題に関する世界銀行の活動の枠組みを提示します。障害対策を効果的に実施するため,世界銀行は他機関との連携を頼りにします。この連携は,これに相応しい会議や作業部会への参加を通して促進されます。世界銀行は障害者の社会参加を拡大する経済的・社会的価値を認識しており,この分野での事業数を拡大しています。世界銀行の事業を紹介する案内も作成されました。事業の数は増加しますので,これは定期的に更新されます。

81. アクセス,インクルージョン(包括),及び貧困軽減に関する各国の目標設定を支援し,世界銀行による活動への障害者の参加を拡大するため,世界銀行はいくつかの新しい対策を講じました。貧困に焦点を合わせた世界開発報告(World Development Report)の準備の一環として,世界銀行は発展途上国における障害と貧困の関係の分析を進めています。

82. 発展途上国に住む障害者への支援の質を改善するため,世界銀行は開発支援の良い実践例に関する情報を集めています。世界銀行活動への障害者の参加を拡大する他の対策には,障害をテーマとした内部作業部会の設立なども含まれています。

83. アジア開発銀行と米州開発銀行も,障害問題の扱いを改善する新たな対策を講じました。

a.非公式の諮問会議

84. WHOとUNDPの共同事業として,1999年6月に非公式の諮問会議が開催されました。本会議の主要な目的は,障害の予防,リハビリテーション,及び人権の側面,という広い分野を統合する,効果的で協力的な障害への取り組み方の開発を話し合うことでした。国連機関,世界銀行,さらに障害分野から選ばれたいくつかの組織の代表者が参加しました。私は議長としての役割を引き受けました。

85. 世界的な状況,障害・権利・ニーズに関連する現在の活動,世界的な行動の機会,及び今後の協力の障壁・手段・構造などに関する議論の後,出席者は以下のように状況を評価しました:

E.国際非政府組織との協力

86. モニタリング活動の最も特徴的な機能の一つは,障害分野の主要な国際非政府組織との密接な協力です。1990年初頭に基準規則が起草されていた当時も,既に国際非政府組織は直接的に関わっていました。これらの非政府組織の積極的な関わりは,本委員会に提出した1997年の報告で既に説明してあります。

87. 国連からの要請に応え,専門家パネルを1994年に結成した6つの組織は,この事業で特別な役割を果たしてきました。この他の組織も,それぞれの活動の中で積極的に基準規則を支持・活用したことを付け加えておく必要があります。

88. 6つのパネル組織には,600以上もの全国的な提携団体のネットワークがあります。これらの組織は,私の各国への訪問において重要な役割を果たしました。多くの場合,訪問を準備するにあたってこれらの組織と連絡をとっています。組織は政府との話し合いにも参加しました。さらに,私の訪問によるフォローアップ活動にも,各組織が関わりを持つよう努めました。

89. 最近受け取った報告で,6つのパネル組織は,活動の中で積極的に国連基準規則を使い続けていることを私に知らせています。基準規則と関連してモニタリング第1期に作成されたマニュアル(Users' Guides)と啓発資料は,現在も使用されています。第2期中には,組織の職員や会員のための会議やセミナーが開催されました。基準規則の活動を調整するため,特別な職員を任命した組織もあります。一部の組織は,サービスやアクセスを改善する活動の中で,特定分野の規則を活用していると報告しました。

90. パネル組織はまた,基準規則の各国言語への翻訳が進んでいることを報告しました。世界盲人連合はその加盟組織へ数ヶ国語に翻訳された点字版を提供し,インクルージョン・インターナショナルは,容易に読解可能な簡略版が数ヶ国語で入手可能であることを報告しました。

91. 国際障害財団(IDF)は1997〜1999年にかけて,基準規則の実施に関する擁護・行動プログラム(Advocacy and Action Programme)を行いました。これは,国を代表する障害者組織の基準規則に関連する活動機会を拡大するため,IDFより考案されました。プログラムは,アフリカの6ヶ国の障害者組織に経済的・技術的支援を提供しました。各国のプログラムの実施責任は,国を代表する障害者組織の代表者で構成される運営委員会にあります。プログラムの資金はダニダ(Danida)とIDFから提供されました。

