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※全日本聾唖連盟による仮訳。紫色フォントの部分は国連「子ども(児童)の権利条約」と同文のため日本政府訳を引用。

障害を持つ人々の基本的人権に関する条約(案)

筆者: ホルガー・カレハウゲ
(デンマーク・ポリオと事故犠牲者の会(PTU)会長
及びデンマーク最高裁判事)


前文

この条約の締約国は、

国際連合憲章において宣明された原則によれば、人類社会のすべての構成員の固有の尊厳及び平等のかつ奪い得ない権利を認めることが世界における自由、正義及び平和の基礎を成すものであることを考慮し、

国際連合加盟国の国民が、国際連合憲章において、基本的人権並びに人間の尊厳及び価値に関する信念を改めて確認し、かつ、一層大きな自由の中で社会的進歩及び生活水準の向上を促進することを決意したことに留意し、

国際連合が、世界人権宣言及び人権に関する国際規約において、すべての人は人種、皮膚の色、性、言語、宗教、政治的意見その他の意見、国民的若しくは社会的出身、財産、出生、その他の地位、又は障害等によるいかなる差別もなしに同宣言及び同規約に掲げるすべての権利及び自由を享有することができることを宣明し及び合意したことを認め、

国連総会が障害者の世界行動計画を採択した、1982年12月3日の総会決議37/52と、障害者の機会均等化に関する基準規則を採択した1993年12月20日の総会決議48/96を想起し、

障害者の人権に関する1998年4月17日の人権委員会決議1998/31と2000/51を想起し、

主な国連会議やサミット、及び各々のフォローアップの再検討、とりわけ障害者の権利と福祉の促進、及び完全参加と平等に関わる部分を再確認し、

障害者が今でも、もっとも貧しい暮らしをする人々の中にいて、教育や収入源となる労働などの開発の恩恵から排斥され、物理的環境、情報、通信などへのアクセスが無いことが多いことに対して大きな懸念を抱き、

障害者の機会均等化に関する基準規則が地方、国内、地域、国際レベルの政策、企画、プログラムなどの推進、策定、評価などに対して重要な役割を果たしていることを満足して確認し、

下記の通り協定した。

第1条

人権は包括的であり、その性質からして、障害者を含む全ての人が享有するものである。

障害の有無に関わらず、全ての人は平等であり、生命、福祉、教育、職業、自己決定、自立した生活、社会へのあらゆる面への参加を容易にするアクセスなどへの平等で不可譲な権利を有する。

第2条

障害を持つ人々に対する差別は人間の尊厳にそむき、障害者の機会均等化に関する国連基準規則の理念と意味を否定することである。

障害を持つ人も法のもとに平等であり、法が定める正義を平等に享受する権利を有する。又、この法的権利の一部として、あらゆる差別に対して効果的な改善策と保護を受ける権利を有する。

第3条

国内または国際法的文書、宣言や条約の条項、またはその条項の一部、その他あらゆる法的文書は、狭義に解釈されたり、障害を持つ人を不利な立場に立たせるように解釈されたり、他の人々より少ない保護しか受けられないような解釈をしてはならない。

第4条

障害者に対して、障害者の機会均等化に関する国連基準規則と相反した、平等の基本原則に反する行為または差別的その他否定的差別的扱いは障害者に対する人権侵害であるとみなす。

第5条

障害者の機会均等化に関する基準規則の内容、意味を尊重せず、それに従って行動しない人は、そのような行為が障害を持つ人に対する差別ではないことを立証する義務を負う。

第6条

難民、経済難民(displaced person)、出稼ぎ労働者、民族的、国家的、宗教的マイノリティ、子ども、女性、高齢者、その他不利な立場にある集団に関する条約や人権文書が、弱い立場にあり、社会の隅に追いやられ、貧窮化した人々について触れるあらゆる個所において、このような集団に属する障害者もその文意に含まれる。

第7条

1. 障害者に対する全ての差別をなくし、障害者の機会均等化に関する基準規則に従ってこれらの人々の有する人権の十分な尊重を保障することに関し、この条約において負う義務の履行の達成に関する締約国による進捗の状況を審査するため、障害者の人権委員会を(以下「委員会」という。)を設置する。委員会は、この部に定める任務を行う。

