厚生労働省へ聴覚障害者の福祉施策について要望書を提出



 2016年7月26日(水)、全日本ろうあ連盟福祉基本政策検討プロジェクトチームは、厚生労働省へ、聴覚障害者の福祉施策について要望書を提出し、意見交換を行いました。

【写真左】左:全日本ろうあ連盟 副理事長 小中栄一
     右:厚生労働省 障害保健福祉部 自立支援振興室長 吉田正則

厚生労働省へ要望書を提出

連本第160213号
2016年7月26日

厚生労働大臣
 塩 崎 恭 久 様

一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

聴覚障害者の福祉施策に関する要望について

 時下、益々ご清祥のこととお慶び申し上げます。
 平素より聴覚障害者福祉の向上にご理解、ご高配を賜り、厚くお礼申し上げます。
 さて、障害者基本法の改正、障害者総合支援法の制定と見直し、本年4月からは障害者差別解消法の施行と、国連・障害者権利条約の批准に基づき障害者福祉の法整備、施策充実が進められているところです。障がい者制度改革推進会議・総合福祉部会がとりまとめた「障害者総合福祉法の骨格に関する提言」にそって、「情報アクセシビリティ」「意思疎通支援」「手話言語」に関わる施策が障害者福祉の大切な柱として位置づけられ取り組まれることが重要と考えます。
 全日本ろうあ連盟は、聴覚障害者情報提供施設、ろう重複障害者、ろう高齢者等の聴覚障害者福祉の関係諸団体とともに、聴覚障害者の福祉施策の充実のための施策について協議をし、これまで関係団体が各々要望している事項をもとに、下記の通り統一要望として取りまとめました。
 つきましては、ぜひとも施策に反映し、必要な予算措置を講じていただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

<要望事項>

1.全国の聴覚障害者が地域格差なく福祉サービスの利用ができるよう、社会福祉施設等の社会資源の整備を図ってください。

(1)全ての都道府県及び政令指定都市に「聴覚障害者情報提供施設」を早期に設置するよう助成措置等の充実を図ってください。
また、防災・災害対策及び支援の機能を施設の役割の一つに加え、意思疎通支援のコーディネート及び養成担当者、相談支援担当者、IT指導員の人員増員を行うとともに、職員の昇給ができるよう、身体障害者福祉法の改正を図り、職員の配置基準を明確にしてください。また運営費を増額してください。

(2)障害者権利条約の批准、障害者差別解消法の施行により予想される意思疎通支援のニーズ増大へ、障害者差別解消法に基づく環境整備、合理的配慮とともに障害者福祉サービスとしての意思疎通支援事業が連携して、聴覚障害者のニーズを取りこぼすことなく対応するよう施策を講じ、必要な予算を確保してください。

(3)全ての都道府県に聴覚障害児や聴覚障害者が、情報アクセスとコミュニケーションのバリアなく、自ら選択する言語やコミュニケーション手段により利用できる放課後等デイサービス、地域活動支援センター、グループホーム・ケアホーム、特別養護老人ホーム等の社会資源を計画的に整備してください。そのために、市町村単位だけでなく、広域で事業運営ができるように施策を講じてください。

(4)聴覚・ろう重複障害者が利用するグループホームにおいて、住居単位で「視覚聴覚障害者支援体制加算」が申請できるように改善してください。

(5)児童福祉法の障害児通所支援(児童発達・放課後等デイサービス)に「視覚聴覚障害者支援体制加算」を適用してください。

(6)高齢ろう者が利用できる介護保険サービスは限られています。高齢ろう者が、聴覚障害の特性に対する理解や配慮のない介護保険サービスを受けざるを得ない現状を改善するため、障害福祉サービスと介護保険サービスどちらも選択できるように施策を講じてください。

2.介護保険制度に関して、次のことを講じてください。

(1)平成29年4月に各市町村で完全実施される『介護予防・日常生活支援総合事業について、障害者差別解消法にうたわれている合理的配慮の理念に基づき、手話ができる職員の配置や同じ聴覚障害のある利用者集団の保障、そしてろう高齢者の障害特性や支援の必要性に配慮した人員や環境整備が確保されるなど、安心して利用できる事業(事業所)となるよう、市町村に働きかけてください。
 要支援1・2の聴覚障害者は、介護予防・日常生活支援総合事業の対象となりますが、この事業は地域での支え合いや介護予防となる見守り支援事業であり、市町村事業なので地域の格差が生じます。また、地域の社会福祉協議会やボランティア団体が対応することになりますが、手話がない状態では、ろう者は引きこもりになることが懸念されます。

(2)要介護1・2に該当する認知症の方々や、ろう高齢者も現状では、特例要件(入所指針)に合えば特別養護老人ホ-ムへの入所が可能となっています。今後の制度見直しに当たっても、軽度な要介護度であっても独居や家族内・地域での孤立し、聴覚障害に配慮した適切な居宅サ-ビスが受けられない実態にあるろう高齢者が、特別養護老人ホ-ムに入居できるよう、現状の入所要件(原則、要介護3以上、特例要件あり)を継続してください。

(3)聴覚に障害を持つ高齢者が多く入居する介護施設においては、すべての介護・支援の際に、「介護や行動の目的の説明、納得、了解」のための情報提供とコミュニケーション支援を一体的に行っています。そのため、現在、視覚・聴覚障害のある者が15名以上入居する介護福祉施設において加算されている『障害者生活支援体制加算』では、対象となる入居者が15名をはるかに超える介護施設においては、障害者支援員1名の加算では、障害特性にあった支援を行うのは困難です。ついては、現行の加算対象者15名以上26単位を基準とし、15名~29名は26単位、30名~44名は26単位+α・・・に見直すなど、加算対象者の人数に合わせて区分ごとの加算額増額の検討をお願いします。

(4)『社会福祉法人減免』の実施について、聴覚障害を持つ高齢者など低所得者が多く入居している施設においては、減免の対象者が入居定員に占める割合が、一般の介護福祉施設の割合を大きく上回っている実態を踏まえ、一般の介護福祉施設の減免対象者の平均を超えた分の法人負担額の軽減策を講じてください。

(5)『介護予防・日常生活支援総合事業』により、要支援1・2の聴覚障害者は、ホームヘルプ・デイサービス利用の対象外となり、そのため、全国的にも絶対的に不足している聴覚障害者の利用者に配慮できている事業所が、事業所閉鎖や労働条件の悪化を招く懸念があります。聴覚障害者が情報とコミュニケーションのバリアなく、地域生活を過ごせるようにするため、ホームヘルプ・デイサービスを継続して利用できるようにしてください。

3.聴覚障害者福祉に関わる人材養成・確保を強化してください。

(1)意思疎通支援事業において、意思疎通支援のネットワークを確立するため、「情報提供施設」や市町村等への手話通訳者の設置(雇用)が推進されるよう講じてください。

(2)手話通訳者、要約筆記者の養成、並びに養成を担当する講師の養成事業を、全ての都道府県において、早期に実施するようにしてください。

(3)自治体や情報提供施設において、聴覚障害を専門とする相談支援者の正規雇用を義務付けるとともに、相談支援者の研修事業を新設してください。

(4)聴覚障害者を対象とする在宅支援の強化のため、同じ聴覚障害のある介護福祉士やホームヘルパー等の養成及び研修について、自治体の責任で手話通訳者配置等の配慮を行うようにしてください。
また、介護職員の研修についても、聴覚障害のある職員の受講について、自治体の公費負担により手話通訳者・要約筆記者が配置されるようにしてください。

以 上