「情報・コミュニケーション法(仮称)」の骨格に関する提言 第三次版(案)を発表



 2012年8月に「情報・コミュニケーション法(仮称)」の骨格に関する提言第二次版を出してから2年半が経過しました。その間、障害者福祉における重要な法案が次々と成立しました、2013年4月には障害者総合支援法が施行、障害者雇用促進法の改正、また「障害者差別解消法」が成立しました。そして2014年2月は、「障害者の権利条約」に批准しました。今回の第三次提言は、これらの流れを踏まえて作成しました。また、今回の公表に先立ち寄せられた様々な意見も反映させています。
 この提言がきっかけとなって、情報・コミュニケーション法(仮称)が実現される日をめざし、聴覚障害者制度改革推進中央本部の構成6団体と、都道府県地域本部はもとより、日本障害フォーラムをはじめとする中央・地方の障害者団体、各政党、国や地方公共団体、事業者、国民一人一人の広い議論とご支援をお願いしたいと思います。

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「情報・コミュニケーション法(仮称)」の骨格に関する提言


前文
 我が国においては、日本国憲法に個人の尊重と法の下の平等がうたわれ、障害者を含むすべての国民の平等の実現に向けた様々な取組が、国際社会における取組とも連動しつつ、着実に進められてきたが、なお一層の努力が必要とされている。
 一方、科学技術やマルチメディアの進歩により、障害者の社会進出・社会参加も進む中、すべての人々が互いにその人権を尊重しつつ責任も分かち合い、障害の有無にかかわりなく、その個性と能力を十分に発揮するため、情報アクセス及び意思疎通の困難を取り除くことは、きわめて重要な課題となっている。
 このような状況をかんがみ、障害者の情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する施策を重要課題と位置付け、社会のあらゆる分野において、障害者の参画社会の形成の促進に関する施策の推進を図っていくことが重要である。
 ここに、障害者の情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障についての基本理念を明らかにしてその方向を示し、将来に向かって国、地方公共団体及び国民の取組を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。


1.目的
 この法律は、全ての国民が、情報アクセス及び意思疎通の困難の有無によって分け隔てられることがない共生社会を実現するため、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する施策に関し基本理念を定め、国、地方公共団体等の責務を明らかにするとともに、障害者の地域生活と社会参加の支援等のための施策の基本となる事項を定めること等により、障害者の地域生活と社会参加の支援等のための施策を総合的にかつ計画的に推進することを目的とする。


2.定義
 この法律において、次の各号に掲げる用語の定義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

(1)「障害者」とは、機能障害を有する者とこれらの者に対する態度及び環境による障壁との間の相互作用により、話すこと、聞くこと、見ること、書くこと、読むこと、認知することに困難があり、音声や文字等による情報にアクセスできない、又は自ら日常使用している意思疎通の形態、手段及び様式を選択できないため、日常生活又は社会生活に制限を受ける状態にある者をいう。

(2)「言語」とは、音声言語及び手話その他の形態の非音声言語をいう。

(3)「意思疎通」とは、言語、筆談、点字、文字表示、わかりやすい言葉、拡大文字、指文字、また実物や身振りサイン等による合図、触覚等による意思伝達、また手話、要約筆記、指点字、触手話、手書き文字、朗読等の通訳者や説明者等の人的支援、及び補聴援助システムその他の情報支援技術を利用した補助代替的手段をいう。

(4)「情報アクセス」とは、障害者が、自ら選択する言語、意思疎通により情報を取得、利用することをいう。
 「情報アクセシビリティ」とは、障害者が、自ら選択する言語、意思疎通により情報を取得、利用することの容易さをいう。


3.基本理念について

(1)障害者は、障害のない人と平等に地域生活を営むため、情報アクセシビリティ及び意思疎通が保障される権利を有する。

(2)何人も、障害者に対して、情報アクセス及び意思疎通の困難を理由として差別してはならない。また障害者が必要とする情報アクセス及び意思疎通の権利利益を侵害することとならないよう、必要かつ合理的な配慮をしなければならない。

(3)情報アクセス及び意思疎通の保障にかかる費用については、その負担を障害者に求めないこととする。


4.国及び地方公共団体の責務

(1)国及び地方公共団体は、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する環境を整備し、障害のない人との公平、公正な権利を保障しなければならない。

2 国及び地方公共団体は、情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障について国民の理解を深める施策を講じなければならない。

(2)国は、情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障に係る施策を総合的かつ計画的に実施しなければならない。

2 国は、地方公共団体が実施する情報アクセシビリティ及び意思疎通支援に係る施策に関し、必要な財政上の措置を行わなければならない。

3 国は、情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障に係る実態を把握し、その状況を広く国民に公表しなければならない。

