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全日本ろうあ連盟による仮訳

障害分野に関する人権監視(モニタリング)システムの設置
国連特別報告者からのプロジェクトの提案


特別報告者からIDAへの手紙
人権分野におけるモニタリング・システムの構築

IDAの皆様、

「人権と障害に関するアルマサ・セミナー」で出された勧告の具体的なフォローアップ事業案を添付しました。これは、セミナー主催者の私とセミナーの報告者を務めたマルシア・リオー氏(Marcia Rioux)が共同で作成したものです。

セミナーの5つのワークショップで出された数多くの勧告の内容と影響を慎重に検討した結果、これらの様々な活動を一つの包括的な開発事業としてまとめる方法を推薦しました。この主な理由は、それぞれの活動が互いに密接に関わり、その全てが障害運動にとって根本的に重要であるからです。我々は、国際障害同盟がこの事業を自分のものとし、その政策と、様々な活動のモニタリングや評価の責任を担うことを提案します。これは、能力の育成とデータの収集及び報告のための体制作りに関して、全ての所属組織を支援する明確な役割をIDAに与えます。さらに、IDAが様々な活動の組織・管理・モニタリングを担当する、この分野での実績が認められた専門団体を見つける事を推薦します。このような団体の候補の一つとしてヨーク大学の可能性を探るよう、マルシアに依頼しました。マルシアはヨーク大学の保健政策・管理学部大学院の院長(first Chair of the University's School of Health Policy and Management)に任命されたばかりでありますので、この場合、本事業の責任者を務めることになります。カナダのトロントにあるヨーク大学は、障害と人権の両分野での広い実績が認められています。また、国際人権条約プロジェクト(International Human Rights Treaty project)の本拠でもあります。国連人権条約(UN Human Rights Treaty)システムの調査は人権高等弁務官事務所との協力で進められています。調査の責任者は、国際人権法の専門家であるヨーク大学のアン・バエフスキー(Anne Bayefsky)博士です。

大学上層部との連絡によると、IDAが希望すれば、ヨーク大学は事業の実施団体の役割を務めることに強い関心を寄せているようです。

添付の事業案は、事業の背景を詳細に説明したあと、アルマサ勧告の概要を述べます。実際の事業内容は「事業の概要」と題された第3部で解説されています。事業は3つのフェーズ(段階)に分かれています。フェーズ1とフェーズ2は合わせて5年間を要します。フェーズ3では、事業形式からより恒久的な実施体制への移行が行われ、希望する国は全て参加できます。

フェーズ1では利用可能なパートナーやツール(訳注:研修プログラム、マニュアル、アンケート、侵害の報告方法など、目的達成のための手段)を詳しく調べます。資金調達や事業の組織構造についてもここで検討されます。この期間として4〜6ヶ月を提案します。フェーズ1は、フェーズ2で行われる様々な活動の準備を行うための、独立した段階として実施することができます。

事業の中心となるフェーズ2には、6つの異なる活動があります。予想される実施期間は約4年です。次の各活動の名前からその内容が想像できると思います:活動1:研修プログラムや他に必要なツールの開発、活動2:全国的な活動の確立、活動3:人権活動に関する研修、活動4:文献情報活動(訳注:ドキュメンテーションまたは記録作業)のための国際的な体制の確立、活動5:人権発展のための全国プログラム、活動6:フェーズ2の評価とまとめ。

フェーズ3の名前は「ツールの改善とイニシアチブ(訳注:活動)の拡張」です。

このような大規模事業を実施するか否か、IDAに属する各組織で熟慮されなければならないことは、よく理解しています。これには数ヶ月間の時間が必要ですので、その間は、各組織の受け入れ姿勢を見守るだけでも良いですし、フェーズ1での調査の方法を先に検討することもできます。これにより、開発が必要とされる事項、そして今後協力を進めるべき相手に関する具体的な情報が得られます。また、必要とされる人的・資金的資源を明確化し、資金提供者についてもアイデアが出てくるかも可能性があります。IDAの所属組織が事業を違った方法で実施することを選んだ場合においても、このような情報は貴重になります。これらの課題を話し合い、時間を無駄にせずに出発する方法を見つけましょう。