F.特殊問題への取り組み

a.障害を持つ子ども達

92. 1997年10月6日,国連子どもの権利委員会はジュネーブにおいて一般討論日(ジェネラル・ディスカッション・デー)を開催しました。この委員会のために準備されたアウトラインで,障害児は歴史を通して,教育・家族生活・適切な保健ケアへのアクセス,さらに遊びや訓練の機会および一般的な児童活動への参加機会を奪われており,多くの社会では未だにこれらの機会が与えられていないことが強調されました。これらの児童が,条約で謳われる基本的権利の否定による社会的排斥を経験していたのにも関わらず,彼らの苦境は国や国際的の重要課題として位置付けられることなく,注目される機会もありませんでした。

93. 討論には数人の委員,及び国連機関,世界銀行,国際非政府組織の代表者が参加しました。私は障害政策分野の特別報告者としての視点から講演を行うよう要請されました。発表の中で私は児童の権利条約と基準規則を比較し,法的な位置付けの違いを説明しました。また,これらの相違点と補完的な役割も強調しました。条約は障害児を含む全児童の権利を擁護する原理を述べた重要な文書です。これに対し基準規則は障害政策全般に関する文書であり,極めて具体的であり,実際にとられるべき行動とその方法をより詳細に説き,ガイダンスを提供します。個人への支援とアクセシビリティの確保の2つの主要分野において,排斥と深刻な状況への対策が必要です。さらに,条約がアクセシビリティの面において比較的不明確であることを指摘しました。

94. 最後に,特別報告者と委員会の間のより発展的な協力を実現するため,私は以下を提案しました:

95. 児童の権利委員会はその第419回会議において,いくつかの重要課題と勧告を採択しました。この中に,行動計画を起草する作業部会の設立が提案されました。

96. この提案に基づいて障害啓発行動(DAA - Disability Awareness in Action - 複数の障害者組織による共同事業)は,討論日に取り上げられた多くの問題をさらに追及するため,率先して作業部会を設立しました。作業部会は,国際障害者組織(世界盲人連合,世界ろう連盟,インクルージョン・インターナショナル,障害者インターナショナル),児童の権利に取り組む団体(国際セーブ・ザ・チルドレン同盟{International Save the Children Alliance},児童権利センター{Child Rights Centre}),及び国連子どもの権利委員会の委員1人で構成されます。私はこの作業部会の議長を務めています。

97. 本作業部会は,1999年に2つの会議を開催しました。ここで議論されたさまざまな活動の中で,以下に注目できます:

b.ジェンダー(社会的性別)面

98. 北京行動綱領(The Beijing Platform for Action)には,障害を持つ女性と女児に関する多数の提案や言及が含まれています。国連女性の地位委員会(CSW)によるこの文書のフォローアップ活動には,1996年以来毎年,障害者の国際非政府組織の女性代表者が参加してきました。この結果,CSWによる現在まで報告の全ては,障害を持つ女性に言及しています。

99. スウェーデンにおいて1997年,ジェンダー問題に関する指導者セミナー(leadership seminar)が開催され,多くの発展途上国から代表者が参加しました。主要な目的の1つは,意識の向上と差別の特定方法の習得でした。

100. 以下の形で,私は発表の中で基準規則をジェンダーの視点から分析しました:

101. 基準規則は,人種,性別,年齢などに関わらず,障害を持つ全ての人々が対象とされることを前提にガイドラインや方針を提案しています。この思想は,人権分野の伝統を引き継いでいます。

102. ジェンダーに関する直接的な言及は数ヶ所にあります。最も広い形で述べられるのは,序文の段落15です:「本規則の目的は障害を持つ少女・少年・女性・男性が,他の市民と同様に,自分の属する社会の市民としての権利と義務を果たすよう保障することにある。」

103. 序文と前文の他の箇所にもジェンダー面の言及はあります。個人支援に関する規則4,教育に関する規則6,家族生活と人間としての尊厳に関する規則9では,障害を持つ女児と女性に特別な配慮がおかれています。

104. 基準規則は,各国の具体的な状況に関連付けられる必要があります。この中で,適切な説明と特定の状況や条件に対する注意が必要となります。例えば,成人教育,医療ケア,リハビリテーション,補助具の提供などにおいて,障害を持つ女性のために特別な処置を講ずる必要性を強調しなければならないことがしばしばあります。

105. 基準規則と女性差別撤廃条約に並べられる規定を組み合わせることは非常に重要です。この作業は,国連内の担当団体,専門機関,国際非政府組織,及び関心を持つ全国レベルの全団体の協力を通して推進されるべきです。

