文部科学省へろう教育等に関する要望書を提出



 2015年10月8日、教育・文化委員会は文部科学省を訪問しました。まず井上惠嗣特別支援教育課長へ要望書を手渡し、その後別室にて、要望書に関する意見交換をしました。

【写真左】
 左:井上惠嗣特別支援教育課長
 中央:小出真一郎教育・文化委員長
 右:石橋大吾教育・文化副委員長

【写真右】
 右奥:石橋、右手前:小出
 文科省出席者
  特別支援教育課 窪田様
  特別支援教育課 桑田様、教職員課 松田様・矢野様・後藤様・大岸様
  児童生徒課 清水様、教育課程課 及川様、教科書課 川崎様
  学生・留学課 庄司様

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連本第150341号
2015年10月8日

文部科学大臣
馳 浩 様

〒162-0801東京都新宿区山吹町130SKビル8階
Tel03-3268-8847・Fax03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎

ろう教育等に関する要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、2015年6月13日群馬県前橋市において開催された第63回全国ろうあ者大会にて、ろう教育に関する大会決議を行ないました。
 ついては、ろう児及びろう学生が手話による教育を受ける権利の保障に関して、下記の通り要望いたします。

1. ろう児の求めるあらゆる教育ニーズに対応できるよう、ろう児が在籍する学校に高い専門性を有する教職員の配置を進めてください。

(説明)
 2014年2月に日本が批准した「障害者権利条約」24条(教育)では、一人ひとりのろう児にとって最も適当な言語並びに意思疎通の形態及び手段の確保、及び手話の習得等が謳われています。また、文部科学省の障害者差別解消法対応指針をふまえれば、ろう児が手話による意思疎通を望んだ場合、その合理的配慮が必要となります。
 ろう児はろう学校(特別支援学校も含む。以下同様)においても地域の学校においても、聞こえる子どもたちと平等に教育を受ける権利があります。ろう児の教育における環境整備を推進し、ろう児のもっとも自然な言語である「手話」で教科を教えることができる専門性の高い教職員の配置を促進するなど、ろう教育の専門性を高めるための施策を積極的に行ってください。
 また、教職員が手話で教えるためには、手話の習得が必須となります。「障害者権利条約」24条4では手話について能力のある教員の雇用、並びに研修が謳われています。教員に対する手話習得の研修制度を採り入れ、研修制度の拡充を積極的に図ってください。例として、地域の手話講習会に参加する際の職免または出張扱いなどの配慮、手話検定試験の受検料の補助、ろう学校で開催する教員・保護者に対する手話講習の外部講師派遣補助などを積極的に図ってください。
 なお教員養成の大学では、手話の講義を取り入れている大学もありますが、各大学の教員養成の方針に委ねられています。教員免許取得に必要な単位に「障がい理解」を必須として加え、手話や点字を2~4年間学習するカリキュラムを取り入れてください。   

2. ろう児のアイデンティティ確立のため、ロールモデルの役割を担うことができるろうの教職員の採用促進と、職務遂行のうえでその能力を最大限に発揮するための配置や職場環境の改善、研修機会の充実について、具体的な取り組みを行ってください。

(説明)
 「障害者権利条約」24条3(b)には「聾社会の言語的な同一性の促進を容易にすること」が謳われています。一人ひとりのろう児が自身の成長や将来像を描くためにも、ロールモデルの役割を担うろうの教職員は極めて重要です。ろう学校におけるろうの教職員の採用を積極的に推進してください。
 また、「障害者権利条約」21条では、障害者が自ら望む意思疎通支援手段の行使を謳っています。意思疎通手段として手話の使用を認め、ろうの教職員が能力を最大限に発揮するための配置や情報保障等、職場環境の改善などを促進させる取り組みを行ってください。
 法定研修に情報保障がなされるケースが各地で増えつつありますが、不十分な地域もあります。また、民間の教科等に関する研究会や学習会参加においては、ほとんど情報保障がつかないため、聴覚障害のある教職員の研修機会が結果として限定されてしまいます。行政主催の研修、研究会の情報保障体制の整備、および民間団体による研究会への情報保障に関する補助の充実を図ってください。

3. 貴省がその設置を推進している「スクールソーシャルワーカー」及び「スクールカウンセラー」について、全国のろう学校にも設置や派遣について更に進め、早期教育段階での相談支援も含めてその機能を十分発揮できるよう、推進してください。