2. 委員会は、徳望が高く、かつ、この条約が対象とする分野において能力を認められた12名の障害問題の専門家で構成する。委員会の委員は、締約国の障害者団体、学者、科学者等のなかの主立ったリーダーの中から締約国により選出されるものとし、個人の資格で職務を遂行する。その選出に当たっては、ジェンダー、衡平な地理的配分、障害の種類などを考慮に入れる。

3. 委員会の委員は、締約国により指名された者の名簿の中から秘密投票により選出される。各締約国は、自国民の中から一人を指名することができる。

4. 委員会の委員の最初の選挙は、この条約の効力発生の日の後6箇月以内に行うものとし、その後の選挙は、2年ごとに行う。国際連合事務総長は、委員会の委員の選挙の日の遅くとも4箇月前までに、締約国に対し、自国が指名する者の氏名を2箇月以内に提出するよう書簡で要請する。その後、同事務総長は、指名された者のアルファべット順による名簿(これらの者を指名した締約国名を表示した名簿とする。)を作成し、この条約の締約国に送付する。

5. 委員会の委員の選挙は、国際連合事務総長により国際連合本部に招集される締約国の会合において行う。これらの会合は、締約国の3分の2をもって定足数とする。これらの会合においては、出席しかつ投票する締約国の代表によって投じられた票の最多数で、かつ、過半数の票を得た者をもって委員会に選出された委員とする。

6. 委員会の委員は、4年の任期で選出される。委員は、再指名された場合には、再選される資格を有する。最初の選挙において選出された委員のうち6人の委員の任期は、2年で終了するものとし、これらの6人の委員は、最初の選挙の後直ちに、最初の選挙が行われた締約国の会合の議長によりくじ引で選ばれる。

7. 委員会の委員が死亡し、辞任し又は他の理由のため委員会の職務を遂行することができなくなった場合には、当該委員を指名した締約国は、委員会の承認を条件として自国民の中から残余の期間職務を遂行する他の専門家を任命する。

8. 委員会は、手続規則を定める。

9. 委員会は、役員を2年の任期で選出する。

10. 委員会の会合は、原則として、国際連合本部又は委員会が決定する他の適当な場所において開催する。委員会は、原則として毎年1回会合する。委員会の会合の期間は、国際連合総会の承認を条件としてこの条約の締約国の会合において決定し、必要な場合には、再検討する。

10bis. 国際連合事務総長は、委員会がこの条約に定める任務を効果的に遂行するために必要な職員及び便益を提供する。

11. (この条約に基づいて設置する委員会の委員は、国際連合総会が決定する条件に従い、同総会の承認を得て、国際連合の財源から報酬を受ける。

または

(各締約国は、委員会の委員が委員会の任務遂行に当たっている間の経費を負担する背金を負う。)

12. 締約国は、締約国会議、委員会等の開催にかかる費用の責任を負う。また、この条項の第10節に従い、スタッフ、設備等にかかる経費の内、国連が負担すべきものは、国連に返済を求める。

第8条

この条約の締約国は、(a)当該締約国についてこの条約が効力を生ずる時から2年以内に、(b)その後は5年ごとに、この条約において認められる権利の実現のためにとった措置及びこれらの権利の享受についてもたらされた進歩に関する報告を国際連合事務総長を通じて委員会に提出することを約束する。

1. この条の規定により行われる報告には、この条約に基づく義務の履行の程度に影響を及ぼす要因及び障害が存在する場合には、これらの要因及び障害を記載する。当該報告には、また、委員会が当該国における条約の実施について包括的に理解するために十分な情報を含める。

2. 委員会に対して包括的な最初の報告を提出した締約国は、1(b)の規定に従って提出するその後の報告においては、既に提供した基本的な情報を繰り返す必要はない。

3. 委員会は、この条約の実施に関連する追加の情報を締約国に要請することができる。

4. 委員会は、その活動に関する報告を経済社会理事会を通じて2年ごとに国際連合総会に提出する。

5. 締約国は、1の報告を自国において公衆が広く利用できるようにする。

第9条

この条約の効果的な実施を促進し及びこの条約が対象とする分野における国際協力を奨励するため、

(a) 専門機関及び国際連合児童基金その他の国際連合の機関は、その任務の範囲内にある事項に関するこの条約の規定の実施についての検討に際し、代表を出す権利を有する。委員会は、適当と認める場合には、専門機関及び国際連合児童基金その他の権限のある機関に対し、これらの機関の任務の範囲内にある事項に関するこの条約の実施について専門家の助言を提供するよう要請することができる。

