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※全日本聾唖連盟による仮訳

国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)による
「障害者の権利及び尊厳の保護及び促進に関する総合的かつ包括的な国際条約」
に関する提案


序文
アジア太平洋地域の政府は、アジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)をさらに十年(2003〜2012)延長することを決定した。2002年10月に日本の滋賀県大津市で開催されたアジア太平洋障害者の十年最終年ハイレベル政府間会合では、新しい十年の政策ガイドラインとして、「アジア太平洋障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会に向けた行動のためのびわこミレニアム・フレームワーク(BMF)」を採択した。BMFは、国連ミレニアム開発目標(MDG)を達成するための全国的な政策やプログラムに障害問題を取り入れる。BMFは次の7つの重要分野を提示する:(1)障害者の自助団体と関連する家族や親の協会(2)女性障害者(3)早期発見、早期対処と教育(4)自営業を含めた訓練と雇用(5)建築環境や公共交通機関へのアクセス(6)補助技術を含む情報やコミュニケーションへのアクセス(7)能力の育成、社会保障、持続可能な生計プログラムを通した貧困軽減。

新しい十年の目標は、救済を基本とした取り組みから、地域内の障害問題全般における権利に基づいた、人権から見た取り組みへのパラダイム・シフト(発想の転換)を完全に実行することである。びわこミレニアム・フレームワークの目標は、アジア太平洋地域における障害者のための、インクルーシブで、バリアフリーかつ権利に基づく社会を促進することである。BMFでは、その目標を達成する重要な方法の一つとして、「障害者の権利及び尊厳の保護及び促進に関する総合的かつ包括的な国際条約」の特別(アドホック)委員会の活動に対する支援と貢献を検討するよう政府に要請されている。

世界中に6億人いると予想される障害者のうち、4億人はアジア太平洋地域に住み、この40%以上は貧困の中で暮らしている。多くの場合、このような障害者は貧困層の中でも最も貧困な人々になっている。障害者は引き続き深刻な生活状況の中にあり、他の者には享受される人権も与えられず、障害を理由に差別を受けている。

障害に特定した国際的な規約文書は存在するが、法的拘束力の欠如で強制力がなく、一部の地域には十分に行き届いていない。法的拘束力を持つ人権条約は障害問題にも関係するが、障害問題に特定しているわけではなく、従って障害に十分な関心が向けられていない。

以上を踏まえ、障害に特定した法的拘束力を持つ条約の制定を検討する上で、UNESCAPは政府を支持する。UNESCAPは、地域全体の唯一の政府間機関として、条約制定に向けた建設的な協議と活動を積極的に推進する役割を担うことができる。

UNESCAPは、民間組織と人権機関の積極的な参加を通した、条約制定への地域的に団結した支援体制を構築するため、「障害者の権利及び尊厳の保護及び促進に関する国際条約」に関する地域会議とワークショップ(2003年4月8〜11日、北京)の開催に向けて準備を進めている。この会議とワークショップで採択された決議は、2003年6月にニューヨークで開催される国際条約の第2回アドホック会議で発表されることが予定される。以下は、アウトラインに沿った我々の条約に関する暫定的な提案である。
I.見込まれる条約に関する提案
1.条約の目的
  1. 障害者にあらゆる権利が享受されることを認知する。これらの権利は、国連人権憲章の中で原則的に保障され、6つの主要な人権条約に叙述されている。
  2. 救済を基本とした取り組みから、障害問題に対する人権から見た取り組みへのパラダイム・シフトを明示する。
  3. 障害者のための、権利に基づいた開発を保証する。
2.条約の中で具体化する原則
  1. 障害者が障害を持たない人と同等の権利を享受することを再確認する。
  2. 差別反対と機会均等を保障する。バリアを排除する配慮および(又は)積極的な行動の欠如は差別を意味することを認識する。
  3. 障害者の基本的ニーズ(栄養、清潔な水、公衆衛生、貧困軽減、社会保障、教育、雇用など)を満たすことは、不可欠な社会経済的権利の実現であることを認識する。
  4. 障害の種類や程度、ジェンダー、社会経済的な状況、国籍など一切関係なく、全ての障害者に差別反対と機会均等の原則が適用されることを保証する。
  5. 関心をよせる全ての者が、モニタリングと評価プロセスに参加できることを保証する。関心をよせる者とは、第一に障害者、そして障害者組織や人権組織である。
3.条約が扱う範囲
4.定義
  1. 障害の定義は、国際生活機能分類(ICF)に基づいて決定することができる。
  2. 障害とは、人間を医療の面から診断することだけではない。環境や社会の要因も人間が経験する障害に大きな影響を与える。
  3. 障害には、身体的・感覚的・知的・精神的・重複的障害が含まれる。障害の種類には、恒久的、一時的、及び障害と推定されるものがある。
5.条約の構成要素
  1. 障害者の権利の普遍性
  2. 障害の定義
  3. 障害に基づく差別の定義
  4. 条約の履行における加盟国の義務
  5. 障害者に特定の権利の明示
  6. 既存の6つの人権条約との関連性の明記
  7. 個人が享受できる救済措置の設置
6.条約実施のモニタリングおよび評価機構
  1. 政府は定期的に自己評価報告を提出するべきである。この報告書の作成において、民間組織の参加が義務づけられるべきである。
  2. 条約により、多様な障害を持つ障害者で構成される、モニタリングと評価を行う専門家委員会が設置されるべきである。
  3. 条約の実施に関するモニタリングと評価機構は、他の国連条約のそれと一致するべきである。
7.条約に関する協議の形:ワーキング・グループ及び(又は)諮問グループの設置
II.新しい規約文書と既存の国際規約文書の相補性に関する考え
我々は、既存の規約文書の実施を障害の面から強化しながら、障害に特定した新しい規約文書の制定に取り組む、マルチトラック的な取り組みを支持する。新しい規約文書は、障害者の権利の社会的・法的可視性を促進しながら、既存の規約文書の価値を強化ならびに補完する。既存の規約文書は、新しい規約文書のための道徳的・法的サポートの基礎を固める。

