厚生労働省へ高齢聴覚障害者の介護保険制度改定に関する要望書を提出



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 2013年12月16日(月)、厚生労働省老健局を訪問、高齢聴覚障害者の介護保険制度改定に関する要望書を提出し、意見交換を行いました。
 
【写真】
左:小中副理事長  右:厚生労働省老健局
 
その他の出席者:
松本正志(福祉・労働委員会 委員長)
小西 正(大阪:あすくの里 施設長)
奥本初実(京都:いこいの村梅の木寮 施設長)
中島正二(兵庫:ひょうご聴覚障害者介護支援センター ケアマネージャー)
永井紀世彦(埼玉:ななふく苑施設長の代理/埼玉聴覚障害者福祉会 理事長)
 

連本第130571号
2013年12月16日

厚生労働大臣
 田村 憲久  様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話03-3268-8847・Fax.03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理 事 長 石野 富志三郎

高齢聴覚障害者の介護保険制度改定に関する要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 平成25年12月4日に、我が国も障害者権利条約を批准し、国内法及び制度においても「合理的配慮」を盛り込んだ改定・運用がますます整備されていくでしょう。
 つきましては、介護保険法についても、障害者への合理的配慮を盛り込んだ法及び制度に向けて、このたびの改定が進められますよう、以下の通り要望します。

【要望1】
 日常の意思決定・意思伝達に著しい困難を抱えている高齢聴覚障害者の介護認定を、認知症高齢者の日常生活自立度Ⅲb(日常生活に支障をきたすような症状・行動や意思疎通の困難さが昼間・夜間に見られ介護を要する)を最低基準として認定してください。それを介護認定審査員・調査員・かかりつけ医師など関係者へのテキスト(指針)に明記し徹底を図ってください。

(説明)
 介護保険制度はそもそも健常者が要介護状態になって介護サービスを受けることを想定した保険制度です。従って要介護認定の仕組みも、健常者ベースとならざるを得ず、生まれつき聴覚機能を備えず、または幼少時に聴覚機能に障害を持った高齢聴覚障害者の固有特有の介護・生活援助の手間は想定されていません。高齢聴覚障害者の多くは教育の不十分さによる発達保障の阻害、意思形成・意思決定・意志疎通の阻害、家族や社会からの厳しい孤立を抱えています。
 これらの複合による生命と健康保持、日常生活の困難、それに伴う精神的な苦痛と問題行動は、障害と環境の相互作用の結果です。しかし、それらの結果としての「特有・固有の生活援助と介護の手間」が訪問調査票で把握する調査項目にはありません。
 高齢聴覚障害者は教育を受けていても、その多くは職業の技術を身につけることだけに偏り、コミュニケーション環境がきわめて不十分なまま学力等を十分に身につけるには程遠い教育であったことが認知能力の向上を妨げる結果となり、介護の手間がかなりかかる状態となっています。この点をご理解いただき、要介護認定への反映を求めます。

【要望2】
 現行の要介護認定の仕組みによる認定の結果、要介護1、要介護2となった高齢聴覚障害者について、認知症高齢者、知的・精神障害者等と同等に、特養利用から除外しないでください。
 原則、除外しない対象者としている「知的・精神障害者等」を「知的・精神・聴覚障害者等」としてください。

(説明)
 高齢聴覚障害者に配慮した在宅介護サービスは現在ほとんど存在しません。関西など一部の地域で訪問介護・通所介護・短期利用がされているにすぎません。高齢聴覚障害者の生活ニーズと言語(手話など)人生に配慮した特養そのものが全国で6カ所しかない状態です。今回の改定で施設利用が阻まれると、これまでの社会資源整備への努力にも水を差し、深刻な事態となります。原則的に除外しないとしている対象者、認知症高齢者、「知的・精神障害者等」の「等」の前に「聴覚障害者」を加えてください。

【要望3】
 改定予定の、補足給付段階の判定にあたっては、障害年金(市民税非課税)を収入として勘案することはやめてください。

(説明)
 介護老人施設に入居の高齢聴覚障害者は、障害基礎年金のみの受給者が多く、負担限度額認定区分・利用者負担段階は第2段階が圧倒的です。ちなみに淡路ふくろうの郷(兵庫県洲本市)では80%、いこいの村・梅の木寮(京都府綾部市)では85%が第二段階です。

 障害年金(非課税)が収入として勘案された場合、第3段階となり、その費用の負担は、現在の第2段階の場合に比べて23,536円の負担増(一か月31日の場合)となるばかりか、ほとんどの利用者の負担が、受給する障害年金の額を越え「年金の範囲で利用できる」という安心感が根底から壊されます。
 このことは、障害を理由に、結婚や出産など、家族を持つことさえもかなわなかった高齢聴覚障害者にとって、受給年受給額を超えた利用料を代わりに負担してくれる家族もないため、退所を余儀なくされたり、介護老人福祉施設利用の断念に追い込まれます。

 さらには、その介護老人福祉施設を経営する社会福祉法人が負担せざるを得ない状況が生まれる可能性があります。
 なお、市民税非課税の障害年金を課税対象の所得とすることは、高額介護サービス費などにも多大な影響を及ぼし、介護サービスの利用断念に追い込みます。

【要望4】
 要支援の訪問介護・通所介護を、今まで通り、介護給付で行ってください。高齢聴覚障害者に配慮のある訪問・通所介護事業所は十指にも満たず、市町村の予防給付になると、それらの事業所すら閉鎖となり、まして、高齢聴覚障害者に配慮のある予防給付が実施可能な市町村など皆無です。

(説明)
 現在、訪問介護は大阪・京都・兵庫・千葉・札幌・広島など10カ所にも満たず、通所介護になるとほんの数カ所です。それらは当事者である聴覚障害者と共感する健聴者の共同によって整備されてきたものです。
 要望1でも触れた通り、現在の介護認定の仕組みでは、要支援1と認定されることすら厳しい実態があります。いわゆる「歩行できる元気高齢者」として、介護の仕組みの上でも「高齢聴覚障害者は軽い」とみられています。社会的な少数者としての高齢聴覚障害者は、介護認定の仕組みに想定されていないため、介護は不要、あるいは軽度と捉えられ、よって、市町村などの高齢聴覚障害者を対象とした予防給付のサービス整備を遅らせてきました。
 日常的な意思形成・意思決定・意思伝達に困難を抱え、家族の中でも地域社会でも、孤立状態に置かれている高齢聴覚障害者を探し出して、訪問介護・通所介護の事業所を作り出してきた当事者の取組みを、各地に広げ、高齢聴覚障害者の、生きる事、健康と人間らしい暮らしを支えていくためにも、引き続き介護給付としてください。

【要望5】
 高齢聴覚障害者の、当事者のニーズを前提に、障害者福祉サービスと介護保険サービスのどちらでも選択し、利用できるようにしてください。

(説明)
 高齢聴覚障害者のコミュニケーションの保障に併せて、介護サービスを利用できる社会資源は、施設サービスでは7施設、在宅サービスでは十指にも満たない実情です。介護優先と言われても、選択できる以前の実態にあることをご理解いただきたいです。
 繰り返しになりますが、65歳以上の障害者は、障害者総合支援法第7条の「介護保険優先原理」により、介護サービスの利用とされていますが、現実に利用できるサービスが皆無といえる実情です。
 介護保険サービス優先の固定的な運用でなく、高齢聴覚障害者については障害者サービスの利用を認め、かつ、希望によって介護保険サービスと、どちらも選択できるようにしてください。

以 上