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専門家パネル会議 ニューヨーク 2001年9月4〜6日
会議資料4 議事9a


WHO障害政策

2000年9月

目次

1.前置き
2.障害は人権問題である
3.障害への対応は社会の責務である
 3.1.平等参加へのバリアを除去する
 3.2.障害者の排斥へ至る要因に対処する
 3.3.意識向上を目的とした教育や広報事業を開発する
 3.4.保健・経済・社会開発政策の計画と評価に障害問題を含める
4.障害者のための十分かつ適切な保健サービスを保証する
 4.1.障害者を保健イニシアチブに含める
 4.2.障害の発生要因に対処する
 4.3.生物医学・遺伝子の研究から得られた新しい技術の適用
 4.4.研修の中核カリキュラムに組み込む、障害に関するモデル事業の開発と開始
 4.5.障害に関する正確な情報の収集
 4.6.障害者組織への諮問
5.内部的な運営・モニタリング手順の開発


障害政策

1.前置き

障害者の保健と福利への権利は、人権の一つであるとWHOは確信する。障害を人権問題として理解することは、障害者が平等な市民であり、従って平等な権利と責任を有する、という認識に結びつく。人権を基準とした障害への取り組みは、平等参加へのバリアの除去、及び障害に基づく差別の撤廃に焦点をおく。人間は、身体的、知的、感覚的な機能障害、または健康状態や精神的な病気による障害を持つことがある。WHOは、保健促進、社会的・文化的包括、そして経済開発が含まれる統合政策を通して、障害問題に取り組む重要性を認識している。これは、世界保健機関憲章に述べられる基本原則である「健康とは、単に疾病や虚弱がないことではなく、身体的、精神的、社会的に完全に満足のいく状態を指す。」に添うものである。本政策は、WHOの事業のフレームワークとなること、また、WHOと加盟国による障害者のためのより優れた、より関係の深い政策や事業の促進を目的とする。

WHOの目標は、健康な市民と地域社会の促進、そして疾病(ill-health)の防止である。これらの目標は、WHOの団体戦略(Corporate Strategy)の中でさらに発展されており、この戦略の中核的機能は、明確にWHOの障害政策へ影響している。

障害は世界的な問題である。世界人口の7〜10%、すなわち4億2千万〜6億人が障害を持ち、日常生活と社会参加が困難となっていると見られている。この数値にはいくつかの要因が関係する。平均寿命の延びは、障害がより多い高齢化社会に結びつく。出産前後の医療の改善は、障害を持つ児童の生存率を上げた。非伝染性の病気の世界的な増加は、慢性病や障害を持つ人々の増加に至った。また、多くの人々はけがを負って障害者となると共に、けがは疾病の負担増加にもつながる。

貧困の中で生活する人々の6人に1人は、軽度または重度の障害を持つ。障害者は、世界中で最も貧困かつ排斥される集団の一つである。障害は、貧困と疾病(ill-health)の関係を明確に証明する。障害は貧困の原因となり、逆に貧困は障害の危険因子となり得る。障害は社会の全ての分野に影響し、貧困と同様に、各分野間の相互的な行動がとられる必要がある。

2.障害は人権問題である

「健康は人間の基本的権利であり、到達可能な限りの高度な健康水準を達成することは、人種、宗教、政治思想、経済的・社会的状態に関係なく、全ての人間の基本的権利のひとつである」。WHOは、WHO憲章に述べられるこの原則を再確認する。WHOは、人種、肌色、性別、言語、宗教、政治及び他の思想、国や社会的な素性、財産、誕生、及び他の状態による差別なく、全ての人々の権利擁護を確約する世界人権宣言や他の人権規約などにより、人権全般を促進並びに擁護する現在の法的な枠組を是認する。また同時に、障害者が保健の分野において他の人々と同様の権利と待遇を有し、これらの権利を行使するための社会的・経済的資源および法的保護へのアクセスを持つべきであると認識する。機会均等化の対策と非差別の原則の組み合わせにより、障害者は、他の全ての人が有する、保健関連の権利と待遇を獲得することができる。

