全日本ろうあ連盟による仮訳
世界盲人連合(WBU)による障害者権利条約メキシコ専門家会議の報告
クリスティーナ・ウェランダー
キキ・ノードストレム
2002年7月20日
2002年7月11〜14日、メキシコにて開催
障害者の権利と尊厳を促進し保護するための総合的、包括的国際条約
に関する専門家会議
報告
会議への参加目的:
メキシコ政府は会議の資料として条約の文案を配布した。WBUの権益の保護と我々の知識と経験を文案に反映させる目的で会議に参加した。WBUからの代表者は専門家の議論を追うだけではなく、WBUにとって重要な要素が確実に条約に含まれることを確認したかった。
もうひとつの目的はIDAのメンバーが会合を開き、条約案に関して共通の課題を討議するためである。
参加者はウィリアム・ローランド、キキ・ノードストレム、クリスティーナ・ウェランダー。
前書き:
国連総会第58会期において、メキシコ政府は条約起草のための「特別検討会」(Special Ad Hoc Committee)の設置を提案する決議を提出した(56・168)。その実現に向けて、メキシコ政府は、世界各地から人権と障害問題に関する専門家を招き、新しい国際人権条約に必要な項目の研究と討議のための会議を開催した。
この専門家会議はメキシコ政府が主催し、国連経済社会問題局、メキシコの国連事務局、ラテン・アメリカおよびカリブ経済委員会(ECLAC)などが支援した。
35名の専門家が参加したほか、主にラテン・アメリカの国から80名の政府関係者、NGO代表者などがオブザーバーとして参加した。
(詳細は次のHPへ: http://www.sre.gob.mx/discapacidad/projectinfo.htm)
初日の夜、キキの呼びかけで、出席していたIDA会員とベングト・リンクビスト氏が集まり、メキシコ案に関する意見交換を行った。この会合には、IDAメンバーのほか、多くの(国レベル、地域レベルの)障害者組織からの代表者も参加した。インド政府の人権委員会の(Ms)アヌラダ・モヒットも参加した。
意見は様々で、この段階で条約案が提出されることに対する懸念、メキシコから条約の起草手順に関する提案が一切なかったと言う指摘などが出された。実際の文案起草の前に原則の確認が必要であることを、二日目の会議でベングトが強調することで合意。
条約に関する討論の目的:
条約の文案が専門家会議の前に配布された。
次の点が討議の目的として確認された:
* 障害関連の国際基準や規範に関する知識と経験の交換の場と国際条約を通じて障害者の進展を考える発展的議論の場を提供する。
* この専門家会議の結果を特別検討会(Ad Hoc Committee)に通知する。障害者の権利条約の条文起草に関するプロセス、背景、内容を検討する。
* 障害者の社会生活と社会開発における完全参加と平等の実現に向けての政府の取り組みに対して実質的な貢献をする。
第一会議:
国連障害者の権利条約に向けて。
メキシコ政府のジョルジュ・カスタニェダ博士が開会の挨拶をした。この挨拶の中でで彼は会議の目的が障害者の権利条約に向けて動き出すことであり、この会議に対してメキシコ政府が資金的支援とその他後方支援を提供していることを説明した。
次のスピーカーはベングト・リンクベスト。彼は、全てがうまく行くかどうかは全員の責任であることを強調した。実際の条約文案に取り掛かる前に討議し、合意しなければならないと思われる8つの指針を読み上げた。
これらの指針は再度資料として起草され、今回の会議の主要な討議材料となった。(添付資料1参照)
ベングトは最後に、この条約起草のためには特別な事務局を設置し、十分な資金の確保が必要であることを指摘した。
第二会議:
条約文に関する討議 − 関連背景、条約の目的、定義その他
第二会議は出席者全員によるディスカッションで始まった。ディスカッションのテーマは主に次の通りであった:
* 条約の目的
* どのような法整備が必要か?