この事業の大きな可能性を理解してくださることを深く願いながら、ニューヨークでの話し合いを楽しみにしています。

ベンクト・リンドクビスト


人権分野におけるモニタリング・システムの構築

「人権と障害に関するアルマサ・セミナー」のフォローアップ事業案
国連特別報告者ベンクト・リンドクビスト
ユーク大学マルシア・リオー博士

現在の状況

人類において、身体的、精神的、感覚的機能の違いは、常に存在してきた。しかしながら、機能制限、つまり障害を持つ人々は、常に排斥や置き去りの危機にさらされてきた。何世紀にもわたって、私達はあたかも障害者が存在しないような姿勢で社会を設計し、作り上げてきたのである。全ての人間が、見て、聞いて、歩いて、周囲の信号に素早くかつ適切に理解・反応できることを前提にしていた。人間にたいするこの錯覚や誤解、そして社会開発において全ての市民を考慮に入れないことが、障害者の隔離や排斥の主な原因である。この状況は世界中に、さまざまな形と程度で見ることができる。

障害に関する国連特別報告者が1997年に実施した世界調査より、いくつかの人権問題が明らかにされた。調査に回答した126カ国(うち83は政府の回答)の多数は、親となる権利、財産の権利、法廷に出る権利、政治的権利などにおいて、障害者に対する重い制限があると報告した。多くの場合、これらの制限は法律で定められている。他は、不適切な慣行(bad practice)の結果として生じたものである。

また、数多くの国で障害を持つ児童による教育へのアクセスが、健常の児童と比べて大きく劣っていることが他の調査で示された。さらに、数百万人もの障害者が一生を過ごす施設の多くに、虐待・暴力・悲惨な生活環境が見られる。

これらを含めて、障害を持つ男児・女児・女性・男性の基本的人権の侵害や違反が他に多数あるにも関わらず、これらの問題は、例え処置があったとしても、人権侵害ではなく社会開発の問題として考えられてきた。

人権に向けた第一歩

国連総会が1982年に採択した、障害者に関する世界行動計画には、既に人権と障害に関するセクションがある。以下の勧告がとりわけ重要である:

「障害者に直接もしくは間接の影響をもつと思われる国際協力、規約その他文書の準備と実施の任にあたる国連機構内の組織および団体はとくに、文書等が障害者の状況を十分考慮に入れているものとしなくてはならない。」(164節)

「全人類に普遍的に認められている人権や自由について障害者の行使能力を阻害するような異常な状況が存在しうる。国連の人権委員会はそのような状況に検討を加えるべきである。」(166節)

「拷問を含めた人権侵害の行為は、精神的および身体的障害の一因となりうる。人権委員会は、とくにそのような暴力に対し改善のための適切な行動をとるべく検討を加えなければならない。」(168節)

1984年8月、マイノリティの差別防止と保護に関する小委員会(Subcommission on Prevention of Discrimination and Protection of Minorities)は、人権と障害の関係に関する総合的な調査を実施するため、リアンドロ・デスポイ氏を特別報告者に任命した。デスポイ氏の報告は1993年に発表されている。彼はこの中で、障害は国連のモニタリング機関が関わるべき人権問題の1つであることを明確に示した。彼の勧告の中で、以下に注目したい:

10年が終了した後も、人権と障害の問題は、常に関心の向けられるべき課題として、総会、経済社会理事会、人権委員会、そして小委員会の議事に含まれるべきである。

「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」のモニタリングを行う国連委員会が、障害分野の監督責任を担うべきである。この目的に、委員会は特別な任務を引き受けるべきである。