障害者が、全国的および国際的な人権活動で保障される権利を完全に享受するためには、可能な限り高度な健康と福利を達成できるような、適切な保健・リハビリテーション・社会サービスへのアクセスが必要となる。障害は健康問題でもある。しかしながら、一部の障害者は、その機能障害に関連して特定の健康問題を抱えるが、そうでない障害者も多い。WHOは、人が障害を持ちながら健康であることも可能であると認識する。

3.障害への対応は社会の責務である

WHOは、障害への対応は社会の責務であると確信する。WHOは、障害者を含めた全ての人々の社会における完全参加を実現するため、社会的、経済的、及び健康的状態を改善する責務を自覚するよう、加盟国に奨励する。また、実質的な進展を得るには、障害者に対して一般的に見られる偏見、広範な社会的隔離、そして差別への対応も避けて通ることは出来ない。

さらに、全ての社会において、社会経済的状況、年齢、性別、学歴などが障害を持つ人の生活品質に多大な影響を与えること、そして恵まれない集団に属する障害者をさらに不利な立場へ置くことを、WHOは認識する。教育、就労、及び社会交流での均等な機会の不足は、何億人もの障害者の財産を制限し、社会へ貢献する機会、そして現在と未来の自らの人生の方向性を決定する力を彼らから奪う。

3.1.平等参加へのバリアを除去する

全ての政府は以下に並べられた分野などの平等参加へのバリアを除去することで、障害者の保健と福利を促進する責務を持つとすることが、「障害者の機会均等化に関する国連基準規則」の原則である。WHOはこの原則を政策の一つとして是認する。

「障害者に関する世界行動計画(1982)」が障害に関する原則の枠組を提供するのに対し、1993年に国連総会が採択した基準規則は、具体的な行動指針を提示する。

上に述べられた目標分野における、保健と関連する社会面の行動の実施において、WHOは加盟国に支援を提供することに最大限努める。基準規則によると、意識の向上、医療ケア、リハビリテーション、及び支援サービスは、上に述べられた目標分野における平等参加の前提条件である。WHOはこれらの規則の実施とモニタリングに関して加盟国を支援する。

3.2.障害者の排斥へ至る要因に対処する

特定の要因の組み合わせが障害者の排斥を深刻化させる可能性があることを、WHOは認識している。これには、障害を持つ女性や高齢者、及び民族的・人種的・宗教的マイノリティに属する障害者が直面する差別的な待遇と偏見が含まれる。政治や社会的な変革も、障害者の排斥を拡大させる危険性がある。例えば、難民集団において、障害者は他の人々と比べて取り残される可能性が高く、施設や病院に収容もしくは置き去りにされることが多い。障害を持つ難民、そして暴力と虐待の危機にさらされている障害者に、特別な配慮をおく必要がある。WHOは、このような排斥の状況に対する意識の向上に努める。また、これらの集団を非常に被害の受けやすい立場に置く要因を確認して解決に取り組むよう、国連機関との協力で政府と非政府組織に奨励する。

3.3.意識向上を目的とした教育や広報事業を開発する

WHOは国連機関および非政府組織との協力で、仕事の一部として日常的に保健と障害に携わらない政策責任者の意識向上を進めるため、教育と広報事業の開発に取り組む。また、公衆全般を啓発するための広報事業も必要である。

周辺社会とそのリーダーが障害について認識し、敏感になり、知識を持つことで、障害者とその家族の生活が著しく改善されると、WHOは信じる。障害者の積極的な参加がある地域社会の教育(コミュニティ教育)がきわめて重要である。障害者組織は、このような教育の促進において重要な役割を果たすことが出来る。家族が効果的な擁護者になるには、家族自身が能力を身に付け、支援される必要がある。

3.4.保健・経済・社会開発政策の計画と評価に障害問題を含める

WHOは、パートナーとの緊密な協力で、全国的ならびに国際的な開発政策と事業への障害問題の組み込みを、全市民の可能な限り高い保健水準を実現するための活動の、基本要素の一つとして促進することを公約する。

