厚生労働省へ聴覚障害者の労働及び雇用施策について要望書を提出



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 2013年11月14日(木)、厚生労働省を訪問、聴覚障害者の労働及び雇用施策への要望について要望書を提出し、意見交換を行いました。
 
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厚生労働省職業安定局高齢・障害者雇用対策部障害者雇用対策課を訪問:左から松本福祉・労働委員会委員長

連本第130504号
2013年11月14日

厚生労働大臣
田村 憲久 様

東京都新宿区山吹町130 SKビル8F
電話 03-3268-8847・FAX 03-3267-3445
一般財団法人全日本ろうあ連盟
理事長 石野 富志三郎 

聴覚障害者の労働及び雇用施策への
要望について

 時下、ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。
 日頃より、私ども聴覚障害者の福祉向上にご理解ご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
 さて当連盟は、本年6月16日山形県山形市において開催された第61回全国ろうあ者大会にて、聴覚障害者の労働及び雇用施策に関する大会決議を行ないました。ついては、下記の通り要望いたしますので、その早期実現をお願い申し上げます。

1. 東日本大震災後の聴覚障害者の求職等支援のために、被災した東北3県に対しすべての職業安定所に手話協力員の設置・増員を図り、更に全国からの動員をかけることで支援体制を強化してください。
 (説明)東日本大震災後の被災者の生活再建のためには就業が不可欠ですが、被災地の雇用状況は厳しく、また、聴覚障害者の場合は職業安定所での就職相談から情報・コミュニケーション保障が必要になります。聴覚障害者が就職活動を進めるにあたって手話協力員の支援は不可欠です。従いまして、被災三県のすべての職業安定所に手話協力員の設置・増員を図ってください。
 また、全国の手話通訳者とろうあ者相談員が被災地へ公的に派遣され、聴覚障害被災者 支援に重要な役割を果たしました。手話通訳者、ろうあ者相談員の派遣に倣い、手話協力 員も公的派遣の対象とし、支援体制を強化してください。

2.手話協力員の常勤化など、手話協力員制度を拡充してください。
 (説明)手話協力員制度は、昭和49年に労働省(当時)が、求職相談や職場定着指導などにかかる聴覚障害者に対するコミュニケーションをサポートする者として職業安定所に設置した制度です。現在、設置されているのは297ヶ所程度と全国すべての職業安定所に設置されている訳ではなく、勤務時間も月7時間と、非常に限られたものとなっています。聴覚障害者にとって「手話協力員制度」は、職業選択や職場定着のために重要な制度であり、その拡充のために次のように改善を要望致します。

(1)手話協力員制度の予算を増やし、稼働時間の増加を図ってください。

①未設置の職業安定所に手話協力員を配置するとともに、聴覚障害者の来所が多い職業安定所を中心に、手話協力員を更に増員し、職場定着のための稼働時間の増加を図ってください。
 (説明)これまで安定所では障害者の就職促進に力が入れられ、障害者の職業紹介、就職率も3年連続で上昇しています。平成23年8月厚生労働省の報告「今後の障害者雇用のあり方に関する3つの研究会報告」の中の「地域の就労支援のあり方に関する研究会報告」では、障害者の雇用が進んでいる中で、雇い入れ支援のみならず、長期にわたる職場定着支援も必要であると今後の方向性が出されました。
聴覚障害者は、コミュニケーション・情報障害とも言われ採用当初は順調に見えても、日常的な情報量の少なさとコミュニケーションのすれ違いから人間関係で問題が生じやすく、その後の職場定着が長年の課題となっております。採用後は本人の努力に任され、結局離職につながっているのが現状です。
現在の1ヶ月7時間の稼働時間では、窓口対応が中心となり、必要な職場定着支援の同行ができておりません。稼働時間を増やし、職場定着支援が行われるようにして下さい。

②多様化する聴覚障害者の求職や職業相談、職場定着指導に対応するためには、現在の勤務日数では足りません。現在の週1回~月1回の窓口配置では、聴覚障害者が必要な時に相談に行くことが出来ません。各地域の実態に応えられる手話協力員にしていくためにも、早急に常勤化を図ってください。

③手話協力員の謝金は、長年1時間2,950円に据え置かれたままです。謝金のアップをお願いします。

(2)手話協力員を労働部門における聴覚障害者のコミュニケーション・情報をサポートする専門職として位置付け、「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム(厚生労働省官房障害保健福祉局 平成10年7月)」の全課程を修了し、かつ手話通訳者登録試験に合格した人を聴覚障害者団体の推薦で配置してください。
 また、手話協力員の効果的な人材活用のために、聴覚障害者団体・手話通訳派遣事業所等との団体契約を望む地域に対し、弾力的な運用ができるようにしてください。