経済・社会・文化権利委員会は1994年、ジェネラル・コメント(一般的意見)第5号を発行してこの責任を引き受けた。このジェネラル・コメントの中で、委員会は人権問題としての障害について興味深い分析を行っている。

以下はジェネラル・コメントからの抜粋である:

「規約は、障害者について直接言及することはない。しかしながら、世界人権宣言は全ての人間が生まれながらにして自由であること、尊厳と権利において平等であることをうたい、また、規約は社会の全ての人々を対象とするため、障害者には明らかに、規約で並べられた全権利を保有する資格がある。さらに、特別な配慮の必要性に関して、政府は、資源が許す限り、規約でうたわれる権利の享有に関して、障害者がその不利を克服できるよう適切な対策をとらなければならない。また、規約の第2条で、いかなる根拠や状況による差別なく、権利が行使されると謳われるのには、明らかに障害を理由とする差別も含まれる。」

1998年3〜4月に開催された国連人権委員会第54回会議において、委員会は障害者の人権に関連する問題について議論することを決定した。この議論の結果、委員会は、この分野の発展に非常に重要な声明や勧告が含まれる、決議1998/31を採択した。

本文の第1節は、障害者に関して人権基準が遵守されているか評価する手段として基準規則を認識する。また、経済・社会・文化権利委員会と人権高等弁務官事務所に関連情報を提供するよう、障害分野の非政府組織に奨励する。同様に、非政府組織が人権分野で効果的に機能できるよう、高等弁務官事務所の専門的援助を得ることも奨励される。決議に含まれるもう1つの重要なメッセージは、障害者の完全な権利の享受を保障するために、全ての盟約団体に加盟国の監視を奨励することである。政府は、国連の人権協定をもとに報告を行う場合、障害者の人権問題を十分に考慮するべきである。

決議98/31は重要な前進であり、人権と障害者に関する国連の責務が全般的な認知されたと考えられた。従って、待ち望まれていた進展があると大きく期待された。しかしながら、委員会決議の採択後、ほとんどの変化が見られなかった。人権と障害が再び議題となった今年4月の人権委員会第56回会議において、これは大きな問題とされた。この結果、この問題を部分的に反映した新しい決議(2000/51)を採択した。以下は決議の第30節からの抜粋である:

(人権委員会は、)「社会開発委員会の障害に関する特別報告者との協力で、障害者の人権の擁護とモニタリングを強化する対策を考案し、とりわけ専門家パネルを含む関連団体からの意見や提案を求めるよう、人権高等弁務官に要請し、」

一般的な人権条約のモニタリングに障害の要素を取り入れる意向が人権委員会にあることは、今までの長い行程に関わらず、全ての関係者を脅かせたようである。人権機関、そして政府と国際障害者組織の双方において、この機会を効果的に利用する知識と能力が不足しているのは明らかである。

相互的な学習が必要なのは明白である。障害分野のリーダーは、人権モニタリング団体に自らの経験を伝える方法を学ぶ必要がある。また、「障害を持つ人がその権利と自由を行使するのを妨げ、障害を持つ人が各自の社会の活動に完全に参加するのを困難にしている障壁(基準規則第15節)」について、人権の専門家はより多くを学ばなければならない。

次のステップは当然ながら、全ての関係団体の能力と適正を向上させることである。障害者に対する著しい人権侵害の報告が国連機構の適切な機関に届き始めるまで、世界中の政府や政治団体の中で、人権のこの分野に対する基本的な姿勢の変化はあり得ない。我々は世界に向けて啓発する必要がある。

アルマサ・セミナー

以上の状況に対する行動、及び決議2000/51第30節のフォローアップとして、障害に関する国連特別報告者は2000年11月にスウェーデンのアルマサにて人権と障害に関するセミナーを開催した。世界中の全地域から27人の専門家が参加した。この中には、全ての主要な国際障害組織の代表者、高等弁務官事務所及び国連事務局の代表者、障害者の権利に関する活動家や人権の専門家などがいた。