(b) 委員会は、適当と認める場合には、技術的な助言若しくは援助の要請を含んでおり又はこれらの必要性を記載している締約国からのすべての報告を、これらの要請又は必要性の記載に関する委員会の見解及び提案がある場合は当該見解及び提案とともに、専門機関及び国際連合児童基金その他の権限のある機関に送付する。

(c) 委員会は、国際連合総会に対し、国際連合事務総長が委員会のために障害者の権利に関連する特定の事項に関する研究を行うよう同事務総長に要請することを勧告することができる。

(d) 委員会は、条約の第8及び第9条の規定により得た情報に基づく提案及び一般的な性格を有する勧告を行うことができる。これらの提案及び一般的な性格を有する勧告は、関係締約国に送付し、締約国から意見がある場合にはその意見とともに国際連合総会に報告する。

第10条

1. この条約は、すべての国による署名のために開放しておく。

2. 国際連合事務総長は、この条約の寄託者として指名される。

3. この条約は、批准されなければならない。批准書は、国際連合事務総長に寄託する。

4. この条約は、すべての国による加入のために開放しておく。加入書は、国際連合事務総長に寄託する。

第11条

1. いずれの締約国も、改正を提案し及び改正案を国際連合事務総長に提出することができる。同事務総長は、直ちに、締約国に対し、その改正案を送付するものとし、締約国による改正案の審議及び投票のための締約国の会議の開催についての賛否を示すよう要請する。その送付の日から4箇月以内に締約国の3分の1以上が会議の開催に賛成する場合には、同事務総長は、国際連合の主催の下に会議を招集する。会議において出席しかつ投票する締約国の過半数によって採択された改正案は、承認のため、国際連合総会に提出する。

2. 1の規定により採択された改正は、国際連合総会が承認し、かつ、締約国の3分の2以上の多数が受諾した時に、効力を生ずる。

3. 改正は、効力を生じたときは、改正を受諾した締約国を拘束するものとし、他の締約国は、改正前のこの条約の規定(受諾した従前の改正を含む。)により引き続き拘束される。

第12条

1. この条約は、20番目の批准書又は加入書が国際連合事務総長に寄託された日の後30日目の日に効力を生ずる。

2. この条約は、20番目の批准書又は加入書が寄託された後に批准し又は加入する国については、その批准書又は加入書が寄託された日の後30日目に効力を生ずる。

第13条

1. 国際連合事務総長は、批准又は加入の際に行われた留保の書面を受領し、かつ、すべての国に送付する。

2. この条約の趣旨及び目的と両立しない留保は、認められない。

3. 留保は、国際連合事務総長にあてた通告によりいつでも撤回することができるものとし、同事務総長は、その撤回をすべての国に通報する。このようにして通報された通告は、同事務総長により受領された日に効力を生ずる。

第14条

締約国は、国際連合事務総長に対して書面による通告を行うことにより、この条約を廃棄することができる。廃棄は、同事務総長がその通告を受領した日の後1年で効力を生ずる。

第15条

国連事務総長は、国連の全ての加盟国および、この条約に署名もしくは加入した国に次のことに関する通報をする

(a) 署名、批准、加入

(b) この条約が効力を生ずる日、およびあらゆる改正が効力を生ずる日

(c) 廃棄

第16条

1. アラビア語、中国語、英語、フランス語、ロシア語及びスべイン語をひとしく正文とするこの条約の原本は、国際連合事務総長に寄託する。

2. 国連事務総長は、この条約の公式のコピーを全ての国に送付する。


障害を持つ人々の基本的人権に関する条約(案)
ホルガー・カレハウゲ
最終更新 2002年7月14日
財団法人 全日本聾唖連盟

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