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国際障害コーカス (IDC)
国連「障害者の権利及び尊厳に関する総合的かつ包括的な権利条約」
第13条:思想、表現及び意見の自由

意見書(インフォメーション・シート)
原文:http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/art13.htm


国際障害コーカス(IDC)は、作業部会草案の第13条が、表現及び意見の自由よりも、むしろ情報へのアクセスに関連する問題に重点を置いていることを強調し、各国政府代表団には是非、第13条の柱書き及び本文に「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(ICCPR)が示す表現及び思想の自由の要素を取り入れるよう要求する。

「手話」を国内法で認知しなければならない理由

手話は、単にコミュニケーションの方法(メソッド)または形態(モード)ではない。手話は独自の文法構造を有する自然言語である。現在までに、30カ国が国の法律の中で手話を認めている。最も新しい動きとして、ニュージーランド政府が採択した「手話法案」(Sign Language Bill )があげられるが、これは2005年の中頃には実施される予定である。手話をれっきとした言語として認める必要性の背景には、これまでろう者が、国のサービスを受けようとする際に直面してきた深刻な困難と、その結果受体験してきた多くの不正がある。例えば、法廷においてろう者が手話通訳を使うことが認められず公正な審判がうけられなかった例が報告されている。医療現場においても、手話通訳の利用が認められなければ、誤診の危険性があり、またインフォームド・コンセントも得られなくなる。また、手話が法的に認められないと、大半のろうの子供たちは手話が使用できず、自分達の言語で教育が受けられない。その結果、ろうのこども達は教育から排除され、基本的人権のひとつである教育権が奪われる。

条約に点字を取り上げる必要がある理由

点字は盲及び盲ろうの人々にとって、識字能力(literacy)を身に着ける第一手段であり、読み書きに使われる唯一のコミュニケーション形態(モード)である。テクノロジーによって、いかなる代替コミュニ−ション形態(モード)が開発されようとも、盲及び盲ろう者、弱視の人々の基本的な読み書きの手段は点字である。家庭内において、盲の人は調味料に印をつけるときに点字を使うが、このような実際的な場ではテクノロジーがとって変わることはない。視覚障害のない皆さんの場合も、テクノロジーが進むからと言って、文字文章を無くすと言う考えは誰も指示しないでしょう。では、なぜ盲の人のこととなると、点字と言う読み書き手段を音声のテクノロジーで置き換えることが提案されるのでしょう?さらに、盲ろう者の場合は、点字を音声テクノロジーで置き換えることはできない。これまで、点字を盲の人の正式な筆記体(script)として法律で認めた国はない。

補強的、代替コミュニケーションとは何であり、なぜ重要であるか

身体的または知的障害のため、話し言葉や書き言葉でのコミュニケーションが行えない人がいる(たとえば脳性麻痺などのひと)。これらの人々は補強的または代替的なコミュニケーション方法を使用する。これらの方法には、コミュニケーション・アシスタント〔介助者〕、コミュニケーション・ボード、支援技術などがあり、これらのような方法をいくつか組み合わせて使用する人もいる。これらの手段は、このような障害を持つわたしたちの仲間のコミュニケーションを可能にするものであり、よって彼らの人権の実現には不可欠である。
国際障害コーカスが提案する条約文案
第13条:思想、表現及び意見の自由

原文:http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/art13draft.htm
1.締約国は次のことを保障するために全ての適切な手段を講じる:
  1. 全ての人が、他の人々と同等に表現、思想、意見の自由を享有する。
  2. 障害者は、表現、思想、意見の自由を行使する際、自らが選択する言語、筆記方法、コミュニケーション形態、方法、形式を用いることができる。他の人々と同等に情報を求め、受け取り、告げるために、手話、触知的コミュニケーション技術、キャプション〔字幕〕、明瞭で理解し易い文章、拡大文字、点字、などの使用があげられるが、これらに限定されることはなく、あらゆる補強的、代替的なコミュニケーション方法を用いることができる。