* 条約の内容
条約案が配布されたが、多くの専門家は、現段階においてこれを書き直すより、条約に明記すべき点などを確認する方が望ましいことを強調した。
その他討議された重要な点は条約の人権に関する側面。条約の文面は、既存の人権ツールの範囲よりさらに広く適用できるものであるべき。障害を持つ人にとってアクセス可能、理解可能な分野において原則を確認することの重要性が強調された。
国連を通じて障害事務局を設置し、特別検討会の取り組みと、後には条約の実施を支援すべきであると言う強い要望があった。
その他の議題は:
* 発展途上国の場合、条約実施に際して現実に即したアプローチが必要
* 条約の起草には障害者のNGOが参加すべき
* 障害者に対するドメスティック・バイオレンス(家庭内暴力)
* 特定の人々にとって、教育とインクルージョン(サラマンカ宣言、ダカール行動の枠組み)は良い面と不利な面があること(インクルーシブ教育という言葉に対するWBU、WFDの見解)
* 社会的精神障害の人々に対する強制的治療と薬物投与の危険
* 市民的、政治的、経済的、社会的、文化的権利
* 高齢化の問題、男女平等、子どもの問題
条約に明記すべき点が幅広い範囲で挙げられた。条約は実施可能な内容でなければならないことが強調された。複雑にせず、権利と差別をしないということのみに触れ、後は実施とモニタリングの方法だけの簡単な内容にしてはどうかという提案があった。
国によって、また障害によって様々な違いがあることを認識しつつ、自主、自立、差別のない、積極的行動などといった重要な要素を含めることの重要性が指摘された。本当の意味で包括的な条約を起草することの難しさは明らかである。
また、条約は医療に基づく文書ではなく、国連の六つの人権条約に基づいて、人権を基盤に書くことの重要性が強調された。予防も人権問題として条約に取り上げるべきかどうか討議された。障害問題の専門家達は、予防は人権問題ではないと判断した。
数人の代表者からの強い反対にも関わらず、メキシコが提案した文案に関する細かい討論が始められた。
しかし、メキシコが提案した条約案を数日の間に全て見直すより、原則を確認する話し合いの方が有意義であることに会議組織者が気付く。
条約が含むべき主な原則を列挙した文書を起草するために、小グループが任命された。この、条約が含むべき原則のリストを会議中ガイドラインとして使用することを決定した。(ジェラード・クイン、ベングト・リンクビスト、IDA会員からの資料を添付。)
会議参加者も会議主催者も会議の目的を勘違いしていたことに気付き、この日の会議は重い気持ちで終わった。IDAの役割に関する誤解から、IDAのメンバーとその他の参加者の間で意見の食い違いが起きた。
会議の目的とこれからの数日の方針を話し合うため、ルイス・アルフォンソ・デ・アルバ氏が会議終了後インフォーマルな話し合いを開催した。この話し合いは大変効果的であり、ほとんどの疑問が解けた。
第三会議:
ルイ・アルフォンソ・デ・アルバ大使は二日目の第一会議の議長を務め、議案の変更を提案した。参加者は条約案及び(原則のリストなどを含む)その他の配布資料に関して自由に発言できることになった。
条約に関する重要な意見として:
・ 生存権
・ 条約の目的
・ 条約文案には心理社会的な障害に関する記述が不十分
・ 内在的差別
・ 地雷の使用
・ (障害は社会が作るものであるため)障害者に良い影響のある条項
・ 質と平等の権利の保障
・ 胎児に障害が発見されても差別のない生命倫理の保障
・ 障害者は様々な暴力に苦しめられているため、この点も条約に含めるべき
・ 予防の定義(障害の主要な原因として栄養失調、戦争、武力行使が挙げられる)
・ 技術援助を提供することの重要性
・ リハビリテーションではなくハビリテーション
・ エイズ
・ 強固な監視機構
・ 各障害者団体は、それぞれの立場から人権の定義と問題点を明確にする
・ 基準規則など現存の国連文書を参考にすることの重要性
・ 重複的差別の問題。移住者、原住民、国外流民等その他の不利な立場の人たちへの
・ 特別な配慮とジェンダーの平等も特記すべき
・ 家族の役割(利点、不利な点)
・ 組織を作る権利
・ 労働市場での差別
・ 重複障害
政府、とりわけ発展途上国の政府は、障害者の権利を保障する必要がある。障害者支援に予算を割り当てる必要がある。あらゆる研究、調査は障害者も網羅すべきである。妊娠中の診察などの際、障害の有無で差別的な扱いがあってはならない。障害を理由に妊娠中絶を家族に迫ってはいけない。
条約には、人々が理解し、使用できる実質的なガイドラインが必要である。障害者の完全参加を阻むバリアーを特定する必要もある。(個々の相違を認めた上で)平等な扱い、(平等を実現するための補完的支援を行った上で)機会均等、(積極的な行動と具体的な変化をもたらした上で)等しい成果を実現することの重要性を説明する必要がある。
ジェラード・クイン、ロドリゴ・ジメネズ、マリア・ソレダド・システルナ、マルシア・リウによって作成された、「条約が明記すべき権利とは何か?」と題された文書(添付資料2)は、アルバ大使によって提案された。しかし多くの参加者はこのプロセスにおいてIDAの名前が出ていることに抵抗感を示し、IDA代表者による説明にも関わらず、IDA以外の団体は疎外感を訴えた。
会議への報告として、ルイ・アルフォンソ・デ・アルバは文書の構成についてまだ何も決定していないこと、その資料が全ての団体・組織、国連機関などに渡せるようにするなどと説明した。この専門家会議の成果として新しい文案を作成し、一週間後にはネット上で見ることが出来るようにすると述べた。
第四会議:
(クイン・ジメネズによる)書き直された文案、その他の資料に関する討議の続行。
クインとジメネズによって書き直された文書が読み上げられた。(情報、言語、コミュニケーションなどに関する権利も明記すべきであるなどといった)意見が提案されたが、文案は概ね歓迎された。これらの権利のほかに自己決定、自助、自治、自立、エンパワメント、貧困軽減、(一生に亘る)教育権、移動などに関する権利がさらに追加すべき権利として取り上げられた。
この条約は原則に関する条約なのか、権利に関する条約なのかと言う質問が出た。
効率的に作業を進めるために、二つのグループに分かれ、片方は条約文案について討議し、もう片方は原則について討議した。最後に両グループの討議の結果が文書として配布された(点訳はされなかった!)