(3)各地の職業安定所において手話協力員の業務への範囲がまちまちです。聴覚障害者の職業相談や就労支援ニーズに適切に対応するために、「手話協力員業務ガイドライン」を設けて下さい。

① 手話協力員は安定所職員及び職業相談員に随伴し、就職指導(職業相談・職業紹介・職場適応指導)業務に協力することになっていますが、実際は窓口対応での職業紹介、職業相談が中心となっています。各都道府県ではそれぞれの理解により、協力員の活動範囲に偏りが見られます。全国の安定所に置いて、職場定着を見据えた就職指導業務に対応できるようにして下さい。

② 手話協力員の在り方にも関わることであり、厚生労働省・聴覚障害当事者・手話協力員の3者が委員となってガイドライン策定について検討する場を設けて下さい。

(4)全国の職業安定所担当職員、職業相談員、手話協力員等の資質を高め、聴覚障害者への就労支援サービスが十分に図られるようにするため、全日本ろうあ連盟は「全国職業安定所手話協力員等研修会」を開催しています。このような研修会を厚生労働省主催で開催してください。
 (説明)手話協力員の身分は、個人委嘱になっているため、各職業安定所で一人の担当となっています。委嘱要綱には「聴覚障害者の職業問題について専門的知識を有するもの」と謳われながら、資質向上のための研修の場が確保されておりません。
また、職業安定所担当職員、職業相談員の方が聴覚障害の特性を理解し職場定着支援が十分に行われるように、研修会参加の周知と共に国の制度である手話協力員の研修を厚生労働省主催で開催して下さい。

3.障害者権利条約の批准に向けて、障害者雇用促進法等、障害のある労働者に関する法の整備及び制定には、聴覚障害者をはじめ全ての障害者の意見を十分に反映してください。
 (説明)内閣府障がい者制度改革推進会議総合福祉部会にてまとめた「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」に、「障害者雇用促進法を改正し、障害者権利条約第27条[労働及び雇用]で求められる労働への権利、差別の禁止、職場での合理的配慮の提供を確保する為の規定を設ける」ことを求めています。また、「就労合同作業チームの検討課題についてフォローし、実現化を目指すための検討体制の整備」のところで当事者(団体)も含めた新たな検討チームを設置することも提言しています。この提言をふまえて下記について要望致します。

(1)世界の障害者が「私たち抜きに私たちのことを決めないで」と採択に参画してきた障害者権利条約です。その精神を尊重し、障害者雇用促進法の改正及び整備を検討する貴省の労働政策審議会障害者雇用分科会にも各障害当事者団体に委員を委嘱し、当事者の意見を十分に取り上げてください。

4.法定雇用率制度の徹底を図り、聴覚障害者の積極的な採用を行ってください。
 (説明)昨年平成23年6月の障害者の実雇用率は、一般民間企業が1.65%で一部公的機関とともに、法定雇用率が達成されていない状況が続いています。達成すべき雇用制度が守られていないことは極めて残念なことです。すべての事業所が法定雇用率を遵守することで障害者の失業問題が大幅に軽減されることは間違いありません。
早急に対策を実施して頂きたく、以下の要望を致します。

(1)各企業が法定雇用率を達成するよう、厚生労働省など国が率先して障害者を雇用することで模範を示し、また未達成の企業に対しては法定雇用率を遵守するよう指導を強化してください。

(2)「障害者の雇用の促進等に関する法律」を実効性のあるものにするためにも、雇用納付金制度のあり方を再検討し、実雇用率を把握した上での法定雇用率のアップを図ってください。

①雇用率未達成企業に対しては、企業名の公表だけでなく、納付金の増額を実施してください。

②法定雇用率が平成25年4月1日より一般民間企業は2.0%、国、地方公共団体は2.3%、都道府県等の教育委員会は1.65%となっていますが、聴覚障害者をはじめとする障害種別の実雇用率が分かるように障害者雇用率の表示を見直してください。
聴覚障害者の雇用数が公表されていないため聴覚障害者の雇用の実情が分かりません。聴覚障害者に対する情報保障やコミュニケーション保障が必要なことを理解されていない企業がまだまだ多い中で、聴覚障害者の雇用改善のための分析を行い、また聴覚障害者の実雇用率増加を図るために、障害種別の実雇用率が分かるようにして下さい。

(3)障害者除外率を早急に廃止してください。また除外率を「廃止に向けて段階的に引き下げる」としていますが、廃止に向けた縮小計画を明示してください。

(4)ろう重複障害者の就業について全国的な実態調査を実施し、その結果に基づき、一日も早くろう重複障害者の働く場の保障に関する施策を講じるようお願いします。

5.民間企業の模範となるべき官公庁・公共団体等における聴覚障害者の採用条件や職場環境の改善をお願いします。
(説明)
 官公庁や地方自治体では、雇用率を達成しているとされていますが、大半が軽度障害者の雇用です。
 また、国が率先してノーマライゼーション社会を謳っていますが、採用されている聴覚障害者の職場での情報・コミュニケーションの保障は十分ではありません。
 官公庁は民間企業に模範を示していく立場にあります。聴覚障害者を含めすべての障害者が平等に働けるよう条件や職場環境の改善を図って下さい。

