厚生労働省へ聴覚障害者の福祉施策について要望書を提出



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 2014年9月11日(木)、厚生労働省を訪問、聴覚障害者の福祉施策について要望書を提出し、意見交換を行いました。
 
【写真】
厚生労働省社会・援護局障害保健福祉部 企画課自立支援振興室を訪問:左奥から松本福祉・労働委員会委員長、吉野副委員長、永井委員

連本第140307号
2014年9月11日

厚生労働大臣
 塩崎 恭久  様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

聴覚障害者の福祉施策への要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月15日長野県長野市において開催された第62回全国ろうあ者大会にて、聴覚障害者の福祉施策に関する大会決議を行ないました。つきましては、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1.聴覚障害者情報提供施設について下記事項を要望します。

(1)全ての都道府県及び政令指定都市に聴覚障害者情報提供施設を早期に設置されるよう、強く働きかけてください(未設置6道府県+13政令指定都市)。

(2)東日本大震災の被害を受けた東北地方の聴覚障害者情報提供施設については優先的に設置するとともに設置・整備にかかる費用については特段の助成措置を図って下さい。

(3)聴覚障害者情報提供施設において、適正な設備整備や人的配置がなされるよう、抜本的にガイドラインを見直すとともに都道府県に明示してください。

2.ろうあ者相談員について下記事項を要望します。

(1)地方自治体独自施策の「ろうあ者相談員」制度を「認定聴覚障害相談支援員(仮称)」制度として国の制度に位置付けて実施いただきますようお願いします。
(説明)
 特に災害後の聴覚障害者の生活再建・メンタル支援には全国のろうあ者相談員の連携が必要になります。
 聴覚障害者の相談支援には聴覚障害者と同じ言語・コミュニケーション手段を持ち、当事者の特性や生活実態等を理解しており、更に相談支援のノウハウを身につけていることが大切です。
 現状ではろうあ者相談員は地域によってその条件や身分がまちまちであることから、相談支援の地域間格差をなくし、地域内だけでなく必要に応じて広域で支援できる体制となるよう、「認定聴覚障害相談支援員(仮称)」制度として国の制度に位置付けて実施してください。

(2)「認定聴覚障害相談支援員(仮称)」制度が国の制度となるまでの間、認定聴覚障害相談支援員(仮称)の専門性の確立と資質の向上を図るための研修事業費を新設して下さい。

(3)「基幹相談支援センター」に認定聴覚障害相談支援員(仮称)や手話通訳士有資格者等を配置できるよう明確に規定して下さい。

3.ろう重複障害者の豊かな地域生活のために下記の事項を要望します。

(1)ろう重複障害者施設を存続し、ろう重複障害者自らが希望する場所、形態で生活できるよう、社会資源の充実および報酬・人的配置・情報設備の設置に関する配慮を要望します。
(説明)
 「障害者総合支援法」では障害者の地域移行を促進する内容になっており、その趣旨に基本的には賛同します。しかしろう重複障害者はコミュニケーション等の特性から集団で生活する必要性があり、それに対する支援者に専門性が求められます。この意味でろう重複障害者施設は彼らの生活の場として大変重要な役割を担っています。
 ろう重複障害者施設、グループホームといった形態を充実させ、ろう重複障害者が安心して生活できる社会資源の充実を要望します。
 聴覚障害者やろう重複障害者が利用するグループホームに「視覚・聴覚言語障害者支援体制加算」を適用してください。
 また、グループホームにフラッシュランプや電光文字掲示等、視覚的な情報設備を整備するための補助制度を設けてください。

