2003年4月24日

順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学教室
市川銀一郎  様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8階
TEL03-3268-8847・FAX03-3267-3445
財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 安藤豊喜

質問状

当連盟は全国都道府県の47傘下組織を通じて約26,000名の聴覚障害者が会員となり、ろう者の福祉向上のために活動している団体です。

先般、株式会社システムシフト作成の「平成14年度警察庁委託 安全運転と聴覚との関係に関する調査研究成果報告書(以下、「報告書」)」を拝見いたしました。

この報告書「5.医師等の専門家に対するヒアリング等」の章の「5.1.聴覚専門医」の項には、第一に「意見を伺った」方として三名の方の氏名・所属が記載され、その最初に貴殿の氏名と順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学教室との所属名が記載され、次に「5.1.1.順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学教室」とのタイトルで122ページから124ページまで、ご意見が記載されています。

私どもはこの記載中には、聴覚障害についての医学的な知識・体験はお持ちでも、聴覚障害者の毎日の実生活についての知識・体験は殆どない立場での意見としか思えず、結果として聴覚障害者に対する偏見を助長しかねない内容になっている面があると考えます。

そこで、以下の点をご教示いただきたく、本質問状を差し上げる次第です。

1.まず、基本的な質問ですが、株式会社システムソフトに対するご意見として122から124ページに記載されている部分は、順天堂大学医学部耳鼻咽喉科学教室としての見解でしょうか。それとも貴殿個人としての、純粋な個人的なご意見でしょうか。お伺いします。

2.次に以上での記載文のうち私どもには理解しかねる点について、下記の通り個々にお伺いします。

なお、引用部分のうちに、万一、貴殿のご意見と内容が異なる(株式会社システムソフトが貴殿のご意見を誤解ないし曲解して記載した)とされる場合は、異なる点を具体的にご指摘いただき、貴殿の本来のご意見を伺えれば幸いです。

@ 122ページ下から9行目「・周囲の人や車にとって危険である(交通安全上危ない)」

具体的にどのような点が危険とされるのか、また「危険である」と判断される根拠は何かご教示ください。
「危険であると考えている」のは耳鼻科医としてでしょうか、それとも単なる個人としてでしょうか。
なお、耳鼻科医としてであるとされる場合は、「聴力が自動車の運転に及ぼす影響」についての、医学的研究があるのでしょうか。もし、あれば研究論文名と掲載誌名をご教示ください。

A 122ページ下から4行目「原則として両側高度感音難聴のような日常会話ができない高度聴覚障害者については車の運転を勧めないほうがよいと考えている。」

「日常会話」とは、具体的にどのような意味でしょうか。その定義をご教示ください。

B 122ページ下から1行目「例えば接近する車等の音の情報を聞き取ることができないことは危険であると考えている。」

具体的にどのような点が危険とされるのか、また「危険である」と判断される根拠は何かご教示ください。
「危険であると考えている」のは耳鼻科医としてでしょうか、それとも単なる個人としてでしょうか。
なお、耳鼻科医としてであるとされる場合は、「聴力が自動車の運転に及ぼす影響」についての、医学的研究があるのでしょうか。もし、あれば研究論文名と掲載誌名をご教示ください。

C 123ページ上から8行目「言葉の内容を聞き返しているうちに事故に遭うという可能性もあることから、危険性はあると考えている。」

聴覚障害者が運転する場合の、どのような場面を想定してのものでしょうか、具体的な例をご教示ください。

D 123ページ上から20行目『次に「聴力」と「自動車の運転」との関係であるが、学問的に議論したことはないように思う。』

「学問的に議論」の学問とは、どの分野のものを指しているのか、ご教示ください。

E 123ページ上から22行目「わが国は予防的で、欧米は結果に対する責任を負った上での自由(自己責任)という文化の差と考える。併せて、交通事故が難聴に起因するという証明が困難であることも」

D及び「交通事故が難聴に起因するという証明が困難」と記載されていることから、ここでのご意見の内容は「『聴力と自動車の運転』についての科学的な実証はなされていない」との趣旨であると判読しましたが、この理解に相違はないでしょうか。

F上記に関連して「聴力と自動車の運転」について科学的な実証がなされていないとされる場合は、それにも拘らず「聴覚障害者が自動車を運転するのは危険」との結論を導き出されたのは、何故でしょうか。理由をご教示ください。

G『「わが国は予防的」な見地からであり「文化の差」を理由に、欧米と違い日本では聴覚障害者の運転は危険とするのはやむをえない』とされますが、この「文化の差」を実証できる何らかの根拠があるのでしょうか。あれば、文献等をご教示ください。

本質問状に対するご回答は、文書にて5月6日までにご連絡くださいますようお願いいたします。

なお、本質問状の写しは警察庁にも送付しておりますので、ご了承下さい。