(3)都道府県は、都道府県全域における情報アクセシビリティ及び専門性の高い意思疎通に係る施策を実施しなければならない。

2 都道府県は、市町村と連携を図りつつ、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する環境の整備を行わなければならない。

(4)市町村は、市町村における情報アクセシビリティ及び意思疎通保障に係る施策を実施しなければならない。


5.国民の責務

(1)国民は、情報アクセス及び意思疎通に困難のある障害者がいることを認識し、地域社会において情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障を推進し、共生社会の実現に寄与するよう努めなければならない。

(2)事業者は、社会のあらゆる分野において、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障し、障害のない人と同等の利便を図らなければならない


6.障害者基本計画及び監視

(1)国及び地方公共団体は、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する環境を整備するために、障害者基本計画において、情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障をそれぞれ一つの独立した施策として位置づけて策定しなければならない。

(2)国及び地方公共団体は、情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障に係る施策を策定するにあたり、情報アクセス及び意思疎通に困難のある障害当事者を中心とする委員会を置き、その委員会において意見を求めなければならない。
委員会の運営においては、情報アクセス及び意思疎通に困難のある多様な障害者の特性に応じた配慮が提供されなければならない。

(3)国及び地方公共団体が設置する上記の委員会は、本法の目的に基づく施策が実施されるよう監視する。


7.社会の各分野における情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障に関する施策について

(1)医療、介護等

1 国及び地方公共団体は、障害者に対し、医療、リハビリテーション、介護及び保健等に関する情報アクセシビリティを確保し、また医療、リハビリテーション、介護及び保健等に従事する者と障害者との意思疎通が保障されるよう、意思疎通を支援する者を配置する等の環境を整備しなければならない。

2 国、及び地方公共団体は、医療、リハビリテーション、介護及び保健等に従事する者が、障害者について熟知できるよう、当該従事者の養成課程において教育及び研修を実施しなければならない。

3 医療、リハビリテーション、介護及び保健等に従事する者を使用する事業者は、障害者に対して医療、リハビリテーション、介護及び保健等に関する情報の提供を適切に行い、障害者と医療、リハビリテーション、介護及び保健等に従事する者との意思疎通が保障されるよう、意思疎通を支援する者を雇用する等の環境を整備しなければならない。


(2)教育及び療育

1 国及び地方公共団体は、障害者が、その年齢及び能力に応じ、かつその特性を踏まえた十分な教育、及び療育が受けられるようにするため、情報アクセシビリティの確保、アクセシブルな教材(点字図書、拡大図書、音声図書、電子図書、ルビ付き図書、手話映像、字幕映像等)、意思疎通補助機器の提供(筆談具、磁気ループ等)、意思疎通を支援する者の配置等の意思疎通を保障する施策を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、教育及び療育に従事する者が、障害者について熟知できるよう、当該従事者の養成課程における教育及び研修を実施しなければならない。

3 教育及び療育に従事する者を使用する施設及び教育機関の管理者は、障害児及びその保護者に対し、療育及び教育に関する情報の提供を適切に行い、教育及び療育に従事する者との意思疎通を保障する環境を整備しなければならない。


(3)職業及び労働

1 国及び地方公共団体は、障害者が職業選択に関する情報を十分に取得し利用できるよう提供するとともに、職業相談、職業指導、職業訓練及び職業紹介の実施において、意思疎通の保障が行われるよう、必要な施策を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、障害者を雇用する事業者に対して、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する環境の整備、意思疎通を支援する者の雇用等、そのために必要とする費用の助成その他必要な施策を講じなければならない。

3 事業者は、障害者の雇用に対し、職場における情報の提供、及び意思疎通の保障を行うことにより、その雇用の安定を図るよう努めるとともに、障害者が安全かつ健康に働けるよう情報アクセシビリティ及び意思疎通が保障される職場環境を整備しなければならない。


(4)施設の利用、移動

1 国及び地方公共団体は、自ら設置する官公庁施設、交通施設(車両、船舶、航空機等の移動施設を含む)その他の公的かつ民間の屋内及び屋外の施設(宿泊施設、住居、医療施設、職場等を含む)について、障害者に情報が適切かつ確実に伝えられるようにするとともに、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する環境を整備するための施策を講じなければならない。

2 国又は地方公共団体は、障害者の移動支援において、移動に伴う情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障に必要な施策を講じなければならない。


(5)相談

1 国及び地方公共団体は、障害者及びその家族その他の関係者に対する相談支援が適切に受けられるよう、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する環境を整備するための施策を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、障害者の特性等を理解し、障害者が自ら選択する言語、意思疎通により情報提供、相談支援が十分にできる専門員を雇用又は養成し配置するなどの必要な施策を講じなければならない。


