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【全日本ろうあ連盟による仮訳】

世界ろう連盟、世界盲人連合、世界盲ろう者連盟が2005年8月の第6回アドホック委員会において
国際障害コーカスと協議の上提出したもの

第17条

 ろう、盲、盲ろう者のためのインクルーシブ教育に関する声明:
教育の選択の論理的根拠

2005年8月2日


 国連障害者権利条約特別(アドホック)委員会の委員および参加者の皆様、

 我々は、世界ろう連盟、世界盲人連合、世界盲ろう者連盟を代表して、アドホック委員会と、そこでおこなわれているインクルーシブな条約制定のプロセスを讃える。このインクルーシブなプロセスは、最終的な条約が、この国際社会の市民全員の自立と自己決定、障害者のさまざまなニーズや能力、考え方に応じた支援という我々の求める究極の目的を描き出すことを保障するものである。

重要ポイントのまとめ

 第17条は、最も基本的な人権でありニーズである教育に焦点をあてている。我々は、アドホック委員会に対し、IDC(国際障害コーカス)が提出した第17条の草案を支持するように求める。我々が考える重要ポイントは以下の通りである。
質の高い生活の手段としての質の高い教育

 教育は、すべての人にとって必要不可欠なものである。教育は、自立、市民権、適切な仕事、経済力、自己決定を獲得するための基礎的な手段である。我々は、すべての人が、生まれたときから一生涯にわたって、質の高い教育を受ける権利を促進し、擁護する。国連は、すべての人は、出生、性別、年齢、障害、信条に関係なく意義ある教育を受ける権利を有するという立場をとっている。

 ろう、盲、盲ろうの子供たちも、すべての子供たちと同様に、平等で質の高い教育にアクセスできなければならない。彼らは、自分たちのニーズ、人権、言語権、教育を受ける権利が尊重され、国際的な施策声明や各国の法律およびその国の指導要領に完全に準じた支援を教育責任者から受けることを求める権利を有する。これらの子供たちは、生まれたときから、他の全ての子供と同じように、学び、生活するための基本的な能力を有している。彼らは、質の高い教育プログラムとサポートがあれば、自らの能力を最大限に伸ばすことができる。また、そうでなければならない。

 盲者、ろう者、盲ろう者にとっては、普通学校にメインストリームすることが、必ずしも社会的なインクルージョンにはつながらない。多くの学生が、メインストリームの学校において、社会的に孤立していることを示す証拠もある。質の高い教育とは、どのような学校で教育を受けるかにかかわらず、学生が自らの可能性を最大限に引き出すのを助けるものであり、コミュニティへの完全参加およびインクルージョンを確実なものとするための最善の方法である。

現状

 ろう、盲、盲ろうの子供たちの就学率および読み書き能力は、一般の子供たちの平均を大きく下回っていることが、研究で明らかにされてきた。適切な教育を受けることができなければ、自立し、職に就き、社会に貢献できる市民として、社会で前進していくことは困難である。教育的スキル、言語的スキル、コミュニケーションの基礎がしっかりと身についていなければ、今日の社会や労働市場、情報技術の世界で成功を収めるのは難しい。

 ろう、盲、盲ろうの子供たちは、生まれつき、他の全ての子供たちと同じレベルの知性、社会的能力、情緒的能力を有していることを示しているため、我々は、こうした嘆かわしい差が生じることにはどのような言い訳も通用しない、という明確な立場をとっている。また、先進国においても、手話や点字、歩行訓練、同じ障害をもつ成人のロールモデルなど、さまざまな子供のニーズを認識せず、また尊重せず、そしてそれに応えようとしない現在の大多数の教育プログラムのなかで、こうした子供の権利は日常的に侵害されている。ろうの子供たちについては、ほとんどの教育プログラムが、言語的少数者のための教育の理論的モデルで示されている「言語剥奪」のカテゴリーに分類される。ろう者にとっての「言語剥奪」とは、手話を言語的人権および基本的なコミュニケーション方法、教育における指導言語、一指導科目として使用することを認めないということを意味する。盲ろう者は、主に触覚に依存していると思われ、彼らは手話、点字、歩行訓練を学習する権利を有する。盲の子供たちにとって、「剥奪」とは、歩行訓練、補助機器、コミュニケーション能力に関する彼らのニーズを無視することである。