セミナーの目的は、障害者に対する人権侵害や虐待の確認と報告を行うためのガイドラインの作成であった。セミナーは、人権侵害を監視しなければならない5つの分野を確認した:個別な虐待の事例(individual cases of abuse)、特定の国の法律、訴訟(legal cases)、政府プログラム(government programs)、サービスと慣行(practices)、そして最後に、メディアでの障害者の描写である。これらの分野の情報収集にはそれぞれ特有の方法が必要とされるため、セミナーの参加者は各分野に特定した提案やアイデアを出した。

アルマサ・セミナーの結果の概要

障害者に対する個別な虐待の事例は多い。被害者は多くの場合、虐待を報告しても無駄だと考えるか、報告すれば虐待がさらに悪化することを恐れる。実際は、個別な虐待の事例の記録と報告は、認識の拡大と支援の獲得にとって極めて重要であり、市民の権利は尊重されていると政府が誤った主張を行うのを難しくする。これを効果的に行うには、個別な虐待の報告を正確かつ敏速に行うこと、さらに被害者の安全を考慮して行うことが必要である。

セミナーの参加者は、人権侵害の事件を調査・報告する担当者を各組織に一人ずつ置くことを提案した。この担当者は、慎重な調査による正確な情報収集と被害者の保護のためのトレーニングを受ける。

報告の形式は必要な情報を例示した、明確でわかりやすいものでなければならない。また、それぞれの人権を解説し、これらの人権の侵害となるような行動を例示するマニュアルも作成できる。

責任者は最終的に、国連人権委員会を含む、人権侵害を扱う全国的・国際的な組織に、完成した報告書を提出することになる。

国の法律や政策は人権を擁護するように見えても、実際は不平等を生む方法で利用されたり、障害者の人権を侵害していることがある。従って、国の法律の再評価および国際基準との比較を行い、法律が市民の権利に及ぼす影響を明確化しなければならない。

セミナーの参加者は、このような評価活動に既に様々なグループが関わっていることを確認した(例えば、大学、社会政策機関、人権組織など)。これらのグループの専門知識や人的・資金的資源(リソース)を、障害問題にも向けることが提案された。障害問題に関する情報は別に文書化し、外部の人も理解ならびに共有しやすい形で公開することができる。

訴訟事件は、国の法律と同じくらい重要である。法律に書かれている内容に関わらず、重要なのはそれがどのように解釈されるかである。セミナーの参加者は、国際的なウェブサイトを作成し、ここに国際裁判所や各国の裁判所の重要な訴訟事件に関する情報を集めることを提案した。

全ての訴訟事件は、国際的な人権基準(standards)及び規範(norms)と比較されることになる。ウェブサイトにはさらに、人権に関する国際的な法律と基準に関する読みやすいガイドが公開される。

各国は、各国での事件を報告するそれぞれのウェブサイトを担当する。これは、各国の法務省、または法律学校や人権団体などの他の組織が作成する場合が多いと見られている。各国のウェブサイトの集成となる国際的なウェブサイトは、国連の人権高等弁務官事務所が管理することになる。

政府のプログラム、サービス、そして慣行(practices)は多くの場合、障害者の日常生活に最も大きな影響を及ぼす。しかしながら、これらのプログラムの実際の効果を詳細に評価するのは困難であることが多い。

これを克服するため、セミナーは、障害者の権利団体に配布する特別な報告マニュアルの作成を提案した。各マニュアルはそれぞれ特定の問題を扱うことになる:例えば、教育へのアクセスに関するマニュアル、投票に関するマニュアルなどである。各マニュアルでは、その特定の問題に影響する全てのプログラム、サービス、そして慣行が扱われる。

マニュアルには質問事項の詳細なリストが含まれ、回答の正しい記入例も示される。記入されたマニュアルを国連に提出し、政府がどの程度、国際的な基準や人権規定に準拠しているか評価するために利用できる。

