2005年9月12日
厚 生 労 働 大 臣
尾 辻 秀 久 様
東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話 03-3268-8847・FAX 03-3267-3445
財団法人 全日本聾唖連盟
理事長 安 藤 豊 喜


聴覚障害者の福祉施策への要望について


 時下、ま すますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上については、深いご理解とご配慮をいただき、厚くお礼申し上げます。
 さて、当連盟は、本年5月29日北海道札幌市において第53回全国ろうあ者大会を開催しました。
この大会決議に基づき、聴覚障害者の福祉に関し下記の通り要望いたしますので、早期実現を心からお願い申し上げます。
 




1.法定雇 用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行なって下さい。
 〔説明〕
 法定雇用率が平成10年7月1日より、一般民間企業は1.8%、国、地方公共団体および特殊法人は、2.1%に改正されました。2004年6月時点の実 雇用率統計では、昨年4月より除外率の一律10%減が適用されたことで、約1万人の新規雇用に結びついたと言う明るい話題が出ています。しかし、障害者の 実雇用率は1.46%で、雇用率未達率企業がこれまでで最高という数字になりました。達成すべき雇用制度を守らないことに残念なものを感じます。現在、景 気が回復しつつあり、雇用状況もよい方向に向かっていると言われますが、障害者雇用に関しては、中高年者の再就職もままならず10数年も職につけない者も いるという現実があります。
 すべての事業所が法定雇用率を守れば障害者の失業問題が大幅に軽減されると思います。このような時こそ、早急に対策を考慮し実施する必要があります。以 下の要望を致しますので、ご善処お願い申し上げます。

(1)各企業が法定雇用率の達成するよう、厚生労働省など国が率先して障害者を雇用することで模範を示し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守す るよう指導を強化して下さい。
(説明)
 ・  「新アジア太平洋障害者の10年」のプランや「新障害者基本計画」では、平成20年までに雇用障害者数を60万人という障害者雇用目標を打ち出しておりま す。目標をクリアするために、すべての企業が障害者を雇用できるよう職場環境を改善に努め、法定雇用率を達成できるように引き続き指導を強化して下さい。
 ・  地方自治体の身体障害者を対象とした職員採用試験では、いまだに面接試験での手話通訳者や要約筆記者の配置を認め ない所があります。聴覚障害者には聴覚 障害の特性を考慮した採用試験を実施するため、面接試験での手話通訳や要約筆記等の配置をご指導下さい。
 ・  官公庁や地方自治体では、雇用率を達成していると言いますが、大半が軽度障害者の雇用です。現在、採用されている 聴覚障害者の職場環境は、情報やコミュ ニケーションが保障されていない状況です。官公庁は、民間企業に模範を示しノーマライゼーションを先取りしていく立場ですので、聴覚障害者を含めすべての 障害者が平等に働ける条件や職場環境を改善するよう図って下さい。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、雇用納付金制度のあり方を再検討し、法定雇用率のアップを図って下さい。
(説明)   
 ・  雇用率未達成企業に対しては、企業名の公表だけでなく、納付金の増額や300人未満の未達成企業に対する雇 用納付 金徴収などを検討し、企業に対する指導 に努めて下さい。
また、雇用納付金を罰則的なものとし、法人税法上の損金として認めないように税法も改正して下さい。
 ・  中央省庁、その出先機関が行う競争入札への参加資格に「障害者雇用率を達成している企業」を条件に付け加え る等の 配慮を検討して下さい。

2.重度障害者介助等助成金による手話通訳担当委嘱制度を企業が積極的な活用ができるように制度を見直しし、また企業や職業安定所職員に周知徹底させて下 さい。
(1) 必要としている聴覚障害者すべての手話通訳要求に応じられるよう、等級制限撤廃や10年間の支給期間を、 「聴覚障害者が雇用されている間、利用が出 来ること」に改正し、助成金制度の拡充を図って下さい。
(2) 「事 業計画書」等の申請方法や手続きが紛らわしいために使いにくいという声が多いので、経路の簡略化や申請方法を更に簡素化し、使用しやすい制度に 改善して下さい。

