手話言語に関する見解



 近年「手話言語」に関し、「日本手話、日本語対応手話」の考え方を含めた様々な意見が出されていますが、国内で慣例として使用されている「日本手話」のほかに「日本語対応手話」という用語を使用して、日本語対応手話の表現例との比較によって日本手話を狭く解釈し、日本では手話は二つあると説明する例がいくつか見られます。
 そこで、全日本ろうあ連盟ではろう者の第一言語である「手話言語」について正しい認識を広めたく、「手話言語に関する見解」を公表いたしました。
 当連盟では手話言語法の早期制定に向けて引き続き取り組んでまいります。ご理解、ご支援の程よろしくお願い申し上げます。

「手話言語」に関する見解

1.はじめに
 「手話言語」に関する見解は、手話言語、そして手話言語を使用するろう者等への正しい理解を広めることを目的としています。手話言語を分けることでろう者や手話通訳者等を分断することはあってはならないことであり、私たちは「手話言語法」の早期制定と、ろう者等の権利を守り、真の社会参加を推進することを改めて明確に表明するものです。

2.「手話言語」とは
 「手話言語」は手の形、位置、動きをもとに、表情も活用する独自の文法体系をもった、音声言語と対等な言語です。障害者権利条約の定義に手話が「言語」として位置づけられ、日本においても改正障害者基本法で初めて「言語(手話を含む)」と明記されたことで手話が言語として法的に認知されました。

3.「日本手話」と「日本語対応手話」
 手話への認知が広がるにつれ、近年、手話を「日本手話」、「日本語対応手話」と分ける考え方を提唱する動きが随所でみられるようになりました。手話を言語として位置付け使用していくためには言語学的な研究の確立が急務です。同時に忘れてはならないことは、私たちろう者や聞こえにくい人には、聴力を失った年齢、生まれ育った環境、手話を獲得・習得した年齢など、実に様々な背景があることです。子どもの頃から手話でコミュニケーションのとれる環境(ろう学校や家庭など)にいた人もいれば、中学校や高校、大学、もしくは成人してからろう者の仲間や手話に出会い、手話を学び、手話を身につけた人もいます。このような様々な背景によりろう者が育んできた手話を流ちょうに使う人もいれば、手話をスムーズに使うことができず日本語に手話単語を合わせて使う人もいます。更には仲間同士に対して、あるいは手話の読み取りが苦手な聞こえる人に対して、使う手話を無意識に使い分けている人も多くいます。

4.「手話」は私たちろう者の生きる力
 手話はかつて、長いろう教育の歴史の中でその使用が厳しく禁止されてきました。それはろう児を「聞こえる人と同じように」育てるために教育をするという方針が背景にありました。そして学校だけでなく社会においても手話は「手真似(てまね)」と蔑まれ、ろう者は言われのない差別や人権侵害を受けてきました。しかしそうした差別や苦境に屈することなく、ろう児・者は仲間の中で手話を守り、育んできました。そして自ら差別とたたかい、ろう者自身の権利を守り社会参加を果たしていく集団、組織に発展させてきました。そしてその過程で、聞こえる人へもろう者のこと、そして手話への理解を広め、手話のできる聞こえる人の中から手話通訳者を育て、手話通訳の制度化に結びつけました。

 大切なことは、「手話」が私たちろう者が自らの道を切り拓いてきた「生きる力」そのものであり、「命」であることです。その手話を「日本手話」、「日本語対応手話」と分け、そのことにより聞こえない人や聞こえにくい人、手話通訳者を含めた聞こえる人を分け隔てることがあってはなりません。手話を第一言語として生活しているろう者、手話を獲得・習得しようとしている聞こえない人や聞こえにくい人、手話を使う聞こえる人など、それぞれが使う手話は様々ですが、まず、それら全てが手話であり、音声言語である日本語と同じように一つの言語であることを共通理解としていきましょう。

5.手話から「手話言語」へ ~「手話言語法」制定に向けて
 私たちは「手話言語を獲得する」「手話言語を学ぶ」「手話言語で学ぶ」「手話言語を使う」「手話言語を守る」といった5つの権利を保障するために「手話言語法」の早期制定を求めて2010年から全国の仲間と共に運動を進めてきました。その中で海外の動向などもふまえて、私たちはコミュニケーション手段としての「手話」があり、そして聞こえる人が言語として日本語を獲得するように、聞こえない人が獲得・習得する言語は「手話言語」であると考えました。

 折しも2017年に国連において9月23日を「手話言語の国際デー」とする決議が採択され、この記念すべき日が啓発されることにより、世界的にろう児・者と「手話言語」への認識と理解がより一層深まることは間違いありません。こうした社会情勢の変化や手話言語に関する国内外の動向をふまえ、私たちは言語としての手話を「手話言語」として普及していきます。

 手話言語は音声言語である日本語と対等な一つの言語です。その認識を正しく市民に啓発し、「手話言語法」を一日も早く制定するよう、全国の仲間と共に一丸となって取り組む所存です。

2018年6月19日
一般財団法人全日本ろうあ連盟

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