2002年9月5日

厚生労働大臣
坂 口   力 様

財団法人 全日本聾唖連盟
理事長 安 藤 豊 喜

聴覚障害者の福祉施策への要望について

時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上については、深いご理解とご配慮をいただき、厚くお礼申し上げます。
さて、当連盟は、本年6月9日沖縄県宜野湾市において第50回全国ろうあ者大会を開催しました。
この大会決議に基づき、聴覚障害者の福祉に関し下記の通り要望いたしますので、早期実現を心からお願い申し上げます。

1.法定雇用率制度の改善を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行なってください。

〔説明〕
法定雇用率が平成10年7月1日より、一般民間企業は1.8%、国、地方公共団体および特殊法人は、2.1%に改正されましたが、2000年6月時点の実雇用率統計では、障害者の雇用率は1.49%と、ほぼ横ばいであります。
現在、経済不況下で完全失業率が5%を越え、2001年度中に企業を解雇された障害者は過去最高の4,017人に達しており、その中には聴覚障害者もたくさん含まれております。
この雇用が厳しい中で雇用未達成企業が50%を越えるという残念な状況が報告されております。このような時こそ、早急に対策を考慮し実施する必要がありますので、当面次の要望を致しますので、ご善処下さい。
(1)各企業及び官公庁の実雇用率が法定雇用率に近づくよう、官公庁や大企業が率先して障害者を雇用するよう指導・助言し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化してください。
・今春改正された「障害者の雇用の促進等に関する法律」では、特例子会社のみならず、その他の関係する子会社を含めた企業グループによる雇用率の算定が可能になりました。また、国や地方自治体での人的関係の緊密な機関に勤務する職員を合算して実雇用率を計算することになりました。このことから、企業グループ内のあらゆる職場で聴覚障害者が採用されるよう、職場環境を改善に努めながら積極的にお取り計らいください。
・地方自治体の身体障害者を対象とした職員採用試験では、今だに面接試験での手話通訳配置を認めない所があります。聴覚障害者には聴覚障害者の特性を考慮した採用試験を実施するため、面接試験での手話通訳の配置をご指導下さい。
(2)都道府県の緊急雇用対策に障害者雇用対策も盛り込んでいただけるよう、地方労働局への助言及び指導を行って下さい。
・各都道府県で行っている緊急雇用対策は解雇やリストラへの当面の緊急対策として  いますが、解雇やリストラにあった障害者へも配慮できるようお取り計らい下さい。

2.重度障害者介助等助成金による手話通訳の積極的な活用をはかるようにモデルケースを紹介するなどして、制度を企業や職業安定所職員に周知徹底させて下さい。また次の改善を行って下さい。 

(1)障害等級制限および回数制限をなくし、必要としている聴覚障害者すべての手話通訳要求に応じられるようにして下さい。
(2)手話通訳者の健康を守るために、配置基準や時間を考慮して複数の派遣を可能にするなど、制度を改善してください。
(3)手続き経路の簡略化、インターネットを活用した申請方法など、手続きを更に簡素化できるように改善してください。

3.手話協力員制度を拡充してください。

〔説明〕
手話協力員制度は、昭和49年に労働省(当時)が、求職相談や職場定着指導など、聴覚障害者に対する情報やコミュニケーションをサポートする者として、全国200ヵ所の職業安定所に設置した制度です。しかし、全国すべての職業安定所に設置している訳ではなく、勤務時間も月8時間(週2時間)という不十分な制度です。時間が短いために十分な活用ができず、また手話が通じない等、手話協力員の質もまちまちで、様々な問題が出ています。当連盟では、毎年手話協力員制度の発展のために運動してきておりますが、昭和49年以来、私たちの希望に添った改善が見られません。毎年強く要望しておりますが、聴覚障害者が職業選択や職業定着のために重要な手話協力員制度を次のように改善をお願い致します。
(1)手話協力員を労働部門における聴覚障害者のコミュニケーション・情報サポートする専門職として位置付けるために、「手話通訳者養成研修会(全カリキュラム)」を修了し、手話通訳者登録試験をクリアした人を聴覚障害者団体推薦で配置できるよう全国統一し、要綱を見直してください。
(2)多様化する聴覚障害者の求職や職業相談に対応するためには、現在の勤務日数では足りません。地域の実態に応えられる協力員にしていくためにも、業務の位置付けを明確にし、正職員として採用して下さい。
(3)全国200人の手話協力員を更に増員できるようにお取り計らい下さい。
(4)全国の職業安定所担当職員、身体障害者職業相談員、手話協力員の資質を高め、あらゆる障害者への職業サービスが図られるようにするために、厚生労働省主催で研修会を開催してください。
(5)現在当連盟が独自で開催している「全国職業安定所手話協力員研修会」へ助成金を交付して下さい。また参加する職員に対しては本研修会を職員に対する研修と位置付けてその派遣予算を組んでください。 
(6)手話協力員の契約を個人契約から団体契約ができるよう便宜を図って下さい。
(7)厚生労働省として、「手話協力員制度の望ましいあり方」調査検討委員会を設置し、全日本ろうあ連盟と共に調査・検討を実施して下さい。

4.職場定着を推進するために「聴覚障害者職場定着指導員」制度を新設してください。

〔説明〕
・聴覚障害者の職場定着を図るためには技術や知識を身につけることが重要であり、またそれを専門的にサポートする指導員が必要です。
・就職した聴覚障害者が、仕事を続けていくためには技術革新等の企業の流れに乗り遅れないようにしなければなりません。しかし、聞こえる人に比べ情報が入りにくく、技術面で差ができ、会社に居づらくなり退職するケースが増えています。
・現在のような不況時では再就職もままなりません。厳しい時代だけに、国としてそれを援助する制度の新設が強く要望されておりますので、「聴覚障害者職場定着指導員」制度の全国的な設置を要望致します。

5.障害者就業・生活支援センターの機能の充実のために、センターへの手話通訳者の設置を図ってください。

6.職場適応援助者(ジョブコーチ)事業を重複聴覚障害者にも適用できるように配慮してください。

〔説明〕
・今回法の改正により、障害者に対する総合的支援策の充実として制度化されたジョブコーチ制度は、先進国では精神障害者や知的障害者の就労支援として効果をあげております。この制度をわが国で始めるにあたり、知的障害等を合わせ持った聴覚障害者にも適用できるよう、手話のできるジョブコーチの養成が急務の課題となります。
・「新障害者基本計画」のヒアリング(7月29日)でも当連盟労働対策部より、今後のこの制度の充実のためにジョブコーチの専門性を高めるための研修の充実を要望しておりますので、多方面からの制度の充実に向けて働きかけてください。

7.手話通訳者の健康対策を図る労働安全プロジェクトチーム設立を図ってください。

(1)手話通訳者の職業病でもある頚肩腕障害の予防・健康管理のための施策を検討する   機関として、厚生労働省において設立してください。
(2)研究調査を行なう場合は、当連盟に委託してください。

8.今後の技術革新やIT時代に即した職業教育のためにも職業分野ごとの手話の開発と普及に努めてください。

(1)企業も技術革新やIT時代に入り、新技術を身につけるための研修が行なわれております。聴覚障害者が新しい技術を覚えるためには、職業分野ごとの技術的、専門的手話の開発とその普及が急がれておりますので、早急に実施できるように努めてください。
(2)その開発、普及を行なう場合は、当連盟に委託してください。

以  上