1.「障害者に関する世界行動計画」の実施のモニタリングと評価

世界行動計画は、障害問題を「社会福祉」の課題から、障害者の人権を開発プロセスへ全面的に統合する課題へと変えた。世界行動計画の目標は、障害者の完全参加と平等であり、3つの主要な目的は、障害要因の予防、リハビリテーション、機会均等化である。機会均等化は、社会システム全般へのアクセシビリティを改善するプロセスに関係し、障害を持つ個人の権利、及び社会の全分野への統合に重点が置かれている。

世界行動計画は、国連障害者の十年(1983〜1992)及びアジア太平洋障害者の十年(1993〜2002)の主要な推進力となった。5年ごとに世界行動計画のレビューと評価が実施されるが、この4回目が今年完了する。世界行動計画には加盟国のための政策ガイドラインが含まれるため、実施のペースは遅かった。従って、障害者の権利に関する国際条約が採択された場合、世界行動計画の実施は飛躍的に改善されるはずである。世界行動計画の定期的なレビューは、国際条約のモニタリングと評価の手助けになることも予想される。

2.「障害者の機会均等化に関する基準規則」の実施のモニタリングと評価

基準規則は障害者の権利促進において重要な役割を果たし、世界中で国の法律の制定を推進した。基準規則の下で設置された、障害者で構成される専門家パネルと特別報告者のシステムは、障害者権利のモニタリングの促進において重要な役割を果たした。専門家パネルと特別報告者の勧告では、適切な生活水準、住居、暴力、虐待、知的障害者・精神障害者に関連する問題など、基準規則では十分に扱われていない分野を補完する、新しい規約文書の制定が求められている。

3.既存の国際規約文書、とりわけ人権文書の実施のモニタリングと評価

6つの主要な人権条約は(子どもの権利条約を除いて)障害に直接言及しないが、障害者の権利には関係する。経済的、社会的及び文化的権利に関する委員会の一般的意見第5号は、世界中の障害者の状況を概説し、雇用、社会保障、教育、女性問題などの分野において、障害者の問題を解消し、差別反対法を制定するよう政府に呼びかけた。ここでは障害について具体的に言及されている。

ただし、モニタリング機関は、非常に多くの問題を扱わなければならないという理由で、障害者の権利を追求しない傾向があり、これを追求する重要性も認識されていない。同様に、障害分野における民間組織は、モニタリングや評価プロセスに全面的に関わることができていない。従って、新しい規約文書は、これらの弱点を克服できる。

4.「障害者に関する世界行動計画」、「障害者の機会均等化に関する基準規則」、既存の人権規約文書の実施活動の中から条約に組み込む要素

1と3で述べた通り、新しい条約では、各文書の良い面は強化して取り入れ、各文書の弱い面は克服し明確で強制可能な要素に変えられるべきである。また、各文書で十分に扱われていない分野は、新しい条約に組み込まれるべきである。

原文: http://www.worldenable.net/bangkok2003/proposal.htm


作成日 2003年5月28日
財団法人 全日本聾唖連盟

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