3.手話協力員制度を拡充して下さい。
(説明)
 手話協力員制度は、昭和49年に労働省(当時)が、求職相談や職場定着指導など、聴覚障害者に対する情報やコミュニケーションをサポートする者として、 全国200ヵ所の職業安定所に設置した制度です。毎年私たちの要望の甲斐があって、2003年度は「2時間分の予算」が上乗せされ、加盟団体の要望や労働 局の努力もあり全国で約90人の手話協力員が増員しました。しかし、全国すべての職業安定所に設置している訳ではなく、勤務時間も月8時間(週2時間)と いう不十分な制度です。時間が短いために、その時間に合わせなければならない等、十分な活用ができずにいます。また手話通訳技術や支援技術等、手話協力員 の質もまちまちで、様々な問題があります。
当連盟では、毎年手話協力員制度の発展のために運動してきておりますが、私たちの希望に添った改善が見られません。現在、不況下で職業安定所に行く機会が 増えております。聴覚障害者とって、職業選択や職業定着のために重要である「手話協力員制度」を次のように改善をお願い致します。
(1) 手 話協力員を労働部門における聴覚障害者のコミュニケーション・情報サポートする専門職として位置付けるために、「手話通訳者養成研修会(全カリ キュラム)」を修了し、手話通訳者登録試験をクリアした人を聴覚障害者団体推薦で配置できるよう全国統一して下さい。また「手話ができる者」から「手話通 訳ができる者」へ要綱を見直して下さい。
(2) 多 様化する聴覚障害者の求職や職業相談に対応するためには、現在の勤務日数では足りません。地域の実態に応えられる協力員にしていくためにも、業務 の位置付けを明確にし、常勤化を図って下さい。
(3) 聴覚障害者の来所の多い職業安定所を中心に、手話協力員を更に増員できるように図って下さい。
(4) 全 国の職業安定所担当職員、身体障害者職業相談員、手話協力員の資質を高め、あらゆる障害者への職業サービスが図られるようにするために、厚生労働 省主催で研修会を開催して下さい。
(5) 手 話協力員の契約を個人契約から団体契約ができるよう便宜を図って下さい。

4.障害者雇用施行事業(トライアル雇用)の予算を増額し事業の拡充を図って下さい。
(説明)
 本事業後のその障害者の就業率が8割を越えているという実績から見ても、企業が障害者の適正を見いだし就労させるためにも重要な事業となっています。 この事業予算を増額しあらゆる障害者の就労に結び付けていけるように図って下さい。

5.職場適応援助者(ジョブコーチ)事業をすべての障害者にも適用できるように制度を拡充して下さい。
(説明)
 障害者に対する総合的支援策の充実として制度化されたジョブコーチ制度ですが、あらゆる障害者に適用できることが望まれます。
 この制度をさらに充実させ、効果的な制度としていくために、大阪府の「ワークライフ支援事業(重度障害者職場定着指導員制度)」のように職場定着指導や 職 業相談業務などを含めた重度聴覚障害者にも適用できるよう制度の拡充やジョブコーチ人材の養成を図って下さい。

6.手話通訳者の健康対策を図る労働安全プロジェクトチーム設立を図って下さい。
(1) 平成7年に頸肩腕症候群予防に関する報告書が出ていますが、記載内容が古く、また手話通訳者のような専門性 を有する分野には触れていません。新たな 研究調査の上で報告書を作る必要があります。
(2) 研 究調査を行なう場合は、当連盟に委託して下さい。

7.障害者職業能力開発校への手話通訳者の派遣を図って下さい。
 技術革新時代に入り、企業でもスキルアップのための研修が行なわれております。聴覚障害者が新しい技術を覚えるためにも、職業教育機関や教育環境の充実 が 強く要望されております。
 現在、全国に19校の障害者職業能力開発校や開発施設等がありますが、昨年当連盟加盟団体の協力で訪問調査を実施しました。その結果、情報に障害を持つ 聴 覚障害者が入校したくとも、予算が乏しいことから手話通訳者や要約筆記等の配慮がなされておらず、情報・コミュニケーションのバリアが依然とある現状が分 かりました。
 障害者のために作った全国の障害者職業能力開発校で、聴覚障害者が不便なく入校し学ぶためにも、手話通訳等の配慮について厚生労働省からの方針を明確に し、情報保障のための費用を予算化して下さい。

以  上