財団法人 全日本ろうあ連盟
代表者 理事長 安藤 豊喜様

平成十三年四月十七日付けの質問状についてのご回答


平成十三年四月二十四日
大阪府耳鼻咽喉科医会 会長 酒井 國男


 財団法人全日本ろうあ連盟代表者 理事長 安藤 豊喜様より、ご質問を受け取りただただ驚いているところでありますが、ご質問にお答えさせていただきます。
 ご質問にお答えする前に前提として、ご理解いただきたいことがあります。
 私は三十年間耳鼻咽喉科の中でも聴覚障害を専門領域として診療に励んでまいりました。
その過程で社会の聴覚障害者に対する偏見に対しても戦ってきたつもりです。
 身体障害者福祉法に基づく身体障害者認定に関する判定基準にいたしましても、形態的障害を優位におき、全聾者であっても二級しか与えられない矛盾に怒りすら感じておりました。このようなことが底流の意識にあり、それが、優位発言に結びついたものです。
 今回の講演で私が言いたかったのは、聴覚障害者への理解と高度難聴者への教育の重要性と必要性と教育の成果について強調したいとの思いが強く働いておりました。
 日常、聴覚障害者に対して世間の一般の人々は、聴力障害者の生活やコミュニケーションの苦労をしらず、ただ「聞こえないだけじゃないか」という言葉をよく耳にして、そうではないんだ聴力障害者は単に、聞こえないだけでなく、多大なハンディキャップをもちながら、乳幼児期から本人の努力は言うに及ばず御両親や周りの人々の献身的な支えのおかげでハンディキャップを克服されて、今あられるんだということを知っておりますし、皆さんにも知ってほしかったから、あのような表現を使ってしまいました。ですから私自身、聾唖者の方々がご御指摘のように欠陥があるなどとはみじんにも思っておりませんし、むしろハンディキャップをのりこえておられる事に敬意を表しているぐらいです。日常診療にあたってもそのように接しているつもりです。
 講演の中で難聴予防や難聴児の早期発見早期療育についても話さなければならなかったので、そのことが強調されたきらいも否めることのできない事実です。
 しかし、ろう教育の成果についてや全聾者の文化についてまで、言及できなかったことは否定できません。
 聾教育の問題ですが、私は全ての障害者に対してノーマライゼーションの理念に基づき、個々の障害児(者)のニーズにあった教育をすべきであるという信念を持っており、聾教育を評価しておりますし、その成果を認めております。
 私の患者さんですが、手指メディアと聴能教育でもって素晴らしい子供さんに成長していかれるのを目の当たりにしていますし、聾唖者の文化・手指言語は独立した言語である認識もしているつもりですし、聾唖者の人々に対しても理解しているつもりです。これらのことが、充分に伝えきれていない事実は反省しなければならないところだと思います。ようするに、決して聾唖者の方々を否定するものではなく、私自身、耳鼻咽喉科として、聾の方々や高齢者で難聴になられた方々が、受診に来院されても拙い手指言語ではありますが、患者さんとインフォームド・コンセントをとるべく少々時間がかかろうが、ゆっくり相手側が納得されるまで、互いに意思疎通を図るよう努力しております。
 要旨の記事は新聞社の記者の方に書いて頂きましたが、講演者として、いくら字数の関係があったとは言え、聾唖者の方々と貴団体に多大の苦痛とご迷惑をおかけしました事、率直に反省しお詫び申し上げます。

今回、ご指摘いただいております特集記事に対して、多大の誤解を感じさせましたことは例え講演要旨とは申せ、誤解される表現があった事実に対して深く申し訳ないことだと反省しております。
言い訳がましくなりますが、けっして手指メディアを否定するものではありません。前段でもふれておりますが、私の考えでは手指メディアは、言語の一つと考えており、聾唖の方々の言語ひいては健常者も共有できる言語の一つであると考えております。
一方、私は地区医師会では、貴団体の方と協議して病院に手話通訳者の配置にも努力し、いろいろろ調整は必要でしたが配置にもこぎつけた経験もしております。又、聾学校の先生と常に交流をもち、聾教育の現状と問題点を講演していただき、聾唖者とその文化に理解を深めて頂く事にも努めてきたものです。又一方聾・難聴児の保護者から就学相談をされたときは、ろう学校の教育相談をお受けになるようにも進めております。
要約記事に一部誇張された表現のある事実もご指摘を受けた通りですが、難聴という障害を受けられた方に対して警鐘も込めて強調されたきらいもなきにしもありません。また一部に私自身充分に消化しきれないところがあるにも係わらず、言語発達の専門家の言い回しを不必要に引用したところがあったと、反省しております。最後になりましたが、三十数年間の医師人生の中で常に障害者に、とりわけ聴覚障害者に対しては全愛情を注いで接して参りましたし、聾の方に対しては「耳鼻咽喉科医でありながら上手に手話が使えなくてごめんなさい」という態度で接して参りましたのに、今回のように私の意思とは全く正反対の誤解を与えてしまい誠に残念です。
大変言い訳がましいお答えになりましたが、本位をご理解いただき今後はこのような誤解を生じないよう十分に推敲した講演となるように努力する決意であります。
言葉足らずのお答えになりましたが、今後、ご指導にそった活動に力を入れていく決意も新たにしてご回答といたします。