経済的、社会的、文化的、市民的、政治的権利を含めた全ての人権が相互的に関係並びに依存するため、地区的、地域的、全国的、国際的な経済開発促進事業に、障害者を含める必要があると、WHOは考える。従って、差別がない平等な立場で保健・教育・住居・食料の権利の相互関係を認識した、多分野的な取り組みが必要である。

4.障害者のための十分かつ適切な保健サービスを保証する

医療システム全体、とりわけ一次医療(プライマリ・ヘルス・ケア)では、人間の機能的な状況に関わらず、全ての人が、必要とされるサービスが受けられることを保証するべきである。障害に直接関係しない要望を含めて、障害者の保健ニーズが満たされることを保証するよう、WHOは加盟国に奨励し、支援を提供する。市民全般の保健状況を改善するための計画には、障害者が含まれるべきである。

障害者による保健とリハビリテーション・サービスへのアクセスを保障するため、病院と他の保健機関はアクセス可能でなければならない。カウンセリング・センターや薬物・アルコール依存症治療など、保健教育・保健促進・社会福祉事業に関する情報を一般医療施設外で提供するプログラムにも、このようなアクセシビリティを拡大しなければならない。アクセシビリティには、車椅子によるアクセス、及び可能な場合の代替形式での情報提供も含まれるが、これらに限られることはない。

一般的な医療サービスは、治療を受ける権利と十分な説明を受けた上で選択する権利を患者に保障する、職業上の倫理規定と医療規則に基づいて行われる。WHOは、障害者が治療をいつ、どこで、誰から受けるか選択できることの重要性を強調する。特定の状況において、健常者に一般的に提供される医療は、障害者には拒否、もしくは違った形で提供される。さらに、健常者にとって不当な介入行為とみなされる医療が、障害者に一般的に行われていることが、一部に見受けられる。必要とされる手術や医療行為において、障害を持つという理由で医療の優先度を下げるようなことはあってはならない。

4.1.障害者を保健イニシアチブに含める

保健教育が保健と福利の必要条件の一つであると、WHOは認識する。WHOはその保健教育や保健促進イニシアチブに、障害者が持ち得る特定のニーズを認識した要素を取り入れる。

地域に根ざしたサービスと生活基盤の開発は、人権の享受と社会参加の前提条件と認識される。施設(保護施設や精神病院)への収容は、家庭や地域社会での長期的ケアの代替となることはできず、当人に対する身体的・性的・社会的・感情的虐待の危険性を拡大する。障害を持つ児童、成人、高齢者が自らの地域社会に留まる、もしくは戻ることを可能にし、援助とレスパイト・サービス(訳注:障害者を持つ家族を一時的に、その障害者の介護から解放するためのサービス)を障害者の家族に提供する支援活動や事業、そしてリハビリテーション・サービスの開発を、WHOは奨励する。

WHOは、地域に根ざしたリハビリテーション(CBR)を促進かつ支持する。CBRはサービス提供の責任を地域社会レベルにおく。また、医療で一般的に提供されるサービスの枠を越え、障害の予防と管理において多様な組織と個人の関与を前提とする。さらにCBRは多部門・多分野的な活動であり、医療の専門家、地域社会の構成員、障害者、そして障害者の家族の間のパートナーシップを促進する。「障害者が身体的・精神的能力を最大限に育てれられること、一般的なサービスや機会へのアクセスを持つこと、そして地域共同体と社会において完全な社会的統合を実現することを保障するのが、CBRの主要な目的である。この目的では、機会の均等化と地域社会への統合を含む、広い意味でのリハビリテーションの概念が使われている。」(ILO/UNESCO/WHO共同方針書、1994年)

4.2.障害の発生要因に対処する

障害要因の予防は、WHOの重要な目標の一つである。障害の発生に大きく影響する要因には、負傷と疾病だけでなく、出産前後の医療ケアへのアクセスの不足、安全な水の不足、栄養不良、貧困などの原因となる、社会的・環境的・経済的条件も含まれる。WHOは、保健における予防、リハビリテーション、そして機会均等化の間の連携強化に努める。