106. 当然,基準規則でジェンダー面がより明確に取り上げられることが望まれます。しかしながら,これまで紹介したさまざまな方法を実行することにより,障害を持つ女性の社会における完全参加と権利強化の強力な手段として基準規則の活用が望めることを確信しています。

c.発達障害・精神障害を持つ人々

107. 社会開発委員会は決議35/2の中で,発達障害や精神障害を持つ人々の人権を研究する必要性を強調しました。これらの集団に焦点を合わせる理由は当然ながら,彼らが社会から最も軽視・疎外される人々の一部であるからです。発達障害を持つ人々と精神障害を持つ人々のおかれた状況には,多くの類似点があります。双方は家庭や施設の奥に隠され,否定的な姿勢や差別の被害を受けてきました。

108. 基準規則の実施に関する第2回世界調査の中には,障害者の人権擁護に関する節が含まれていました。この調査で現れた事実の1つは,人権分野で深刻な問題が存在することです。例として,選挙権や立候補する権利,法廷に出る権利,結婚や財産の権利などの重要分野があげられます。当然,最も被害を受けるのは発達障害や精神障害を持つ人々です。

109. この2つの集団のための活動には違いも存在します。発達障害の分野には,インクルージョン・インターナショナルという強力で成熟した国際組織があります。この組織は,発達障害を持つ人々の権利を効果的に擁護し,発展途上国と過渡期にある国の状況を改善する,多数で多様な事業を世界中で展開しています。いわゆる親の行動グループ(parent action groups)で家族を動員するプログラムもあります。発達障害を持つ児童が家族と共に自宅に住むことができるよう,地域社会に根付いたリハビリテーション(CBR)が利用されています。大規模な施設に住む発達障害者の状況の改善も,さまざまな国で注目され始めています。家族による支援体制を確立することによりこれらの施設への入所を防ぐのは1つの方法です。もう1つは,施設に住む人々の物質的・社会的生活状況を改善することです。

110. モニタリングの第2期中に,発達障害者の状況に関する話し合いにいくつかの形で参加する機会がありました。インクルージョン・インターナショナルの会議には招待されました。また,政府や全国組織とのセミナーにおいて,インクルージョン・インターナショナルの代表者と共に数ヶ国で活動しました。

111. 精神障害者に関わる機会を探すのは,非常に困難でした。1998年5月のパネル会議の後,私の活動で精神障害者をより表立てる方法について,世界精神医療ユーザー連盟の代表者と話し合いました。我々は1999年9月に予定される2つの機会を確認しました。1つは,精神病による障害を持つ人々の状況が,基準規則を考慮に入れて初めて議論される国際行事となったインド・チェンナイの会議でした。もう1つの機会は,精神医療ユーザー・サバイバーの国際組織の設立の方法を話し合う世界精神保健連盟の会議でした。

112. チェンナイ会議での講演では,精神障害者の生活状況を改善するために国際社会が提供できるガイドラインについて話しました。国連総会により1991年12月に採択された「精神障害者の保護と精神保健ケアの改善に関する原則(Principles for the Protection of Persons with Mental Illness and Improvement of Mental Health Care)」(46/119)は,精神障害者の基本的権利と自由の擁護に関する明確なガイドラインを提供しています。一部の精神医療ユーザーは非自発的治療や施設での拘留に関する勧告に賛成しませんが,精神保健施設の設立やケアの具体的ガイドラインも含まれています。

113. 精神障害者が積極的に社会参加するための対策に関して,この文書は具体的なガイドラインを持ちません。従って,この集団に向けられた活動は,この原則と基準規則の両方を基盤とする必要があるようです。

114. 基準規則の全ての勧告やガイドラインは,全ての障害者集団に有効です。基準規則で謳われる障害の考え方はこれを明確に表します。以下は序文の段落17からの抜粋です:「『障害』(disability)は世界の全ての国の全ての人口で起きている数多くの異なる機能的制約を要約した言葉である。人は身体的・知的・感覚的な損傷(impairment),医学的状態,精神病により障害を持つかもしれない。こういった損傷,状態,病気の性格は永続的な場合も一時的な場合もある。」

115. 規則の勧告やガイドラインが精神障害者以外の集団についてより具体的に記されているのは当然です。しかしながら,基準規則は数ヶ所で精神障害者に直接言及しています。

116. 1999年9月にチリで開催された世界精神保健連盟の会議で,数人の精神医療ユーザーは,より強力な体制を持った国際組織の設立に関する行動計画を準備するために会合を開きました。この計画によると,世界中の精神医療ユーザーやサバイバー(生存者 - survivors)を動員する準備が行われています。2001年12月にこの新しい組織の設立会議が予定されています。

