以下の解説記事は障害コミュニケーション研究所 長瀬修氏から全日本ろうあ連盟が提供を受けた情報です。(2000年7月3日受付) |
ディスアビリティトリビューン(Disability Tribune) 誌による
「国連人権委員会での障害者の権利条約関係の動き」
1、ディスアビリトリビューン誌(Disability Tribune)とは?
"Disability Tribune"(DT)は英国、ロンドンを拠点に活動している情報プロジェクト"Disability Awareness in Action"(DAA)が発行している月刊の障害者の人権に関する情報誌である。
DAAは障害者インターナショナル(DPI)、インパクト(障害の予防関係のNGO=民間団体)、インクルージョン・インターナショナル(国際知的障害者育成会連盟)、世界ろう連盟(WFD)の共同プロジェクトである。編集長はDPI欧州ブロックのレイチェル・ハースト氏。
購読は無料(要確認)で申し込み先はメールで次の通り。
adamin@daa.org.uk
2、国連人権委員会の動き
(A:背景)
上記の "Disability Tribune" 誌2000年5月号がトップで「欧州連合=EUが国連障害者の人権条約を阻止」という見出しで報じている。
背景はまず、2月の国連経済社会理事会の下部委員会である社会開発委員会(障害者問題は主にこの委員会が扱う。「障害者の機会均等化に関する基準規則」を審議したのもこの委員会)である。この社会開発委員会で中国政府代表が、障害者の権利条約提案の意向を表明した。
続いて3月には世界ろう連をはじめとする障害者NGOが北京に中国政府、中国障害者連合会の招請で集まり、障害者NGO(DPI、世界盲人連合、世界ろう連盟、インクルージョン・インターナショナル、障害者関係NGO(国際障害者リハビリテーション協会など))が「障害者の権利に関する北京宣言」を出し、障害者の権利条約推進のために協力することを明らかにした。
その後の4月の国連人権委員会は、近年、障害者の人権の問題にも関心を示すようになってきていて、社会開発委員会所属のリンドクビスト特別報告者を招請し、障害者の人権に関する報告を求めていたため、障害者の権利条約がどのように議論されるか、注目されていたのである。
(B:各国の動向)
2月以降、中国政府が旗降り役となり、主だった国際的障害者NGOからの支持を受けている障害者の権利条約に対してこれまで賛成を表明してきたのは、ジャマイカ、ノルウェー、フィリピン、(フィリピンは従来から障害者に関する国連決議の提案国として積極的な立場を取り続けている)。否定的態度を示しているのは、米国。
(C:人権委員会決議)
人権委員会決議は序文で「2002年の日本での障害者インターナショナルの第6回世界会議をはじめとする、障害のある人に関する国際的な会議の開催を歓迎する」とした。
特に障害者の権利に関しては、次の第1段落が関係ある。
『人権委員会は1、国連の「障害者の機会均等化に関する基準規則」に違反する、障害のある人に対する平等の原則侵犯、差別、その他の否定的取扱いは障害のある人の人権侵害であると認識する』
しかし、このように基準規則には触れてあるものの、北京宣言や権利条約には決議全体を通して言及していない。
ディスアビリティトリビューン誌は欧州連合の反対で人権委員会決議に条約支持が盛り込まれなかったことを「近年になって欧州連合機関は障害者問題に積極的な声をあげてきたが、加盟国政府は障害者の人権保護に対して、強固な反対の立場を依然として変えていない模様」と報じている。
欧州諸国は比較的、障害者問題には積極的なので意外である。ディスアビリティトリビューン誌には欧州連合が反対した理由が記されていなかったので、同編集長に本日(7月3日)電話して訊ねたが、「欧州議会が現在、保守的傾向にあることが」一因にはちがいないが、理由はあまり明確ではなかったという返事だった。
3、最新の動き
6月26日から30日までジュネーブで開催された国連社会開発特別総会では中国政府の発言(ステートメント)で、北京での障害者NGOサミットに触れてあっただけで特に進展はなかった(日本政府代表団にアドバイザーとして参加し、7月1日に帰国された中西由起子さん(日本DPI国際部長)からの情報)。
なお、7月12日から約1週間の予定で、北京での障害者NGOサミットのホスト役を務めた中国障害者連合会(中国ろう者協会もこの一員)会長のMr. Deng Pufang(前述のジュネーブの国連特別総会にも出席)が中国障害者芸術団と来日する。外務省などと会見し、条約提案への日本政府からの支持を求める模様である。(この情報は本日、7月3日に、中国障害者連合会に電話し、確認)
以上