子供たちと選択

 我々は、「地域の学校に全ての子供たちをインクルージョンする」という名目で、教育の場を選択するという我々の権利をなきものとしようとするアドホック委員会の代案を憂慮している。同じ障害をもつ仲間と過ごす学習の場を選択する権利を失うということは、ろう、盲、盲ろうの子供たちが身体的にはそこに存在していても、精神的、社会的にはそこに存在しないという公立学校における事実上の隔離を生み出すことになるだろう。ろう、盲、盲ろうの子供たちが占める割合は低く、彼らの居住地は地理的に離れているため、こうした子供たちが、地域レベルにおいて同世代で同じことに関心を持つ子供たちの中で、適切かつ質の高い教育を、ピアサポート(仲間の支援)と共に受けることができるようにするというのは、非常に困難である。障害をもつ子供たちの教育を地域の普通校で統合的に行うべきだという条件に基づいた観念的なアプローチで実践することは、盲、ろう者、盲ろう者が自らの能力を最大限にのばす機会を否定することになる。

 効果的でない教育は、結果的に高等教育やリハビリテーション訓練およびサービスにおいて高いコストを必要とすることになる。この画期的な障害者の人権条約の理念に、選択肢の剥奪を含めてはならない。

 教育そのものは、場所や目的ではなく、全ての人たちが自立し、教育を受け、職を得、自己実現し、自分のコミュニティや社会に参加・貢献できる市民となるのに必要なさまざまな能力を習得するための一生涯にわたって続くプロセスである。だからこそ、国は、教育の質と多様な教育の場を保障しなければならない。

ろう、盲、盲ろう者のコミュニティにおける見解の多様性

 これまで、ろう者、盲、盲ろう者のための専門家やメインストリーム教育の適性についてはさまざまな考え方があることや、その多様性のために専門的な教育の場での教育を選択する権利の必要性がある意味で弱められていることが議論されてきた。我々は、ろう、盲、盲ろう者に対する特別教育とメインストリーム教育の選択に関して多様な意見があることを認識している。我々は、この多様性ゆえに選択肢を設けることが必要だと考える。一つの型に全てをあてはめてしまうことは不可能だからである。

インクルーシブ教育

 今日、多くの政策決定者が、教育における完全インクルージョンを支援しているが、彼らの解釈は、全ての障害をもつ学生が、自宅近くの普通の学校で学ぶという全面的な統合教育を意味している。

 こうした目的は、見たり聞いたりすることができて、仲間や教師たちと交わりをもつことのできる多くの障害をもつ学生にとっては適切なものであるかもしれないが、この考え方をろう、盲、盲ろうの学生に当てはめることに対して、我々は大きく異なった意見を有している。

 ろう、盲、盲ろうの学生にとっての完全なインクルージョンとは、完全にアクセスができ、支援の整った学習者中心の環境のことである。こうした環境は、学習者が、自分の教育的、社会的、情緒的能力を最大限に伸ばし、活動的で、自立し、自己決定権をもった市民として社会に完全参加することを可能にする。

 これまで述べてきたことから明らかなように、全てのろう、盲、盲ろうの子供たちに適切な一つの教育的解決策というものは存在しない。さまざまな教育ニーズの多様性は、それにあった教育の場の提供によって満たされなければならない。子供たちの中には、地域の普通校が最適な子供もいれば、自分の能力を最大限に引き出すためには特別教育を必要とする子供もいる。そのため世界ろう連盟と世界盲人連合および世界盲ろう連盟とIDCは、ろう、盲、盲ろう者がそれぞれのニーズや目的に最も適切な教育の場を選択する権利を擁護する。障害を持つ子供たちの教育を、メインストリーム校においてのみ提供するという観念的なアプローチは、ろう、盲、盲ろう者が自分たちの能力を最大限にいかす機会を否定するものである。

アドホック委員会への要望

 世界ろう連盟、世界盲人連合、世界盲ろう者連盟は、アドホック委員会に対し、IDCが作成した第17条の第二パラグラフ(d)に基づいた条案を採択することを求めるものである。

 c)盲、ろう、盲ろうの子供たち及び青年には、この条文の他の規定と矛盾しない、同じレベルの支援および基準が与えられる自らの集団と教育の場で学ぶことを選択する権利を提供することとする。

 最後に皆様に、感謝を申し上げる。全ての学習者の教育的ニーズに応えるために、我々の団体が、国連やユネスコ、各国政府とどのような形で協働していく事ができるのかに関する質問があれば、遠慮なくお寄せいただきたい。

更新日 2005年10月17日
財団法人 全日本聾唖連盟

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