メディアは、公衆の考え方の形成に非常に大きな影響力をもつ。障害者、そして障害問題全般に対する世界中の人々の認識に多大な影響力がある。メディアの内容は、障害者の人権を侵害するようなアイデアやイメージが普及しないように、監視する必要がある。

セミナーの参加者は、世界中のメディアでの人権侵害を監視する「障害権利メディア・ウォッチ(Disability Rights Media Watch)」と名付けられた団体の設立を推薦した。

この団体は、メディアでの侵害に関する正確な情報を収集し、報告書を作成する。作成された報告書は全ての障害者団体、国連、政府機関などに公開される。障害権利メディア・ウォッチは他のメディア監視団体と緊密に協力することや、障害者の権利団体にメディア問題についてアドバイスを提供することなども出来る。

このセミナーで生まれたアイデアは、全ての障害者の権利団体に重要な活動指針を提示し、障害者が日常的に直面する侵害について、世界中に効果的に知らせることを可能にする。

これらのアイデアをこれから行動に移し、改善していく必要がある。これは、確実で効果的な進捗状況の測定法と、障害者の人権尊重の促進につながる。次のステップは、書面上の権利から現実の人権への移行である。(アルマサ・セミナーに関する詳しい情報は、この事業案に添付された完全報告「世界に啓発する(Let the world know)」を参照)

事業の概要

国連人権委員会が、人権のモニタリングにおいて障害を特別な要素として含めることを決定したのは、歴史的に重要の進展である。しかしながら、これは自然に実現するものではない。国連のモニタリング構造と障害分野の双方において、この開発に向けた多大な作業が必要となる。事業の目的は、障害分野におけるモニタリング能力の育成、そしてモニタリング体制の開発と確立である。従って、主要な国際障害組織とそれらに提携する全国団体が、この事業で重要な役割を担うことになる。国連基準規則のモニタリングに関して諮問的な役割を共同で務めてきたこれらの組織は、この世界的な開発事業のリーダーシップをとることになる、国際障害同盟(IDA)を形成した。

IDAは、IDAの代表者、及び障害と人権の分野での実績が国際的に認められた専門家で構成される、人権審議会(Human Rights Council)を設立する。審議会は、事業の全活動のステアリング・グループ(運営団体)となる運営理事会(Governing Board)を設置する。

本事業は、アルマサ・セミナーで出された、次の5つの取り組みに関する勧告に基づいている:個別な事例(individual cases)、法律のモニタリング、訴訟(legal cases)のモニタリング、プログラムやサービスのモニタリング、メディアのモニタリング。一部の提案は具体化されているが、残りはさらに検討を進める必要がある。また、違った形の取り組み方が提示されている場合もある。

事業の重要な対象グループの一つは、国際障害組織に所属する全国組織である。他の対象は、障害を扱う全国的な人権機関(全国的な人権委員会やオンブズマン)、大学、法律学校、国際人権組織、政府などである。

事業のためにコーディネーション・センターが設立される。センターには、事業の事務局、データの照合や整理、全国的・地域的な障害組織が提出したデータによる報告書の作成、全国的・地域的な組織が必要とする研修教材や他の資料の作成など、複数の機能が備わる。また、必要に応じてこれらの資料の改訂を行う。事業の様々な活動に割り当てる資金も、センターが管理する。作業を効率化するため、人権審議会はIDAの協力で、地域の人権センター(Regional Human Rights Centers)も設立する。審議会が設立した運営理事会は、コーディネーション・センターの仕事を監督する。センターはさらに、運営理事会と定期的に会議を行い、地域センターとの継続的な連絡を行う。

コーディネーション・センターは、障害関連活動に積極的な関わりを持つ、広くアクセス可能な大学の中に設置される。また、作成される報告書の信頼性を保障するため、現地から収集されるデータに関して中立かつ独立した立場になければならない。