III.見解と結論

A.基準規則

117. 1990年代の政策開発と法律の発展は,それ以前と比べて著しいことは明らかです。また,過去十年間の発展が,国際障害者年(1981),世界行動計画(1982),及びこれに合わせて始まった一連の政治的行動に関係していることは明白です。世界各地の多くの国は,国際的なガイドラインに則って新しい法律を制定し,国家政策を開発しました。この過程において,国連基準規則は重要な役割を果たしました。何より基準規則は,完全参加と機会均等化への取り組みにおける政府の役割を明示し,人権的側面を強化を進め,国連システム内にモニタリング機構を確立しました。

118. 基準規則には多くの利点があります。規則の文章は簡潔であり,複数の分野に関するガイドラインをまとめて提示します。これらのガイドラインは,数多くの国においてさまざまな方法で利用されました。また,規則に含まれる勧告は原則的なレベルで提示されているため,各国による採用および地域・地方の事情に合わせた調整を行う余裕が残されています。

119. しかしながら,基準規則には欠点もあります。障害政策の一部の側面は十分に考慮されていません。これには,障害児やジェンダー面,及び他の特定集団,とりわけ発達障害・精神障害を持つ人々などが含まれます。基準規則に,最も貧しい地域に住む障害者の生活状況を改善する施策がない,との指摘もありました。避難民の障害者や非常事態にある障害者なども考慮されていない分野の一部です。以前に社会開発委員会へ提出した報告(A/52/56)で私が指摘した通り,住居全般に関する項目が含まれていません。これは,非常に多くの障害者が悲惨な環境の中で一生を過ごす保護施設の扱いに関する指導がないことを意味します。人権分野に関する1990年代の重要な進展も,より明瞭な形で規則に反映されるべきであります。

120. 基準規則の最も重要な機能の一つは,そのモニタリング機構です。規則の第4章で述べられるモニタリング機構の取り組みは広範に及ぶものであり,実施において多くの人的・資金的資源を誘引することが可能であります。これに対し,実際に利用可能な資源は限られたものでした。同時に,特別予算を通してこの事業に割り当てられた資源は,社会開発分野の一般的な事業と比べて大きかったことに注目する必要があります。基準規則で示されたモニタリングの目的によると,促進(promotion),援助(assistance),評価(assessment)に重点的に取り組む必要があります。利用可能な資源の範囲の中で,私はこれら全ての分野の活動を含めるよう努めました。

B.特別報告者の役割

121. 私は国連特別報告者として,いくつかの役割を務めました。1つは,国際的および全国的な会議やセミナーにおいて基準規則を紹介することです。これらの機会では,基準規則の背景と他の国連文書との関連性を説明しました。各国訪問時の重要な仕事として,基準規則の目的を解釈する上での支援と,その国の実情への適用に対する支援でした。一部の政府は,特定分野での進め方に関する助言を求めてきました。優先するべき課題に関する話し合いもありました。

122. 私が共に活動してきた人の多くは,私の重要な役割の1つとして「きっかけ」を作ることをあげました。この役割を踏まえ,私は政府と関心を持つ団体を集め,共同で話し合いを進めてきました。また,政府の取り組むべき課題に障害を含め,関係組織の間の対話を始めました。

123. 訪問先でのマスコミ報道は多様なものでした。一部の国は私の訪問に高い関心を向け,他では報道されることはほとんどありませんでした。

124. 私自身が障害者であり,国会議員や大臣を歴任した事実は当然,訪問先での活動,とりわけ政府代表者との対話の中で重要な要素となりました。

125. 訪問は短期であったため,合意された事柄や新しいアイデアをフォローアップする方法を明瞭に説明することが重要でした。多くの場合,これは国内のさまざまな関係者により行われました。一部の国に,フォローアップとして合意された事柄と必要な行動をまとめて手紙で送った場合もあります。これらの手紙が実施を促進する短期的な手段となることがありました。

126. 以前に述べたように,私は,政府と非政府組織の双方へ質問状を配布することにより,各国の実施レベルの評価を試みました。これらの質問状調査の内容は特定の規則に絞り込まれたものです。この方法で,22規則のうち10の規則を調査しました。最初の質問状調査は,政府が基準規則を受け取った経緯に関する全般的な設問で構成されています。これには38の政府が回答しました。第2回と第3回の調査にたいする回答率は比較的高いものでした(83ヶ国と104ヶ国)。この方法により,活動の中で私が必要とする情報や,国連及び他団体がフォローアップに利用できる情報を,大量に収集することができました。非政府組織もこれらの質問状に回答したことで(第2回は165組織,第3回は115組織),調査結果は新しい側面を現しました。これは,ほとんどの場合に非政府組織と政府は状況を等しく評価しないことです。この点は,各国の中でのさらなる議論の対象となることができます。