(6)文化、スポーツ及びレクリエーション

1 国及び地方公共団体は、障害者が文化芸術活動に円滑に参加でき、スポーツ又はレクリエーションを行うことができるようにするため、文化芸術、及びスポーツ等に関する情報アクセシビリティ、並びに文化芸術活動及びスポーツ(通常のスポーツ大会、障害者スポーツ大会等)に参加するための意思疎通の保障に必要な施策を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、障害者が、文化芸術、スポーツ等を鑑賞するために使用する施設において情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障する環境を整備するための施策を講じなければならない。

3 国及び地方公共団体は、障害者が自ら選択する言語及び意思疎通の特性を活かした文化芸術活動の支援に努め、その普及に必要な施策を講じなければならない。


(7)情報通信アクセシビリティ

 国及び地方公共団体は、障害者が利用しやすい電話、ファックス等の情報通信機器及び電話リレーサービス等の情報通信システム(インターネットを含む)の利用、提供及び環境整備並びに機器開発等に必要な施策を講じなければならない。


(8)放送アクセシビリティ

1 国及び地方公共団体は、情報アクセシビリティを保障するため、字幕、手話、音声解説等を付加するなど電気通信及び放送その他の情報の提供を行い、情報を取得し利用するための環境整備並びに放送機器の開発に必要な施策を講じなければならない。

2 国は障害者が主体となって行う放送サービス、もしくは既存の放送を補完する放送サービス等に対し、そのために必要とする費用の助成その他必要な施策を講じなければならない。


(9)映像及び活字による文化

 国及び地方公共団体は、情報アクセシビリティ及び意思疎通を保障するため、手話、字幕、音声解説、点字、拡大文字等にて映像及び活字による文化を享受できるよう必要な施策を講じなければならない。


(10)情報アクセス・意思疎通支援機器の開発及び整備

 国及び地方公共団体は、情報アクセシビリティ及び意思疎通支援機器の開発・研究を援助するとともに機器等の国際標準化を促進するよう、必要な施策を講じなければならない。


(11)防災及び防犯

 国及び地方公共団体は、障害者が、あらゆる施設、住居等において、災害時の緊急連絡を迅速かつ的確に受けられ、かつ発信できるシステムを整備し、災害及び防犯に関する情報の適切な提供を行うための必要な施策を講じなければならない。


(12)政治参加

1 国及び地方公共団体は、法律又は条例の定めるところにより行われる選挙、国民審査又は投票において、被選挙権、選挙権に関する情報のアクセス及び被選挙権、選挙権を行使するための意思疎通の保障に必要な施策を講じなければならない。

2 国及び地方公共団体は、あらゆる議会等活動並びに政治活動における情報アクセシビリティ及び意思疎通の保障に努めなければならない。


(13)司法参加

1 国又は地方公共団体は、障害者が、警察等での取り調べ並びに刑務所等での生活を送る上での情報アクセシビリティ及び意思疎通が保障されるよう、意思疎通を支援する者を雇用する等の必要な施策を講じなければならない。

2 裁判所は、障害者が民事裁判及び刑事裁判を受ける場合、障害者が裁判を傍聴する場合、また裁判員制度において障害者が裁判員に選任された場合、情報アクセシビリティ及び意思疎通が保障されるよう、意思疎通を支援する者を雇用する等の必要な施策を講じなければならない。

3 国又は地方公共団体は、司法に従事する者に、障害者について熟知できるよう、当該従事者の養成課程において教育及び研修を実施しなければならない。


8.意思疎通を支援する者の養成
 国及び地方公共団体は、意思疎通を支援する者の養成と認定、研修を行わなければならない。


9.意思疎通を支援する者の雇用、派遣

(1)国及び地方公共団体は、意思疎通を支援する者を雇用し、派遣しなければならない。

(2)国と地方公共団体は、意思疎通を支援する者の雇用、派遣を行う事業を義務的経費として全国共通の仕組みにより行わなければならない。

2 意思疎通を支援する者を雇用、派遣する事業を担う事業者に関して必要な事項については政令で定める。

(3)事業者は、障害者基本法の精神に基づき、障害者の求めがあれば意思疎通を支援する者を雇用し、派遣しなければならない。その負担が過重なため困難な場合は、国及び地方公共団体が、事業者に対して意思疎通を支援する者の雇用、派遣のための助成措置を行う。


10.情報アクセス及び意思疎通が保障されない場合の救済

(1)国及び地方公共団体は、情報アクセス及び意思疎通が保障されないことによる差別を是正するため、救済機関を設置する等の必要な施策を講じなければならない。

(2)障害者は、情報へのアクセス及び意思疎通が保障されなかった場合の損害及び名誉を回復される権利を有する。