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パネル会議 ニューヨーク 2001年9月4〜6日
会議資料7 議事7b


障害者のための適正な就労の促進

1.背景

国際労働機関の主要な目標は、自由・公正・安全で人間の尊厳を尊重する環境下での適正かつ生産的な就労の獲得において、障害者を含めた女性と男性の均等な機会を促進することである。

2.障害者の状況

現在、世界中に約6億1000万人の障害者がいる。このうち、3億8600万が就労年齢にあり、80パーセントが開発途上国の主に農村地域に住む。就労状況に関する広範で信頼できるデータは少ないが、以下の点が一般的な共通認識である:

以上より、多くの障害者は貧困と社会的排斥の状況下で暮らす。このような状況では、障害者が自らの暮らし、その家族や雇用者、そして社会全体に対して貢献する潜在的な能力が無駄にされている。

3.ILO障害プログラム

ILOの障害プログラムは、ILOの他のプログラムと同様に、就労が一人の人間としての成就、社会的統合、そして評価されるための重要な要素であるとの確信に基づいて進められている。また、適正な就労は放置・貧困・社会的排斥の厳しいサイクルから離脱する最も効果的な方法である。障害者は多くの場合、この厳しいサイクルの中に閉じ込められており、これから脱するためには積極的な行動を通した支援が必要とされる。障害者が就職と社会的地位の確保において直面するバリアは、様々な政策的手段・規則・プログラム・サービスなどを通して除去可能であり、除去されるべきである。

3.1 ILO第159条約

全てのILO条約は障害者にも適用されるが、1983年に採択された(障害者の)職業リハビリテーションと就労に関するILO第159条約は、全てのILO活動において障害者の職業訓練と就職機会を促進するための具体的な枠組を提供する。

第159条約は、適切に認められた精神的もしくは身体的な損傷(訳注:impairment)を理由として、適正な就労の獲得、保持、そして昇進の可能性が著しく狭められた人を、障害者と定義する。第159条約は障害者を労働者とみなし、障害を労働市場政策の一つの課題に含める。障害者は経済的に活発な集団として見られ、障害は、様々な政策手段・規則・プログラム・サービスなどを通して克服できる職業上の不利として認識される。第159条約は、各国の定義に関わらず、精神的および身体的な損傷を持つ人を含めた、職を求める全ての障害者に適用される。

第159条約は、障害者の職業リハビリテーションと就労に関する全国政策を導入するよう、条約を採択した国に呼びかける。この政策は、全ての種類の障害者に適切な職業リハビリテーション対策が提供されること、そして一般労働市場における障害者の就労機会の促進を保障しなければならない。政策は以下を原則とするべきである:

均等な機会

第159条約は、障害を持つ労働者と一般労働者、そして障害を持つ男性と女性の労働者の間の均等な機会の原則を基に、全国的な政策の開発を求める。この政策は、障害者(不利な立場におかれた集団)が一般市民と均等な就労・収入確保の機会を得られる保障を、目的とするべきである。障害者の均等な機会を実現するため、第159条約と他の関連するILO労働基準では次の3つの行動が示されている:

従って第159条約は、障害者の活動的な生活への移行を支援し、不必要もしくは望まれない生活保護への依存を防ぐために、障害者のための特別な対策の推進を求める。これらの特別な対策は、障害による不利(実質的なものと認識によるもの)を補うために必要である。従って、適切に認められた身体的もしくは精神的な損傷、またはこれに関連する社会的・環境的要因により、障害者が適正な就労の獲得・保持・昇進において著しい障壁に直面した場合、第159条約は、政策責任者とサービス適用者の義務としてこれらの障壁の除去を求める。

均等な待遇

第159条約は均等な機会に加え、障害を持つ男性と女性の均等な待遇を求める。

均等な待遇の原則は、均等な機会の原則と関連しているが別なものである。ここで問題になるのは人権である。均等な待遇の保障は、障害を福祉とリハビリテーションだけではなく、労働法の枠内の問題の一つとして位置付ける。これには明確な法的規定があり、侵害があった場合、被害者は法律や仲裁裁判を通して救いを求めることができる。これは、好意的な待遇を、社会・組織・個人の好意により提供または中止出来る慈善行為として、今までの経験から認識してきた障害者には、特に重要である。

第159条約は、障害者にとって効果的で結果に表れるような均等な機会を、保障される権利の一つとして位置付ける。形式的な均等では十分とみなされない。例えば、職場が完全にアクセス可能でない場合や、仕事が障害に適応されていない場合、障害を持つ労働者を健常の労働者と同じ仕事に割り当てるのは均等な待遇とは言えない。

均等な待遇を受ける権利は、他の国際的な労働基準で定義された労働者の権利が、原則的に障害を持つ労働者にも適用されることを意味する(例外としてこれらの権利が制限された場合を除く)。

均等な待遇の概念は、差別の禁止とも結びつきがある。第159条約を採択した国には、障害者を差別から保護する規定を労働法に組み込むことが求められる。これらの規定は、障害者が自らの権利を効果的に守れるような、法的な保護や仲裁の手順を確立するべきである。一部の国はさらに一歩進み、障害を持つ労働者と職を求める人への均等な待遇を保障する、特別な反差別法を採択した。