C.非政府組織の貢献

127. モニタリング機構の長所の一つは,障害分野の主要な国際組織との密接な協力関係にあります。これは二つの面において重要となりました。これらの組織により構成される専門家パネルは,私の活動において積極的な助言者の役割を果たしました。また,パネルの加盟組織には,160もの国連加盟国に,国を代表する600以上の組織の世界的ネットワークが存在します。このような国連と国際非政府組織の間の密接な協力関係はきわめてまれであり,他の分野でもモデルとして利用できると感じます。このような協力関係が,今後のモニタリング機構の一部として継続することが何よりも重要です。

128. パネルの加盟組織は,資料やマニュアルなどを配布して各国の加盟団体による基準規則の利用を促進しました。地域単位では,いくつかのワークショップや研修セミナーが,主に国連障害任意基金の共催で行われています。パネルの各加盟組織の世界会議において,基準規則とその実施は常に議題の一つとして取り上げられます。

129. 各国の訪問の中で,私は非政府組織の代表と会談し,それぞれの見解を聞く機会を設けました。これらの代表の多くは,私の政府との話し合いにも参加しました。障害者を代表する組織に情報を提供し、常に関わりを持たせることが,国家政策に障害問題を含め,合意のフォローアップや新しいアイデアに取り組む最良の方法であります。

D.国連加盟国の反応

130. 基準規則の我々のモニタリング活動に対する各国の反応はどうだったでしょうか。基準規則は,政府関係者の障害専門家の大部分からよく知られ,多くの国で広く活用されていると私は感じます。規則は,新しい法律を制定するときや行動計画の基盤として,さらに現状を評価する道具として利用されています。基準規則の内容や,特定分野での規則の適用を話し合うため,会議や研修会が開催されてきました。

131. 政府との話し合いの中で,非常に多くの課題が取り上げられました。一部の政府は,新しい障害政策の起案を検討していました。新しい政策や法律を実施するための計画を立てている政府も数多く存在しました。また,多くの政府は,特定の問題を解決するために,他国が基準規則を利用した方法に関心を持っていました。障害問題の責任の所在に関する関心も高いです。これは,政府がインクルージョン(包括)やメインストリーミング(統合)の考え方を取り入れたときに問題となります。この政策の実施責任を持つ省庁が,障害問題への取り組みに消極的な他の省庁や公共機関と対立する例が多く現れます。障害問題は障害専門家だけの関心事であるという観念は,世界中に深く根付いています。話し合いの中で取り上げられた他の重要課題には,協力と調整の問題,旧型システムから新しい考え方への移行,障害者に対する一般市民の否定的な態度の改善方法,施設入所型体制の廃止,そしてアクセシビリティや教育などの分野がありました。

132. モニタリングに対する加盟国の反応は,我々の世界調査に対する情報提供の様子から見ることもできます。実施におけるいくつかの側面に関して,百以上の政府は情報を提供しました。この方法で収集された広範な情報は,さまざまなフォローアップ活動に利用することができます。この例として,第2回調査で明らかになった深刻な人権問題があげられます。集められた情報はさらに,政府と全国的な非政府組織の協力体制の確立,教育アクセスの欠如における共通問題,開発協力の一般事業における障害対策の欠如など,世界的な現象の解明に利用できます。アンケート調査に回答した政府は,各分野に関する情報を提供するため熱心に取り組みました。これは当然,政府関係者の意識を向上させる効果があります。残念ながら,情報が一切得られなかった国もいくつか存在します。これらの国には招待されることもなく,調査に対する回答もありませんでした。大部分は小さい,貧しい国です。我々のモニタリング活動に参加しない理由は,財源の不足と障害問題に対する知識の欠如であると思います。特別報告者は招待を受けた国のみを訪問するという事実も当然,大きな制約となりました。

E.第3回調査の結果

133. 第3回調査に,回答した104ヶ国のうち,77ヶ国が(社会経済的規準によると)発展途上国であることを考慮すると,回答した政府の驚くべき高い割合が,障害者に対して医療ケア(104ヶ国のうち99ヶ国),リハビリテーション(102ヶ国のうち73ヶ国),補助具の提供(96ヶ国のうち87ヶ国)等のサービスを行っていると答えたことは大変勇気付けられる結果です。