2.締約国は次のための措置を講じる:
  1. 障害者が、情報を求め、受け取り、告げ、アクセスし、他の人々と同等にコミュニケーションが行えるようにするため、様々な言語及び情報通信技術(ICT)を含む様々なコミュニケーション形態や方法を受け入れ、促進する。
  2. 介助者(assistants)、仲介人(intermediaries)、通訳者〔例えば手話通訳者や触知コミュニケーション通訳者など〕、ノートテーカー、朗読者、その他補強的及び代替的コミュニケーションを補佐する人などに対して研修を行い、障害者がコミュニケーションを行うために必要な情報アクセス及び設備が得られるようにする。
  3. 国別手話を各国の法律で公式に認知し、全てのろう者の言語権を保障し、これらの人々が家族、地域社会、及び社会全体とコミュニケーションできることを保障する。

3.締約国は、障害者の思想の自由を保護する。この権利には、次が含まれる:
  1. 自分自身のことを障害者と考えるかどうかを選択する自由。
  2. 障害の体験に関する意見や信念を取り入れ、持つ自由。
  3. 健康と幸福(well-being)のために必要な支援を、自らの思想、意見、信念などに基づいて選択する自由。
  4. 考えを自由に生み出し、保持する力を阻害する強制を受けない自由。

----  参考  ----
国連「障害者の権利及び尊厳に関する総合的かつ包括的な権利条約」に関する
第5回特別委員会(2005年1月24日〜2月4日、ニューヨーク)
報告

原文:http://www.un.org/esa/socdev/enable/rights/ahc5docs/ahc5advancereporte.doc(ワード形式)

(第13条関連項目のみ抜粋)
第13条に関する討論のまとめ

68. ファシリテーター(モロッコのオマール・カディリ氏)による協議の結果、「適切なコミュニケーション形態(モード)…コミュニケーション方法」という言葉を「手話、点字、補強的代替コミュニケーションなど、障害者自身が選択する全てのアクセシブルなコミュニケーション方法、形態、形式」に変更すると言う提案がコーディネーターから発表された。
69. ある代表は、この条文に「思想の自由」を盛り込む提案をしたが、委員会は、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」の場合も、表現の自由と思想の自由は別個の条項で取り上げていることを説明し、この条約の場合も、別な場所で再度取り上げるべきであると指摘した。
70. 討議の結果、(訳注:第13条の)柱書きの部分は、現在次のようになる:

締約国は、障害者が、手話、点字、補強的代替コミュニケーションなど、自らが選択する全てのアクセシブルなコミュニケーション方法、形態、形式を用いて、他の人々と同等に情報や意見を求め、受け取り、告げる自由を含む、意見表明及び言論の自由を享有できることを保障するために、次を含む必要な全ての適切な策を講じる:

段落(a)
71. ファシリテーターの文章がこの段落で使用されるべきであると言うことで全体的な合意が得られた。
72. 幾つかの代表団は、「公開情報」(public information)という表現に何らかの説明を加えないと、無制限な供給義務が生じることを案じた。これについて幾つかの提案があった。まず段落(a)の「公開」(public)と言う言葉を「公共に利用可能な」、あるいは「公式な」といった言葉で修飾すると言う案が出された。次に、この段落を「適切な手段をとる」という言葉をいれるという提案があり、さらに「依頼に応じて」と入れるべきであるという意見もあった。
73. これらの提案に関する合意はなかった。さらに他の代表団からは、最初からアクセシビリティーを考慮してデザインされたシステムや形式は政府にとって大きな追加コストをもたらすわけでもなく、したがって修飾する言葉は不要であると言う意見が出た。
74. これらの討議を経て、段落(a)は現在次のように修正されている:

(a) [一般市民のための/締約国やその他の公的機関が一般市民に提供する][公的/公開/公共的に公式な/公開されている公式な]情報を障害者にも[依頼に応じて]適時に、追加料金を取ることなく、様々な障害にアクセシブルな形態及技術を用いて[提供するための/適切な手段をとる。

段落(b)
75. コーディネーターは暫定的な案として、この段落に「受諾し、促進する」という言葉の使用を提案した。委員会は言葉の一貫性を得るために、「様々なコミュニケーション形態」という言葉を、とりあえずこの条文の巻頭で使用した言葉に置き換えることで合意した。
76. その結果、段落(b)は次のとおりに修正された:

(b) 全ての公的場面において、障害者が手話、点字、補強的代替コミュニケーションなど、自らが選択する全てのアクセシブルなコミュニケーション方法、形態、形式を用いることを[承諾し、促進する]。

