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台湾の国家言語発展法


翻訳協力:許淳彦・佐伯敦也 原文:http://www.cca.gov.tw/news/2003/09222.htm


国家言語発展法(草案)について


 「国家言語発展法」は20年ほど前、草案が出された法案が元になっています。正確には民国72年(注1)、教育部(注2)が起草した「言語法」(注3)がその下敷きです。当時、この法案に対しては各界の反応が様々で、制定には至りませんでした。

 しかし社会の状況は変わり、現在、言語や文化の保存が重要視されるようになってきています。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の報告によると、我が国は言語消滅の危機に瀕している地域となっており、これは言語・文化保存の気運が高まる重要なきっかけでありました。

 こうした流れを受け、一部の立法委員が「言語法」(注4)「母語保護法」(注5)を提案しました。また陳総統(注6)は選挙政見の一つとして「言語平等法」の制定を掲げ、行政研究発展考核委員会(注7)がこれを教育部に審議させました。教育部側では、海外の関連資料を収集し、「原住民族言語発展法」(行政院原住民族委員会)、「言語公平法」(行政院客家委員会)、「言語文字基本法」(草案、中研院(注8)言語学研究所準備室)などを参考にし、改めて「言語平等法」を提出しました。これは教育部国語推行委員会において認められることになりました。そして、「言語平等法」の制定は、文化の保存と伝承に深く関わるということから、民国92年(注9)3月31日付けで、我が会(注10)に委ねられることになりました。

 我が会では、国家言語の発展と保存を主軸とし、ことばと文字との別、言語平等の理念を踏まえることを重要と考えました。また、教育部、行政院原住民族委員会、行政院客家委員会が提出、制定した関連法案も参考にしました。そして「言語平等法」を本草案「国家言語発展法」として改めて起草し、審議を重ねてきました。「言語平等法」(草案)における条文の改定には、専門学者、関連機関との合同審議会も2回開き、結果、20条の条文を定めました。条文として挙げた20条においては、国家言語の定義、担当機関、権利、言語の保護及び発展について触れ、特に各言語の多様性、発展の公平性、継承に対して重きを置いてあります。

(注は全て訳者による)

注1 西暦1983年。
注2 日本の文部科学省にあたる。
注3 原文では「語文法」。固有名か「言語に関する法律」という一般的な意味かは不明。「語文」とは「言語、書き言葉、文章」の意。
注4 原文では「語言法」。固有名か「言語に関する法律」という一般的な意味かは不明。「語言」とは「言語、書き言葉、話し言葉」の意。
注5 原文では「母語保護法」。固有名か「母語の保護に関する法律」という一般的な意味かは不明。
注6 陳水扁総統を指す。
注7 正しくは「行政院研究発展考核委員会」だと推察される。英語名は“Research,Development,and Evaluation Commission,Executive Yuan”。行政院とは国家の内政を監督する機関。
注8 中央研究院を指す。
注9 西暦2003年。
注10 文化建設委員会を指す。




「国家言語発展法草案」の条文についての説明

国家言語発展法草案

草案の条文(説明は省略)


第一条(立法精神、目的及び法律の適用)
国内の各民族が使用する言語は国家の文化財である。国民の言語使用権を尊重及び保障すること、多様な文化の成長を促進すること、そして各言語を平等に使用、発展することを目的として、この法律を制定した。
この法律で規定されていない範囲は他法の規定による。

第二条(用語の定義)
この法律でいう国家言語とは、現在の我が国における、各民族固有の自然言語、手話、文字・記号、及び方言を指す。

第三条(共通語)
各地方自治体は、立法によって共通語を実施することができる。共通語の実施は他の国家言語の使用及び発展を妨害、制限してはいけない。

第四条(担当機関)
この法律の担当機関は中央政府においては行政院文化建設委員会(以下、文建会と略称する)である。また、直轄市においては直轄市の役所、県(市)においては県(市)の役所が担当する。
国家言語発展の計画実施は、文建会が、教育部、行政院原住民族委員会、行政院客家委員会及び関連機関と連携して行なわれる。

第五条(言語の平等)
各国家言語は法律において平等である。
政府は公権力によって国家言語の使用を禁止、制限してはいけない。

第六条(差別防止)
国民には公的・私的な場面において自分の言語を使用する権利がある。これは不公平に排斥、制限されるべきではない。

第七条(国家の多様な文化に対する認識)
国家言語に関する政策を計画及び実施する際には、言語の多様性を認め、尊重すべきである。

第八条(命名権)
国民には、自らの民族の言語で命名する権利がある。

第九条(伝播権)
国民には、自らの民族の言語によって、著作物を出版し、音声・画像を広め、インターネットによるデータ送信を行ない、更にその他の媒体による伝播を行う権利がある。

第十条(教育権)
各地方自治体は、国家言語の世代間の継承を促すため、教育において適切な課程を用意すべきである。
少数民族の言語に対して、政府は適切な課程、学習環境を提供できるよう協力すべきである。
各学校においては、民族間のコミュニケーション及び文化交流を促進するため、各国家言語を教える適切な課程、更に各言語に関する歴史・文化の知識を提供すべきである。これは、公平に、どの民族の言語であるかの区別なく実施すべきである。

第十一条(訴訟言語権)
国民には、法廷において自らの言語を使用する権利がある。法廷は、その言語の使用を拒否してはならない。通訳や翻訳の必要がある場合、法廷がこれを負担する。

第十二条(言語文字政策の実行及び促進)
行政院各部会及び各地方自治体は文建会が制定した言語政策及び関連規定に従わなければいけない。
国家言語の保存及び継承を促進するため、各地方自治体の担当機関が関連の言語部門を設立すべきである。

第十三条(言語促進)
国家言語の発展、促進に関わる法律は、各国家言語の実状を鑑みて制定すべきである。

第十四条(絶滅に瀕する国家言語の保護)
担当機関は、各民族の言語の保存、継承、研究に務めるべきである。絶滅の危機に瀕する国家言語、特に各原住民の言語を積極的に保護、継承し、その復興、継承、記録、研究を奨励すべきである。
前項の言語の復興、保護、継承及び奨励方法は中央担当機関によって制定される。

第十五条(多言語サービス提供に対する奨励)
各行政機関が開く会議、放送、及び一般的な公共サービスについては、各国家言語によるサービスを提供すべきである。
担当機関は、民間が前項の事項を行う際、多言語のサービスを提供できるよう奨励すべきである。
第二項の奨励方法は中央の担当機関によって制定される。

第十六条(地名権、標示権)
各地方自治体は、管轄地域でより普及している国家言語を、地名、集落の名称、山・河川の名称、及び公共的な看板等に使用することができる。

第十七条(国家言語関連番組の制作・放送に対する奨励)
各国家言語による放送を平等に行うため、テレビ・ラジオの担当機関は、テレビ放送局、ラジオ放送局、その他マスメディアが各国家言語の関連番組を制作、放送するように奨励すべきである。
前項の実施方法は中央のテレビ・ラジオ担当機関が改めて制定すること。

第十八条(国家言語データベースの設置)
教育部は言語の復興、継承、発展、研究、文字化、教育、人材教育、及び関連事項に応用できる各国家言語のデータベースを設置するため、予算を立てるべきである。

第十九条(実施細則)
当法律の実施細則は、行政院文化建設委員会が教育部、行政院原住民族委員会、行政院客家委員会及び行政院新聞局など関連機関と連携して、制定される。

第二十条(実施期日)
この法律は公表日から実施される。

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更新日:2004年8月12日