134. このようなサービスが国に存在すること,及び政府が関わりを持つことは,このようなプログラムが既に確立され,国内で発展する可能性を持ち,さらなる開発の基盤があることを示します。ただし,このような概略的な質問に対する肯定的な回答には,さまざまな状況が隠されている可能性があることに注意しなければなりません。例えば,全ての障害者のニーズを満たしている国と,全国センターを設立しながらも全体の数パーセントのニーズしか満たしていない国の両方が,全国的なプログラムが存在すると回答する可能性があります。

135. WHOは政府と国を代表する非政府組織の双方の回答を考察するため,WHOによる最終報告でより完全な分析が行われることを私は期待しています。

136. いくつかの国でのサービスの提供範囲に関するフォローアップ調査も,状況の把握に貢献できると思います。

137. 多くの国でコミュニティに根付くリハビリテーションや他の地域型サービスが存在することは興味深いです。

138. 大部分の国で多数の障害者集団に補助具が提供されることは歓迎できます。

139. 数ヶ国で,障害者とその家族や組織は,例えサービス自体の存在よりかなり小さい範囲でも,サービス提供のさまざまな面に関わりを持っています。

140. 障害者とその組織が影響を与え,関わりを持つ権利は規準規則で強調されていますが,より多くの政府はこの関わりを強化し,保障する対策に取り組むべきです。

F.法律

141. 国連基準規則の採用と人権分野の発展は,各国の法律を現代化する圧力になりました。多くに国は,障害者に関連する法律を制定しました。一部の国は,憲法の中に障害と差別禁止を取り入れました。これは多くの場合,憲法の大幅な改訂と共に行われます。ほとんどの国は一般の法律の中に障害関連事項を含めるのではなく,別の特別な法律の制定を選びました。これらの新しい法律の形や内容は多様です。施行方法もまた多様です。難点の一つは,この法律の対象となる集団の定義です。私の知る範囲では,このような定義を分析する初の世界的事業は,1990年代に行われた,障害に関する国際指標・規準の国連専門家諮問会議(UN Consultative Expert Group Meeting on International Norms and Standards relating to Disability)であります(バークレー,1998年12月)。この会議の報告書には,国の法律の開発と国際協力に関連して,いくつかの重要な勧告や提案が含まれています。世界中の指標と規準に関する資料を作成するために各国の法律をまとめる,国連事務局障害プログラムによるこの活動は賞賛に値します。

G.人権の発展

142. 以前に述べた通り(II.C),人権と障害の分野は近年目覚しく発展しました。この発展の真髄は,国連人権モニタリング機構の関心事項の一つとして,障害と障害関連問題が認識されたことにあります。これは,近年の障害問題への取り組みにおいて最も重要な発展と言えます。この新しい機会を最大限に活かすため,次の目標は,この新しい行動をとるために,国連モニタリング機構,各国の行政機関,非政府組織の意識と能力を育てることです。私の知る限り,国連人権委員会による決議1998/31の採択以来,この分野での進展はごくわずかです。従いまして,この分野におけるフォローアップは最重要となります。

H.障害児

143. 障害児に関して,モニタリングの第2期中にいくらかの建設的な進展がありました。国連子どもの権利委員会が主催した1997年10月の討論会(ディスカッション・デー)は,障害児問題のさまざまな側面に対する関心を高め,委員会によるさらなる行動のための勧告を促しました。障害者と児童の権利に取り組む非政府組織で構成される,1999に設立された作業部会は,これらの勧告をフォローアップすることにより,貴重な情報と知識を提供することが大きく期待されます。

144. 多くの国連機関,とりわけUNICEF,UNESCO,WHO,ILOは,障害児に関するそれぞれのプログラムを持ちます。これらの活動を適切に調整し,統括的な取り組み方を維持し,重要な側面を漏れなく含めることが重要であります。

145. 障害に関わる非政府組織において,障害児に関する取り組みが拡大していることは感じられます。しかしながら,この取り組みをさらに発展させる必要があります。新しく設立された作業部会は,この作業に貢献できる可能性があります。

I.ジェンダー(社会的性別)面

146. 障害に関連するジェンダーの問題が,可能な限り,各分野のジェンダー問題への取り組みの一部として扱われていることが重要です。国連女性の地位委員会(CSW)が1997年以来,さまざまな活動分野に障害への取り組みを含めたことは歓迎できます。