段落(c)
77. 委員会はここでも、言葉の一貫性を得るために、「自ら選択するコミュニケーション形態」という言葉を、条文の巻頭で使用した言葉に置き換えることで合意した。
78. しかしながら、この段落に「教育プログラムを提供し」または「訓練を受ける機会を促進する」という言葉を入れるかどうかに関してはまったく合意できなかった。
79. 結局委員会はこの段落を第13条に残し、後で適切な挿入個所を検討することとした。
80. 小段落(c)は現在下記のとおりとなっている:

(c)障害者を教育するため、また適切な場合、その他の関係者に対して、手話、点字、補強的代替コミュニケーションなど、自らが選択する全てのアクセシブルなコミュニケーション方法、形態、形式を使用できるように(教育プログラムを提供し/訓練の機会を促進する)。

段落(d)
81. 委員会は、小段落(d)を類似する内容の段落と統合し、第4条の一般的義務の部分に移すと言う 前回の会議の決定を確認した。

段落(e)
82. 委員会は、段落(e)を今後の会議において、第17条[教育]及び第19条[アクセシビリティ]の部分で検討することを決めた。

段落(f)及び(g)
83. 委員会は、民間セクターが提供する情報が(a)に含まれるか否かが決定するまでは、当面段落(F)を残すことで合意した。
84. 作業部会草案のように「奨励する」という言葉を使用すべきか、「要請する」あるいは「要求する」といったさらに強い表現とするかについて合意が得られなかった。この討議の際、できる限り多くの締約国の同意が得られる条約を作る必要があると言う意見もあった。
85. 何人かの代表は、段落(f)と(g)をひとつにまとめると言う提案をした。また、他の人は、片方、もしくは両方の段落、及び巻頭の部分、あるいは別段落の課題としてインターネットに関する記述を提案した。
86. 討議の結果、段落(f)及び(g)は現在次のとおりとなっている:

(f)一般社会にサービスを提供する民間団体に対して、障害者もアクセスし、使用できる形態での情報とサービス提供を[奨励する/要請する/要求する]。
(g)マスコミが提供するサービスも、障害者にとってアクセシブルにするよう[奨励する/要請する/要求する]。


段落(h)
87. 段落(h)の内容を残す方が望ましいかと言う議論について、合意が得られず、今後の会議でさらに十分に討議されるまで、当面は残すことになった。
88. 今後再度討議される必要性が認められた段落(h)は現在次の形で残っている:
(h)国別手話を[開発/認知/促進]する。
_____________________

第5回特別委員会の討議を経て、現在、第13条の文案は次の通りである:

第13条

締約国は、障害者が、手話、点字、補強的代替コミュニケーションなど、自らが選択する全てのアクセシブルなコミュニケーション方法、形態、形式を用いて、他の人々と同等に情報や意見を求め、受け取り、告げる自由を含む、意見表明及び言論の自由を享有できることを保障するために、次を含む必要な全ての適切な策を講じる:

(a) [一般市民のための/締約国やその他の公的機関が一般市民に提供する][公的/公開/公共的に公式な/公開されている公式な]情報を障害者にも[依頼に応じて]適時に、追加料金を取ることなく、様々な障害にアクセシブルな形態及技術を用いて[提供するための/適切な手段をとる。

(b) 全ての公的場面において、障害者が手話、点字、補強的代替コミュニケーションなど、自らが選択する全てのアクセシブルなコミュニケーション方法、形態、形式を用いることを[承諾し、促進する]。

(c)障害者を教育するため、また適切な場合、その他の関係者に対して、手話、点字、補強的代替コミュニケーションなど、自らが選択する全てのアクセシブルなコミュニケーション方法、形態、形式を使用できるように(教育プログラムを提供し/訓練の機会を促進する)。

(f)一般社会にサービスを提供する民間団体に対して、障害者もアクセスし、使用できる形態での情報とサービス提供を[奨励する/要請する/要求する]。

(g)マスコミが提供するサービスも、障害者にとってアクセシブルにするよう[奨励する/要請する/要求する]。
(h)国別手話を[開発/認知/促進]する。

更新日 2005年4月5日
財団法人 全日本聾唖連盟

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