第159条約は「障害を持つ労働者と他の労働者の間の均等な機会と待遇を目的とする、特別で建設的な対策は、他の労働者に対する差別とはみなされない。」と明示する。

メインストリーミング

ILOは可能で適切な場合において、障害者が職業訓練センターを含む、既存のサービスに健常者と同じ形でアクセスできるよう奨励する。

三者協議

第159条約は、政策の実施計画を、公共機関が労働者と雇用者の助言を得て開発することを奨励する。三者協議による取り組みは、ILOの全ての活動のおいて重要視されている。さらに、障害者の組織と障害者のための組織の代表者からも、助言が求められるべきである。

政策・プログラム・サービスは、政府、労働者と雇用者の組織、障害者の組織と障害者のための組織の間の協議で、開発されるべきである。地域社会の参加は、とりわけ農村地域において不可欠である。

4.障害プログラム − 活動

障害プログラムは、以下の方法を通して障害者の機会拡大を支援する:

4.1 知識

障害プログラムは、障害に関連する政策と実践に関する応用研究、情報の収集と普及、ガイドラインや報告書の出版などを通して、障害者の職業訓練と就労に関連する知識の拡大に努める。現在の焦点は以下の通りである:

職場における障害管理の取り組み
ILOが2001年10月に採択を予定している「職場における障害の管理に関する行動基準」が2001年と2002年に積極的に普及される。行動基準を支える広報・技術的資料は現在準備中である。
職場における精神衛生の促進
ILOが2000年10月に完了した、職場における精神衛生問題に関する研究に続き、小企業の職場での精神衛生問題に関する研究プロジェクトの準備が現在進められている。目標は問題の範囲を把握することだけでなく、問題を克服できる政策、プログラム、及び実践例も確認される。適正事例に関する情報の普及も同時に予定される。
障害者の就労機会改善における、就労関連法律の効果
2002年初頭に開始予定のプログラムとして、現在採用されている、障害者の就労機会を促進するための法律の範囲を調べる研究がある。障害者の機会拡大におけるこれらの法律の効果とその実施機構が焦点とされる。このプログラムは、法律と法律の施行及び影響に関する地域的な調査実施の他、地域・小地域ワークショップにおいて政府・社会パートナー・障害者の代表者のそれぞれの見解を聞き入れる。これらのワークショップは、ILOおよび関連する地域・全国機関で共催される。地域・小地域ワークショップのフォローアップとして、顧問の派遣、研修ワークショップ、ガイドラインなどの形を通した、障害者の就労に関する法律の起草や改訂などに関する、選ばれた政府への専門的な支援を行うプログラムが実施される。

4.2 アドボカシー

均等な機会、均等な待遇、メインストリーム・サービスへのアクセスは、以下を通して働きかけられる:

4.3 技術協力プロジェクト

障害者が直面する貧困と社会的排斥の問題を解消するため、ILOは、アジア、ラテンアメリカ、アフリカ、中央・東ヨーロッパ、アラブ諸国を含む世界各地で技術協力プロジェクトを実施してきた。これらのプロジェクトでは、ILOの原則である、反差別・均等な機会と待遇・地域社会の関わりの必要性・以前の事業での経験を活かす必要性、などが反映されている。技術協力支援の主な対象は、開発途上国、転換期の国、及び紛争から立ち直ろうとしている国である。障害者のための職業訓練と就労機会のメインストリーミングに貢献する事業が最近重視されてきている。

現在のプロジェクトには以下が含まれる:

準備中のプロジェクトは以下の通りである:

5.ILOプログラムに障害の要素を含める

障害者に関わる活動の開発において、障害分野に特定した活動に加え、関連する主要なILOプログラムにも障害の要素を含める必要があると、ILOははっきり認識する。このようなプログラムには、自営業と小事業開発へのアクセス・機会拡大プログラム(「SEED」や、女性の起業能力の育成および企業における性別 −「WEDGE」プログラム)、及びインフォーマル・セクターのプログラムが含まれる。さらに、社会保障規定の改善に関連するプログラムも含まれる。このような社会保障は、労働力への参加を妨げてはならなく、障害の防止と職場における障害者の雇用に深く関係する、仕事と職業安全・保健基準の状況に注目しなければならない。

障害プログラムは、雇用性の改善に向けた研修と人的資源の育成への投資拡大を目的とした、能力・知識・雇用性に関するインフォーカス・プログラム(IFP/SKILLS)の一部である。取り組みには2つの柱がある:現在まで適正な就労から排斥されてきた集団を対象とすること、そして、職業訓練と就労サービスの主要機関のリフォーム並びに強化である。IFP/SKILLSは、十分な就労と収入を確保するために、女性と男性により広い機会を提供することを目的としたILO就労部門の一部である。

6.市民社会組織とのパートナーシップ

長年ILOの障害プログラムを形作ってきた市民社会組織とのパートナーシップも、国際労働機関全体を通してさらに重要視されている。これを踏まえ、障害プログラムは、障害者の機会拡大と促進におけるより強力な協力体制を確立するため、雇用者の国際組織および市民社会組織との共同作業を強化している。


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