147. ただし,障害を持つ女児や女性の生活状況を改善するためには,さらなる努力が必要です。現時点で最重要の課題は,障害を持つ女性が直面する問題や差別に対する,意識と知識の拡大です。これらの問題に対する知識と問題に対処する能力は,ジェンダー問題と障害問題の両方のプログラムに含まれる必要があります。

148. 一部の国連機関はこの分野での活動を始めており,これらの問題への国際的な取り組みを促進する重要な役割を担う可能性を持っています。また,国際的な障害者組織とこれに所属する各国の組織は,会員の意識向上に努めると同時に,障害を持つ女性と女児のおかれる状況を改善する運動に対する国際的支援体制を作る重大な役割を持ちます。これら全ての分野において,活動を拡大する必要があります。

J.発達障害,精神障害を持つ人々

149. この2集団は,我々の社会のおいて最も排斥される人々に含まれています。ほとんどの社会で,彼らと彼らの家族は否定的な態度や差別を受けます。全ての国において,彼らの存在を認識し,彼らのニーズを表立てる必要があります。インクルージョン・インターナショナルは,状況の改善に向けた親と専門家の動員に大きく貢献しています。これらの活動が継続・強化されるよう,支援を提供する必要があります。

150. 精神障害を持つ人々に関しては,彼らの利益を代表する国際的な組織がありません。最も重要なのは,これら障害者の小人数グループが組織化して自ら運動を進めることを,より多くの国で支援することです。精神医療ユーザーとサバイバー(生存者)の国際ネットワーク(World Network of Users and Survivors of Psychiatry)を強力な国際組織に発展するために最近採択された計画は,十分な支援と認識を受けなければなりません。

151. 双方の集団において,大規模保護施設の扱いは多くの国で非常に重要な課題です。これには,既に保護施設で生活している人々の生活品質の改善と,今後の施設への新規の収容者を防止する対策が関係します。従って,発達障害や精神障害を持ちながらも一般社会で生活していけるよう,支援サービスやプログラムを開発する必要があります。私の知る限り,この重要な分野において国連とその機関は政策を確立していません。

152. 国連の「精神病を持つ人々の保護および精神保健医療の改善に関する原則(Principles for Protection of Persons with Mental Illness and the Improvement of Mental Health Care)」は,精神病を持つ人々の治療と介護に関する明確で進歩的なガイドラインを提供します。国連加盟国がこのガイドラインの実施において,どの程度進んでいるか調査するのも興味深いです。私の知る範囲では,この決議の採択以来,このような追跡調査は行われていません。

K.国連の今後の関わり

153. 特別報告者としての私の任期は2000年8月に終了します。従いまして,社会開発委員会はその第38回会議で,モニタリング活動の継続の有無と方法を検討しなければなりません。基準規則の採用は重要な進展につながりました。より多くの政府が障害分野の政策開発へ積極的に関わり,計画と調整のための全国的な構想を確立しました。人権分野において障害はより重要な問題として取り上げらています。障害分野において,国連機構と国際非政府組織の協力関係が確立されました。さらに,基準規則が国家政策と法律の開発において重要な道具であることは証明されました。

154. これらの進展は,関心の拡大と新しい課題へとつながりました。人権の新しい状況をどのように活用できるか。基準規則の欠点はどのように対処するべきか。発達障害・精神障害を持つ人々の状況を改善するため,どのような行動がとられるべきか。現在の国連機構と国際非政府組織の協力関係は,今後どのように維持・発展できるか。

155. 今後の基準規則のモニタリングを考えるとき,この新しい進展を考慮する必要があります。私は専門家パネルと共にこれらの問題を話し合い,1999年初頭に送った手紙で提示した今後の選択肢について,貴重な回答を得ることができました。

a.障害に関する国連文書の強化

156. 基準規則は数多くの国で利用されています。また,基準規則には修正しなければならない,いくつかの欠点や不足が存在するのも知られています。本報告の項目III.2.で,このような問題箇所をいくつか紹介しました。規準規則に新しい分野や不足分野が含まれるよう,本委員会は規準規則を補完・開拓するべきだと私は感じます。