6.障害者介助等助成金による手話通訳担当者の委嘱助成金を事業所が積極的に活用できるように制度を見直しするとともに、事業所や職業安定所職員に周知徹底をお願いします。

①聴覚障害者本人の職業能力を十分に発揮するためには、職場定着の視点からも情報保障は欠かすことができません。個人面談・会議・スキルアップのための研修等、聴覚障害者の情報保障のためには、現在の助成金の条件では、長時間または数日に及ぶ会議・研修では事業所負担が重く、助成金を活用する目的が狭くなり充分に活用されていません。本人の力を発揮するために、又事業所側の手話通訳費用負担を軽減し充分活用できるように見直しをお願いします。

②職場内での聴覚障害者の情報保障の制度は、唯一手話通訳担当者の委嘱助成金となっております。専門的な業務に携わっている聴覚障害者や中途失聴、難聴の聴覚障害者にとって、要約筆記が必要な方がいます。手話通訳だけでなく、要約筆記担当者の委嘱ができるようにして下さい。

7.雇用・労働分野における聴覚障害者専門の相談支援体制の整備のために職場適応援助者(ジョブコーチ)事業を拡充するとともに、重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を新設してください。

(1)聴覚障害者が就職してからの職場定着支援として、ジョブコーチ支援事業を現在44ヶ所に設置されている聴覚障害者情報提供施設で実施できるようにしてください。
 (説明)現在、聴覚障害者に特化したジョブコーチ支援は、東京と大阪で実施され、聴覚障害者の職場定着に成果をあげています。
聴覚障害者の場合、他の障害者と違い福祉関係施設との結びつきが少なく、支援学校等卒業後に社会に出る場合がほとんどです。しかし、社会に出てからコミュニケーション・情報の壁にぶつかり問題が深刻化し解決できないまま離職につながるケースが多いことが課題です。
聴覚障害者は、聞こえなくなった時期や教育・環境により、それぞれが抱える不便さは様々ですが、共に働く健常者にとっては不便さの理解が難しく、適切な対応方法が分からないまま双方が働き、徐々に双方に溝ができるのが現状です。
働く聴覚障害者の相談場所でもあり、聴覚障害の特性を十分に理解把握している情報提供施設がジョブコーチ(第1号職場適応援助者)支援事業を担えるように、数値に関する要件の緩和をお願いいたします。
2013年6月の要望交渉時、「ジョブコーチ制度の見直しを図る予定がある」と回答を頂きました。現在、どのような方向で進めていくか、現在の状況を教えて下さい。

(2)聴覚障害者の職場定着を確実なものとしていくために、聴覚障害者がコミュニケーションの心配なく、職場定着指導や職業相談などが受けられるよう、ジョブコーチの条件に「手話ができる」ことを明記し、ジョブコーチ養成のカリキュラムに「手話」を取り入れてください。

(3)重度聴覚障害者ワークライフ支援事業を国の制度として実施してください。
 (説明)現在、大阪府の独自事業として実施されている重度聴覚障害者ワークライフ支援事業は、就職前後の聴覚障害者に対して個々のニーズに応じた雇用・労働相談・支援を行い、成果をあげています。
 特に全国44か所の都道府県に設置されている聴覚障害者情報提供施設においては、聴覚障害者の就労面での相談支援機能の強化が必要になっています。そのためにも国の制度として実施してください。

(4)聴覚障害者ワークライフ支援事業においては、制度の中で対応出来ない部分での就労支援も行っています。事業所のみならず行政関係の就労・支援にも応じることができます。また、夜間の相談体制もあり、仕事を持っている聴覚障害者の相談に応じています。各都道府県の就労相談窓口において、制度の中で対応出来ない部分での就労支援に対し、どう対応しているかを教えてください。

8.全国に約300ヶ所設置されている障害者就業・生活支援センターが聴覚障害者にとって利用しやすくなるよう、職員の研修に手話等を導入し、聴覚障害者の相談や職業訓練等のために手話通訳者を配置するための派遣費を整備するなど、情報・コミュニケーション保障の体制を整備してください。
 (説明)昨年「2012(平成24)年度で手話通訳者の派遣費は委託費の中で賄ってよい」とのご回答をいただきました。しかし、いくつかの障害者就業・生活支援センターにおいてはその運用方法について把握していない状況が見受けられると報告がありましたので、改めて、情報提供・指導をお願いいたします。

以  上