全日本ろう学生懇談会が文科省と意見交換しました



 8月3日、全日本ろう学生懇談会が文部科学省高等教育局学生・留学生課を訪れ、意見交換を行いました。
 大学や専門学校での情報保障の充実について、また、手話や聴覚障害者の理解普及のための学習を大学のカリキュラムに組み込むことについて要望しました。(詳細は要望書を参照)
 学生の生の声を直接届けられたことは、学生・留学生課にとっても、貴重な時間であったと思います。

意見交換
左から 全日本ろう学生懇談会 明石事務局長    
           同   那須副会長     
           同   森本会長      
文部科学省高等教育局学生・留学生課 小代課長補佐 

意見交換
左側、左から 文部科学省高等教育局学生・留学生課 今野職員   
                     同   金井係長   
                     同   小代課長補佐 
正面、左   全日本ろうあ連盟 教育・文化委員会 服部副委員長 
   右                 同   石橋委員長  
右側の学生、左から 森本会長、那須副会長、明石事務局長     

平成29年8月3日

文部科学大臣
林 芳正 様

全日本ろう学生懇談会
会長 森本 健

高等教育機関に関する要望について

拝啓
 盛夏の候、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は、きこえない学生の高等教育機関における学習環境等に関しまして、格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
 さて、当会は、全国のきこえない学生が集まり、日頃より高等教育機関における合理的配慮や支援等の知識を得るための議論と研究、これに伴う情報交換を行っております。また、社会をきこえない学生にとって過ごしやすいものに変えていくための諸研修も推進しております。現在、当会には107名の会員が所属しており、全国各地のさまざまなきこえない学生が主体となって活動できる全国で唯一のきこえない学生の当事者団体です。
 当会における事業をふまえ、今後の高等教育機関におけるきこえない学生の支援、環境整備について次の通りお願いさせて頂く次第でございます。ご検討の上、何卒今後の高等教育機関におけるきこえない学生の学習環境等に反映して頂けますようよろしくお願い申し上げます。

敬具

1. きこえない学生の「聴く権利・学ぶ権利」を保障するための制度を全ての高等教育機関に設置し、開かれた高等教育を私たちきこえない学生にも提供してください。

 近年障害者を取り巻く環境や社会状況は大きく変化し、とりわけきこえない学生に対する情報保障(手話通訳、ノートテイク等)の制度も全国各地の大学・専門学校等で実施されるようになりました。また、2016年4月より「障害者差別解消法」が施行され、国公立機関では法的義務、民間事業では努力義務として合理的配慮が課されるようになりました。このことは、全国のきこえない子どもたちに「きこえなくても大学・専門学校で学べる」という希望を与えるものとなり、実際にここ近年においてきこえない学生は増えております。しかしながら、日本学生支援機構の2016年度の調査では、国の大学に在籍している聴覚・言語障害学生数が1,797人に対して、大学側から何らかの支援を受けている聴覚・言語障害学生数は1,185人に留まります。全体の約65%しか支援を受けていないことになります。残りの約35%の中には、支援を望んでいるのに、財政的あるいは人材的理由から支援を断られるケースもみられます。きこえるきこえないに関わらず全ての人に等しく「聴く権利・学ぶ権利」が保障されるための法律と制度の推進をお願いするとともに、その具体的な取り組みを行ってください。

2. きこえる学生がきこえない人に対する正しい理解を持てるように、「手話」や聴覚障害を学ぶ環境作りに努め、大学・専門学校等に積極的に推進してください。

 現在、全国の地方自治体では「手話言語条例」の制定が次々なされ、手話を言語とする考えが広がっています。2011年の「改正障害者基本法」では「手話は言語」ということが明記されました。また、現行の特別支援学校学習指導要領をみると、コミュニケーションの手段として「手話」の活用が記載されています。そういった中、大学・専門学校等の高等教育機関においても「手話」の積極的な推進を行い、その具体的な取り組みを行ってください。一部ではありますが、「手話」をカリキュラムに組み入れ、「手話」への理論と研究を深めているところもあります。私たちきこえない学生が言語とする「手話」への正しい理解が広まり、使用者が増えれば、ますます私たちにとっても過ごしやすい社会になります。
 また、聴覚障害について学ぶ環境づくりも積極的に推進してください。大学・専門学校の状況を見るところ、聴覚障害について学ぶことのできる場は教育や福祉、医療系しかなく、非常に限られています。聴覚障害に対する誤った理解があれば、私たちにとってそれは生きづらい社会となります。教育や福祉、医療の大学・専門学校のみならず、あらゆる分野において聴覚障害について知る機会は設けられなければなりません。教養科目等を活用しそういった場を置くことで、大学・専門学校等に在籍している間あるいは卒業した後に、きこえない人に対する正しい理解を持ち、適切な支援ができるようになります。

以上