157. 10年前,国連総会は障害者の権利に関する条約の提案を却下しました。障害者の国際運動は,この却下の理由を全面的に認めることはできませんでした。多くの人々は,既に条約が批准されている他分野との根本的な違いを理解することができません。この十年間で国家政策や法律において目覚しい発展があったため,多くの政府が条約の樹立を受け入れる可能性は十分にあります。ただし,ここで問題なのは,条約を支持する政府の数が,条約批准を意義あるものにするほどになるかどうかにあります。

158. 条約化における重要課題の一つは,具体化のレベルであります。基準規則を発展させ,原則的なレベルの条約を制定し,この条約を規準規則と関連付ける方法もあります。

159. 人権分野での発展は,さらなる行動を求めます。人権委員会が検討するべきだと私が感じる選択肢の一つは,障害者の人権の様々な側面を前進させる特別議定書(special protocol)もしくは意見書(comments)の起草であります。この目的はモニタリング基準の改善です。少なくとも,特別な条約の一時的な代替となることができます。

b.今後のモニタリングの選択肢

160. 基準規則の実施を監視するために設けられた特殊なモニタリング機構には,規則の促進,加盟国への支援,状況の評価が含まれています。私の経験では,この作業の組み合わせは非常に効果的でありました。従って,観察するだけの消極的な機能にモニタリングを縮小するのは適切でありません。私の経験から判断しますと,同様の基本的機能を持ったモニタリング機構は継続されるべきです。

161. モニタリングを継続する場合,主要な選択肢は二つあります。一つは,国連事務局にこの機能を統合することです。もう一つは,現在と同じ体制で続けることです。国際障害者組織により任命された専門家パネルの体制は,このどちらでも維持されるべきです。人的・資金的に無理があると思いますが,第3の選択肢として,地域報告者(regional rapporteurs)で構成される国際的な機能の構築があります。各国への訪問は主にこれらの報告者が行うことになります。

162. モニタリングを有意義で効果的な形で行うためには,十分な資金が必要となります。当然,この資金を一般予算から支給することができれば,有利な形でモニタリングが実施できます。これが可能でなければ,特別予算からの資金を加える必要があります。

163. 人権の節で述べたとおり,私は国連人権委員会において,現在までの活動について話すよう招かれました。これに関連して,双方の委員会のために活動する職務が提案されました。このような職務が技術的に可能であるか,前例があるか,私にはわかりません。包括的な取り組み方,および同じ分野で活動する別々の国連機関による密接な協力の必要性を訴える形として,私はこの提案に高い関心をよせています。この中で最も重要なことは,人権と社会開発の両面から,障害をモニタリングできるような機構が確立されることです。

c.国連機構内の調整改善

164. 事務総長による第54回総会への報告,および本報告において,多くの国連機関が障害分野での広範なプログラムを持つことは明瞭に示されています。これらの機関の間で,国レベルと国際レベルの両方で調整を改善する必要があります。私は以前の報告でこの必要性を示し,障害者の10年(1983から1992)の期間中に存在した機関間機構(inter-agency mechanism)を正式に再設立することを提案しました。障害分野で活動する関係者が増え,実施される活動の数も拡大するに連れて,これらの活動の調整,経験の交流,情報の共有などを改善する重大な必要性があります。恒久的な解決策がない中,各機関は毎年非公式の会合を開いています。1999年6月に開催された国連機関と非政府組織の会議において,「運動に携わる各組織の任務を妨げるような事務的仕組みを加えず,適切な機構を通して,機関間協力を世界レベルで推進する」必要性が示されました。ACCの下に障害に関する小委員会を設立する可能性について探ることも提案されました。これは,障害問題がはっきりと表立たされることを保障します。

d.意識向上とキャンペーン

165. 今後の活動に関する話し合いの中で,第2回の国際障害者年と第2回の10年計画の両方が提案されています。このような運動に,国連の地域委員会や,地域の政府間機関を利用する可能性について探ることが提案されました。この方法で実現できる活動の良い例として,ESCAPの障害者の10年(1993〜2002)があげられます。アフリカとヨーロッパでも地域の10年計画が提案されています。アメリカ地域では最近,米州機構(Organization of American States)が障害者の権利に関する条約を採択しました。これに地域的な活動が続くことが予想されます。

166. これらの地域活動を考慮しますと,現時点で国際的なキャンペーンを始める必要性はないと私は感じます。国連の役割はむしろ,地域的な活動を可能な限り全面的に支援し,情報交換の機会を調整・実現することにあります。


障害者の機会均等化に関する基準規則 第2期モニタリングに関する最終報告
国連社会開発委員会 障害に関する特別報告者 ベンクト・リンドクビスト

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