大学は、構内にセンターを設置することへの関心と、その能力を持っていなければならない。さらに、センターの活動に必要となるコンピューターと事務所のスペースを提供する意思も必要である。過去に多くの研究機関に場所を提供してきた大学が、最も相応しいと考えられる。大学は教職員1人を管理者(アドミニストレータ)として雇う必要がある。事業に要する費用は、全ての事業の資金から出される。大学はこの事業に大学の名前が関連付けられることに同意し、障害と人権の問題を扱う多学科的な教職員がいなければならない。大学はセンターの開発を支援し、事業の資金管理の責任を引き受けなければならない。

事業のフェーズ(訳注:段階)

事業は3つのフェーズで構成され、各フェーズにはいくつかの活動が含まれている。フェーズ1とフェーズ2は合わせて5年の期間を要する。フェーズ3はフェーズ1と2で開発された手順と調査手段に基づいた、継続的なモニタリングとなる。

フェーズ1(短期間):パートナーやツールの確認

(訳注:ツールは手段、手法、資料、プログラム、アンケートなど、事業の目的達成のための道具をさす。)

事業のフェーズ1には、既存の資源(リソース)や、同様の活動に携わる組織に関する評価活動が含まれる。現在活用できるツールと関連活動(related instruments)に関する詳細な調査と、ニーズの評価が行われる。

まず、事業の様々な活動の実施に必要とされるツールが全て揃っていることを確認しなければならない。最初は、適切な研修プログラム、マニュアル、アンケート、侵害の報告形式など、既存のツールがどの程度存在するか調べる。最初の調査から、人権モニタリングに関わる他の団体が現在行っている同様のモニタリングについて情報が集められる。また、障害者の人権をモニタリングする、分離または独立した活動が存在するかどうかも確認される。これは今後の活動基盤の役割を果たし、作業の重複を防止する。また、他分野での人権モニタリングで築かれた土台を活用して、事業が実施できるようになる。

この段階において、他の人権モニタリング団体との共同作業の可能性も探られる。また、フェーズ1の中で、他団体をこの事業に関わらせる可能性についても検討される。

フェーズ1の中で、フェーズ2とフェーズ3の資金源の検討と確保が進められる。

期間:4〜6ヶ月

フェーズ2(中期間):事業活動(instruments)の開発と実地テスト

約4年の期間を要するフェーズ2には、いくつかの活動が含まれる。地域的・全国的な障害組織と共同での活動(instrument)やツールの開発、そして収集された情報を実証・照合・報告する能力の育成などがある。また、事業のパートナーとして認められた他の国際組織との継続的な共同作業も行われる。

活動1:研修プログラムや他に必要とされるツールの開発

フェーズ1で行われた作業に基づいて、モニタリングと研修のための活動を開発する方法が検討される。このプロセスは対話形式で教育的な方法であり、トレーナー向けの研修(Train-the-trainer)の手法が用いられる。これを行うために、3部に分かれた開発プログラムが実施される。

3つのセミナーの1つ目では、ステアリング・グループ(訳注:運営理事会)が、モニタリングの初期試験に最も適すると判断した国から来た代表者、人権モニタリングと障害の専門家、そして国際障害団体の代表者が集まる。このセミナーの目的は、モニタリングのための具体的なツールの開発と、モニタリングを担当する職員のための研修ガイドラインの作成である。セミナー(約5日間)の終了後、各国の代表者はそれぞれの国へ帰ってこれらのツールの実地テストを行う。その後、4ヶ月の間隔で2つのセミナーが開催され、そこで実地テストの反応が聞かれ、ツールの変更と改善が行われる。3つ目のセミナーには、モニタリングを実施する準備のできた、他の数カ国の代表者も招かれる。これらの3つのセミナーに参加した人は、全国・地域レベルでの効果的なモニタリング・プログラムの実施について他の人を指導できる、中心的な役割を担うことになる。このプロセスの最後に、モニタリングのツールと研修ガイドが、世界中の国にアクセス可能で利用しやすい複数の形式で発行される。

