2003年10月29日

厚生労働大臣
坂 口 力 様

財 団 法 人 全 日 本 聾 唖 連 盟 
理 事 長 安 藤 豊 喜  

聴覚障害者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月8日山梨県甲府市において第51回全国ろうあ者大会を開催しました。この全国大会決議の趣旨に基づき、聴覚障害者の福祉に関し下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1.「障害者社会参加総合推進事業」の実施要綱について、下記の点を修正して頂けますようお願いします。

 @手話通訳設置事業
 手話通訳者派遣事業の要綱に比べますと、とても簡単な内容になっています。整合のための見直しをお願いします。
 例えば、手話通訳者派遣事業の要綱では留意事項の(キ)「登録する手話通訳者は、都道府県で実施する手話通訳者養成事業の登録試験合格者(これと同等の能力を有する者を含む)とする」とありますが、手話通訳設置事業にはありません。
 業務内容、設置する手話通訳者の定義(資格)、手話通訳者の資質向上と健康管理等の内容を入れて整合を図って下さい。
A手話通訳者派遣事業
 市町村障害者支援事業のメニューに入れてあります。下記の理由から、市町村における手話通訳者派遣事業がすべて実施されるようになっても、都道府県単位での手話通訳者派遣事業は必要と考えます。市町村障害者支援事業からはずし、基本事業の情報支援等事業に入れ直して下さい。
 ※市町村事業における派遣事業では、依頼する聴覚障害者等が居住する地域に限定して派遣する要綱になっていることが多いと予想されます。居住地を離れた場所に所用があって手話通訳を必要とするときの保障がありません。そのような場合は都道府県全域に派遣することになっている手話通訳者派遣事業が必要です。
 ※市町村事業における派遣事業では、その地域に手話通訳者が少ないため、手話奉仕員派遣事業を実施する場合もあれば、手話通訳者派遣事業を実施していても、絶対的に手話通訳者が少ないため、依頼に対応できない場合もあることが予想されます。そのような場合のため、補完事業として都道府県単位での手話通訳者派遣事業は必要です。

2.「市町村障害者社会参加促進事業」の実施要綱について、下記の点について修正して頂けますようお願いします。

@手話通訳設置事業
上記の障害者社会参加総合推進事業の場合と同じ。

3.「手話奉仕員」の名称と位置づけについて

 手話奉仕員派遣事業は、地域に登録試験に合格して登録された手話通訳者がいない地域においての過渡的な意義があると思います。近い将来、すべての地域に手話通訳者が一定量確保できるようになり、手話通訳者の派遣で十分に対応できるようになってきたときは、「手話奉仕員」の派遣はなくなると思います。手話奉仕員は「登録」されて「派遣」されるものではなく、地域社会にて可能な範囲で自主的に活動していき、地域のコミュニケーション面におけるバリアフリー化を担う役割が求められると思います。しかし、手話「奉仕員」の「奉仕員」は、派遣を前提とした言葉のため、誤解を招く恐れがありますので、位置づけを見直すとともに名称を変更して頂くことを検討して頂きたいと思います。
 また、手話奉仕員養成事業は、基本的に、市町村という地域において養成していくことに意義があると考えます。要綱では「必要な場合には実施して差し支えない」と記載されてありますが、これは消極的な意義づけだと思います。地域のろう団体と手話サークルが協力しあって手話を広げていく活動に取り組んでいますので、基本的には手話奉仕員養成事業は市町村の役割であると位置づけて下さい。

4.手話通訳士は、「審査・証明」事業に関する認定の規定によるもので、手話通訳士の資格を法的に定義するものとはなっていません。このため、依然として手話通訳士はボランティアの位置づけにとどまっていると言えます。義肢装具士、聴覚言語士、理学療法士、作業療法士、視能訓練士等の国家資格と同じように、手話通訳を必要とする聴覚障害者に対して専門性を有し責任を持って業務を遂行する者としての資格を法制化して下さい。

5.都道府県及び市町村福祉担当部局、また公立病院、介護保険のサービス提供機関、障害者支援費制度に関わる公的機関等において、聴覚障害者が手話通訳者を必要とする場合に、公的機関の責任によって手話通訳者が確保されるよう、正規職員として手話通訳者を採用するなどの措置を図って下さい。

6.病院職員を対象にした手話講習会を厚生労働省の主管で実施して下さい。県・市町村で行われている公費による手話講習会だけでは、夜勤等の勤務があるため講習会を受講することが困難であり、かつ、病院において必要な手話語彙をきちんと学ぶことができません。医療分野における手話コミュニケーションバリアフリーとしての手話講習会が必要です。

                                 以  上