(説明)
 児童生徒や保護者の抱える悩みを受け止めるため、貴省ではスクールソーシャルワーカー及びスクールカウンセラーの設置や派遣を推進していますが、現状では、地域や学校ごとに大きな差があります。全国のろう学校へのスクールソーシャルワーカー及びスクールカウンセラーの設置・派遣が行われるよう、格差の是正を図ってください。
 ろう学校では、聴覚障害のある児童生徒が支援対象となりますが、コミュニケーション手段について手話等の視覚的手段が主となります。また、心理面で、児童生徒がかかえがちな悩み(周りとのコミュニケーションに関する悩み、情報が十分に得られる環境でないために生じる不安、将来への不安等)に対する知識や理解を持った専門家の派遣が求められています。関連機関と連携を持ち、児童生徒や保護者(クライアント)のエンパワーや環境整備、関係調整を進めていくためには、聴覚障害者の問題やろう教育、手話に関する知識や社会資源に関する情報を十分に持つスクールソーシャルワーカー及びスクールカウンセラーの存在が必要です。
 また、学校の問題を解決する上では、第三者による視点が重要であったり、教職員や保護者に出しにくい悩みを持っている児童生徒が相談しやすくなるために、校外の専門家派遣が望ましいと思われます。したがって、校内の教職員がスクールソーシャルワーカー、スクールカウンセラーを兼ねる問題についても検討をお願いします。
 児童生徒の健やかな成長をめざすためには、早期からの教育や保護者の心理面での支援が不可欠となります。スクールソーシャルワーカー及びスクールカウンセラーの設置や派遣もふまえた、早期・就学前の幼児(0~5歳児)の教育体制の整備、保護者の相談等支援体制の構築を進めてください。

4. 国語と同様に「手話言語」を体系的に学ぶことで、ろう児が自分の力で考え、判断し、意見を表出できることによって、総合的な言語力と生きる力が身につくことができるよう、「手話言語」を教科として導入することを早急に進めてください。

(説明)
 「障害者権利条約」24条3(b)では「手話の習得」を容易にすることが謳われていますが、ろう学校には「手話言語」を教科として学ぶ授業がありません。ろう児のもっとも自然な言語である「手話」の文法力、表現力、手話が生まれ育まれてきた歴史や文化を学ぶことによって、ろう児は自らのアイデンティティを確立し、主体的に生きるための総合的な言語活動が充実します。同時に手話で国語を学ぶことによって、手話と日本語の二つの言語を繋げ、思考力や判断力、表現力が発達し、「生きる力」を身に付けることが期待できます。
 貴省学習指導要領の前文にある「生きる力」を育むためにも、早急に「手話言語」の教科を導入することを推進してください。

5. 学習指導要領にある「総合的な学習の時間」や各教科に、ろう者や手話等の理解・普及のための副読本を取り入れてください。

(説明)
 小学校、中学校、高等学校で行われる「総合的な学習の時間」では、教科書や副読本は使用されず、それぞれの学校で任意に内容を決め、授業が行われていますが、この時間に、様々な障害者について正しく学ぶことが必要と考えます。この時間に活用するろう者や手話等の理解・普及のための副読本について、文部科学省として検討を行ってください。また、様々な教科の検定教科書にも、ろう者や手話・指文字に関する内容を入れてください。

6. 高等教育機関(大学等)へ障害学生コーディネーターの配置を徹底してください。 また、その質を担保するための研修や、社会資源等の活用も取り入れてください。 同様に情報保障者の、質を担保するための研修等や社会資源の活用も取り入れてください。

(説明)
 現在、一部の大学では障害学生コーディネーターを配置し、ろう学生の支援を行っているところがあります。しかし、聴覚障害に関する知識不足などで十分な支援となっていない現状もあります。また、情報保障者がボランティアであることが多く、その質が担保されないため、結果としてろう学生への情報保障が十分でないということになります。
 障害学生コーディネーターが十分な知識を持ち、質が担保された情報保障者がろう学生の支援にあたることで、ろう学生の学ぶ機会がさらに拡大できるよう、貴省として障害者差別解消法対応指針もふまえ、障害学生コーディネーターの配置と情報保障者の社会資源活用等を推進してください。