4.ろう重複障害者が多く利用する無認可あるいは小規模作業所について、「広域の条件」の見直しをおこない、広域事業として円滑に運営できるよう施策を講じてください。
(説明)
 ろう重複障害者の場合、個々の市町村において事業を行う時、対象となる人数が少ない為、5名程度の無認可作業所から誕生しました。その一方で、障害者自立支援法に基づく事業移行(選択)が迫られる中で、地域生活支援事業、個別給付の事業選択や多機能型事業所への移行を検討したくても、最低人数(定員)の要件(基準)により困難であるのが実態です。
 障害の特性、支援の専門性と集団生活の必要性等を踏まえ、ろう重複障害者を対象とした「無認可作業所」が地域生活支援事業における広域事業として運営できるよう、施策を講じると共に各市町村への指導を行ってください。
 また、地域活動支援センターが広域事業として運営できるよう、都道府県事業に位置付けるなど弾力的な施策の展開をして下さい。

5.在宅ろう者、ろう重複障害者が安心して住みやすい社会資源を創出してください。
(説明)
 引きこもりになっているろう者、ろう重複障害者が、生きがいと尊厳のある暮らしをしていくためには、「訪問支援」が大変重要なものとなってきています。
 厚生労働省、国土交通省の施策である高齢者世話付き住宅などの公営住宅に住む高齢者に対して、見守りサービス(安否の確認)、生活指導や相談、緊急時の対応、関係機関との連絡、コミュニティづくりの支援などを行うシルバーハウジング、またその施策の中に組み込まれている総合相談機能であるライフサポートアドバイザーの設置等が実施されている地域がありますが、これらを地域の聴覚障害者協会や、地域活動支援センター、相談支援事業所、聴覚障害者情報提供施設に委託するなどして、在宅ろう者、ろう重複障害者も同等のサービスが享受できるよう、訪問支援制度化を早急に検討してください。

6.2015年介護保険改正により、要支援1~2、要介護1~2の高齢聴覚障害者への福祉サービス提供が大変厳しい状況に置かれることになります。2015年の介護保険制度の改定にあたって、下記について要望します。

(1)特別養護老人ホームの入所条件(要介護1~2)の特例に聴覚障害者も追加する旨、明記してください。

(2)特別養護老人ホームの補足給付について、障害基礎年金を所得とみなさないようにしてください。

(3)介護保険制度の要支援者(要支援1~2)について、従来どおり、介護給付として給付の対象から外さないようにしてください。

(4)聴覚障害者に対する訪問介護・居宅介護支援の広域性を鑑み、移動手段に対する助成について早急に検討してください。

(5)聴覚障害者に対する訪問介護・居宅介護支援等において、高齢聴覚障害者の特性に応じたコミュニケーション支援に対する加算について、早急に検討してください。

(6)要介護認定調査が高齢聴覚障害者のコミュニケーション支援の重要性と生活実態をきちんと評価できるものとなるよう、早急に検討してください。

7.65歳に達した障害高齢者は、介護保険制度を優先に利用することになっていますが、ろう高齢者は「ろう」障害の特性による、意思疎通を図る為のコミュニケーション支援や情報提供などの支援が必要不可欠です。
 ろう高齢者が利用できる介護保険サービスはほぼ皆無に等しい状態である為、介護保険制度優先とせず、聴覚障害者が必要とする障害福祉サービスが提供されるよう条件を緩和して下さい。

8.厚生労働省の所管する資格・試験において、聴覚障害者が受験を希望する場合は、本人が必要とする情報保障・意思疎通支援が受けられるよう、合理的配慮の提供を含めてください。
 また、資格取得の為の研修・講座等において、聴覚障害者が受講を希望する場合は、本人が必要とする情報保障・意思疎通支援等の配慮がなされるよう、都道府県への指導を行ってください。

(説明)
 現在、介護福祉士試験第2次試験(実技試験)では、音声による「要介護者モデルへの声かけ」が含まれています。
 また、介護職員初任者研修および介護福祉士養成講座に手話通訳等の情報保障がつかないことがあります。
 ろう高齢者は年々増加する一方であり、ろう介護職員やろう介護福祉士の存在は欠かせないものとなっていることから、聴覚障害者の職域を制限するようなことがないよう、配慮をお願いいたします。

以 上