第五会議:
「新条約を起草する際の原則」と言う新しい文書が、ワーキング/グループの議長であるステファン・トロメルにより紹介された。
この書き直された文書にも、IDAの名前が入っていることに対して反論があった。特定の組織/団体の名前を挙げるべきではないという意見があった。IDAは工業国の組織であり、発展途上国のリーダーが排除されていると言う気持ちを持つ人が多かった。IDAメンバーは再度IDAの説明をし、それぞれの国際障害者団体から認められ、選出されたリーダーで構成されていることを説いた。このIDAの件以外の内容は概ね受け入れられた。
ルイ・アルフォンソ・デ・アルバはローザ・ブランかを議長として、教育問題の小グループを作ることを提案した。会議終了後集まったが、合意に達することが出来ないまま終わった。
第六会議:
条約実施の方法と人材
ローザ・ブランコから教育問題グループの報告があった。参考資料に関する意見や提案があった:
条約実施に関する意見として:
・ 個人の苦情を聞くシステム
・ フォローアップの方法
・ 障害者問題特別報告者(及び/または報告機関として常設の事務局の設置)
・ 諮問的役割のため、障害者で構成される独立した専門家パネル
・ 人的、資金的資源へのアクセス
・ 国内監視機構
・ 将来、障害者の権利条約に補足分が必要となった場合
・ ジュネーブとニューヨークの国連事務局の強化
多くの参加者は条約の起草作業から障害者組織が排除されてしまうのではないかと言う懸念を示した。ルイ・アルフォンソ・デ・アルバは次の段階として6月24日〜25日にNYにてインフォーマルな会合を開催し、全ての団体の参加を歓迎すべきだと説明した。ここでは条約の内容をさらに豊かにする合意に期待すると述べた。また、国連事務局に対して、諮問的立場のない組織からも情報を拾って欲しいと希望した。
ILOはロバート・ランソム代表を通じて条約起草に関する懸念を表した。起草作業は時間と資金がかかり、障害者、とりわけ途上国の障害者には影響を及ぼす可能性があると言う意見を述べた。
会議中、前日に南の国々によって結成されたネットワークに関する紹介があった。この報告を聞いた参加者からは、障害者が北南に分断されてしまうのではないかと言う不安を示した。もしネットワークを作るならばIDAのように国際的なものであることが重要であると言う意見が述べられた。
会議終了後、IDAメンバーが集まり、各国の障害者団体、あるいは個人から寄せられたIDAに関する不信感について話し合った。IDAとしては、IDAの決定や合意に関心のある人たちと直ちに討論リストを作成すべきだと言うことになった。WNUSPのカール・バッハ・イエンセンがこのリストを作成することになった。
結論:
この会議は、人権に関する専門家だけではなく、障害者組織の参加も呼びかけた点で、メキシコ政府の意義ある行動と言える。
障害者組織からは、条約に入れなければならない権利や必要事項を、より広い観点から提案された。しかし、会議での意見の相違から、障害者組織と人権専門家との間に不信感と誤解が存在し、障害者運動に溝があることが明らかになった。
この会議の成果として、各障害者組織の異なるニーズと目標に関する認識が深まることを期待する。
この会議の目的に関して合意できた。障害者に関する国際基準と規範に関連する最近の課題等について意見と経験を分かち合うことができた。この会議の報告は専門家からの意見や勧告を沿えて、2002年7月29日から8月9日までニューヨークで開催される特別検討会(アド・ホック会議)に提出される。
IDAの作業と目的に関して絶え間ない努力をしているにも関らず、多くの参加者は疎外感を感じているようだ。IDAはeメールを利用したネット上の討論を開始し、より多くの人に参加意識をもってもらうことを考えている。
条約の起草に障害者組織が関わるべきであると言う点と、その作業が透明性を持ち、誰にでもアクセスできる方法で行なわれなければならないことの重要性に関して、すべての障害者組織が合意した。
又、国連基準規則など既存の国連文書は、この人権条約を補完する形で使用されるべきである点でも合意した。
障害者運動からの表明としては:「私達なしでは何もできない」(Nothing about us without us)である。
この会議からの4つの文書:
1. 新しい条約の起草指針(添付資料1)
2. 条約が明記すべき権利とは何か?(添付資料2)
3. 条約の第一文案
4. 会議での意見のまとめ
これらの文書は書きのウェブサイトにある:
http://www.sre.gob.mx/discapacidad/projectinfo.htm
最終更新 2002年8月3日
財団法人 全日本聾唖連盟