期間:12ヶ月

活動2:全国的な活動の確立

ステアリング・グループは、人権モニタリングに取り組むための全国的な能力と体制の開発に適している国を確認し、これらの国と連絡をとる。国の選定規準はステアリング・グループが考案する。検討される規準には、関心を寄せる障害団体と障害問題を扱う人権委員会(またはオンブズマン)、地域の代表性、アルマサ・セミナーで示された開発分野での責務を引き受ける姿勢などが含まれる。

活動プログラムの作成と資金援助の獲得において、ステアリング・グループは各国のパートナーを補助・支援する。

期間:3ヶ月

活動3:人権活動に関する研修

全国的な障害組織の理事、とりわけ事業参加に選ばれた国の理事には、人権活動の研修が提供される。各組織の中で「人権スペシャリストまたはコーディネーター」となる人には、より詳細な研修コースが準備される。これは活動1と共に組織される。

この事業において一定の役割を担う大学や人権組織の職員にも、障害政策に関する研修が提供される。

期間:12ヶ月

活動4:文献情報活動(ドキュメンテーション)のための国際的な体制の確立

各国の活動からのデータの収集・分析・報告に必要とされる国際レベルの体制作りに、ステアリング・グループは積極的に関わる。侵害と虐待の個別な事例の報告を受ける、国際NGOセンターの設立は、人権と障害のモニタリング・プロセスに極めて重要である。さらに、法律、訴訟、プログラム、サービス、メディアの各分野におけるモニタリングに関する国際的なデータベースの構築も重要である。ステアリング・グループは、これらの複数の情報処理体制を一つにまとめる可能性も探るべきである。

ステアリング・グループは文献情報活動の様々なニーズを満たすためのモデルを作成し、これらの活動の設置と管理に協力できるパートナーを探し出す。

活動5:人権発展のための全国プログラム

選出された4〜6カ国のそれぞれにおいて、障害運動および全国的な人権委員会(もしくはオンブズマン)と共同で、発展事業が実施される。それぞれの全国的な事業は、指定された次の5分野のうち、3つ以上の分野を扱うことになる:個別な事例(individual cases)の報告、法律のモニタリング、訴訟のモニタリング、プログラムやサービスのモニタリング、メディアのモニタリング。

事業の中心となるこの部分は、経験を蓄積するのに必要な手順と体制が確立できるよう、3年間実施される。この期間の最後に、各国での事業はステアリング・グループに報告書を提出する。

期間:3年間

活動6:フェーズ2の評価とまとめ

事業期間中の各国の報告や経験に基づいて、ステアリング・グループは各国の事業から集められた情報をまとめ、異なるモデルや解決策を記録する。事業全体の重要な目的の一つは、各国が障害者に対する侵害や虐待を明らかにするために、人権活動を利用する体制の発展を促進することである。

期間:3ヶ月

フェーズ3:ツールの改善と、イニシアチブ(活動)の拡張

フェーズ3では、障害者の人権のモニタリングに、世界中の可能な限り多くの国や地域が取り組むよう、事業活動を拡張することに努める。これはフェーズ2で蓄積された経験と専門的知識をもとに行われる。

事業全体を通して

3つのフェーズは必ずしも分離する必要はない。また、時間的に連続して実施される必要もない。一部の作業は同時に進めることも可能であり、事業期間中に現れた新しい機会は、事業を強化するために捕らえるべきである。フェーズ1では、事業の資金源の確保が開始され、毎年の運営費用を調達するための体制が整えられる。障害者が事業の全ての局面に関われるよう、人的・資金的資源が適切な形で割り当てられる。

障害者の人権擁護が、世界中の個人・政府・民間部門・国際団体の非常に重要な課題であることは明白である。社会における障害者の参加は、全ての人々に利益をもたらす。この事業は、この方向に向けた大きな一歩となる。

2001年8月15日


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