障害要因の防止に関するWHOの取り組みは、疾病から障害への進行において障害に先行する2つの段階に焦点を合わせてきた:疾病や負傷の予防、そして負傷および損傷による後遺症の予防または治療である。WHOは損傷と障害の予防と削減を重要な目標として認識しており、今後も重要課題として障害の予防に取り組む。

4.3.生物医学・遺伝子の研究から得られた新しい技術の適用

WHOは、生物医学と遺伝子の研究による科学の進歩が、障害者の生活に大きな影響を与えることを認識している。新しい技術の導入は、疾病や障害の発生を予防もしくは制限する大きな可能性を持つ。ただし、遺伝学や他分野の生物医学の研究から生まれる技術の一部が、障害者の生活に悪影響を及ぼす可能性があると懸念されていることも、WHOは認識している。

WHOは、障害者の尊厳と自立を擁護し、障害者と健常者の生命の価値が平等であると強調することに、最大限努力する。この取り組みには、予防と治療の双方の医療と保健ケア、そして障害要因を減らし、悪いイメージを解消するための、社会的・法的手段も含まれている。

4.4.研修の中核カリキュラムに組み込む、障害に関するモデル事業の開発と開始

WHOは、関心を持つ他の国連機関との協力で、保健専門家の研修の中核カリキュラムに組み込むため、保健的・社会的・経済的・政策的権利、そして人権における障害に対する理解が含まれたモデル・プログラムの開発を促進する。保健スタッフは、障害者のカウンセリングの研修も受けるべきである。また、研修中の保健専門家の教員や相談役として、障害者、障害者組織、障害者の家族などが起用されるべきである。

4.5.障害に関する正確な情報の収集

障害者の状況を把握し、障害者の保健状態と福利の改善をモニタリングするには、正確で信頼可能な情報が必要となる。従ってWHOは、全ての加盟国において、障害に関する正確な情報と疫学的なデータの収集を促進する。

障害者の保健と福利への危険の拡大を把握するには、正確な証拠と情報が必要である。普段から見過ごされやすい小集団に関する情報の収集に、特に高い関心が向けられる必要がある。これには、女性、少数民族、難民、移住労働者、青年、重複障害者などの集団が含まれる。

障害者の科学的モデルを提供すると共に、障害を3つの次元(心身レベル、個人レベル、社会レベル)に分類する、国際障害分類(ICIDH−2)の改訂と試験作業において、WHOは最大限努力する。ICIDH−2は、障害者による社会参加へのバリア、または反対に、完全参加の促進剤として、身体的・社会的・環境的要因の果たす役割を明確に示す。ICIDH−2は情報収集と管理だけでなく、障害者のための社会事業の立案と政策開発の基盤も提供する。さらに、証拠に基づいた人権課題への取り組みにおいて、研究基盤を提供する。

4.6.障害者組織への諮問

WHOは、障害者の保健と社会的状況に影響する事項について、定期的に障害者とその家族の助言が求められることを保証するためのガイドラインを開発する。障害者自身が、最初から政策開発の一環となる必要がある。また、評価とモニタリングを含めた政策、プログラム、及びサービスへ、継続的に障害者の意見を取り入れる必要がある。

国際組織、国の行政機関、保健サービスに勤める専門家などは、全てのレベルにおける優先課題の設定と意思決定において、障害者の専門的知識と経験が活かされることを保証しなければならない。

5.内部的な運営・モニタリング手順の開発

WHOはその障害政策全体と一致した、内部的な運営手順を開発する。WHOが提案、支持、または実施する計画や事業は、事業の継続的なモニタリングの一環として、障害者の保健と福利への影響と効果が、適宜評価されるべきである。また、本文書に述べられる政策の効果的な実施を補助するために、モニタリング機能が設置される。世界保健総会への定期報告は、国連社会開発委員会の障害に関する特別報告者、さらに障害者組織からの定期的な助言に基づいて、準備されなければならない。

WHOは、スタッフとしての有能な障害者の雇用を奨励する。障害を持つスタッフの識見はWHOの業務の様々な面において有効活用できるため、これらのスタッフは障害関連事業だけでなく、WHOの役職全般に配置されるべきである。従って、WHOの建物、施設、及びサービスは、障害者にアクセス可能でなければならない。


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